| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ルドガーinD×D (改)

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

五十五話:絶望

 
前書き
ヴィクトルさんは何だかんだいって敵です。 

 

すぐさま双剣を抜き放ちグレモリー眷属達に斬りかかっていくヴィクトル。それに対してすぐに反応したゼノヴィアがその斬撃を受け止める。その間に祐斗とイッセーと小猫がゼノヴィアの援護の為にヴィクトルに近づき、リアス、朱乃、ギャスパー、アーシアなどの後衛向きの人間は後ろに下がり援護に回る。


「……くらえ!」

「おらっ!」

「いくよ!」


前には鍔迫り合いを繰り広げている最中のゼノヴィア。右からは猫又の特徴である耳と二本の尻尾を生やして闘気を纏った小猫の蹴り。左からは禁手(バランス・ブレイカー)になったイッセーの拳。そして後ろからは祐斗による高速の剣技が同時にヴィクトルに襲い掛かる。四方を囲まれて同時に攻撃を受けているヴィクトルはすぐさま受けることは不可能と判断してその場から飛び上がり、回避する。

しかし、空中に居る無防備な時間を彼等が逃すはずもなく後衛に回っていたリアスと朱乃が無数の魔力弾を雨あられのようにヴィクトルへと撃ちだす。だが、その程度の攻撃に当ってやるほどヴィクトルは優しくない。一瞬でどれが自身に当たるかを見抜き、空中で体を捻りながら避けられるものは最小限の動きで躱して、避けられないものは切り裂いて消失させていく。しかも、おまけとばかりに剣で魔力弾をはね返すという荒業を見せ、何事もなかったかのように着地する。


「毎度思うけど、あんたって本当に人間なのか?」

「人間さ……いや、執念のみで生きている私は化け物と言った方が正しいかもな」

「……止まる気はないのかよ?」

「もう……止まれないのさ」


イッセーの言葉に少し寂しげにそう返してヴィクトルは素早く双銃に持ち替えて凄まじい連射を行う。イッセーはそれに対して反応が出来ずに鎧の上からまともに銃弾の雨を浴びせられ、赤い鎧の破片が飛び散りそれが一輪の赤いバラの花が散っていくように辺りに飛び散る。

彼が使った技は『ブラッディブレイズ』だ。イッセーはもし、鎧を纏っていなければこの赤いバラは自身の血で構成されていただろうなと思い、肝を冷やす。しかし、怖気づいていては話にならないので、鎧で攻撃が通らないことを信じてヴィクトルへと突っ込む。


「負けるかぁぁぁあああっ!」

「心意気は買うが、無謀だな、赤龍帝。エイミングヒート!」

「くそっ! 炎で前が見えない!」


双銃を軽く一回転させた後に炎の弾丸を撃ちだし、イッセーを火だるまに変えるヴィクトル。イッセーの方としてはドラゴンの鎧を身に付けているためにそこまで熱さによるダメージは受けてはいないが、燃え盛る炎により視界を塞がれたことでヴィクトルを見失ったことが痛い。そして、危惧した通りにすぐそこに敵は迫っていた。骸殻の部分開放による高速移動により一瞬にして後ろに回り込んだヴィクトルがハンマーを手に襲い掛かる。


「ファンガ――「イッセー君はやらせないよ!」――ちっ!」


いつの間にか後ろに来ていた祐斗の対応の為にヴィクトルは軽く舌打ちをしながらハンマーの軌道を無理やり変えて祐斗の剣を弾き飛ばす。その事に驚愕の表情を浮かべる祐斗だったが、すぐにそんな事をしていれば殺されると心を引き締めて後ろに下がりながらあらかじめ用意しておいた聖魔剣を取り出す。その間にイッセーの方も撤退して祐斗の隣に立つ。


「悪いけど、僕達はあなたと違って一人で戦っているわけじゃないんだ。そこら辺を理解してもらえると助かるかな」

「ふっ……確かに一人よりは仲間と戦った方が心強いだろうな―――だが、私にはそんな物は必要ない!」


怒りと悲しみが混ざったような叫び声を上げてヴィクトルは、今だとばかりに火車を振るって攻撃を仕掛けて来た小猫の腹をカウンター気味に蹴り上げて、同じように向かってきていたゼノヴィアへとぶつける。その為にゼノヴィアは小猫を受け止めるために受け身を取らざる得なくなり、足を止める。

そうして作りだした隙をヴィクトルが利用しないはずがなく、双銃で二人に目掛けて鉛玉を乱射する。それに対して思わず身構えてしまうゼノヴィアと小猫だったがギャスパーがヴィクトルの銃弾を止めたことで事無きを得た―――かのように見えた。


「仲間という物は時に足枷になるぞ」

「しまった!? 小猫!」

「きゃあああっ!」


かん高い悲鳴と共にゼノヴィアが受け止めたが為に身動きが取れなくなっていた小猫の体から血しぶきが吹き上がる。そして、二人の目の前には自らが放った弾丸よりも速く移動してきたヴィクトルが右手に血濡れた剣を持ち、左手に銃を持ちその銃口を小猫の額に押し付けた状態で立っていた。ヴィクトルが先程小猫をゼノヴィアに受け止めさせたのはこのためなのである。


「終わりだ」


そう冷たく言い放って引き金を引くヴィクトル。ゼノヴィアはこのままでは小猫が殺されてしまうと判断して咄嗟に小猫を庇うように自らの体を捻って銃口を小猫の体から引き離す。だが、自分自身までもが避けることは出来ずに銃弾をまともに体に受けてしまう。しかも、それだけに終わらずヴィクトルは無表情のままその肢体に銃弾を撃ち込み続ける。その痛みにくぐもった悲鳴を上げるゼノヴィアだが決して小猫を離すことはせずに盾になり続ける。


「二人から離れなさい!」

「くっ! 私だけに正確に雷を落とすとは……どうやら以前よりはマシになったようだな」


大切な後輩達がいたぶられる様子に耐え切れなくなった朱乃が非常に繊細な技術でヴィクトルだけに雷を落として二人から引きはがす。コントロール重視で威力は弱かったものの雷を受けたヴィクトルはほんの少しの間ではあるが痺れで動けなくなる。その隙に持ち前の速さで祐斗が素早く二人を救出してアーシアの元へと治療に連れて行く。そして、イッセーは生まれた隙に乗じて攻撃を仕掛ける。


「ドラゴンショット!」

「甘いな」

「くそっ! やっぱりよけられたか」


両手から強力なエネルギー波を発射して攻撃をおこなうイッセーだったが、それは当たる寸前でヴィクトルに避けられる。その後ろでエネルギー波が爆発し地面が消し飛ぶがそれに関してヴィクトルは顔を歪めもしない。それどころか、すぐさまイッセーに対して双剣で襲い掛かって来る。

勿論それに対してすぐに対応するイッセーではあったが一か所を斬られたと思ってその場所に拳を振り下ろしても、ヴィクトルの姿は既になく、後ろから悠々と斬りつけられる。それを何度も何度も繰り返していくうちにイッセーの鎧はボロボロになる。彼の拳が通った後は地面が抉れてその力の凄さを物語っているのだが今の彼はただ弄ばれているだけである。


「如何に破壊的な力があろうとそれは当たらなければ何の意味もなさない」

「ちくしょう! 何で当たらねえんだよ!?」

「簡単な理由だ。君は―――弱い」

「うっ!?」

「ファンガ・プレセ!」


ヴィクトルは一瞬の隙を突きイッセーの懐に潜り込み、持ち替えたハンマーをスッと下に降ろしそこから天を穿つように大きく振り上げて闘気を込めた一撃を放つ。ハンマーの先から獣の形をした闘気が噴出され、餓えた狼のようにイッセーに食らいつきその体を吹き飛ばす。その高い破壊力でイッセーの体は大きく宙に舞う。そこに狙いを定めてヴィクトルが銃を撃ち込む。

イッセーは何発か当たった所で何とか体勢を立て直して翼のようなブースターで空を飛ぶ。そのまま状態で睨み合うが不意に甲冑を着た龍の騎士団らしきものがヴィクトルに襲い掛かって来たのでヴィクトルはそれに僅かに驚きながらも剣を打ち合いながら退避する。


「情報にあった能力とは違うな、木場祐斗」

「情報に無くて当然だよ。これを使うのはあなたが初めてだからね」


そう言って、剣を指揮棒のように振るい甲冑の龍の騎士団を整列させる祐斗。その様子に敵であるヴィクトルだけでなく味方であるグレモリー眷属達も注意して見つめている。


「これは、同士達が僕に与えてくれたもう一つの力『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の禁手化(バランスブレイク)
 ……『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』だよ」

「『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』か……龍の騎士団とは面白いが、戦いは量より質だ」

「そうだとしても、何もしないよりはマシさ!」


祐斗の命令により龍の騎士団は一糸乱れぬ行進でヴィクトルの元へと襲い掛かっていく。その速さは術者である祐斗の速さと同等のものなので、並の相手ではその速さの軍団が突撃してくるだけでも恐怖ものだろう。だが、生憎相手は並どころか特上でも足りないレベルだ。

相手が生身の人間ではないので斬りつけても無駄だと素早く判断したヴィクトルはハンマーへと持ち替えて騎士団の前の前にハンマーを振り下ろして地面の岩盤を粉々に砕く。そのせいで、進むべき道が無くなった騎士団は飛び越えてヴィクトルの元に行こうとするがそれは足元から突如として現れた氷塊により阻まれる。

そして、身動きが取れなくなった騎士団へと向けヴィクトルは腕だけ骸殻化させて出した槍を全力で投擲する。すると、動けない騎士団の大半はまるでボーリングかのように槍によって貫かれながら吹き飛ばされてしまう。そのあっという間の出来事に祐斗が思わずショックを受けている所にヴィクトルが後ろに回り込んでその背中を容赦なく切り捨てる。


「悪いが、味方がいなかったもので一対多の戦いには慣れているんだよ」

「祐斗っ!?」

「イッセー! アスカロンを貸してくれ!」

「わかった!」


少し自嘲気味にそう呟くヴィクトルと力なく崩れ落ちる祐斗を見てリアスが怒りにも似た叫び声を上げ、アーシアの治療を受けて回復したゼノヴィアがその様子を見て、イッセーから聖剣アスカロンを受け取り、雄叫びを上げながらヴィクトルへと斬りかかって行った。


「ヴィクトルゥゥゥッ!!」

「甘いな。それでは剣を振っているのではなく、剣に振られているのと変わらないぞ」


怒りで太刀筋が甘くなっているゼノヴィアの剣など相手をするに値しないと言わんばかりに、デュランダルとアスカロンの暴風のような猛攻を反撃一つせずに紙一重で避けていくヴィクトル。そんな様子に見かねた小猫が火車を投げつけてゼノヴィアを援護しようとするがヴィクトルは巧みに立ち回り下手に投げれば同士討ちになるように動いているので迂闊に投げられない。

そんな所に突如として無数のコウモリが現れて二人の視界を塞ぐ。コウモリの正体はギャスパーの能力だが攻撃力自体は極めて低い。だが、視界を塞がれるという状況はただ避けているだけのヴィクトルにとっては悪夢でしかない。当たらなければ意味がないが、逆に言えば当たってしまえばゼノヴィアの剣は必殺に近いのだ。

その事を理解しているヴィクトルはすぐさま後ろに飛び下がり、ゼノヴィアとギャスパーから間合いを取る。すると、そこには無数の赤黒い滅びの魔力弾が浮かんでいた。それはとても小さく猫だまし程度の効果しかないだろうとヴィクトルは判断して再び迫ってこようとしているゼノヴィアに目を向けるが、それは間違いだった。


「収束しなさい!」

「何だと!」


リアスの掛け声と共に無数の滅びの魔力弾は一点―――ヴィクトルの元に収束していく。そして、次の瞬間凄まじい爆発音と共に爆発を起こす。本来は魔力の緻密なコントロールの苦手な彼女ではあるが、ここ最近はとにかく何か出来ることは無いかと修行を重ねたためにある程度のコントロールは出来るようになったのだ。


「手加減無用ですわ!」


リアスに続けとばかりに今度は朱乃が雷光をがむしゃらにヴィクトルが立っていると思われる場所に落とし続けて行く。もう、何か恨みでもあるのかと言うレベルで徹底的に雷を落とし続ける朱乃。これは何も以前にやられた恨みからではなくルドガーに同じようなことをやったときに無傷で防御されたことにプライドが傷ついたからである。

そして、そこにイッセーが無数の赤い波動を飛ばして追撃する。そんな様子に斬りつけられた祐斗の治療を行っていたアーシアは思わずヴィクトルが大丈夫だろうかと心配してしまう。そして、朱乃とイッセーが攻撃を止めて土煙が晴れるとまだ立ってはいるものの、全ては防御できずに服がところどころ破け火傷や切り傷を負い、血を流したヴィクトルが出て来た。


「やっと、ダメージを与えられたぜ!」

「みんな、この調子でいくわよ!」

「「「はい!」」」


初めてとも言えるダメージを与えたことにイッセーが喜び、リアスが全員の士気を高める。この調子なら、勝てないまでも相手を退けることが出来るかもしれないとリアス達の胸に希望が灯り始めていた。だが、そんな様子をヴィクトルは黙って見ながら、邪魔だとばかりに仮面を投げ捨て、冷たい声でリアス達に告げる。



「君達を少々侮っていたようだ。ここからは―――本気でいくとしよう」



その瞬間、ヴィクトルから凄まじい殺気が解放されリアス達は背筋に氷の塊を叩きこまれたかのような気分になる。そして、理解する。彼は自分達を殺す気で来てはいたが本気では戦っていなかったのだと。その事実に気づき今更ながらに理解する。相手は自分達とは比べ物にならない正真正銘の―――化け物だと。


「サイカトリス」


ヴィクトルがハンマーで水色の陣を描くとそこから泡が溢れ出てくる。そしてその泡がヴィクトルの体に当たるとやっとのことでつけた傷が見る見るうちに回復していく。そのことに愕然として、リアス達は声も上げることが出来ない。


「私が回復も出来ずに、仲間達を皆殺しに出来たと思っていたのか? それは少々買いかぶりすぎだ」


そう淡々と告げながら、回復しきった体の調子を確かめるようにハンマーをクルクルと回す。ヴィクトル―――ルドガーの長所は一人で全てのことが出来るという点だ。相手の属性に合わせて弱点を突ける多彩な属性技に自らが回復役になることもできる。おまけに自身には弱点と呼べる属性が存在しない。さらに彼は非常に勤勉だ。

以前の相手に対して圧倒的な力の差で勝ったとしても、鍛錬を怠ることはしない。彼は簡単に言えば努力する天才なのである。それに対して、凡人がいくら努力しようと勝てるわけがない。同じ天才であっても最初に差が開いていては追いつけない。クルスニク一族二千年の歴史に終止符を打つために産み落とされたかのような最後にして最強の戦士。
それが―――“ルドガー・ウィル・クルスニク”なのである。


「さて、覚悟して貰おう」


冷たい目と共に送られてきた声から感じた感情は一つ―――恐怖。リアス達は自然にその恐怖から逃れるために一纏まりになってしまった。それが下策だとも気づかずに。

ヴィクトルは二丁拳銃に持ち替え、それを何故か天高く放り投げる。それにつられて、一瞬イッセーが銃を見上げた瞬間その腹部に再びハンマーに持ち替えたヴィクトルの攻撃が突き刺さる。その余りの衝撃に悲鳴を上げながら大きく後ろへと吹き飛ばされるイッセー。

だが、まだヴィクトルの攻撃は終わることはない。今度は双剣へと武器を代え、突き進みながらイッセーの体を一太刀、そして後ろに回り込んで相手をすり抜ける様にもう一太刀と容赦なく切り裂く。そして、最後に先程、天高く放り投げておいた二丁拳銃を器用にキャッチして変則的な軌道の無数の赤い弾丸をリアス達全員に止めとばかりに撃ち込む。


「貫け! 祓砕斬・零氷!」


弾丸がリアス達の周りで爆発を起こし凄まじい爆音と共に真っ赤な炎が燃え上がる。リアス達は為すすべなくその炎に飲まれ地に倒れ伏してしまう。その様子をヴィクトルは何の感慨もなしにしばらく見つめていたかと思うと黙ったまま倒れているイッセーの元へと歩いていき胸ぐらをつかんで吊し上げ無機質な目で話しかける。


「赤龍帝。一つ君に提案がある」

「…て…提案?」

「君が今ここで自害するなら他の者は見逃してやろう」


その提案に息をのむグレモリー眷属達。そして、提案を投げかけられた張本人であるイッセーは目を見開きながらその言葉の意味を考える。ヴィクトルは己の選択が見たいのだと。

彼が自分達を見逃す理由なんて特には無い上に、自分ですら生殺与奪の権利をその手の平に握っているにも関わらずにわざわざ、自害などという手間のかかる手段を要求するのはそれしか考えられない。そして、彼は動かない体を懸命に動かして自分を不安げに見つめる仲間達を見る。その顔を見てイッセーは直ぐに心を決めた。


「……分かった―――」

「ダメよ! イッセー!!」


リアスの悲鳴が彼の耳に木霊する。だが、それに対して彼は僅かに笑って見せる。部長、人の話は最後まで聞くものですよ、と思いながら。



「―――なんて、誰が言うかよ!」



ボロボロながらも強い意志の籠った眼でハッキリと口にした提案を拒絶する言葉。その言葉にリアス達はホッとし、ヴィクトルは眉をひそめる。ヴィクトルはこの少年なら間違いなく自己犠牲の精神を発揮して自分から自害すると思っていた。だが、その期待は裏切られたのだ。


「……何故か、聞いてもいいかね?」

「前までの俺なら…多分、あんたの申し出を受け入れてたと思う。でもな……俺はあいつに……ルドガーに、お前の事を絶対に犠牲にしないって言ったんだ。だから―――それを言った俺が逃げたらダメだろうが!」


今まさに殺されかけようとしているにも関わらずに闘志の消えない瞳にヴィクトルは僅かにだが昔の自分を思い出す。何もかも救えると愚かにも信じていたあの時の自分を。彼は少しなにかを考える様に目を瞑り、それから大きく息を吐き出す。そして、掴んでいたイッセーを地面へと放り投げる。ヴィクトルは、今度は倒れているリアスの元へと歩いていき、そして―――


「君は選択を誤った―――絶望を知れ」


―――容赦なくその体に鉛玉を撃ち込み始めた。


「キャアアアアッッ!?」

「や…やめろぉぉぉおおおっ!!」

「何を言う、これが君の―――選択だ」


絶叫するイッセーに対してヴィクトルは冷たく言い放ち、今度は隣で倒れている朱乃に対して銃弾を撃ち込む。さらにはまるでゴミのように蹴りつけて吹き飛ばす。それはまるで、選択を誤り全てに絶望した彼が同じようにイッセーに絶望を与えているようだった。


「くそっ! 止めてやる! 絶対に止めてやる!!」

「無駄だ。君はもう動けはしない。そこで黙って見ていろ」


イッセーの叫び声に対して振り向くこともせずに淡々とまるで作業をこなすようにヴィクトルはグレモリー眷属達を傷つけて行く。急所はまだ狙っていない。すぐに殺してしまっては自分と同じレベルの絶望を味あわせることは出来ないと彼には珍しく怒りによる衝動で動きながら。

イッセーは何度も叫び続けた。傷ついていく仲間をその目に焼き付けながら。そして、同時に己の選択を後悔し始めた。あの時、自分が犠牲になっていればこうはなっていなかったのだと目の前の現実から必死に目を逸らしたくて、後悔していた。だが、まだ彼の心の中には諦めていない部分があった。その部分で彼は必死に何とかしようともがいていた。

そんな時だった。


――覇を求めろ――


彼の脳裏にそんな言葉が聞こえて来たのは。


「……覇?」

『いかん! 相棒、その言葉に耳を傾けるな!!』


藁をも掴む気持ちでイッセーはその言葉に耳を傾ける。それに対してドライグはそれが何かをすぐに察知して叫び声を上げてそれを阻止しようとするが、声はなおも彼の頭の中に響き続けた。


――覇に身をゆだねれば、奴を壊せる――


その言葉にイッセーの心は大きく揺れ動くが、ドライグが必死にそれを呼び止める。覇に身をゆだねることは滅びへの道だと必死に説得し、イッセーも何が何のかは分からないまでもドライグへの信頼感からそれに納得していた―――


「そろそろ消していこう。……まずは、回復役の君から死んでもらおうか。アーシア・アルジェント」

「―――っ!? イッセー……さ…ん」


―――アーシアがヴィクトルに心臓を剣で貫かれるのを目撃するまでは。


「アーシアァァァアアアッッ!!」


胸から血を噴き出しながら、悲鳴を上げることもなく、最後に自分の名前を呟いて目を閉じるその姿にイッセーの中の大切な物が音を立てて崩れ始めた。悲しみの絶叫の果てに彼の口からは自分の物とは思えない言葉が出てくる。


『我、目覚めるは―――』
ドライグが必死に呼びかけるが彼は反応を返さない。

『覇の理を神より奪いし二天龍なり―――』
逃げろと、意味もないのにドライグがリアス達へと叫びかける。

『無限を嗤い、夢幻を憂う―――』
ヴィクトルが異変に気づき手を止めてイッセーの方を見つめる。

『我、赤き龍の覇王と成りて―――』
その場にある全ての視線が異形となりつつある彼に釘づけになる。ただ一人―――

『汝を紅蓮の煉獄に沈めよう』
―――胸から滴り落ちる血で地面を赤く、赤く、染め上げているアーシアを除いて。



『Juggernaut Drive‼‼』



それは赤龍帝の力を一時的に完全開放した状態。 全てを破壊衝動に呑まれ、周囲を一切合財破壊し尽くす。その根源は死んでいった歴代所有者たちの残留思念が持つ怨嗟であり呪いであり、当代の所有者である彼を自分たちのもとへ引きずりおろそうとするものであった。使用条件は生命力を著しく削り、止まらなければ最後には―――死ぬこと。

 
 

 
後書き
ヴィクトル「サイカトリス」60000回復

作者( ゚Д゚)「 」

みんなのトラウマ再来ww



それと、最近番外編でルドガーの復讐物を書いてみたいなと思っています。
設定としては元々この世界で生まれて教会勢力の元で暮らしていてユリウスがエクソシストをやっていて、任務に出たある日にはぐれ悪魔によって殺されてしまってルドガーが復讐に走るという設定。ユリウスのところはクラウディアさんでもいいかも。

それで、その犯人を突き止める途中で黒歌に出会って、本編のように愛してしまうんだけど実はその犯人が……。まあ、とにかく本編以上に病み病みなルドガーを書きたいと思ったわけです。


ルドガー「兄さん、夕飯はトマトソースパスタにするからね」
ユリウス「そうか、そいつは楽しみだな。今日は早く帰って来るよ」
ルドガー「うん!」

ルドガー「兄さんが……殺された? 誰に!?」
???「犯人は分からない……ただ、恐らくは帰り道に偶然出会ったはぐれ悪魔だろう」
ルドガー「そいつを……必ず殺す!」
???「待て! 復讐は何も生み出さないぞ!」
ルドガー「黙れ! お前に何が分かる!!」

ルドガー「結局、自分が追い出されてはぐれになるなんてな……兄さんが知ったら何て言うだろうな」
黒歌「ルドガー、何ブツブツ言ってるのにゃ?」
ルドガー「黙れ、お前には関係ない」
黒歌「元エクソシストだったから悪魔を嫌うのも分かるけど今は同じ禍の団なんだから少しは優しくしてくれないとお姉ちゃん、泣いちゃうにゃ」
ルドガー「……姉か。下に弟か妹でもいるのか?」

黒歌「私がなんではぐれになったのか聞いてくれるかにゃ?」
ルドガー「……勝手にすればいいさ」

ルドガー「俺は……どうしてあいつなんかにこんなにも心を乱されているんだ? 俺は復讐しないといけないのに…っ!」
黒歌「ルドガー。どうかしたのかにゃ?」
ルドガー「いや、何でもないよ、黒歌」(ニコ)
黒歌「……ようやくデレてきたにゃ」(ボソッ)
ルドガー「何か言ったか?」
黒歌「何でもないにゃ」

ルドガー「ようやく……復讐相手が分かったって言うのに…っ! どうして! どうして……あいつなんだ!! 俺は……どうしたらいいんだ?」


何か、書いてたら調子に乗って結構書いてしまった。
まあ、書くかもしれませんと言うだけです。そこまで気にしないで下さい。
それでは今回も読んでくださってありがとうございました(≧▽≦)
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧