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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  40話

その後の試合は秋道 チョウジとドス キヌタとなり、随分と呆気なく勝負はついた。チョウジの突進を回避したところにドスが超音波を体に打ち込み試合終了、それ以上言いようのない戦いだった。
これで予選は全て終わり、私達は中央に集められ本戦への説明とトーナメントのくじ引きを行う事となった。が、その前に女が一人前に出て試験官に詰め寄った。
「私は試合をしていないんだが、それはどういう事だ?」
「ゴホッゴホッ、あなたは砂隠れのテマリさんでしたね?」
「ああ」
「この予選はあくまで人数を削るための試験ですので、現時点で十分な人数まで減らすというこの予選の目的は達成された以上、試験を終了させることになっただけです。
それに、参加人数が奇数である以上、誰か一人は試合が出来ないというのは避けられません。どうしてもというのであれば、我々上忍の誰かが相手となり、その試合内容で判定するという事も出来ますが?」
「……わかったよ。素直に通らせてもらう」
テマリは渋々といった表情で引き返し、説明を待つことにしたらしい。自分の意地と、試合を行って手の内を晒す事を天秤に掛けて判断したのだろう。
悪くはない判断だ。手の内は可能な限り晒すべきではないし、まして本戦があると言うのならば尚更だ。
だが、こういった運によって通過があるというのはなんとも気分の悪いものだ。この予選の意味を考えればテマリのような事態がある事も分かるが、リーの事を考えるとやるせないな。
あの傷の事を考えれば、彼は文字通り天に見捨てられたとでも言わんがばかりじゃないか。
「ヒジリ様」
「……分かっている、ここで暴れる程子供ではないつもりだ」
「ならば、その掌を閉じておいてください」
「……ああ」
無意識の内の動きだった……どうにも私は頭脳と肉体が別々に動いているな。
「それでは試合内容を発表します。
第一試合、うずまきナルト、日向ネジ。
第二試合、我愛羅、うちはサスケ。
第三試合、日向ヒジリ、油女シノ。
第四試合、テマリ、奈良シカマル。
第五試合、テンテン、ドス・キヌタ。
以上です」
面白い試合内容だ、私はそう思った。特に第一と第二だ、どちらも予想の付かない戦いになるだろう。
第一試合はナルトがどこまで自分の中の住人の力を引き出し、どのレベルで使いこなすかに掛かっている。第二試合は木の葉と砂の才の総力戦と言えるものだろう。
火影の説明を聞き流しつつ、私は僅かばかり期待に胸を躍らせた。




本戦への期間、ナルトとサスケは何かしらの修行をするそうだ。私もその間、また一歩進歩するとしよう。そんな事を考えながら私は布団から起き上がり、浴室で寝汗を流している。
先日の予選終了後、私は色々と試合後のヒナタ達の様子を見に行ったのだが、おおよそさしたる事にはなっていなかった。
まず、ヒナタだが、肋骨にヒビが入った程度で内臓系には問題はなく、激しい運動はしないように言われる程度で退院。
サスケもひとまずカカシの手によって呪印を抑える封印術を施されたらしく、問題なく活動できるそうだ。
だが、リーに関しては私の予想通り手足はおよそ治療できる見込みがない、というのが医者の見解らしく、先生はその事をリーに伝えるべきか否か測りかねているそうだ。
……いかん、思考が負の方へ傾きかけたな。確かにリーの事は悲しむべきことだが、それはどこまでいっても彼の問題だ。私が頭を悩ませてどうこうする話でもあるまい。
冷たい言い方かも知れんが、彼の傷は彼がどうにかするしかないのだ。
さて、頭を切り替えつつ浴室から出て、体を拭き、着物に袖を通しつつ今日一日の予定に思考を巡らせる。
術か技かどちらに重きを置いて修行したものか。幸い、今日は晴天、体を動かすには最適とも言える。
演習場にでも赴いて午前中は一通り型をこなし、午後から術の修行とするか。
そうとなれば善は急げだ、そう考えて玄関の戸を開けた私だったが、
「ヒジリ、話がある」
……ふむ、どうやら第一歩から躓くとはな。
「親父殿、私はこれからやるべき事があるのだが?」
「では、その予定はキャンセルだ。後で部屋に来い」
親父殿はそれだけ言うと私に背を向け、本邸の方へ行ってしまった。
どうやら、人生とは本当にままならないものなのだな。



「飲め」
「……親父殿、一応言っておくが私は未成年だぞ?」
「知っているが、今日ばかりはいいだろう」
「今日?何かあるのか?」
「ああ……」
親父殿はそう呟いて酒を喉に流し込んだ。確かに私とて酒を飲んだ事が無いとは言わんし、多少は嗜んでいる。
が、規則に対しては厳格な親父殿が勧めてくるというのは余りに意外すぎる。
理由を深く問いたい所だが、このような親父殿の姿を見せられれば憚られる。
それに何時ぞやの件以来、こうして面と向かって話し合うという機会もなかった事を考えれば、これもそう悪い話でもあるまい。
「まぁ、いい。親父殿には色々と世話になっている。それにもうすぐ私もこの家を出るのだ、こういう機会もそうあるまい」
「……そうだな」
親父殿はどうにも何かを悩んでいるようだな……
「親父殿、誘っておきながらその含みのある言い方は止めてもらえないか?」
「ああ、すまない。ただ……私はお前の父として、何かしてやるべきだったのではないかと思う時が増えてな。いや、そもそも父として在れたのかすら怪しい」
「未成年の娘に飲酒を勧めながら言う台詞か?……まぁ、それを置いておけば貴方は私の父親ですよ、間違いなく。
出来損ないの白眼を持った私にも手を抜かずに柔拳を教え、様々な知識を得る環境を与えてくれた。少なくとも今の私が在るのは貴方のお陰でもあるのだから、貴方は十分に父親だったといえるだろう」
私は親父殿に注がれた酒を飲みながら、淡々とそう答えた。
「そうか……そう言って貰えるならば良かった」
「……なぁ、親父殿。いい加減にしてくれないか、そんな辛気臭い顔を目の前にしていては酒の味が落ちる」
「そうだな……ヒジリ、私は言ったな、お前に伝えねばならん事があると」
確かに死の森の試験前に言われたのだったな……中忍試験終了後に伝えるという話だったはずだ。
「ああ」
「それが今夜になったのだ」
「ふむ、で、それがどうしたと言うのだ?」
「恐らく、お前は日向の家から完全に去る。そして、次にこの家に戻る事があったのならば、その時のお前はもう日向ヒジリではなくなっているだろう」
「随分な言われようだな……その事実が一体何なのかは知らんが、私の在り方はそれほど脆いものではないぞ」
親父殿の言葉を受けてか、私の口調は知らぬ内に少し不貞腐れたようなものになっていた。自分の在り方を維持する事に重きを置いている私にとって、親父殿の言葉は中々に捨て置けぬ言葉をだったからな。
「そうであることも私は願うが、私の言った通りになる可能性も十分にある。だからこそ、私は父として最後にこうして語り合いたいのだ」
「……こうして面と向かって語り合う事が殆ど無かった上に、勘当を受けている私が言うのはなんだが、親父殿は私を舐めているのか?
内容すら私に告げずに、私の事を一方的に決めつけられる事ほど腹の立つことはないのだ。せめて、その内容の一端だけでも私に教えるというのが筋ではないのか?」
すると、親父殿は半ば自棄になったように酒を飲み、しばらく目を瞑ってから絞り出すような声で言葉を紡いだ。
「本当に……いいのか?」
「くどい」
「……分かった。単刀直入に言おう、ヒジリ。
お前は……人ではない」











 
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