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剣を捨てて

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第二章

「軍人になりたいのならな」
「では」
「しかしわしとしてはな」
 伯爵は自身の考えとして述べた。
「あまりな」
「あの娘を軍人にしたくないのですね」
「そなたの様に妻になって欲しい」
 貴族の妻になって欲しいというのだ。
「是非な」
「そうですね、私も同じです」
「軍人は戦う、命を賭けて」
 このことを知っているが故の言葉だった。
「何時命を落としてもおかしくない、実際にだ」
「当家もですね」
「これまで命を落としてきた、我が妹もだ」
 伯爵は自身の兄妹のこともだ、苦々しい顔で言った。
「立派な最期だった」
「ヴィルヘルミナ殿の様にならない為に」
「そうだ、死んで欲しくない。これは私の感情だが」
 公のそれではなく、というのだ。
「あの娘には普通の貴族の娘として生きて欲しいのだ」
「だから軍人にはですね」
「なって欲しくないのだ」
 伯爵の偽らざる本音だった、だがその彼の気持ちに反してだ。
 ライズは剣、特にレイピアの修行に励み日々馬術や水練に励みだった。軍学書を読み軍人になるべく修行を続け。
 士官学校にも入りそこも優秀な成績で卒業してだ、晴れて軍人となった。
 その彼女にだ、父は言うのだった。ライズは彼の目の前で赤い上着と白いズボンの詰襟、それに黒の乗馬用の長いブーツの軍服姿で毅然とした姿勢で立っていた。その腰にはレイピアを入れた柄がある。その彼女にだった。 
 父はだ、こう言ったのだ。
「ではこれからはな」
「はい、陛下に剣を捧げます」
 見事な敬礼でだ、ライズは答えた。
「そして武勲を挙げ家の名を高めます」
「そうするのだな」
「軍人として」
 こう返すライズだった。
「その務めを果たします」
「わかった、ではな」
「これより戦場に出てもミュッケンベルガー家の者として恥じない戦いをします」
 こう言ってだ、ライズは実際にだった。
 戦場で自ら先頭に立って戦ってだった、武勲を挙げていった。そして。
 少尉からはじまり武勲をあげそれからまた次の戦争でだった。
 中尉になった、その彼女を見て周囲は言った。
「流石だな」
「ああ、ミュッケンベルガー家の者だけはあるな」
「女だが男よりも見事な」
「果敢に武勲を挙げているな」
「この前士官学校を卒業したのにな」
「二度の戦争で武勲を挙げてもう中尉だ」
「その武勲が認められて近衛隊に入るらしいぞ」
 皇帝を宮廷において守る部隊だ、言うまでもなく帝国の精鋭達だ。
「そして皇后様のお近くを守るらしい」
「これはかなりのことだな」
「全くだ、立派な武人だ」
「女だてらとは言えない」
 これがライズの評価になっていた、そして実際にだ。
 ライズは近衛隊の将校となりみらびやかな軍服に身を包み宮廷を護ることとなった、武芸に秀で聡明であるだけでなく規律にも厳格な彼女は皇族からの信頼も得ていった。
 その中でだ、宮廷で皇族の警護にあたっているその時にだ、不意に。
 一人の長身の穏やかな顔立ちの青年と会った、金髪をショートにしており澄んだ青い目に透き通った白い肌にだ。青い学者のゆったりとした服を着ている。手には書がある。
 その青年に敬礼をした、青年は微笑んで一礼を返してきた。
 そしてだ、青年はライズにこう声をかけてきた。
「ライズ=フォン=ミュッケンベルガー中尉ですね」
「はい」
 ライズは青年の声に丁寧な声で答えた。
「左様です」
「そうですね、お名前は聞いています」
「私のことをご存知なのですか」
「戦場で武勲を挙げられたとか」
 そして近衛隊に迎えられたというのだ。 
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