普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
079 それは俗に云う〝お約束(テンプレート)〟
SIDE 升田 真人
「……なんて言うか…。……〝お約束〟だったな」
ミネルヴァさんに、神様転生の二次小説の導入部分でよくある──〝没シュート方式~足元両開き落とし穴バージョン~〟で見送られた。……そして、辺りを見渡すとどこかしらの神社らしき場所に居た。
「すげぇ。……いや何て言うべきか、すげぇわ」
若干、脳内の言語を司っている分野に異常をきたして──語彙が貧困になっているらしい。……俺の身に起こっているのは〝それほど〟の事だった。……では俺の身に起こっている〝異常〟とは…
……まず断っておくが、体調は頗る良好である──否、逆に良好〝過ぎる〟と云える。……それこそ、〝ちょっとした全能感〟があるほどに。別に変なクスリを服用しているわけでも無く、本当に──〝出来ない事はあんまり無い〟と思っている俺が居る事に驚いている。
―いいか? お主は、後に〝月面戦争〟と云われる大戦で殿を請け負った──妖怪からしたら〝英雄〟じゃ。故に生き残った妖怪達は主を英雄視──または信仰する様になった。……それでお主は〝神格〟を得てしまった事になるのぅ―
ミネルヴァさんは他人事の(ぶっちゃけ当たり前。)様に俺が〝現人神〟に至った理由を教えてくれた。……〝人間〟を止めた事については──まぁ元から自分でも、〝自分は人間である〟とな証明はビミョーな感じだったので、なんとなく〝人間〟を止めた事については踏ん切りはついている。……更に正直に言えば…
「いつか人間の軛から外れる可能性は高かったからなぁ…。……それにしても、これが〝現人神〟になったアドバンテージか」
――「〝バンドーエージ〟やら何やら知らないけど、何をぶつくさ呟いてんのよ。……もしかして〝外〟からの迷子?」
誰に聞かせるべくでも無く呟いていると、後ろから女性──否、声の高さからして少女かしらに話し掛けられる。一応、幽香と出会った時の事は反省していて、その〝気配〟は察知していたのでそこまで驚かずに居られる。
後ろを振り返るとそこには、頭に紅いリボンで黒髪を結い、何故か腋が出ている前衛的な──あまり見ない様な紅白の巫女服(?)を身に纏っている少女が居た。……場所と格好からしてこの神社の巫女としておくが、あくまでもそれは暫定。そしてその暫定を確かめる為に、ストレートに訊ねる事にする。
「……えっと、君はこの神社の巫女さん?」
「そうよ。私の格好を見て判らないのかしら? 私は博麗 霊夢。この【博麗神社】の巫女よ。……それにしても貴方は運が良かったわね。妖怪に遭遇せずにこの神社まで来れて。大抵は妖怪に襲われてしまうのよ」
〝無縁仏の供養はやっぱり面倒だしね~〟と言葉を切り上げた少女は自分の名を名乗り、そう一方的に打ち切る。……どうやら目の前の少女の辞書には[対話]の2文字は抜けてしまっているらしかった。
「……で、貴方の名前はまだ聞いて無いんだけど」
「俺は升田 真人。元〝人間モドキ〟で、現在はしがない現人神をやっている──とは云っても現人神になったと聞かされたのはついさっきなんだけどな」
「へぇ…? ……升田 真人ね…。……ちょっと待って。今升田 真人って、云ったわよね?」
紅白少女は興味深げな視線から一転。今度は何かを思い出した様な表情で、ずいっ、と近寄りながら問い質してきた。
「……じゃあ貴方、もしかして八雲 紫と云う妖怪を知ってるかしら」
「……八雲 紫って──あの胡散臭い雰囲気が、その服装からすら出ている、〝あの〟?」
「……間違いないわね。これはどうやら本人の様ね。ふふ、紫に〝良い土産〟が出来たわね」
にやり、と悪どい笑みを浮かべる紅白少女は数枚のお札を懐から取り出し、それを投げては俺を囲む様に神社の甃へと張り付ける。
「“封四方陣”。……貴方には恨みは無いけれど、暫くは〝そこ〟の中で大人しくしててね? 何人かが貴方に〝どうしても会いたい〟って人──もとい妖怪が居るの」
紅白少女は某かの呪言を紡いだかと思えば、結界を張った。……俺の目から見るかぎり、〝対物理〟の概念しか無い──それも、その〝対物理〟にしても〝脆い〟の一言でしかないのだが。
……もし本気で俺を封じ込めたいのなら、〝龍殺し(ドラゴンスレイヤー)〟や〝魔法殺し(マジックキャンセラー)〟の様な概念を重ねるとかしないと、話にならない。
「これで金一封よ~」
そう言いながら、紅白少女は東北──艮の方角へと飛んで行った。……紅白少女の溢した〝金一封〟とな〝科白〟から察するに、どうやら俺はこの場所では懸賞金の様なものが掛けられている様である。
……そして独り取り残されたこの神社で俺は、取り敢えずこれからについて、火急の用事も無いし、ゆっくりと思案する事にする。……しかし思案するにしても、その前にしておきたい事もあり…
「……まずこの〝檻〟から出るか」
……立ったままでは、手持ち無沙汰なので〝檻〟から出る事にした。その為に〝倉庫〟から引っ張り出すのは一振りの錆びた刀。……その刀の銘は“鉄砕牙”と云う。その昔シホに渡した刀である。……とは云っても、シホに渡した“鉄砕牙”とは違う。
……その違いは主に2つ。まず1つは〝妖力〟ではなく〝魔法力〟で動く事。
「〝赤く〟染まれ──“鉄砕牙”!」
もう1つは、シホに渡した“鉄砕牙”は“風の傷”“爆流破”“金剛槍破”の3つしか使えない様にしてあるのなら、俺の“鉄砕牙”は全部──“冥道残月破”まで使える様になっている。……尤も爆流破”は〝妖力〟では無く、その仕様上〝魔力〟を巻き込む性質なので妖怪相手では使い難くなっているのはご愛敬か。
「破ぁぁぁぁっっ!」
……どこぞの寺生まれの様な掛け声を上げながら、〝結界破りの赤い鉄砕牙〟で俺を囲んでいる結界に斬りかかり──“鉄砕牙”の巨刃はいとも容易く紅白少女が張った結界を斬り裂く。……そうして俺は晴れて自由の身になったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――「おいおい、この貧乏神社に参拝客が来るなんて珍しいな。……明日は槍の弾幕でも降ってきそうだな」
……先程は大した意味も無くテキトーに締めてはみたものの、待機する意外に選択肢は無いので神社にお参りをして時間を潰していると──今度は紅白少女では無いようだが、またもや声を掛けられる。
ちなみに、お賽銭は何を入れて良いのか判らなかったので、最早〝意味不明〟に──そして勝手に集まってきて、有り余っている金貨を入れておいた。……〝現人神〟が神社に参拝とは中々シュールな光景だと思ったのは内緒である。
閑話休題。
後ろ振り向くと、一昔前(平成的にみて)の魔女っ子が被っていそうなとんがり帽子に、その小柄には似合わないほど大きな箒を携えた、白かったり黒かったりする──金髪の少女が居た。
「……あー、なんか紅かったり白かったりする──この神社の巫女に、〝あんた、この神社から出るな〟って言われててな。巫女は出かけるわでする事も無くて手持ちぶさただったから、取り敢えず参拝でもしてたんだ」
「へぇ、こいつぁ変わった人間だ。お前さん〝外〟の人間だろう。……おっと、私は霧雨 魔理沙だ。〝魔法使い〟をやっている」
「きりさめ まりさ──霧雨 魔理沙、な。俺は…」
(さて、どうしたものか)
あの紅白少女──博麗 霊夢の〝金一封〟とな言葉から察するに、俺には懸賞金の様なものが掛かっているらしい。……故に、〝本名〟を名乗るべきかと迷ってしまう。
「……取り敢えずはシンで覚えておいてくれ」
……決めかねるので、取り敢えず妹紅や祭の時の様に偽名を名乗る事にした。……そして、無意味に偽名を増やしても混乱する事が判りきっているので、いつもの偽名を使用する。……新しい偽名を考えるのが面倒になったとも云える。
――「あら、漸く帰って来た様ね。……真人、1000年と357年振りね」
「げ、紫」
「さっき振り──って〝1357〟年?」
魔理沙に自己紹介をしていると、紫の──どことなく胡乱気な感想を抱かされる声が聞こえた。その時、魔理沙が紫を見て嫌そうな顔をしたのをスルーしておく。……だがそれより、紫の言葉気になった。
「……〝さっき〟振り…? 何やら深いわけが在りそうね。……それより真人、何か言うべき事が有るんじゃないかしら?」
「……俺の主観では〝月〟で紫達の殿をして数時間──長く見積もったとしても、1日分の時間しか経過してないんだがな。……まぁ、〝ただいま〟」
「……お帰りなさい」
そう俺の還りを労ってくれた紫の表情は、太陽の光に優るとも劣らず輝いているように思えた。
「……私を置いてけぼりにしないでくれないか?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「〝幻想郷〟?」
「そう〝幻想郷〟。ここは〝外の世界〟──真人にも判りやすく云えば、所謂〝現実世界〟から忘れられた存在──妖怪などが人間と共存している世界よ」
魔理沙と──遅れて合流した霊夢(こう呼ぶ事になった)と別れて、紫から〝この世界〟についての説明を受ける。どうにも、“博麗大結界”と云う〝外〟の世界とこの〝幻想郷〟を理論的に分けている境界があるらしい。
「……要は妖怪による妖怪の為の妖怪の箱庭みたいなものか?」
「……強ち間違いでは無いけど、妖怪だけじゃなくて神や吸血鬼なんかも居るわ」
「へぇ…」
紫のその言葉を皮切れに、一旦この世界についての説明が終わった。……その後は紫と、俺と紫の──紫曰く、〝1357年ものズレ〟を擦り合わせる事になった。
SIDE END
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