剣を捨てて
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第三章
「左様ですね」
「はい、そうです」
「そのことは聞いています」
そうだというのだ。
「何かと」
「そうなのですか」
「お会い出来て光栄です」
「いえ、それは」
青年の澄んだ奇麗な声と顔立ち、そして紳士的でかつ優雅な物腰にだ、ライズは意識するものを感じていた。
だがそれをこの時は強く意識しないままだ、こう青年に言ったのだった。
「特に」
「ありませんか」
「はい、軍人ならばです」
それならというのだ。
「それは当然のことなので」
「だからですか」
「軍人は戦場で戦うものです」
こう言ってだった、青年にさらに述べた。
「そして武勲を挙げたのならば神々のご加護です」
「戦いの神々の」
「左様です、ですから」
「そのご武勲はですね」
「神々が私に与えられたものです」
それに過ぎないというのだ。
「ですから」
「特にですか」
「誇ることはしません」
決して、とうのだ。
「そうしたことは」
「わかりました、では以後は」
言わないとだ、青年はライズに約束した。
「その様に」
「そうして頂ければ何よりです、それでなのですが」
今度はライズから青年に問うた。
「貴殿は。はじめてお会いしましたが」
「はい、グレゴール=フォン=アイスブルグといいます」
「アイスブルグ殿ですか」
「学者をしています」
その仕事のこともだ、青年はライズに答えた。
「帝室大学において」
「学者の方でしたか」
「この度ハインリヒ殿下の教育係の任を仰せつかりました」
皇帝の弟の子である、皇位継承権も存在している。
「それでこの度です」
「宮廷にいらしたのですか」
「これから殿下の教育係としてです」
その役で、というのだ。
「宮廷にお邪魔させて頂きます」
「わかりました、それでは」
「名前を覚えて下さったら何よりです」
これがライズとグレゴールの出会いだった、そしてだった。
二人は宮廷の中で時折会った、毎日一度はだ。そうして次第に話もする様になりだ。
ライズはグレゴールの学識の深さと温和な人柄、そして丁寧で優雅な物腰を知った。そうしたものを見ていてだ。
次第にだ、同僚達にこうしたことを話す様になっていた。
昼食の時にだ、宮廷の近衛士官用の食堂の中でだ、ライズはパンとソーセージ、茹でたジャガイモにザワークラフト、それに葡萄とビールという食事を口にしながらだ、同僚達に言ったのである。
「グレゴール殿だが」
「ハインリヒ殿下の教師の」
「あの方か」
「何度かお話したが」
こう話すのだった。
「立派な方だな」
「帝室大学でも優秀な成績を収められてだ」
「哲学と神学、法学の博士号を持っているらしいな」
「代々学者の家系の嫡子で」
「その中でもかなり優秀な方らしい」
同僚達はライズにその彼のことを話す。
「だから殿下の教師に任じられた」
「これから将来有望な人だな」
学者として、というのだ。
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