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函館百景

作者:SPIRIT
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その4

 
前書き
函館山とそれを降りて、函館ラーメンを食べるところまできたね。
次回が最終回なんで、しっかり載せたいと思うんだけど。  

 
函館山からホテルまで、今回は書こうと思った。
ただ前回と違い、書きたいことが多すぎてどこから手をつけたらいいのかわからない。
函館山から見たイルミネーション、明かりのついていない赤レンガ倉庫を走ったこと。あ暗闇を妙に恐れたこと、そしてチンチン電車とも言うべき、夜の路面電車に乗ったこと。
そこから暗金色の町並みに行ったこと。函館ラーメンを食べたこと。
そして、ホテルの客室で、ようやく落ち着いたこと。
頭を整理しながら、ゆっくりと書いてみようと思った。


夕闇の中で、路面電車に乗りながら、僕は妙な感覚に襲われたのを覚えている。
古い港町でありながら、閑散とした雰囲気の不気味さというべきか。
閉まった記念館を右に曲がりながら、電車は車を追い越していた。不気味さが収まるのは、函館山に登った時に、やっとであった。


夜、というほどには、暗くなっていない。
夕闇の中で、僕は公園に行った。
子供一人登らない暗青色のジャングルジム、人の影がまばらな中で、噴水だけが七色の明かりに照らされていた。
以前こういう場所を見たような気がする。
千葉のとあるデパートだったか。水は色のついた光に照らされると、
人の心に残る色となるのはなぜなのか。
水は方円の器に従うというが、光をも受け入れる存在。
光を通し、人の見る目に幻想的なものにする。
千葉にいた時の水の色は、なぜか忘れられない。時々思い出して、夜景を見た時以上の物悲しさを感じるときがある。


そこから右へ行き、喫茶店を横切って函館山域のロープウェー入口にたどりつく。確か夕日が沈んで、まだ6時ごろだったというのに、6人ほど並んでいた気がする。
ロープウェーに乗ったことはあったが、ここまで込んでいることはなかった。やはり名所と名高いところは、それなりに人気があるか。
白い鉄塔が、夕闇のささやかな光になっていた。木々が立っている中でちょこんとタワーのように建っていると、ひときわ目立つ。
1500円でチケットを買って、ロープウェーに乗り込んだ。


ゴンドラは大体30人ぐらいが乗れる大きさで、席は全くない。
逆にその方が窓からの景色を堪能できて、かえってよかったかもしれないが。
芋を洗うような込み具合の中、僕は真ん中に詰められた。もちろん景色はほとんど見えない。
かき分けかき分け、なんとか窓側に行って、進行方向と反対側の景色、函館市街の街並みを見てみた。
まだ明かりは付いていない。
それでいいのかもしれない。
明るい時ならまた違った印象を持つかもしれないが、案外と夕闇が、函館には似合っているように思えた。
白いビルは、光がない方が趣が強くなる。白い壁に翳が強く生じるからだ。
函館は白い建物が多く、闇の中で光に照らされ、青白くなっていた。


上へたどりつく。
すでに展望台全体がぎゅうぎゅうになっている。
円柱状の建物で、屋上つき3階建てになっていたものだが、2階にあったレストランも、席でいっぱいになっていた。
子連れもかなり多い。通路でとびはね、はしゃいでいる。
群衆をかき分けながら、屋上へ上っていく。
足腰は意外に疲れない。ロープウェー入口まで急だったのだが。


屋上へ登ってみる。
円柱の建物を中心に、山の岩肌まで裾を広げたように展望台は作られている。
前を函館の街並み、左手に海、右手に函館温泉と、細切れになっている半島が見えるようになっていた。
函館の細切れになっている場所
薄い闇の中で、少しずつイルミネーションが、ぱっぱとついていくのが見て取れた。
親子連れや恋人連れががやがやと騒ぎ、三脚を立てて写真を撮る人も出る中で、僕も取ろうと思った。
この瞬間は、時間が許す限りとらないといけない。
白い景色が夕闇によって青白くなるのは、本当に短いから。


ところが、カメラで夜景モードを起動させると、どうしてもシャッター間隔が長くなり、写真がぶれてしまう。
三脚を使わないとうまくとれないようだ。
のちの花火大会で、夜景モードは何とか使いこなせるようになるが、カメラが高性能化すると、使うのも大変なものだ。
仕方がないので、『イルミネーションモード』にする。
これはイルミネーションの光を強調する撮り方。
きれいに撮れた。
子供がはしゃぐ。
夜の中での落ち着き。
長い、平和な、夜である。
がやがやと騒ぎだす者もいれば、帰りのバスへと足を向ける人もいる。
外国の人も日本の人も、騒ぎながら問題をおこさず、何かに興じる。
ある意味での、平和ではなかろうか。
北海道の細切れになっている稜線を見ながら、右側に函館空港があり、左側に市街がある、と、自分の位置を確認する。
イルミネーションは大体まばらに散乱しているが、右側に行くほど薄くなっている。
開けたところと、そうでないところが手に取るように分かる。


函館山を降りると、夜の9時。
函館ロープウェーからの夕闇
ホテルのチェックインは11時だから、急がないといけない。
暗闇の中を、走った。
わけがわからない。
山で時間を費やした後悔と、闇の恐怖が頭を覆っていたような気がする。
空腹感もあった。
いっそのこと函館山でとろうとも考えていたが、レストランの値段が高く、フライドポテト1食で千円。
余り食事には、名物以外お金をかけないようにしていたから、即座に却下していた。
イルミネーションはすっかり消えてしまっている。
赤レンガも、明りを押さえて静かになってしまっていた。
函館赤レンガ倉庫の明かり
一種の節電なんだろうが、旅人にはちといただけない。
腹を満たそうとするが、どこの食堂も店も、9時を過ぎて閉まっていた。
昼に取ろうとしたハンバーガーショップも。
何とか、光から光へと渡り、函館駅前の方角へ手探りで進んでいく。
コンビニの白い光に魅かれてそちらの方に行くと、路面電車の電灯が黄色く、ぼんやりとともっている。
そこで漸く安心した。
路面電車の白い光の中に入り込み、函館駅前に戻る。
昼に明るかった駅前は、今は電灯に照らされて、独特の光で輝いていた。
暗金色、とでも言うべきか。
夜の函館駅前
その中で、建物窓だけが白く点々とした光をともしている。
ふと、お寿司を食べようと思い立ち、函館駅前の朝市に行く。
もちろん、閉まっていた。
全部白いシャッターをしていた。
店内は明るいのに、妙に不気味である。


すこしふらふらになりながら、函館の商店街を歩いた。
暗い金色の街並みが、妙にきれいになっていた。
車が通っているところを考えると、開けたところなのだろう。
幸い1件だけ、函館ラーメン屋があいていた。
るるぶでも紹介されていたものらしい。
入ってみることにした。


北海道のラーメンと言うと、極太の麺、濁って濃い汁、コーンやバターが使われた豪快なラーメン。
それが僕のステレオタイプな北海道ラーメンのイメージになっていた。新横浜ラーメン博物館で、札幌のラーメンを食べて以来か。
ところが、函館ラーメンは、薄い味付けに、ちぢれた細い麺。透き通った汁。
一瞬九州ラーメンかとも思ったが、九州ラーメンは白い汁が濁り、ちぢれが少なく、紅ショウガがのっかっている感じ。
やはり九州ラーメンとも違う。
中国の人がなかなか来ず、ラーメンもシンプルな形になってしまったか。
それとも、そのあっさりとした構成と味付けが、函館人の好みに合っていたのか。
とにもかくにも、このあっさりしたラーメンを一番安い値段で食べてみた。
旨い。
もちろん本格的な北海道ラーメンも嫌いではないが、こういうあっさりとした構成と味のラーメンも悪くはない。
夜の中で、ささやかな楽しみになった。


ふと、職場の皆や知り合いにお土産を買わねばと思い、再び暗金色の夜を通る。
とはいっても、十人もの人へのお土産として買うわけだから、万人の口に合うものにしないといけない。
カニなどの生物は持たないし。
結局、以前買った『白いお台場』もどきの菓子にした。
チョコをウエハースで挟んだ代物。
それでも、相手が喜ぶならそれでいいか。


ホテルに入ってやっと安心した。
銭湯はなかなかのもの。
函館の町並みと同じ、闇金色の明かりが部屋をともし、ささやかな場所になっている。
ともあれ、硫黄のにおいもしない、ただの銭湯といったところ。
ないよりはましか。
ホテルの値段も手ごろなものにしたが、ビジネスホテルのようなもので、客室は結構狭い。
それでも落ち着けた。
浅田次郎は宿泊先でAVを見ることが多いそうだが、こちらは恥ずかしくてできない。
その代わり、寝る前に音楽を聴くのが日課になっている。
この時もしかりだった。
『勇者の笛 ~タピオンのテーマ~』を聞く。
映画ドラゴンボールの挿入歌だが、物悲しい旋律が自分の琴線に触れていた。
横になりながら、函館の夜を楽しんだ。
窓を見ると、金色の光はなくなり、黒と白の、見慣れた夜景になっていた。


続く 
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