オシツオサレツ
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2部分:第二章
第二章
「そんなの。本当にいるわけがないのに」
「だからいるんだって」
昌信はまたムキになりだした。どうもこのことにやけにこだわりがあるようである。
「絶対にね」
「まあさ。それで昌信の気が済むんなら」
「いいよね」
「海外旅行だと考えればいいか」
「そういうこと。ただしね」
「あと何があるの?」
既に色々言われているのでまだ何かあるのかと思い返した言葉だ。返してみると実際にあるところは定文にとっては悪い意味で予想通りだった。
「まだ。あるの?」
「向こうに行ったら猛獣に注意してね」
いきなりこれだった。
「ライオンとか犀とかさ」
「それはわかってるよ」
これについては覚悟していた。だから驚くことなく言葉を返した。
「もうね」
「何だ。わかってるんだ」
「アフリカっていったらそれじゃない」
アフリカといえばライオン、もうそうインプットされているのだった。オーソドックスであるがやはり中学生と思わせる返答だった。
「それはさ」
「まあそうだよね」
「それならわかってるからいいよ。向こうでも注意されるよね」
「それはね」
とりあえず猛獣についての話はこれでおおよそ終わった。
「あと毒蛇とかチーターとか一杯いるけれど」
「それもわかっているから」
「あとはね」
しかし彼はまだ言うのだった。
「虫に注意してね」
「虫!?」
「そう、蝿や蚊にね。それもね」
「そんなの日本にも幾らでもいるじゃない」
こう返す定文だった。
「蝿や蚊なんて」
「刺されたらそれで伝染病になって死ぬらしいから」
「死ぬ・・・・・・」
流石に死ぬと言われては定文も顔色を変えてきた。青くなっている。
「死ぬんだ」
「向こうの蝿や蚊って凄いらしいよ」
昌信はそんなことまでチェックしているのだった。もう既に行く気充分である。
「手が林檎が中に入ってるみたいに膨れてね」
「林檎が・・・・・・」
「切り開いたらそこから幼虫が一杯出てね」
「何、それ」
顔をさらに青くさせての言葉だった。
「滅茶苦茶じゃない。そんな虫がいるなんて」
「確かそれが蝿だったかな」
「蝿が・・・・・・」
「だからさ。注意してね」
ここでも彼が一緒に行くという前提で話す昌信だった。
「くれぐれもね」
「うん・・・・・・」
「じゃあ夏休みね」
やはり行くのは既に決まっているのだった。結局定文の返事を聞かないうちに。
「行くよ」
「うん」
えらいことになってしまったと思いつつも頷くことしかできない定文だった。時間はあっという間に進み夏休みに入った。そして遂に彼等は中央アフリカに来たのだった。
「暑いなあ」
定文は空港から降り立ち外に出たところでまずこう言った。
「日本よりもまだ」
「そうですね」
しかし隣にいる昌信は平気な顔である。二人はそれぞれ長袖にジーンズである。長袖が暑いことの原因だが横にいる初老で白髪の人が定文に言ってきた。
「それでもですよ、牧野君」
「はい」
定文もその人に対しては素直に応えた。礼儀正しい声で。
「ここに来たのはね。ただ来たのじゃありませんから」
「オシツオサレツですよね」
「そうです。稲垣君から聞いていますね」
その人は真面目な声で彼に問うのだった。
「あの動物のことは」
「本当にいるんですか?先生」
ここで定文はその白髪の人と呼ぶのだった。
「ここに」
「いますよ」
その先生、美作先生ははっきりと定文に答えた。
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