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幸せは消えて

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3部分:第三章


第三章

「これは何だ」
「槍ですけれど」
「ただの槍か?」 
 鋭い目で彼に問うてきた。
「見たところ文字も書かれているが」
「これは何だ」
「これは魔法の槍です」
 若者は正直に答えた。若し嘘をついてそれが明るみになればどうなるかわからないと判断したからだ。兵士達の応対は警戒と殺気に満ちていた。
「投げたら必ず相手に当たるという」
「そうか。魔法の槍だな」
「ではこの杖は」
「それも同じです」
 杖についても調べられた。やはり鋭い目で何人も集まって念入りに見る。それは相変わらずかなり刺々しく剣呑な態度であった。
「魔力を増幅させる槍で」
「この烏達は使い魔か」
「そうだな」
「はい、そうです」
 今度は烏達についてだった。
「喋るのは使い魔だからで」
「わかった」
「まあ烏はいい」
 烏については兵士達もいいとしたのだった。
「しかしこの槍と杖は預かっておく」
「念の為にな」
「念の為にですか」
「我が国では余所者が魔法の品を持つことは禁じている」
「だからだ」
 だからだというのである。
「わかったな。国を出る時に返してやる」
「それまでは我慢するのだな」
「ええ、わかりました」
 若者はここでは彼等の言葉に素直に従った。
「それじゃあ」
「そしてこれをいつも胸に着けるのだ」
「着けていなければその場で斬る」
 これまた容赦のない剣呑な言葉だった。
「いいな」
「いつも胸に着けておけ」
 こう言って今度は青い星を着けさせられた。そのうえでようやく国の中に入ることができた。国の中の人々は皆警戒する顔でそれぞれの胸に様々な色の星を着けていた。
 烏達でさえその胸に青い星を着けさせられている。その彼等は周りを見ながら若者に対して怪訝な顔であえて小声で言うのであった。
「ねえ、どうもこの国って」
「おかしいですよね」
「おかしいっていうのかい?」
「そうですよ。皆その旨に星着けてますし」
「何か必死に周りを警戒しているし」
 彼等はそういったことを完全に感じ取っていたのだった。そのうえで主に対して怪訝な顔と声でそっと囁いて尋ねたのである。
「この星は何なんでしょうね」
「一体」
「識別の為らしいね」
 若者はそう見るのだった。
「僕達余所者は青でね」
「ええ」
「青で」
「この国の人達は黄色みたいだね」
 こう見ているのだった。見れば確かに青と黄色の星の二つが多い。そして青い星の者は黄色い星の者に警戒する目で見られていた。
「その青と黄色でね」
「識別するっていうんですか」
「私達を」
「何か変なことしたらそれこそ」
 若者の声も警戒するものになっていた。烏達に対して小声で告げる。
「密告されたり。本当に」
「その場で斬られて、ですか」
「洒落になりませんね」
「うん。かなり慎重にいかないとまずいね」
 若者はこのことを肌身で感じ取っていた。
「さもないとね」
「あっ、あそこ」
「見て下さいよ」
 ここで烏達が右手を指し示して言う。見れば兵士達が青い星を胸に着けた一人の若い男を引き立てているところであった。
「さあ来い」
「スパイめ、捕まえたぞ」
「私はスパイじゃありません」
 見れば如何にも善良そうな男だった。身なりは軽やかで琴を持っている。どうやら旅の吟遊詩人らしい。
 
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