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戦国異伝

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第二百七話 甲斐姫その一

                       第二百七話  甲斐姫
 忍城において水攻めの用意が整えられていることは信長も報を受けていた、だが彼はその報を受けてこう言った。
「しくじるな」
「その水攻めは」
「そうなりますか」
「うむ、数日中にじゃ」
 それだけの時のうちにというのだ。
「新しく報が来る」
「水攻めが失敗したと」
「そのことを伝える報が」
「そして佐吉が腹を切ろうといてな」
 そして、というのだ。
「桂松と左近に止められることもな」
「報としてですか」
「来ますぁ」
「間違いない」
 そうした動きになることは、というのだ。
「まずな」
「左様ですか」
「そうなりますか」
「あの城は陥ちませぬか」
「忍城は」
「ただ堅固なだけではない」
 その忍城はというのだ。
「人もおる」
「城主の成田殿だけでなく」
「他にも」
「その成田氏長の娘じゃ」
 その者がというのだ。
「甲斐姫というな」
「甲斐姫、ですか」
「おなごですか」
「確かにおなごじゃ」
 その甲斐姫はというのだ。
「しかしじゃ」
「おなごであろうともですか」
「その姫がですか」
「強い、それもな」
 しかもその強さがというのだ。
「鬼神の様と聞く」
「鬼神ですか」
「そこまで、ですか」
「そうじゃ、大層美しいともいうが」
 それと共にというのだ。
「巴御前の様にな」
「あの木曽義仲の下にいた」
「あの女の様にですか」
「強いという」
 そこまでの強さだというのだ、甲斐姫は。
「おなごである為に戦の場には出ずその名はあまり知られてはおらぬがな」
「しかしその武勇は、ですか」
「巴御前の様ですか」
「濃と互角か」 
 信長は自分の正室の名も出した。
「濃も薙刀を手に武田の軍勢と戦ったが」
「その甲斐姫も」
「帰蝶様の様にですか」
「強い」
 まさにというのだ。
「そこまで強いからな」
「では佐吉殿は」
「桂松殿も」
「あの城は攻め落とせぬ」
 彼等では、というのだ。
「足止めは出来るがな」
「忍城から他の城を助けに行くこと」
「そのことはですか」
「それは出来る」
 しかしというのだ。
「だがじゃ」
「攻め落とすことはですか」
「出来ませぬか」
「それはな、それこそかなりの兵を向けて権六か牛助、若しくは五郎左か猿か十兵衛、久助でもないとな」
 織田家のそういった面々でもないと、というのだ。
「まずな」
「攻め落とせぬ」
「そこまでの城ですか」
「しかし権六達もじゃ」
 その彼等もというのだ。 
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