戦国異伝
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第二百七話 甲斐姫その七
「だからじゃ」
「堤から降りずにじゃな」
「このままここにいてな」
「そのうえでじゃな」
「囲み続けるのじゃ」
城をというのだ。
「よいな」
「わかった、そして御主もな」
「わしもか」
「何かあった時に後詰は任せるが」
それでもだというのだ。
「死ぬな」
「何があってもじゃな」
「わしは友を失いたくはない」
大谷を見てだ、石田は己の心をありのまま見せた。
「決してな、それにじゃ」
「さらにか」
「御主は天下に必要じゃ」
「そうも言ってくれるか」
「実際にそうだからじゃ」
それでというのだ。
「御主はな」
「決してじゃな」
「死ぬな」
大谷に再びこう言うのだった。
「よいな」
「わかった、ではな」
「それではな」
「堤を守ろうぞ」
「絶対にな」
まずはここからだった、そしてだった。
織田の軍勢は堤を守った、既に甲斐姫が来るのを待っていた。
だが甲斐姫はそれでも進む、そうして。
堤のところまで来た、そこでだった。
大谷は陣取る堤の上からだ、己が率いる兵達に告げた。
「ではじゃ」
「はい、敵が近寄ってくれば」
「その時にですな」
「撃て」
まずは鉄砲をというのだ。
「そしてじゃ」
「さらにですな」
「そうじゃ、弓矢を射るのじゃ」
鉄砲の次はというのだ。
「そうして防げ、よいな」
「この堤をですな」
「鉄砲と弓矢で」
「そうして防ぐのですな」
「そうじゃ」
こう言うのだった。
「よいな」
「ただ」
ここでだ、足軽の一人が大谷に言って来た。
「どうもです」
「どうしたのじゃ」
「はい、北条の兵ですが」
その敵である彼等がというのだ。
「見えませぬが」
「確かにな」
ここでだ、大谷も気付いた。突き進んでくる馬蹄の音がするがだ。
姿は見えない、それで言うのだった。
「見えぬな」
「北条の色は白です」
その足軽はまた言った。
「しかしその白がです」
「見えぬからか」
「これはどうしてでしょうか」
「そうじゃな、まさかと思うが」
「まさかとは」
「風魔の者も忍び込んでいるのか」
大谷はここでこのことを疑ったのである。
「そうなのか」
「風魔がですか」
「そうやも知れぬ、そうなればな」
「堤に密かに近寄り」
「そうしてじゃ」
そのうえでだというのだ。
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