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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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IFストーリー もしあの人が生きていたら………

 
前書き
こんにちはblueoceanです。

それでは今回から後日談・IFストーリーを投稿していこうと思います。
今回はずっと前からちょこちょこ書いていたIFを投稿します。

次はまだ全然書いてないので、こんなに早くは投稿出来ないと思います……… 

 
「………んん?」

スマホの目覚ましの音で目が覚める。

「ふぁ………」

昨日はライと夜美と共に遅くまでゲームをしていたせいかかなり眠い。

「みんな、起きてる?ご飯出来たわよ!!」

部屋の外から大きな声が聞こえてくる。
朝から本当に元気だこと………

「………着替えて行くか」

俺は眠い体を無理矢理動かし、制服に袖を通すのだった………








平凡な日常を望む転生者IFストーリー







「レイ、起きましたね」
「おはよう星」

一階に降りると制服の上にエプロンを付けた星が迎えてくれた。
手には運び途中のサラダとスクランブルエッグのお皿。更に弁当の残りなのかウィンナーやコロッケなど、中途半端に残ったおかずが並べられている。

「みんなは?」
「夜美は今洗面所です。寝ぐせが中々取れなくて苦戦してます。ライは………いつも通りです。全く、起きれないなら夜更かしなんてしないでほしいんですけど………」
「ハハハ、ソウデスネ………」

星は昨日、ライと夜美と夜遅くまでゲームをやっていた事を知らない。切っ掛けはライがゲームのレア素材を手に入れた事から始まり、その時起きていた夜美を誘い、一狩り行っていたのが原因だ。
………今正直に言ったら何で起こしてくれなかったかとか、仲間外れにした事からオハナシコースになってしまう危険性がある。

「世の中には知らなくても良い事はあるよな………」
「?」

不思議そうに俺を見る星だが特に何も言わず、席に着いた。

「零治おはよう、コーヒー飲む?」
「番茶が良い」
「………相変わらずジジ臭いわね」
「ほっとけ」

俺の返事に苦笑いしながら番茶を手渡してくれる女性。
俺達を正式に養子に迎え入れてくれたシャイデ・アレスト。旧姓シャイデ・ミナート。
元管理局の執務官にして、今は俺達の学校の先生で担任。

俺は養子に迎え入れてくれる前からの付き合いなので、どうしてもお母さんと抵抗があって言えていない。
星達も恥ずかしいのか未だに名前で呼んでいる。それでもさん付けを止めたから進歩は見えているのだが………

「それで………また寝坊?」
「一応仕事で遅かったみたいよ?帰ったのは朝方だったかしら?」
「また長引いたのかよ………言ってくれれば協力するのに………」
「ミッドチルダに逃げた希少生物の岩ネズミを探す仕事なんだけど?」
「さて、ライを起こしにいくかな」

良かった助けを求められなくて………

さて、我が家の主こと、ウォーレン・アレストは俺が傭兵としてミッドチルダで戦っていた時に出会い、互いにパートナーとして戦って来た。そんな中、ウォーレンは任務の途中で出会ったシャイデ・ミナートに惚れ、一年の同居の末結婚。1人で居た俺、そしてその後に助けた星達3人を加え、一緒に生活している。家も地球に中々大きい一軒家を購入し(ほぼ、シャイデの給料と退職手当)、生活を地球に移した。現在はミッドチルダで探偵稼業と言う名の何でも屋をしている。

「ウォーレンさん、起こします?」
「寝かしておきましょ。それよりも早くライを起こしてらっしゃい。星は夜美を呼んできて」
「うい~」
「分かりました」

シャイデの指示の元、俺はライの部屋へ、星は洗面所へ向かった………













「ライ起きてるか?………って酷い部屋だな………」

一応ノックをし、返事は無いだろうと思ったのでそのまま入室。散らかった部屋に驚きながらもライを確認すると、やはり寝ていた。

「ライ、いい加減起きろ………お!!」

ふと部屋を見てみると床にブラジャーやらパンツやら散乱していた。この前星に「自分の洗濯物くらい自分でしまいなさい!!」と言われ、持っていたやつだ。

「ふっ、流石の俺もこんなブラジャー如きに興奮はしないさ。………しかしデカいな、そろそろシャイデと並ぶんじゃないか………?」

シャイデはそこまで大きい方じゃない。ウォーレン曰く、Cカップだとか。しかしライはそれに負けないほど………

「………ってか同じくらい………いや、それ以上か?」

まさかと思い、ブラジャーを持ち、タグを確認しようと顔を近づけてみる。

「………レイ、何してるの?」
「ん?」

声を掛けられ前を向くと、ボサボサ頭ながら顔を真っ赤にしたライがそこに居た。

「起きたかライ。駄目だぞちゃんと起きないと」
「レイの………」
「ん?」
「ばかあああああああああああああ!!!」
「げぼば!?」












「全く、零治お前また何かやったのか………?」
「俺は無実だ!!」
「僕のブラジャー持ってじぃっと見てたでしょ!!」
「「「最低………」」」

3人の視線が痛い。
ライの見事なストレートパンチを喰らい、部屋から吹っ飛ばされるほどの衝撃を受けた俺。その騒音は付かれて寝ていたウォーレンを叩き起こすほどうるさかったみたいだ。

「それで感想は?」
「また成長してたな。あのブラジャーはCカップ以上はあったぞ」
「「C………」」
「ま、まだ私よりは小さいわね………」
「嘘つけ、この前Cだって自分で………」

ザグッ!!と嫌な音を立てて机の上にフォークが突き刺さっている。

「何か言ったかしら?」
「イイエ、ナンデモナイデス………」

と恐怖でウォーレンを黙らせるシャイデだが、実は既に俺以外の皆も周知の事実だったり。
原因は当然おしゃべりの家主である。なのでオハナシをされるのは確定なのだが………

「そ、そうだみんな聞いてくれ!!またも我がアレスト探偵事務所の評判が上がってたぞ!!」

そう言って慌ててタブレットに近い大きさの液晶画面を見せてくる。
そこは口コミサイトみたいだった。

『人気急上昇、アレスト探偵事務所(物理)!!あなたのお悩み何でも叶えてくれます』

と題名からかなり良い話題のものだと思えるが、個人的にはその中のカッコで囲まれた(物理)のワードがとても気になる………

「そして、これがこの前誘拐事件で救出した少女の書き込み。そしてこれが振り込み詐欺にあったおばあさんの書き込みだろ………」

と相変わらず嬉しそうに書き込みしている人達を次々と紹介していった。確かに悪い事は書かれておらず、皆感謝の言葉や紹介してくれている人達の書き込みで一杯だった。

「だけどこの物理と言うのは何なのだ?」

牛乳を飲みながらはねた髪を気にして何度も何度も直そうと弄る夜美。心なしか不機嫌そうだ。

「寝ぐせ直らないの?」
「………どうしても直らんのだ。レイ、ワックス借りても良いか?」
「いや、男物のワックス付けるなよ」
「何かバカっぽいね!!」
「ライにだけは言われたくないわ!!」

夜美の言う通り、いつもの様に結んでないライの青い髪は寝ぐせだらけでボサボサのままだ。

「ふふん、僕のは直ぐに直せるもんね!!」
「くっ………!!」
「そう言えばライの寝ぐせって何時も直ぐに直りますよね………?髪が長いから結構時間がかかると思うんですけど直ぐに結び終わるし………」
「そう言えばそうね」

星の言う通り、ライの髪のセットはとてつもなく早い。男の俺もワックスでセットするとなると早くても5分から10分ほど。ライも全く同じ位で済ませてしまうのだ。

「えっ?だって髪を伸ばしたらツインテールに結ぶだけだし、そんなに時間要らないじゃん」
「いえ、本当だったらもっと髪のケアとか色々………」
「しなくても平気でしょ?」

何を言ってるの?と言った顔で言うライに星と夜美も少々ご立腹気味だ。

「そう言えば今週の週末、みんな空いてるか?」
「何かあるのか?」
「出来れば仕事で手伝ってほしい事があるんだけど………」














「管理外世界の生物調査か………探偵の仕事じゃ無いだろこれ」
「だからこそ(物理)なのだろ?」

そう、夜美の言う通り、(物理)が付くほど、戦闘に関する仕事が多い。と言うのもそれはウォーレンとその相棒『黒の亡霊』の評判が大きいからだ。

黒の亡霊。
俺のデバイス、ラグナルで変身できるバリアジャケットの1つ。その姿は機動戦艦ナデシコの劇場版に出てくるブラックサレナをモチーフに考えた物なので、姿は黒い鎧を付けた様な姿になる。そして更に顔はバイザーとまさに主人公のアキトをモチーフにした姿は周りからは奇異な目で見られ、瞬く間に広がって行った。
それは傭兵内にも留まらず、管理局との共闘もしていた影響で、ミッドチルダの魔導師ならばほぼ知っているほどの知名度なのだ。

「僕は最初探偵やるって聞いたから、『じっちゃんの名に懸けて!!』とかピコーン!!って効果音と共に閃くような光景を思い浮かべてたんだけど………」
「決め台詞はともかく、効果音は無いでしょう………」
「真実はいつも1つ!!とか?」
「それは次回予告の決め台詞だ」

まあライの様にそればかりとは思っていなかったが、仕事内容が殆ど傭兵時代とあまり変わっていない事で探偵と名乗っていいのだろうかと思った事が何度もあった。
それでも傭兵時代と比べればかなり平和的であり、結構楽しんでいる。

「まあいいじゃないですか。次はどんな世界か私結構楽しみです」
「この前のジャングルばかりの世界は嫌だぞ我は」
「それは行ってからのお楽しみだな」
「星、お弁当作ってね!!」
「分かってますよ」

とピクニック気分で出かけられたりするのである。

「おっと、あれは………」

そんな話をしていると目の前に見慣れた2人が見えた。

「バーニングとすずかだ!!」
「バニングス!!ちょっとライ!!ライまでバカのマネしなくていいって!!」
「あはは………」

ライの声に反応した前回同じクラスのアリサ・バニングスと月村すずかが反応して俺達の方へやって来た。

「お前………朝からよくこんな公衆の面前で叫べるな………」
「誰のせいよ誰の!!アンタのせいで、よくバーニングさんってからかわれるのよ!どうしてくれる!!」
「こうしてくれる」

と凸ピンで返してみた。

「………」
「星、カバンを頼む」
「えっ?」
「零治ーーーーーーー!!!!」
「逃げるんだよおおおお!!!」

カバンを星に預け、俺は駆け出した………












しかし現実はそう都合よく出来ていない。









「さて、何か言い残す事はあるかしら?」
「バスケがしたいです………!!」
「来世で好きなようにやりなさい!!!」

死は確定の様だ。

「アリサちゃん、ちょっと落ち着こう。新クラス早々目立ってるよ………」
「相変わらずだね2人は………」

同じクラスになった高町なのはが周りを見ながら心配そうに語りかける。
しかし毎度の事騒いでいる俺達の存在ば既に殆どの人が知る事実でもあるため、今更と言えば今更である。皆が後に声を掛けたフェイト・T・ハラオウンの様な反応だ。

「それにしても星ちゃんとはまた同じクラスやな」
「そうですね、よろしくお願いしますはやて」

と俺達の事を遠くから見ていた2人がそんな話をしている。
はやて達魔法少女達に星達の事を話したのは星達が聖祥中学に通いたいと言い始めてからだ。本来ならこのまま言わないでおけばいずれ近いうちにミッドチルダで生活する3人なので言わなくても良いだろうと思っていたのだが、3人はちゃんと話して謝りたいと言って来た。

そして現在では普通に話したり遊んだりする仲である。

「何傍観者気取りしてるはやて。神崎にお前のメルアド教えるぞ?」
「教えたらミストルティンで固めた後、ラグナロクするで」
「何それ恐い………」

可愛く言っているが言っている内容が鬼畜過ぎて想像したくない………

「レイ………!!!」
「うおっ!?」

そんな中、残念ながら隣のクラスのライが俺の胸に飛び込んできた。
かなり勢いがあったので後ろに倒れ込んでしまうが、ライに怪我が無いようにカバーできたみたいで良かった。

「あっ、ごめん………」
「危ないから勢いよく飛び込むのはやめてくれ」
「うん、ありがと………」

と恥ずかしそうに俺から離れるライ。

「どうしたんですライ、そんなに慌てて………」
「あっ、そうそう!!僕のクラスにあの神崎大悟が居て、しつこく声かけてきてうるさいんだよ!!僕も話しかけないで!!って言っても『ハハハ!!恥ずかしがらなくてもいいよ!!』って笑ってまた話しかけるし、これが言葉のドッジボールってやつだよね!?」
「あの野郎………!!!ウォーレンと一緒にぶち殺してやろうか………!!!」

イケメンなのに頭の中が残念な奴。それが神崎大悟と言う男だ。
銀色の髪のオッドアイ。それが確認出来た瞬間、俺と同類だと直ぐに確信したが、決して中の良い関係を築けるような男では無い。
ナルシストで、否定してもめげない。かなり自信があるのかしつこい。女子にはモテるようだが、興味の無いなのは達魔導師組や、アリサ、すずか、更には星達3人はかなりの迷惑をこうむっていた。

「それは願ったり叶ったりなんやけど、あいつああ見えてかなり強いで」
「問題ない」

と言っても実際戦ったら勝てる気がしない。一応相手は魔力ランクSSSランクの化け物なのだ。………が、それでも負けられない戦いがある。

「ライ、何かセクハラとかされたら直ぐに報告しろ。俺がぶちのめす」
「うん………」

そう返事を返すが潤んだ目で見つめるライに何とかしてあげたい気になるが、クラス分けはどうする事も出来ない。
更に悪い事に夜美とすずかとフェイトはC組と更に隣でライはB組で1人なのだ。明るい性格のライは友達も多いが、本当に心から信じられる奴が誰も居ないのは流石に可哀想だ。

「今日帰りに何か買ってやるから取り敢えず頑張れ………」
「うん………」

抱き付いたままのライに今の俺にはそうやって励ますしかなかった………


















「休みだぁーーーー!!!」

そんなこんなで明日から土曜日で学校は休み。新学期の初日にウォーレンに頼まれた管理外世界の生態調査に明日は皆で出かける。

「楽しみだな、楽しみだな!!」
「ライはテンション高いな」
「相当鬱憤が溜まってたのだろう」
「休み時間は必ず俺達のA組に来てたもんな………」
「まあ大丈夫よ、彼の行動は教師の間でも問題に上がってるから酷かったら言いなさい」
「うん、ありがとうシャイデ」

こういう時先生が身近に居てくれると頼もしい。

「よし、みんな準備は良いな!!」

そしてもう1人やたらテンションの高い奴がもう1人。
言わずともがなウォーレンである。

ウォーレンもライと同じく今日を結構楽しみにしていたようで、昨日もやたらと早く寝ろと煩かった。遠慮して何も言わない星達はともかく、あまりにも煩かったので物理で気絶させたのだが本人は覚えていないようだ。

「今日は皆、無理をせず楽しんで行こう!!」
「イエーイ!!」

ウォーレンの掛け声にライが大きな声で答える。
そんな2人の姿に皆、それぞれ笑顔がこぼれた。

「それじゃあ出発だ!!」
「オー!!」

ウォーレンはそう言って先頭に立ち、その後ろにライが付く形で先に歩き出した。

「これでは本当にピクニックだな………」
「………まあ大方間違ってないし、俺達もそんなに気張らずに行こうぜ」
「むしろあの2人が暴れすぎない様に見ていないとね」
「分かってます………」

星が苦笑いしながらシャイデに答える。

「何してるんだー!!」
「早く行こうよー!!」

「分かった、分かった………」

急かす2人に付いて行くように俺達も急ぐのだった………















さて、今回の以来はこの世界の生態調査なのだが、それは俺達の予想以上に過酷だった。

「零治!!上から巨大ハチの大群が!!」
「くそっ!!ラグナル!!」
『グラビティブラスト!!』

前回のジャングルの様な場所では無かったが、その世界の生態系が問題だった。
森の茂みに隠れていたのかいきなり現れた巨大ハチにグラビティブラストは発射した。
巨大な砲撃により固まっていた大群は全て砲撃に飲み込まれた。

「レイ、ちゃんと非殺傷とスタン攻撃にしてましたよね!?」
「大丈夫だ、な?ラグナル」
『はい、抜かりはないです』

一応確認してみたが、ラグナルの言う通り、巨大ハチは仰向けに転がり、ぴくぴくと動いている。

「この世界、生物の大きさが普通とは違い、巨大だったり極端に小さかったりしているのだが………」

そう、この世界では普段地球で見かける生き物の大きさがまるで違っていたのだ。先ほど襲ってきた巨大ハチが居ると思えば、ちっちゃなライオンが居たり、もうごちゃごちゃだ。

「そういう世界なんだな。確かにあんなに巨大で危険な生物がいちゃ管理局も無闇に来れないな!!」

と笑いながらそう言うウォーレン。愉快そうだが全然愉快じゃない。

「や、夜美………これって………」
「ん?これは………!!!」
「ん?どうしたの?」

ピタっと固まった星と夜美。

「………何してるんだ?」

俺は不思議に思ったので2人の様子を確認しに行く。

「えっ…………」

星達の視線はその下にあった地面の窪みだった。そしてその窪みの中にはカサカサと動く茶色い巨大な虫が………

『………マスター、逃げることを提案します』
「待て、落ち着け。冷静になれ零治………今慌てて逃げたら奴等を刺激し襲ってくるかもしれない………ここは冷静にゆっくりと忍び足で………」

そう呟いているとガシッと両腕を掴まれた。

「星?夜美?何してるんだ?」
「あ、足がすくんで………」
「う、動けないのだ………」

茶色い虫を前にして動けなくなるとは………

「しっかりしろ2人共………!!」
「で、でも………」

星が涙まじりの震えた声で弱々しく呟く。
夜美も涙目でしっかりと俺の服を掴んで離さない。

「ら、ラグナル何か良い案を………」
『ブラックサレナで転移しましょう、ジャンプするまで数秒硬直しますが大丈夫でしょう』
「………その言い方フラグじゃね?」
『………すいません、言ってから気がつきました』

そしてその回収もどうやら早いようだ。

ガサガサ…

「「ひぃ!?」」

近くの茂みから音がし、怯えながらそっちに注目する。

「………?」

茂みから顔を見せたのは大きなコオロギの様な顔をした生き物だった。

「レレレレレ、レイ……!!」
「夜美落ち着け、叫べばもっと集まってくるかもしれない………」

訂正。コオロギには似ているがこの状況下でそんな都合の良い事なんてあるわけが無い。

(落ち着け俺………落ち着け………!!)

くっついている2人を抱き寄せ自身を落ち着かせる。
こいつらのスピードは速い。ブラックサレナではない状態の転移では転移して逃げてもすぐに追いつかれるかもしれない。

『マスター、こいつら魔力を辿って私達に気がついたみたいです。ですが大きさの違いか私達にはまだ気がついていないみたいです………』
「だったらなるべく音を立てずにずらかるぞ………」

小さな声で星と夜美に呟き、恐る恐る後ずさる。
大きな虫はやはりキョロキョロしては何かを確認している。

「よし、このまま………」


パキッ!


「あっ………」

うっかりしていた。星と夜美を静かに引っ張っていくのと、大きな虫の動きを警戒するのに地面の様子をおろそかにしてしまった。
俺の足元には折れて曲がった枝があった。

「だけどこれくらいの枝の音なら………」

そう、小さい筈だ。風で揺れる葉の音もあったし、気づかれるわけが………

「………」

だが、そんな思いも虚しく、目と目がしっかり合ってしまった。

「ラグナル!!!」
『アーベントセットアップ!!』

俺は急いでアーベントを展開。
正直、まだ使い慣れていないが、それでも速さは他のフォームと比べても段違いに速い。

「cdヴぉいvsvdんdvsjdvんfvjど!!!」
「「ひぃ!?」」

何の鳴き声かは分からない雄叫びを上げる虫。
その声に更に2人は委縮してしまった。

「鳴き声なんて初めて聞いたぜ………2人とも、しっかりと俺にしがみつけ」

そう呟き、星と夜美は素直に従った。

「2人とも一気に加速するぞ!!」

凄い勢いで頷く2人を確認した後、俺は直ぐにその場から飛び上がり、一気に加速する。

「零治達どこ行ったんだ?」
「念話で声を掛けてみるわ」
「何か怪しいなぁ………」

『マスター、ウォーレン達が!!』
「ウォーレン!!!」

「ん!?」

上空からの声にウォーレンが居たので、大声で声を上げた。

「あれってレイ………?ってずるい!!あんなにしっかり抱き付いて!!!」
「でもあの様子何かおかしい様な………」

と呟いた後、茶色に空を染める虫の大群が零治達の後を追う。

「「「………」」」

その異常な光景に思わず固まってしまった3人。

「あれって………」
「ええ、あれでしょう………」
「あれだね………」

未だに信じられないのか、その場で立ち尽くしたままになってしまう。

「………って!!零治達が!!」
「あ、ああ!!急いで追いかけるぞ!!」
「3人とも待ってて!!」

やっと我に返ったシャイデの声に反応し、3人は急いで零治達の後を追った………















「へっくし!!」

結果的に大きな虫の大群を撒く事は出来た。

「ううっ、暖かい………」
「夜美、ホットコーヒー飲む?」
「ありがとうシャイデ、頂く………」

たき火の近くで固まって団を取る俺達。
やはり奴等のスピードは速く、アーベントでさえも追いつかれるのも時間の問題となっていた。攻撃しようにも星と夜美が抱き付いているので出来ない。フルドライブすれば逃げ切れるかもしれないが制御できる自信が無い。

「くそ、一か八かだ………!!」

フルドライブを発動しようと思ったその時、下に綺麗な湖が見えた。

「そうだ!!」

俺は急降下し、一気に湖へと突っ込んだ。
流石に水の中までは追って来れないみたいで、奴等は渋々元の場所へと帰って行った。

「でも本当に助かりました………」
「我等が足手纏いになってしまい本当に済まなかった」
「良いって。正直俺も1人だったらどうなっていたか分からないし………」

やはりあの虫の存在感は尋常じゃ無かった。小さい大きさなら嫌悪感を抱いても、さっさと駆除できたが、あの大きさになるともう身体が言う事を効かなくなる。

「まあ無事で本当に良かったよ」
「本当よ………一時はどうなる事かと思ったわ」
「………良いなぁ2人共」

ウォーレンとシャイデの言葉はともかく、ライはどこが羨ましいと思ったんだ?

「………まあちょうど見晴らしの良い湖に着いたんだし、ここでお昼にしましょうか」
「そうだな、丁度良い時間だし」
「そう言えば弁当は誰が持ってきたんだ?みんなデバイスだけで荷物なんて持ってないけど………」

俺も含め、動きやすい恰好にと軽装で来た俺達。
6人分の料理となると結構な荷物になるのだろうが、誰も持っていなかった。

「お前今更気が付いたのかよ………」
「うっ………で、どうなんだシャイデ?」
「そう言えば零治と夜美とライにはまだ見せた事が無かったわね。実はウォーレンの仕事の依頼人に色んな道具を開発してる人が居て、その人がサンプルをくれたのよ。………で、これがそれ」

そう言って見せてきたのは手のひらで掴むくらいの大きさのカプセルだった。

「何だよこれ?」
「ここのスイッチを押して、投げると………」

そう説明しながら頭のスイッチを押して地面に投げるシャイデ。
すると煙と共にいきなり3段の重箱とその横にサンドイッチの入った弁当が現れた。

「凄い!!!!」
「これは便利な………!!」

ライと夜美は心底驚いているが、どうも俺は腑に落ちない。何処かで見た覚えのあるアイテム何だけど………

「忘れたな………」
「何を忘れたんですか?」
「ん?まあ些細な事だろうしいいか」

星に聞かれ、俺は思い出す事を諦めた。
言った通り、どうせ些細な事だろう。

「星と夜美は食べれる?」
「大丈夫です」
「我もだ」
「零治は………聞かなくてもいいか」
「おい」

そんなツッコミに軽い笑いが生まれる中、皆に箸が行きわたる。

「うわぁ………流石星、美味そうだ」
「えへへ………ありがとうございます」

ウォーレンに褒められ本当に嬉しそうだ。
弁当は一段目におにぎりと稲荷ずし。二段目に野菜や煮物を中心としたおかず。三段目にから揚げや、卵焼き、ウィンナーなどのメインのおかずになっていた。

「ちょっとウォーレン、私も作ったんだけど?」
「分かってるよシャイデ、そんな怒るなよ………どうせ卵焼きとか簡単なものだろ………?」
「何か言った………?」
「この卵焼き絶品だな!!!」

余計な事を言わなきゃいいのに………

「全く、学ばんなぁ………」
「レイには言われたくないだろうな」

と鋭く睨まれ、夜美にツッコまれた。
……………何か失言しただろうか?















「よし、これくらいで良いだろ」

すっかりと日も落ちてきて夕焼けに森の木々が赤くなっている。

「疲れたぁ………」

ライの言う通り、昼食の後も、探索は続き、あの大きな虫事件ほどの事件は無かったが、相変わらず大きさの変わった虫や動物達が俺達を出迎えてくれた。

「ですけど楽しかったです。………あの虫に遭遇した事以外は」

星の言う通り、結構面白い世界ではあった。俺としてはリスほどの大きさのたぬきを見たとき、思わずポケットに入れて持ち帰ろうと思ったくらいだ。
………決してはやてに見せて、仲間とか言うつもりは無い。

「まあ大変だったが、中々興味深かったな。これは海の生態系もまた違っているのはないか?」
「流石に海は無理よ夜美………だけど小さいクジラや巨大イルカとか考えると見てみたいわね………」
「まあそれはまた依頼があったらかな………」

そう言ってデータを整理していた手を止めるウォーレン。

「よし!後は帰って整理するから取り敢えず帰るか」

そんな呼びかけに答え帰路に着く俺達。

「ウォーレン」

俺は一番後ろで歩くウォーレンに近づき、話しかけた。

「どうした零治?」
「………」

そう問われ、何故か言おうとした言葉が飛んでしまった。

「何だよ?」
「いや………言おうとしたこと忘れちまって………」
「は?変な奴だな………」

確かにこれじゃあ変な奴だ。

「まあいい。零治、お前も楽しかったか?」
「ああ。こういうの良いな」
「そうだよな、まだまだ家族としてはぎこちなさはあるけど、こんな感じで一緒にいればいずれはちゃんとした家族になっていくよな?」

………やはり少し不安な部分もあったのか、少々弱気な質問をしてきたウォーレン。
だけど答えは決まってる。

「大丈夫だ、いずれもっとちゃんとした家族になれるさ。親父」

そう言って俺は先を行く星達の元へ向かう。

「親父……………あの野郎!!」

後ろのウォーレンの顔は見れなかったが、………まあ悪い気はしないだろう。

「また来よう………みんなで」
『はい………』

小さく呟いた声にラグナルが反応してくれたのだった………
















「そう言えばあのカプセルくれたのってどんな人?」
「俺と同じ様な人で多くの娘を抱えている科学者なんだよ。歳も近くて直ぐに意気投合しちまった!!」
「へえ………私達も会ってみたいわ」
「その内紹介するよ。イーグレイも会ってみたいって言ってたしな」
 
 

 
後書き
まあ以前の有栖家とそんなに変わりませんが、零治がちょっとはっちゃけた感じになりましたかね?

書いててエローシュに近いかなって思ったのは秘密です……… 
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