戦国異伝
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第二百六話 陥ちぬ城その一
第二百六話 陥ちぬ城
家康は韮山城に着いた、そこで先陣を務めていた酒井に言った。
「ご苦労じゃった」
「勿体ないお言葉」
酒井は主に頭を垂れて応えた。
「それは」
「ははは、堅苦しいのう」
「左様でしょうか」
「そうじゃ、別にそこまでよいではないか」
「いえ、そういう訳にはいきませぬので」
やはり堅苦しく返す酒井だった。
「ですから」
「そう言うか」
「左様です」
「ならよいか、それでじゃが」
「はい」
「もう荒木殿達は別の城に向かわれているな」
「既に」
そうだとだ、酒井は家康にすぐに答えた。
「そしてです」
「その城をか」
「陥とされたとか」
「ふむ、流石は吉法師殿が見込まれた御仁じゃな」
「はい、織田家は城を次々と手に入れています」
「殆ど戦うことなくじゃな」
「戦になった城もあるにはありますが」
それでもだというのだ。
「しかしです」
「殆ど戦わずにじゃな」
「降しております」
「そうか、それでは北条家もな」
家康はその話を聞いてこう述べた。
「間もなくな」
「降りますか」
「そうなるであろうな」
こう言うのだった。
「それは避けられぬ」
「そうなりますか」
「うむ、しかしじゃ」
「この韮山城はですな」
「そうはいかぬ」
家康は真剣な面持ちになって述べた。
「残念じゃがな」
「何しろ守っておられるのが」
「助五郎殿じゃ」
この者だからだというのだ。
「助五郎殿ならばな」
「幾ら攻めてもですな」
「この数で攻めてもな」
徳川の兵は一万を超えている、それに対して韮山城の兵は千もいない。しかしそれだけの兵の差があろうともというのだ。
「無理じゃ」
「攻め落とせませぬな」
「助五郎殿がおられるからじゃ」
「やはりそうなりますか」
「うむ、だからこここはじゃ」
「城を囲むだけですな」
鳥居が言って来た。
「やはり」
「うむ、そうしてな」
「攻めずにですな」
「そうしておく」
「わかりました、それでは」
「他の城は陥ちていっておる」
このことからも言う家康だった。
「ならばな」
「我等はですな」
「ここで囲むだけじゃ」
またこう言った家康だった。
「そしてこの戦の後で」
「氏規殿と」
「久しぶりに話がしたいのう」
笑みを浮かべての言葉だった。
「あの時の様にな」
「駿府にいた時の様に」
「確かに人質じゃった」
今川のだ、家康はその立場で駿府にいた。
しかしそれでもだとだ、家康は目を細めさせて言うのだった。
「よい思い出じゃった」
「氏規殿とのことも」
「うむ、義元殿も雪斎殿も可愛がってくれたしな」
さらに言う家康だった。
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