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剣を捨てて

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第六章

「もっと言えば考えるだけでだ」
「どうなるのだ?」
「自然と気持ちが昂ぶってだ」
 そして、とだ。同僚に俯いて言うのだった。
「胸の奥が痛くなる」
「そうなるのか」
「そして苦しくもなる」
 こうも言うライズだった。
「不思議とだ」
「そうか、それはだ」
「それは?」
「私もよくわからないが」
 この前置きからだ、彼はライズに話した。
「好きになったということではないのか」
「好き?」
「そうだ、アイスブルク殿をだ」
 その彼をというのだ。
「だからだ、あの御仁のことを思うだけでだ」
「胸の奥が痛くなるのか」
「そして苦しくなる」
 そうなるというのだ。
「よく聞く話だがな」
「好きになるとか」
「そうなる」
 こう言うのだった、ライズに。
「そう聞いているからな」
「そして私もか」
「そうではないのか」
 こうライズに言った、再び。
「だから」
「私が恋をか」
「恋は誰もを襲う」
 同僚はライズにこうも言った。
「私もだ」
「卿もか」
「一度とある女性を好きになった」
「そうだったのか」
「好きになったが」
 しかし、という口調でだ。同僚はここで苦い顔になった。そのうえでライズに対してその恋のことを語った。
「その相手とはな」
「結ばれなかったのか」
「他の人の妻となった」
「そうしたことがあったのか」
「それで今はだ」
「そうした相手はか」
 ライズは彼に問うた。
「今は」
「いない、しかしその時の私はだ」
「今の私と同じだったのか」
「胸の奥が痛くなった」
 実際にそうなたっというのだ。
「彼女のことを想うだけでな」
「今の私の様に」
「苦しくなった、そしてそれはだ」
 胸の苦しさ、それはというのだ。
「次第に強くなってくる」
「今以上にか」
「そして我慢出来なくなるのだ」
「それ程までに痛いのか」
「そして辛い」
 それが恋というものだというのだ。
「それから離れる為にはな」
「どうすればいいのだ?」
「私はそうは出来なかった、その恋の後である人に言われたことだが」
 その言葉はというと。
「罪でないのならば汝の欲するところを為せだ」
「自分自身のか」
「その行いたいことが罪でないのならな」 
 そうした戒律はあるがそれでも、というのだ。
「それをせよとな」
「言われたのだな」
「だからだ」
 それで、というのだ。 
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