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真の贅沢

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第三章

「それが生きがいであります」
「そうですね。美味しいものを口にされることが」
「はい」
「それで、なのです」
 祝田は薬師寺にここまで聞いてこう言った。
「今日は先生に召し上がって頂きたいものがありまして」
「呼んで下さったのですか」
「宗教の話をするのではなく」
「食事に、ですか」
「招かせて頂きました」
 そうだったというのだ。
「今回はまた別です」
「そうですか」
「これから檀家の方々が集まって食事なのですが」
「宴です」
 ここで住職も薬師寺に言って来た、見れば祝田と同じ位の年齢の老僧である。やはり穏やかな感じである。
「簡単に言いますと」
「檀家の方々が集まった」
「親睦を深める為のもので」
「実に些細なものではあります」
 祝田は薬師寺に今度はこう言った。
「食事も般若湯もありますが」
「質素ですか」
「それでも宜しいでしょうか」
「招いて頂き断ることはしません」
 そうした失礼なことはとだ、薬師寺は答えた。
「決して」
「ですから」
「有り難いお言葉、それでは」
「お願いします」
 薬師寺は祝田に礼儀正しく応えた、そしてだった。
 寺の境内に入った、するともうそこには八人程の五十代から七十代の男達が胡座をかいて車座でいた。
 その彼等は薬師寺達の姿を見てだ、三人に手を挙げて声をかけた。
「やあ住職さん用意出来たよ」
「もう何時でも食えるし飲めるよ」
「ささ、先生も座って座って」
「お客さんもね」
「先生っていうと」
「私のことです」
 祝田は自分に顔を向けた薬師寺に微笑んで答えた。
「こう呼んでくれるのです」
「そうですか」
「私はこの寺の檀家の一人でして」
「あの人達もですか」
「そうです」
 そうした関係だというのだ。
「昔からの付き合いです」
「ううん、そうだったのですか」
「おや、何か意外そうですが」
「いえ、祝田先生っていいますと」
 ここで薬師寺は彼に持っていたイメージを本人に語った。
「もっとこう」
「大物だと」
「大学者さんで保守系の大物ですから」
「ははは、随分な買い被りですね」
「そうでしょうか」
「私はそう思います」 
 祝田自身はというのだ。
「とてもその様な者ではありません」
「では先生は」
「ただの学者です」
「それに過ぎないというのですか」
「学んだことを書く、それだけです」
 たったそれだけのことだというのだ。
「己を曲げるつもりはありませんが」
「それでもですか」
「私はそれだけの者です」
 学者に過ぎないというのだ。
「ですから大物だの大学者だのは」
「お考えになっていない」
「そうです、そして」
「そして、ですか」
「実は食べることは好きです」
 笑ってだ、薬師寺にこう言ったのである。 
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