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食べさせない理由

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第三章

「私子供の頃わからなかったの」
「わからなかったって何が?」
「何のことが?」
「どうしてお父さんとお母さんが釣った川魚を生で食べさせてくれなかったか」
 そのことがというのだ。
「そのことがね。けれどね」
「あの本を読んでよね」
「そのことがわかったのね」
「天ちゃんも」
「そうなの、はじめて読んだ時は怖かったわ」
 こう言うのだった。
「それでそれと一緒にね」
「一緒に?」
「一緒にっていうと?」
「お父さんとお母さんが私のことを本当に思ってるってことがわかったわ」
 そのこともというのだ。
「よくわかったわ」
「子供に危険なものを食べさせない」
「それも親だからね」
「親の務めでね」
「親の愛情よね」
「そのことがわかったから」
 それでとだ、天は皆に微笑んで話した。
「私嬉しかったの」
「怖かったのと一緒に」
「嬉しかったのね」
「そうなのね」
「そうなの、だから私も結婚して子供が出来たら」
「その子にも食べさせない」
「釣った川魚を生では」
 皆もこう天に言う。
「絶対に食べなさせない」
「そうするのね」
「そうするわ、確かに川魚を生で食べても美味しいけれど」
 そのことは天もわかっている、鯉の刺身は彼女の好物だ。そのことはわかっていて若し子供が生まれたらその美味しさを教えたいがそれでもなのだ。
「危ないものを食べたらね」
「元も子もない」
「危ないものを食べさせる親はそれだけで駄目だしね」
「やっぱり子供にはね」
「美味しくて安全なものを食べさせてあげることがね」
「それが親として大切なことよね」
 まさにというのだ。
「だからね」
「そうよね、じゃあ」
「そこを絶対に守って」
「天ちゃんもなのね」
「結婚して子供にそうしていくのね」
「そうするわ、絶対にね」
 こう笑顔で言ってだ、そしてだった。
 天は実際に結婚して子供が出来てだ、息子の雄一郎にそうした魚は食べさせなかった。それで息子にこう言うのだった。
「そのうちにわかるわ」
「川魚を生で食べたらいけない理由が?」
「そう、とにかくそうしたお魚はね」
 釣った川魚はというのだ。
「生で食べたら駄目よ」
「美味しいって聞いたけれど」
「美味しくても駄目よ」
「河豚みたいに毒があるの?」
「そうしたところね」
「そうしたところって」
「それがまたわかるから」
 だからだというのだ。
「とにかく。そうしたお魚は駄目よ」
「ううん、どうしてなのかな」
 雄一郎はその理由をどうしてもわからず美味しいものを食べられず残念な顔になっていた、だが天は夫の晋作の顔を見てだ、こう言うのだった。
「私の時と同じよ」
「お義父さんお義母さんにも言われていたんだよね」
「ええ、私も親になってこう言うのも」
「血かな」
「そうかも知れないわね」
 夫に微笑んで応えるのだった。
 そして天は雄一郎、自分と夫の血を半分ずつ受け継いだ様な息子にまた言ったのだった。
「わかるから」
「あの子もね」 
 妻から話を聞いている夫はにこやかに応えた、そうして家族で天が作った魚料理を楽しむのだった。


食べさせない理由   完


                      2014・11・26 
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