極短編集
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短編50「英雄忌憚」
「お前が幕府の密偵か」
この国の影の領主は、捕まえた密偵に言った。
「冥土への土産に、面白い話を聞かせてやろう。と、その前に……ところで、そなたは団子は好きか?」
影の領主はにこやかに言った。
「そうかそうか、ではご馳走しよう!」
団子が用意された。
「我が国の名物でな。おっと茶を忘れておったな!」
しばらくして茶が用意された。
「さてさて、話をしてやろうかの……」
◇◇◇
ある所に娘がいた。この娘、まあ老けた娘で、村では誰にも相手にされなかった。ある日、娘は川で行水をしていた。そこに他の村から逃げて来た年配の男がやって来た。川に浮かぶ桃尻に興奮した男は、誰もいないのをいいことに、その場にて娘を手込めにした。
しかし、娘の方もしたたかだった。もしや、身ごもった事も考えていて男に優しく言った。
「どれ、あんたさ何も食べちょらんやろ?これでも食い?」
そういうと娘は、おやつにと持って来ていたのだろう、団子を出して男に食べさせた。男は一週間と食べていなかったので、むしゃぶりついて団子を平らげた。
しかし、その団子こそ、村の秘密である麻薬入りの団子であった。男はたちまち薬漬けになり、娘の言いなりになった。
その後、娘に赤子が出来た。まあ、お互いに年老いた風貌だったから、ジジイとババアが子どもを生んだ!と村中の笑いの種となった。
さて、生まれた赤子はどんどん大きくなっていった。しかしまあ、この子ども、体も大きいし力も強かった!そして、二人の子どもだから、ずる賢さもあった。そんなこんなで、ガキ大将になった。とにかく大人顔負けの腕っ節の強さで、あれよあれよという間に、村を我が物とした。その頃には、薬漬けの父に続き、母にも薬を盛り薬漬けにすると、この辺りの一帯の村を手中におさめた。そはいっても、この辺りの貧乏な村を落とした所で満足はいかなかった。
そんな時、大金の話を聞いた。しこたま金銀財宝を溜め込んでいる奴らがいて、島に住んでいるのだという。それを聞いた子どもは、仲間に入れてもらおうと島を目指して村を出た。
「その者!荷を置け」
村を出てすぐに、山賊が刀を振って襲ってきた。子どもは片手に太い枝で立ち向かう。子どもは太い枝で刀を受け止めると、えいや!と振り払い、山賊をのしてしまった。そして、薬入りの団子を食わした。山賊はすぐに薬漬けになった。
しばらく行くと、立合いで生計を立てている落ち武者がいた。
「その方!ワシと勝負せい!!」
落ち武者は、見物人から掛け金を集めると槍を構え、子どもの言い分も聞かずに、立合いを始めた。
ゴン!
勝負は一瞬だった。子どもの太い枝が落ち武者の頭を打った。勝った子どもは、掛け金の全てをもらったあと、落ち武者にも打ち身薬と称して、薬を飲ませた。こうして、子どもの手下は二人になった。
海が近づいてきた。その時、矢が飛んできた。
コン!
と、子どもは太い枝で、その矢を受けた。子どもは手下に指示をした。囲んで捕まえる事にしたのだ。弓を使ったのは狩人だった。間違えていってしまった!と、言っていたが、子どもは、ちょうどよい!と、薬を盛り手下に加えた。
さてさて、一向は海に着いた。あたりの村で島の事を聞いた。
「なんでも、金銀財宝をしこたま溜め込んでいる奴らがいる島があるそうだが?」
「ああ、鬼ヶ島のことか!鬼のようなやつ等の島さ。お前、何で聞く?」
ここで怪しまれても困ると思い、子どもは言った。
「いや、鬼の成敗にいくのさ!」
すると村民は大笑いした。
「こいつはいい!本当にそうなったらいいが、奴らにたてつこうものなら命はないさ。大方、お主はどこかの商人のお坊ちゃんだろ?護衛を三人も連れて、諸国漫遊か!?」
よし!と子どもは思った。これで少しは打ち解けた。
「ああ、だから舟を出して欲しい」
「お坊ちゃんは面白い事を言うな!そうかそうか、成敗でなしに商売か!?これは一本、取られたぞ」
村人の思い違いで、舟が出ることになった。そして島に着いたはいいが。
「仲間になりたいだと~!?ガキがなに言ってやがる!!」
と、門前払いとを食らった。子どもは策を練りつつ、ひとまず海岸の村に戻った。
「いや~!商談失敗失敗。そこで景気づけだ。売り物の団子を村民の皆さんにお安く売りましょう!!」
子どもは破格の値で、団子を売った。こうして村民らを薬漬けにした。
「さあて、全面戦争だ!」
そういうと真夜中、村民に舟を出させ島に向かった。島は要塞になっており、大きな門が邪魔をしていた。しかし、そこは身の軽い狩人!壁を登ったかと思うと、内側から開けてしまった。そしてまさか、殴りこむ者の事など考えてなかった島の奴らの守りは手薄で、連れてきた村民をなだれこませると、島の奴らを生け取りにした。もちろん、こちら側の村民も、かなり殺されはしたが、強い駒と代えるだけの話だった。
こうして、島の荒くれどもも薬漬けにし、奴らがしこたま溜め込んだ金銀財宝を手にしたのだった。
◇◇◇
「こうして、手下を増やしたワシは、この国の殿様を裏で操れるようになった。もちろん薬でな。さて、そろそろお主にも効いて来たようだな。薬入りの団子が……」
影の領主は手下を呼んだ。
「さて、そなたに選ばせてやろう。我が手下の三人、刀の犬飼、槍の猿渡、弓の雉間の三人と勝負して消えるか……薬漬けになり、次はこちらの密偵となり幕府に潜入するか?まあ、時間はある。よくよく考えよ」
密偵は恍惚とした表情になった。
「おう!そういえば、ワシの名前がまだだったな。ワシの名前はなあ……
桃太郎じゃよ」
おしまい
後書き
こうしてその後、幕府への二重の密偵となった者が、後世に伝えたもののが昔話となって伝わり、今でこそ有名な『桃太郎』の話になったのである……
嘘です。
おしまい
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