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戦国異伝

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第二百七話 甲斐姫その十二

「仕方がなかった」
「だからですか」
「処罰もせぬと」
「そうじゃ、ならば仕方がないわ」
「では佐吉殿はお咎めなし」
「そういうことですか」
「そうじゃ、それはよい」 
 こう言ってだ、信長は石田の件はよしとした。そう話している間にまた文が来た。その文は林からだった。
「ふむ、新五郎もか」
「城をですか」
「陥とされましたか」
「うむ、無事な」
 そうしたというのだ。
「攻めずに言葉でな」
「そこは林殿ということですか」
「あの方らしいと」
「うむ、やはりあ奴はそれじゃ」
 力攻めよりもなのだ、林は。
「言葉でな」
「城を攻めるのではなく人を攻める」
「しかも頭で」
「それがあ奴じゃ。この度もやってくれた」
 信長は満足している顔で林のことも幸村と兼続に述べた。そして笑ってこうしたことも言ったのだった。
「さて、論功が大変じゃな」
「それはですか」
「大変ですか」
「茶器に刀に馬に。何をやろうか」
 楽しげに笑って言うのだった。
「色々と考えておるわ」
「それではですか」
「戦が全て終われば」
「論功もされ」
「それも終えてですか」
「後は政じゃ」
 信長が一番関心を持っているそれだった。
「御主達にも働いてもらうぞ」
「はい、では」
「その時もまた」
 二人は信長の言葉に素直に応えた、そのうえで意気込みを見せた。そのうえでこうしたことも言ったのだった。
「政もまた侍の務め」
「左様でありますな」
「そうじゃ、戦だけではない」
 信長もその通りだと答える。
「政もじゃ。むしろ天下泰平になれば」
「政がですな」
「そちらの方になりますな」
「そうじゃ、政じゃ」
 それが主になるというのだ。
「だからよいな」
「はい、政にも力を注ぎ」
「そうして」
「天下を安んぜよ。御主達は武だけではない」
 幸村も兼続もというのだ。92
「知恵もあり政の才もな」
「それがし達にはですか」
「ありますか」
「二人共な。だからわしの傍に置いたのじゃ」
 信玄、謙信にそれぞれ頼み込んでだ。
「是非欲しかった」
「そういえば殿は大層欲が張っていると」
「よく言っておられますな」
「だからですか」
「それがし達を」
「そうじゃ、わしは欲張りでのう」
 ここでも楽しげに笑って言う信長だった。
「それでじゃ」
「それがし達をですか」
「お傍にですか」
「置いているのじゃ」
 そうだというのだ。
「優れた者は誰も欲しくなる」
「だからこそ浅井、毛利、武田、上杉に続いて」
「北条となるのですな」
「そうじゃ、誰でも欲しい」
「そういいた欲張りですか」
「それが殿ですか」
「そういうことじゃ、ではそろそろな」
 信長は笑みを浮かべつつ二人に言った。
「北条に文を書いてじゃ」
「関東での戦をですな」
「終わらせますな」
「そうする」
 こう言ってだ、忍城のことも不問としそうしてだった。信長はこれからのことも考えてそしてさらに手を打とうというのだった。その時は今その時になろうとしていた。


第二百七話   完


                         2014・11・26 
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