普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
073 紅翼天翔 その1
前書き
3連続投稿です。
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SIDE 升田 真人
「……はっ、せいっ! やあっ!」
「よし、今のは良い感じだ。……だが妹紅みたいな小柄が相手の懐に入ったままだと──」
素早い動きで懐に入り込んできた相手──妹紅の正拳突きから始まったコンビネーションを、全て捌き受け止める。……そして受け止めたままの妹紅の左手をそのまま──合気道で云う小手返しみたいにして、妹紅の左腕の関節を極める。
「きゃっ!?」
「妹紅みたいな小柄が相手の懐に入ったままだと──こうなる」
「は、はいっ」
……妹紅を弟子にしてから、早い事数週間。〝不老不死〟──妹紅の特性からして時間は有り余っているので、“絶霧(ディメンション・ロスト)”の〝禁手(バランス・ブレイカー)〟──“彼の理想郷が創造主の掟(ディファレント・ディメンション・マスター)”で、時間を10倍にしたり、負荷重力を2倍に設定して敢行した。
……つまりは、どこぞの〝精神との部屋〟みたいな真似事をしたのだ。
……まぁ、さすがに時の流れが100倍も違うと妹紅に支障が出そうなので、10倍に抑えた。……が、今の妹紅の様子なら重力はそろそろ3倍にまで引き上げても良いと思っていたりする。
閑話休題。
――「ご飯出来ましたよ~」
「……飯だな」
「うん」
遠くからやや間延びしたミナの声が飛んで来る。漸くミナの件──もとい、俺の魔法力(MP)不足の解消についてのメドが立った。
……“大嘘憑き(オールフィクション)”で〝俺の魔法力(MP)の限界値〟を、〝無かった〟事にした。……なんでも無い簡単な事だった。
……それで〝寝れば寝るほど〟MPが増える様になったし、ミナを丸一日維持出来る程度のMPは保持している。……妹紅を鍛えている間、ミナには身の回りの世話をしてもらうために実体化してもらっている。……妹紅もミナを初めて見た時はそれはそれは驚いていたが、今では女同士それなりに仲良くやっている様である。
閑話休題。
3人仲良く昼食を摂った後も、妹紅をフルボッコに──鍛え上げる時間が始まる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3年間。妹紅に──合気道を基にした戦闘技能を叩き込んだ。……だらだらと修行風景を語っても仕方が無いので、いつぞやの様に“勿体ない資質”──潜在能力を引き出すスキルや、“神の視点”──地の文に干渉するスキルで省略した。
妹紅の〝特性〟故についつい〝殺り〟過ぎてしまう事も多く有った妹紅の修行も、充分に俺から見ても佳境に入っている。
(……この気配は…)
そんなある日の、日も沈みかけの黄昏時。最初に張ったベースキャンプの最も近くの滝で、汗を流す為に水浴びをしようとしている時。ふと、右後方10メートルにある木の裏側に、〝知っている〟──最早懐かしい気配。……もちろんの事ながら、妹紅やミナのものでは無い。
(来たかっ!)
――「“金剛槍破”!」
……その気配の主は立ちすくんでいたかと思えば、徐に上空へと飛び上がり、幾多もの金剛石で出来た槍を飛ばして来た。……俺からしたら、〝不意打ち〟としては及第点な先制攻撃だった。
「……“紙絵”」
俺はその金剛石の槍の弾幕を見切り、時に擦りそうになりながらもやり過ごす。〝ドスドス〟とそんな音を断続的に発てながら、当たるはずだった対象を失ったその金剛石の槍は、当たり前のごとく地面に刺さる。……範囲攻撃が出来る“風の傷”であったなら、“紙絵”では避けられなかっただろう。
「……もし本当に攻撃を当てたかったら、“金剛槍破”ではなく“風の傷”にするべきだった。……まぁ、それでもところどころ当たりそうになったから、良い先制攻撃だったと思うぞ。……居るなら出て来てくれ──シホ」
――「たはは、やっぱり真人には敵わないか」
地面に着地したらしいシホは木の裏側から、“鉄砕牙”を納刀しながら出てくる。
「……さて、何年振りか」
「……大体5年ぶりくらいかな」
5年、それは〝少女〟を〝女〟にするには充分過ぎるほどの期間。シホはその長期間で、あどけなさこそ残してはいるが美しく成長していた。……やはり俺の目に狂いは無かった様だ。
「……その、なんだ、月並みだが…。……綺麗になったな──シホ」
「……うんっ!」
シホは俺のお世辞半分──もとい、半分本音に輝く笑顔で頷いた。
………。
……。
…。
シホからいろんな話を聞いた。……曰く、日生村に居る若い衆と仲良くなっても、しっくり来なかったとか。……曰く、シホの祖父──大治殿が逝去し、シホに対する大治殿の庇護が無くなったので、村の雰囲気が悪くなる──〝半妖〟であるシホの処遇でモメる前に村から抜け出したとか。
「……大体こんな感じかな。……それで、村を出た後は〝例の噂〟を追い掛けてこの山まで来たの。……どうせ真人の事だから、熱りが冷めるまではこの山で潜んでると思ったの。……その程度には真人の事は判ってるつもりだからね」
「……もの好きめ」
「私をその〝もの好き〟にしたのは、他でも無い真人だよ」
そうはにかむシホに、ぶっきらぼうながらそう返すが、シホはどこ吹く風と云った感じで、更に笑みを深めて切り返してくる。……〝男子三日会わざれば刮目して見よ〟とはよく云うが、女子でも5年の歳月が有れば〝女〟へと変貌しているものだ。……とどのつまり俺の言いたい事は、不覚にもシホのその笑顔にドギマギしたのは俺だけの秘密である──と云う事だ。
「おーい、シンー。凄い音が──って、あれ? 誰それ?」
と、そこで“金剛槍破”の音を聞きつけたらしい妹紅が駆け付けてくる。……この滝からベースキャンプまではそう離れているわけでは無いので“金剛槍破”の槍が地面に刺さる時の音が気になった模様。
「妹紅か。こいつ──シホは、云うなれば妹紅の姉弟子にあたる存在だ。……で、シホ、この白髪はシホの妹弟子になる存在だ。……仲良くしてくれると面倒が減るから有難い」
そう2人の間を、一応を釘を刺しながら取り付ける。
……ちなみに妹紅の髪は“蓬莱の薬”を飲んだからかは知らないが、俺がさっき述べた通り、【Fate】──もとい、某〝運命〟の赤い弓兵がごとく脱色している。……俺の鍛練でのストレス──ではないと思いたい。
閑話休題。
“金剛槍破”を撃たれてから時間が掛かっている理由を聞けば、最初は気にならなかったらしいが、さすがに長過ぎると気になったらしい。……これについてはシホと話し込んでいて時間を忘れてしまっていたから。
(……あれ? ミナが念話送ってくれれば一発だったんじゃ…)
……恐らくは忘れていた。ミナにはおっちょこちょいな部分が有るから、それが顕在したのだろう。
「へぇ…。……この娘が私の妹弟子…」
「う、うん…」
見定める様な視線でシホは妹紅を眺める。妹紅はその視線に、たじたじになっている。……とそこで、シホは何かを思い出した様に口を開く。
「……それはともかく…ねぇ、真人。この娘が言っていたシンって何?」
「あ、バカ──」
「……真人…? シンじゃないの?」
シホの口を塞ごうと思った時には、時すでに遅し。妹紅は首を傾げながら俺を見ている。……だが不幸中の幸いか、取り敢えず、まだ〝シン=升田 真人〟と云う等式には気付いていない模様。
「……なんか〝訳あり〟の様な感じ?」
「……まぁ、有り体に言えばそんな感じだな。……いや、妹紅にももうそろそろ教えても良い頃合いだろう。そういう意味では踏ん切りが着いた言うべきかね。だがその前に──」
「(ミナ、そっちに客人──もとい、昔の弟子を送る。適当にもてなしてやってくれ。妹紅は遅れるだろうから、夕飯は先に済ませてても構わない)」
妹紅に真実を伝える前に、ミナにそう念話を飛ばす。
『お客様ですか…? ……了解しました』
「シホ、妹紅と2人になりたい。この匂いを辿ったら知り合いが居るから、そこで待っててくれ」
「うん。判った」
シホは2つ返事で承諾して、鼻をヒクつかせながらベースキャンプの方に向かって行く。
「………」
「………」
……妹紅と2人きりになれたが、会話の糸口が見つからない。
「……取り敢えずは──だ。妹紅にとっても、大事な話になると思うからそこに掛けると良い。……っと、忘れていた…“サイレント”」
「……うん」
妹紅の過去に関わる話なので、保険として〝耳〟を塞ぎながら、近くに有った切り株に妹紅を座らせる。妹紅も俺の使った〝大事な話〟と云う意味深長な言葉に、どんなリアクションを取って良いのか判らないのか、俺の指示通りに──おずおずと切り株に腰を掛ける。
「……どこから話したものか…。よし。……妹紅は推察出来てるかも知れないが、〝シン〟と云う名前は偽名だ」
「偽名…? ……なんで偽名なんか…」
「……ははっ、確かにそう思うよな。偽名を使った理由は──そうだな、3年前に悪目立ちをした俺の本名を名乗りたくなかったし、知られたくなかったからだな」
当たり前と云わば当たり前の妹紅の質問にそう答える。
「……で、そこで、だ。隠さなければいけなかった。本名が気になるだろう?」
「……う、うん…」
言葉を詰まらせながらも、言葉少なくして妹紅は頷いた。それを確認した俺は、タイミングを見ながら次の言葉を妹紅へと語ることにした。
SIDE END
後書き
明日もう一話投稿します。
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