剣を捨てて
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第九章
「決めた」
「決めたとは」
「私は貴殿に言うことにした」
こうグレゴリー自身に言うのだった。
「即断出来なかったが」
「即断、ですか」
「私は軍人だ、いや軍人だった」
言葉にもう出ていたがだ、グレゴリーがそのことについて問う前にだった。
ライズはグレゴリーのその目を見据えてだ、こう言った。
「私は軍人でいたかった、それ以上にだ。考え抜いた末にわかったのだ」
グレゴリーを見据えたまま言っていくのだった。
「軍人でいたい以上に、貴殿と共にいたい。剣よりも貴殿を愛していることが考え抜いてわかった、だからだ」
「私と」
「貴殿と一生、共にいたい」
その目を見詰めたまま言った。
「そうしたいのだ。剣を握っているよりも貴殿と共にいたいのだ」
「では」
「私を受け入れてくれるか」
「私は友人を求めています」
グレゴリーは彼にこう答えた。
「それも生涯を共に過ごしてくれる」
「そうした友人をか」
「はい、それに」
「それにか」
「愛すべき相手も。そして私は貴女と共にいて」
ライズ、彼女とであることはもう言うまでもなかった。
「そうしたものを。実は」
「感じていたのか」
「そうでした」
今はじめて言うことだった。
「ですから今回の貴女の申し出を神に感謝します」
「その言葉、受け取っていいか」
「ありのままに」
そうしていいというのだ。
「そうしてくれるか」
「はい、それでは」
こう話してだ、そしてだった。
グレゴリーからだった、ライズのその手を両手で包んでだった。彼女の首の高さまで上げてそれからこうも言った。
「宜しくお願いします」
「いいのか?私の手は」
自分の手を取ったグレゴリーにだ、ライズは申し訳なさそうに言った。
「普通の女の手ではない」
「そう仰るのですか?」
「軍人の手だ、剣ばかり持っているな」
そうした手だからだというのだ。
「可憐さなぞ無縁だ」
「いえ、貴女の手ですから」
「だからいいのか」
「はい、私は受け取らせてくれました」
「そう言ってくれるのか」
「これからこうして取っていいでしょうか」
「貴殿がそう望むのなら」
顔を真っ赤にさせて俯けさせてだ、ライズはグレゴリーに答えた。
「是非な」
「それでは」
ライズは近衛士官の軍服のままだったがそれでもグレゴリーの言葉を受けた。そのうえでだった。
彼と婚約した、そして。
軍を辞めてグレゴリーの妻となりその彼の家に入った。そして。
その彼女のことをだ、父は自身の邸宅で妻であり彼女のエヴァに対して言った。
「まさかな」
「あの娘がこうも簡単に結婚するとは」
「思わなかった」
全くの想定外だったというのだ。
「本当にな」
「そうですね、私もです」
「そうだな、結婚出来ないとさえ思っていた」
「それが、ですから」
「わからないものだ、人の運命とは」
窓の外の屋敷の庭を見つつだ、こうも言った彼だった。
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