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戦国異伝

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第二百六話 陥ちぬ城その九

「しかし。その一本気さがな」
「わしを百万石にせぬか」
「そうなるやもな」
「別によい」
 百万石と言われてもだ、石田は大谷に毅然として答えた。
「百万石でなくともな」
「よいのか」
「わしはわし自身の欲は求めておらぬ」
「地位もじゃな」
「そうじゃ、禄は食えて家臣達が困らねばよい」
 それだけで充分というのだ。
「抱えている家臣達がな」
「だから百万石もか」
「いらぬ、いるのは天下の安泰だけじゃ」
 私ではなく公だというのだ。
「それだけじゃからな」
「だからか」
「うむ、わしはわしがこのままの禄でも充分じゃ」
 今のそれでもと言うのだった。
「食えておる、家臣達も困っておらぬ」
「それでか」
「織田家の天下が安泰であればな」
「その時に御主に百万石の力があれば織田家はより安泰になる時でもか」
「その時は御主もおるではないか」
 石田は微笑み大谷に言葉を返した、今の彼の言葉に。
「そうではないのか」
「御主一人ではなくか」
「御主はむしろわしより出来る」
 それだけの智と勇があるというのだ、大谷に。
「だからな」
「それでか」
「うむ、織田家を支えるのはわしだけではない」
「わしもおるからか」
「左近もおる、それにな」
「権六殿、五郎左殿に」
 織田家の言わずと知れた重臣達だ、彼等は大谷達も仰ぎ見る程の存在で以て織田家の柱となっている。
「十兵衛殿、久助殿がおられ」
「牛助殿、新五郎殿とな」
「それに平手殿に」
「しかも藤吉郎殿もおられる」
 これだけの者達が集まりだ、さらにだった。
「徳川殿、浅井殿、長宗我部殿に加え」
「毛利殿、武田殿、上杉殿が入ったな」
「これだけおる、例え魔王がおろうともな」
 石田は無意識のうちに言った、魔王とだ。
「織田家に何かあろうともな」
「防げるか」
「わしはそのうちの一つじゃ、それに殿ご自身がじゃ」 
 信長についてもだ、石田は言った。
「日輪の如き方じゃしな」
「うむ、殿はそうじゃな」
「天下を乱す者達がいても」
「それでもじゃな」
「殿ご自身が強い、わしに百万石がなくとも」
 それでもというのだ。
「天下は足りる」
「御主だけが国を支えているだけではないからか」
「織田家の家臣程揃っておるものはない」
 石田も含めてだ、このことは。
「ならばな」
「御主はそのままでよいか」
「わしに力が必要なら神仏が授けて下さるわ」
 まさにその時にとだ、石田はこのことは大谷に笑って答えた。
「だからな」
「それでか」
「わしはあくまでそれでよい」
「今はか」
「そう思う、ではまずはじゃ」
 忍城はというのだった、あらためて。
「攻めようと」
「水攻めで」
「そのうえで」
「あの城を水で囲みそうして攻めてじゃ」
 そして、というのだ。 
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