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マンホールの中

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5部分:第五章


第五章

「そういうことか」
「勿論鼠の皮は小さいですからね」
 こういう前置きはつきはした。
「ですから縫い合わせはしていますよ、糸で」
「そうやって使うのか」
 昇が応えると言葉はさらに続いた。
「あとは鰐の皮も使いますし」
「鰐の?」
「はい、鰐の皮です」
 マンホール人は答えた。
「それも服にできますよ。勿論下着とかは無理ですけれどね」
「鰐の皮も服に使えるんだ」
「工夫次第で」
 それによりというのは述べられた。
「できますよ」
「そうだったのか」
「ええ。それで下着なんかは毛皮を工夫してそちらの綿みたいにしてですね」
 そうした服の事情が話されていく。
「そうやって使ってますよ」
「あんた達も結構苦労してるんだな」
「いえ、それが全然」
 しかしマンホール人は翔の今の言葉は笑って否定した。
「そうじゃありませんよ」
「そうなのか?」
「私達はかなり楽しくやってますから」
 そのぶよぶよとした顔で笑ってみせる。しかしその顔はやたらと愛嬌があるものだった。
「何の悩みも苦しみもなる」
「ああ、そういえば」
 昇はここで自分の周りを行き交う他のマンホール人達を見て言った。見ればどの人達も楽しく笑っていて表情に屈託がない。悩みも苦しみもない証拠だった。
「そうだよな。ここの人達って」
「幸せに暮らしているのか」
「食べ物にも困らないし」
 それにも困らないというのである。
「鼠もいるし端っこにある草は幾らでもあるし」
「草を食べてるのか」
「これが柔らかくて食べやすいんですよ」
 見ればどの家や建物の端にもその緑色の草が生えている。人々の中にはそれを引っこ抜いている者もいる。しかし草はそのはしから次々に生えてきていた。
「とてもね」
「それを食べているのか」
「あとはです」
 今度は翔に答えるマンホール人だった。
「鰐ですけれど」
「ああ、その鰐か」
 昇はその鰐の話に気付いた。
「鰐だよな、その皮を使ってる」
「これがまた美味しくて」
「けれどどうして鰐なんかがこんなところに?」
 昇は少し考えてから述べた。
「いるんだろうな」
「白い鰐か?」
 しかしその彼に翔が答えた。
「あれか」
「あっ、御存知でしたか」
「ああ」
 翔は嬉しそうに声をあげたマンホール人に対して答えた。
「それだな。あの白い鰐だな」
「はい、そうなんですよ」
 彼は笑顔でまた翔に答える。
「あの鰐なんですよ、実は」
「そうだな。やっぱりあの鰐か」
「そういうことです」
「!?何だその白い鰐って」
 だが一人だけ話がわからない昇は怪訝な顔と声で翔に問うだけだった。
「この世界にいるの知ってるのかよ」
「下水道に捨てられた鰐だ」
 翔はこう彼に対して話をはじめた。
「それが大きくなってな。日に当たっていないからそうして白くなった鰐だ」
「へえ、下水道にも鰐がいるのかよ」
「そうなんですよ。それを捕まえて養殖しまして」
 マンホール人はその鰐のことも話すのだった。
 
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