極楽トンボ
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第四章
「観ていて下さいね」
「上機嫌ね」
「はい、期待していますから」
それでとだ、また言ったキャロルだった。
「今私凄く上機嫌よ」
「それはいいことね、じゃあね」
「それで、ですね」
「その上機嫌なままね」
「はい、お仕事も頑張ります」
「その笑顔お客さん達に見せてきてね」
「頑張りますね」
くるくると動きつつ笑顔で言ってだ、そしてだった。
キャロルは仕事に入りいつも通り働いた、だが。
スコットランドチームが敗退すると次の日にだ、店に暗く沈んだ顔で来てそのうえで黙っていた。その彼女にだ。
マリアはすぐにだ、こう言った。
「負けたからよね」
「はい・・・・・・」
いつもと全く違う顔で応えるのだった。
「そうです」
「そうよね、けれどね」
「こうした時こそですね」
「アイス食べる?」
キャロルの好物のこれを出すのだった。
「今から」
「それで、ですね」
「機嫌なおせる?」
「何とか」
これがキャロルの返事だった。
「出来ると思います」
「それならね」
「はい、お願いします」
そのアイスをというのだ。
「是非」
「わかったわ、それじゃあね」
マリアも応えてだった。早速アイスを出してキャロルに渡した。キャロルはそのアイスを食べて何とか笑顔になってだった。
仕事に入った、だが。
次の試合もだ、まただった。
スコットランドは敗れた、それで。
キャロルはその次の日もだった、沈んだ顔で店に来た。マリアはその彼女に再び優しく声をかけたのだった。
「まあ負けたことはね」
「はい・・・・・・」
前回以上に落ち込んでいる言葉だった。
「仕方ないですよね」
俯きどんよりとした顔での言葉だ。
「負けたことは」
「そうね、じゃあね」
「それじゃあですね」
「気を取り直してね」
そうして、というのだ。
「お仕事よ」
「今から・・・・・・」
「さて、前はアイスだったけれど」
マリアは前回の敗戦の時のことから言った。
「いつもアイス食べてたらね」
「太りますよね」
「音楽聴く?」
試合前に、というのだ。
「ロックね」
「私の好きな」
「そう、聴く?」
「お願い出来ますか?」
俯いたままでもだ、キャロルは言った。
「一曲聴いて」
「そうしてよね」
「はい、気を取り直して」
そして、というのだ。
「頑張ります」
「そうしましょうね」
こう話してだ、そしてだった。
キャロルは今回は音楽を聴いてそれで気を取り直していつもの調子に戻ってだ。そのうえで仕事に入った。
この日もこれで終わった、しかし。
スコットランドは結局予選敗退となった、その瞬間だ。
仕事が終わって自分の家で夫と同じベッドに裸で入っていたマリアの枕元の携帯が鳴った、その相手を見てだった。
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