閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー
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第20話~前へ進むために~
前書き
読者の皆さん、こんばんはです。春先はちょっとバタバタすることが多くて、期間があいてしまいすみませんでした(汗)あの、鮪のこと忘れてないですよね?・・・いえ、やっぱり今訊いたことは答えないでください。「鮪?誰やねんそいつ」とか言われたら寝床で臥しちゃいますし(苦笑)
それはさておいて、今回はリィン君視点にできるよう努力して書いたので、温かい目で読んで頂けると嬉しいです。
七耀暦1204年 6月27日 (日)
「ふう・・・ごちそうさまでした」
「はあ~・・・本当に美味しかった」
午前中、高原南部の実習を一通り終えたリィンたちは、ウォーゼル家にて昼餉の相伴に預かっていた。高原を駆け回っていた彼らの空腹を十二分に満たしてくれる。食後には、シーダが淹れたハーブティーをご馳走になり、高原を馬で駆け回った彼らの空腹を満たすのと同時に、疲れを程よく癒した。カバブとともに頂いた、ナーンという平焼きのパンも帝国ではあまり見慣れないものの、絶品だった。
「シーダちゃんの淹れたお茶、とっても美味しかったです」
「ああ、少し見ない間に上手くなったな」
「淹れ方も凄く綺麗だった・・・洗練されてるっていうのかな。暇があれば、俺にも教えてくれよ」
「あ、あう・・・はい」
一服がてら料理の感想を各々が口にしていると、ハーブティーの話題になる。
褒められたシーダは気恥ずかしそうだ。
「えへへー、あんちゃんとかっこいいおにーちゃんにほめられてよかったね!」
「リリ、もうっ・・・!」
リリの言葉が追い討ちになったのか、俯き加減になるシーダ。
「フフ、とにかく英気が養えたようで何よりだ・・・さて、一息ついたところで実習の課題を渡そうと思うのだが」
「あ・・・はい、分かりました」
ラカンの一言で、休憩モードから実習モードへ気持ちを切り替えるリィン。午後の実習範囲は、高原の北部が中心になる。封筒を受け取ると、まずは使った食器類を全員で片付けてから、依頼主であるイヴン長老の家を訪ねることにした。
「・・・これは・・・・・・」
切り立った山々が独特の風を生み出す、高原北部の崖を馬で駆け上がり、集落を出てしまったらしい羊を捜索しながら、リィンたちは長老の話にあった“巨像”にたどり着いた。ガイウスの話では、ノルド高原の守護者という言い伝えがあるらしい。崖に埋まっているその巨像は風化を感じさせず、今にも動き出しそうな迫力がある。
「おや、ケイン君たちか・・・」
「お疲れ様です・・・無事で良かった」
帝国時報に所属するカメラマン、ノートン。集落から出かけた彼を保護して欲しいというのが長老からの依頼であった。彼と知り合いであるらしいケインは、無事を確認できて安堵の溜息をついている。事情を確認すると、長老が示唆していたように、この巨像を見に来たらしい。続いてこちらの事情も話し、集落に戻るように促す。
「分かった、さっそく戻ろう!・・・と言いたいところなんだが、まだ写真を撮り終えていなくてね。ちょっと待ってくれないかな」
「・・・まあ、気持ちは分かる気がしますが。ここまでの遺跡、他では見られないでしょうし」
「いや、大陸西部にあるブリオニア島という場所にもこれと似た像があるんだよ」
ブリオニア島。確かB班が今回に行っている実習地のはずだ。ガイウスですらノルド以外に遺跡があることを知らなかったため、その事実に全員が驚いていた。ノートンは専ら遺跡を撮影していて、ノルドに来たのもここの取材が目的だったそうだ。取材であればとリィンたちは納得し、彼の仕事が終わるのを待つことにした。
「ケイン・・・ラウラたちが、心配なんだな?」
「な、何で分かった!?」
「あなたねえ・・・顔にそう書いてあるんだから、バレバレよ」
周囲への警戒を怠ることなく、普段より険しい表情のケインにリィンは声をかけた。ノートンの話で図らずも意識してしまったのだろう。
「ラウラとフィーならきっと大丈夫だ。だから今は信じて、俺たちにできることをやろう」
「・・・そう、だよな。ありがとう」
リィンの言葉を聞き、ケインは穏やかに微笑んだ。気休めにもならないかもしれないが、彼が安心して実習に臨めるようにするのも、リーダーと呼ばれる者の務め。微力ながら、B班にいる彼女たちの善戦を祈るばかりだった。
-ノルドの集落-
ノートンを集落へ送り届けた後、南部にいた残りの羊を保護し、依頼主であるワタリのもとへ誘導した。羊が出た原因は柵の破損だが、5匹とも魔獣に襲われた気配はなく、柵を直していた彼も作業を終えたので、もう心配はないはずだ。
最後にジェダ婆様からの依頼で、子供たちに外の世界を知ってもらうため、皆からの推薦でリィンが教師役となって帝国について授業を行った。参加したのはシーダ、リリ、そして彼女の友達であるコタン。士官学院や帝都、トリスタからノルドまでの所要時間などを語った。
「あれは・・・煙か!?」
「ああ、そうみたいだな。様子を見に行こう・・・!」
休憩を兼ねて、集落の中心の芝生で今日の実習について振り返っていると、北のほうに煙が上がっているのが見えたため、いち早く煙に気付いたアレスに続き、リィン達は駆け足で現場に向かった。
どうやら導力車事故のようで、車に乗っていたらしい薬師のアムルに経緯を尋ねた。いわく、北の山脈にある森林地帯で資材を取った帰り道、集落についたところでハンドルが急に重くなったとのこと。彼が軽傷を負っているのみで、他に被害者がいないのは、不幸中の幸いだろう。
「・・・ふん、なるほどね」
アムルの話を聞き、アリサが車のエンジンの様子を調べると、エンジン周りの結晶回路が接触不良を起こしていることが判明した。しかし、彼女は技術者ではないため、修理は不可能だそうだ。
「ふむ・・・だが、少々面倒なことになってしまったのう」
「というと・・・?」
現場に居合わせていたイヴン長老が、困り顔で口を開く。その様子を疑問に思ったエマが事情を尋ねると、長老の隣にいたラカンが説明してくれた。運搬車は集落に一台しかなく、故障したままでは支障をきたすということを。確かに、今回のように木材を運ぶ時でも、馬に引きずらせる訳にもいかないし、荷車などでは馬の負担が大きい。早急に直す必要があるだろう。
「そうでしたか・・・だったら、俺たちにできることはありませんか?」
食事や実習の課題など、ウォーゼル一家には色々と世話になっているため、何かしらの形で集落に貢献したい。それに、突発的な事態に自ら考え、主体的に行動するという意味で、これも実習の一環だ。そう思ったリィンが助力を申し出た。
「祖父様っ、どうしてこんな所にいらっしゃるんですかっ!?」
再び崖を馬で駆け上がり、巨像から北西の方角にあるラクリマ湖へ。リィンたちはそこにあった木造のボート小屋に来ていた。
ラカンによると、車を修理できる、帝国のご老人が住んでいるとのことだったが、どうやらそれがアリサの祖父だったらしく、大声で驚きを表現した彼女は両目を見開いている。
「フフ・・・まあ検討はついておるじゃろうがあらためて自己紹介と行こうか」
若干興奮気味のアリサを宥め、一同が中央にあるテーブルの椅子に腰掛けたところで、アリサの祖父が自己紹介する。グエン・ライフォルト。導力革命の祖、エプスタイン博士の三高弟の一人にして、ラインフォルトグループの元会長だったはずだ。
「いや、しかし5年も経つと見違えるほど成長したの~。背はもちろんじゃが、出るところも立派に出て。うむうむ、本当にジジイ冥利に尽きるわい」
こちらの自己紹介も終えると、娘との再会を喜んでいるのか、堂々とセクハラ発言をするグエン。飄々としていて冗談かは分からないが。
そんな彼に、アリサは心配していた旨を伝え、ルーレからいなくなってこの5年間どうしていたのかと尋ねる。5年も前からここで暮らしていたグエンは、しかし一年の半分を帝国や大陸各地で過ごしていたそうだ。
アリサはひとまず納得したようだったが、表情から心配の色は消えていない。
「その、グエンさん。どうやら俺たちの実習についても詳しくご存知だったみたいですね?」
「ふむ・・・確かに突然の来訪にしては、いささか手際が良すぎる」
グエンが実習のことを知っている理由は、アリサの母、イリーナとの連絡にあったらしい。今でもやりとりをしていることが、アリサにとって衝撃的だったのか、驚きで再び目を見開く。
「まあ、必要最低限じゃが。わが娘ながら仕事が楽しくて仕方ないようだからの~。やれやれ、どこでどう育ったらあんなワーカホリックになるのやら」
皮肉を言う口調はあくまで平淡だが、そこには嘆きが含まれている気がした。
アリサとしても否定できないのだろう。リィンは、眉を伏せて複雑な表情を浮かべる彼女をただ見つめていた。
「いや~、なんというか驚いたね。あのグエン・ラインフォルトがこんな場所で暮らしていたなんて」
二回目となるノルドの夕焼けを見ながら、グエンを連れて集落へ戻り、彼に導力車を修理してもらった。日没までにはたどり着けたので、僥倖だ。
今はノートンにグエン、そしてⅦ組A班を歓迎する宴会が長老宅で開かれている。酒を飲み交わすイヴンやグエン、ラカンたち大人を遠巻きに眺めながら、Ⅶ組男子陣はノートンと同じテーブルで食卓を囲んでいた。
「やっぱりその筋では有名な人なんですよね?」
「そりゃあ、導力革命を受けてラインフォルトをあそこまで巨大なグループにした立役者だからね。娘さんが会長職を継いでからはさらに巨大になったけど」
「・・・昔のラインフォルトは銃火器等を作る武器工房、って感じだったのに、今では帝国軍の主力戦車まで手がけていますからね」
「ケイン君から見ても、そんな感覚かい?」
「まぁ、そうですね。俺たちも結構お世話になっていますし」
さすがというべきか、グエンの知名度はかなり高いようだ。そして、ラインフォルトが大陸各地にも販路を広げているらしく、グエンが帝国において国際人とも呼べる存在だとノートンが説明してくれる。
帝国時報に所属するカメラマンだけあって、グループの現状もある程度把握しているのかもしれない。
「物知りだと思ったが、そこまでの人物だったとは・・・」
彼と面識のあるガイウスですらそこまでは知らなかったらしく、素直に驚いている。しかし、ノートンでさえ、グエンが会長を辞めた理由を知らないとのこと。「こりゃあ、あの噂が正しかったのかもしれないな」と意味深な言葉を口にしたノートンに、噂について尋ねてもはぐらかされてしまった。
気になって思い返されるのは、グエンを後ろに乗せて集落に戻っていた時に彼が言った、「祖父と母親の対立」という言葉。他人には親切なアリサが、一方で自分のことを一人で抱え込む原因が、その対立らしい。
(もしかしたら、その対立が・・・)
「あの、リィンさん」
「どうしたんだ?」
「その、実は・・・」
余計な詮索をしていると、ファトマたち女性陣の輪にいたはずのエマがこちらに来て声をかけてきた。風に当たりたいと言って外に出たアリサの様子を見て欲しいそうだ。一応どうして自分なのかをエマに訊いたが、適材適所ということらしい。
「リィン・・・ど、どうしたの?あなたも食べすぎたとか?」
「ああ、結構頂いたかな」
エマの言葉の意味はついぞ分からなかったが、とりあえず外に出てみると、すぐ近くにブロンドの髪が見え、視線に気付いたアリサがリィンの方へ振り返る。心なしかフラついているようだ。
「おっと・・・」
「ご、ごめんなさい」
「いや、無理もないさ。今日は一日中馬に乗っていたようなもんだから、かなり体力を消耗したんだろう」
危うく転びそうになったアリサの両肩を掴んで支える。午前は南部、午後は北部を馬で駆け回ったため、疲労の蓄積は昨日の比ではないはずだ。
「そんなことも、自分で気付かなかったんだ・・・」
自嘲するようにそう呟いた彼女は、気落ちしているように見えた。
「・・・アリサ。空を見上げてみなよ」
「あ・・・」
「風に当たるんなら、俯いているより見上げたほうがいいんじゃないか?」
「ええ、まったくだわ」
昨日は早く就寝したため気付かなかったが、見上げれば、曇りのない夜空が一面に広がっており、星々が蒼穹の大地を控えめに照らしていた。
その光景で暗くなりかけた気持ちを落ち着かせながら、リィンとアリサは草原へ仰向けに寝そべった。
「・・・8年前だったわ。技術者だった父がなくなったのは」
ほどなくして、アリサが昔を懐かしむように話しを始める。
父の死によって取締役であった母、イリーナが事業拡大に没頭し、家族をほとんど顧みなくなったこと。食事を共にするのも、三ヶ月に一回あるかないかであるらしい。その代わりに一緒にいてくれたのが、グエンやシャロン。
家柄のせいで貴族には疎まれ、平民には特別扱いされ、本当の意味での友達がいなかった彼女に、趣味人であるグエンから乗馬やバイオリンの手ほどきを受け、シャロンからは弓の使い方に護身術、貴族並みの礼儀作法も教わったそうだ。
その一方で、母が会長たる祖父の意向を無視してグループを拡大。
「でも、元々かなり大きな技術工房ではあったんだろう?」
「ええ、鉄鋼や鉄道から戦車や銃のような兵器まで・・・<<死の商人>>と揶揄されるだけのモノ作りはしてきたと言えるわね」
「そうか・・・」
アリサの話に黙って耳を傾けていたリィンであったが、彼女の話が一旦そこで途切れたため、今度は彼から話題を振った。どちらからともなく上体だけを起こし、リィンは気遣うような視線で彼女の顔を見る。
「・・・大丈夫よ。そのこと自体、複雑ではあるけど恥と思ったことは一度もないわ。でも、ここ数年、RF(ウチ)が作ってきたものを考えるとさすがに行き過ぎとしか思えない」
「ここ数年作ってきたもの・・・?」
思い当たる節がいくつかあるが、リィンにはこれだというものが即座に出てこない。心境を知ってかしらずか、アリサは列車砲について話し始めた。帝国東部、ガレリア要塞に2門設置されているその長距離導力砲は、たったの二時間で人口50万のクロスベル市を壊滅させるほどのスペックだそうだ。虐殺にしか結びつかないその兵器を受注したのが、彼女の母であるイリーナ。完成に立ち会った祖父、グエンはなんてバチあたりものを造ったのかと帝国軍へ引き渡すのを躊躇していた。しかし、イリーナはルーレの領主、ログナー公爵から帝国軍の有力人物に至るまで、ラインフォルトグループの大株主全員を味方につける。そうして、イリーナが新会長へと就任し、貴族派・革新派の意を受けて、グエンは退陣したそうだ。
「お祖父様は、私を残してラインフォルトを去った。味方だと思っていったシャロンも、雇い主である母様に従うだけだった・・・それが、五年前の出来事よ」
声こそ落ち着いているが、横から見えるアリサの表情は非常に暗い。
母、イリーナの行動によって祖父、グエンが裏切りにあった。自分の家族がそんな形で離れ離れになってしまえば無理もないだろう。
「・・・アリサは、自分の“家族”が壊れてしまったことに納得がいかなかったんだな?」
「そうね・・・実の親を陥れた母様も、それをただ受け入れたお祖父様も、あれだけ優しかったシャロンが何も言ってくれなかったことも、私は納得がいかなかった」
アリサの方を見てそう言うと、彼女は頷き、まっすぐ前を向いたまま自身の心境を語る。
「ラインフォルトの存在が、私が思っているより遥かに巨大で、その重さの前には家族の絆なんて意味がないなんて絶対に認めたくなかった」
だから実家を出て、士官学院に入ったのかもしれない、と。ただ結局母から、家から逃げることもできず、心配していた祖父もノルドの地で第二の人生を楽しんでいて、結局自分は何をしていたのかと気が滅入っていたらしい。
「でも、この星空を見上げていたらどうでもよくなっちゃったわ」
「そうか・・・やっぱり、アリサは強いな。こうして色々話してくれたってことは、多分、まえに進むきっかけが掴めたってことだろう?」
再び寝そべり、アリサとともに星空へ手をかざしながら、リィンは彼女を純粋に賞賛した。顔だけをこちらに向けた彼女は穏やかに微笑んで彼の言葉を肯定する。
「それは士官学院に入ったからだと思う。Ⅶ組のみんなに、部活のみんな・・・本音で向き合える仲間と出会えたから私は強くなれた。だから、ありがとう。心配してくれて・・・空を見上げろと言ってくれて」
「はは・・・どういたしまして」
お礼を言うアリサが、今まで見てきた中で一番穏やかな笑みを浮かべているように思えた。どこか吹っ切れたような様子だ。リィンは不義理をしてはいけないと、一応エマに促されてここに来たと白状しておく。彼女は「その辺は今後の課題ということで」と意味深な言葉を口にするだけだったが。
「そういえば、私を強いって言ってくれたけど、貴方だって色々と頑張っているじゃない?実習ではリーダーとして皆を引っ張ってくれてるし」
「はは、自由行動日に似たような事をしているからな。でも、まだまだだ・・・“自分”から逃げているようじゃ」
アリサに触発されるように、今度はリィンが胸中を語っていく。
ケルディックでの実習、夕食後に語ったトールズ士官学院の志望動機。
あの時は自分を見つけると格好のつけたことを言ったが、実際は家族からも自分自身からも逃げているのかもしれないと不安に駆られることがある、と。
「・・・その、ご家族とあまり上手く行ってないの?」
そうリィンが素直に打ち明けると、少し間をおいてからアリサは遠慮がちにそう訊いた。
「いや、全部・・・俺自身の問題なんだ」
血の繋がりがなくとも、両親や妹には慈しまれている。自分自身が彼らに負い目を感じて敬遠しているに過ぎないのだ。そう思ったリィンはアリサの言葉をやんわりと否定した。
「でも、そういう風に言えるってことは・・・多分、前に進むきっかけが掴めたってことでしょう?」
「あ・・・」
「ふふっ、もらった言葉をそのままお返しするわ。いつもどれだけ恥ずかしい言葉を臆面もなく言ってるか・・・少しは自覚するといいんじゃない?」
他人に悩みを打ち明けるには、それなりの勇気がいるし、気持ちの整理がついていなければならない。現実から目を背けるだけだった自分も、少しずつ前へ進めていることにリィンは気付かされた。
「参った、一本取られたよ。学院に入ってⅦ組のみんなや、同級生に先輩たちに出会って・・・こんな風にみんなと同じ時間を過ごすことで、俺も前に進んでるんだよな」
「ええ、きっとそうよ。だから・・・こんな風に、みんなと?」
リィンの視線の先を追い、振り返ってアリサが見たのは、ケインにアレス、ガイウスとエマ。Ⅶ組リメインズとの邂逅である。リィンたちを心配して様子を見に来たようだ。
「あー、えっと。二人とも、今日は夜空が綺麗だよな」
「ええ、そうね・・・って、そうじゃないわよ!あなた達、いったい何時からそこにいたの!?」
さり気なく誤魔化そうとしたケインの言葉に流されかけたが、寸前で踏みとどまってアリサは鋭い指摘をする。
「へぇ、聞きたいのか?」
「うっ・・・やっぱりいいわ」
「『でも、この星空を見上げていたらどうでもよくなっちゃったわ』だったかな?」
「いいって言ってるでしょう!?」
「ふむ、前に進むきっかけか・・・私はあの言葉に感銘を受けたのだが」
「アレスもやめてええっ!あれはリィンの恥ずかしい台詞をそのまんま返しただけだから!」
「ふふっ、そんなに恥ずかしがらなくても。思わずジンと来ちゃいました」
「ああもう!何で私が一番、恥ずかしい人になってるの!?」
「アリサが恥ずかしい人とか、今更すぎr」
「そこ、うるさい!」
リメインズの生暖かい視線とご丁寧な感想の数々がアリサの羞恥心に拍車をかけている様だ。
「フフ。悪いとは思ったが、いい場面に立ち合わせてもらった。これも、風と女神の導きだろう」
「ガイウスまでいい感じに畳んで・・・こうなったら、あなたたちもこの恥ずかしい青春トークに参加しなさい!」
「俺、正直アリサにはついていけないんだけど」
「どういう意味よ!?」
羞恥心が臨界点を突破したらしいアリサは、ヤケになってケイン達を勧誘し始める。
(こっちの方が力付けてもらっちゃったな)
そんな光景をひとしきり眺めてから、リィンは少しずつでも前へ進んでいくと見上げた星空に人知れず誓うのだった。
後書き
この辺も原作とあまり変わりないので色々省略したんですけど、やっぱりボリューミーになってしまいますね・・・いつもながらカロリーだけ豊富でゴメンナサイ。次は空気気味なアレス君にしっかりと活躍の場を与えつつ、苦手&ご無沙汰な戦闘描写に若干のオリジナリティーを加えて書きたいと思っていますので、(?あれ?何だかハードルが高いぞ?)・・・ど、どうか気長にお待ち下さい!
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