口が悪いだけで
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第一章
口が悪いだけで
豊臣秀吉は顔をこれ以上ないまでに顰めさせてだ、己の前に胸を張って座しつつも対している石田三成に言った。
「佐吉、そこまで言うか」
「はい」
臆面もなく返す三成だった。
「左様です」
「御主、それはな」
「言葉が過ぎるというのですか」
「そうじゃ、そこまで言うとわしもじゃ」
「聞けぬと仰いますか」
「そうじゃ」
「ではそれがしを何時でも手討ちにされて下さい」
やはり臆面もなく返す三成だった。
「遠慮なく」
「それを覚悟で言っておるのか」
「言葉は出せば返ってきませぬ」
三成はこのこともわかっているというのだ。
「ですから」
「わしに手討ちされることを覚悟で言うのじゃな」
「何時でも」
「では今ここでわしに斬られてもよいのじゃな」
「殿下がお望みとあらば」
太閤である彼がというのだ。
「その時は」
「そうか、そこまで覚悟しているとはな」
ここまで聞いてだ、秀吉は言った。
「ならよい」
「では」
「下がれ」
これが秀吉のこの場での三成の言葉だった。
「そうせよ」
「さすれば」
「佐吉、言葉が過ぎるぞ」
「そうじゃ」
ここでだ、秀吉の傍三成の左右にそれぞれ控えていた加藤清正と福島正則が眉を顰めさせて三成に言って来た。
「秀吉様にそこまで言うとは」
「無礼であるぞ」
「そこまでの非礼はじゃ」
「許さぬぞ」
「よい」
秀吉は二人にもこう言った。
「わしがよいと言っているのじゃぞ」
「だからですか」
「この者の言葉はですか」
「今もですか」
「よいのですか」
「そうじゃ、わしが許したのじゃぞ」
太閤であり彼等の主である秀吉自身がだというのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「この場も」
「そういうことじゃ。皆下がれ」
秀吉は声に不快なものを混ぜながらもこの場を収めることにした。
「よいな」
「はっ、さすれば」
「この場は」
こうして一同は場を後にした、そして秀吉もだ。
ねね、北政所のところに行った、そしてそこでねねの出した菓子を口にしつつだ。苦い口でこう言ったのだった。
「全く、佐吉はじゃ」
「またなのかい」
「そうじゃ、あ奴またわしにずけずけと言ったわ」
「それで怒ってるんだね」
「この通りな」
こう苦々しい顔でねねに言う。
「頭から湯気が出ておるじゃろう」
「まるで茹で蛸みたいだよ御前さん」
「そうであろうな」
自分でもそうだろうと返す秀吉だった。
「本当に何でもかんでもな」
「ずけずけと言ってだね」
「全く遠慮なしにな」
「御前さん相手でもね」
「そうじゃ、昂然として言いよる」
「しかも御前さんが怒ってもね」
「斬るのなら斬れじゃ」
先の話の様にだ。
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