魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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空白期 中学編 18 「元気な赤と妖艶なピンク」
シュテル達が来たことで一段と賑やかになった。だがレヴィの元気は一向に失われることがなかったため、彼女の相手を主にしていた俺やディアーチェは疲労してしまう。慣れがあるとはいえ、彼女にペースを合わせるのは大変なのだ。
疲れが顔に出ていたらしく、なのは達が面倒を見るから休むように促してくれた。ディアーチェは渋ったのだが、彼女はレヴィだけでなくシュテルやはやての相手もしていた。また少し前に風邪を引いたこともあって、俺からも休むように促すとようやく折れてくれた。
「むむ……あやつらは迷惑を掛けておらぬだろうか」
軽い昼食と飲み物を注文し、それが来るのをテラスで待っているのだが、目の前にいるディアーチェの意識はウォータースライダーのほうへ向いている。
なぜウォータースライダーかというと、ここに来る前にレヴィが行きたいと騒いでいたからだ。全員付いて行ったのかは分からないが、おそらくレヴィの意思を尊重したに違いない。
まったく……休憩しに来たのにこれじゃ全く休憩になってないよな。まあ気持ちは分からなくもないんだけど。
「ディアーチェ」
「ん、何だ?」
「心配なのは分かるが、今は休むことに集中しろよ。合流したらまた俺達が面倒見るんだから」
「……それもそうだな」
どうやら納得してくれたようだ。
と思った直後、今度は急にそわそわし始めてしまった。普段は落ち着きのある性格だけにどうしたのかと思いもしたが、周囲を見てはこちらを見るといった行動から心境を理解する。
現在、俺達の周囲にはペアになっている男女が多い。雰囲気からして特別な関係またはそこを目指して時を重ねている途中なのだろう。
はたから見た場合、俺とディアーチェもそのように見えるわけで……シュテルやレヴィと違ってまともな感性をしている彼女が顔を赤くしてもじもじするのは当然だと言える。
「……お、遅いな」
「う、うむ……まあこれだけ人がいれば仕方あるまい」
「そうだな……」
普段よりも意識されているせいか妙に気まずい。
ディアーチェ、周囲からの目は気になるだろうが、どうにかもう少し普段どおりのお前に戻ってくれ。そうしないとこっちまで意識してしまうから。
といった俺も思いは口にしていないため伝わるはずもなく、沈黙の時間が流れ始める。
俺は置かれていたお冷をちびちびと飲み、ディアーチェは自分の髪の毛を弄りながら注文した品が来るのを待つ。お互いに顔色を窺ってしまっているため、時折視線が重なってしまい、その度に顔を背けてしまった。
この場にはやてやシュテルがいなくて本当に良かったと思う。あいつらが居たらほぼ間違いなくからかわれたことだろう。
じっとできずに待つこと数分。ようやく注文していたファストフードとドリングがやってきた。持ってきたお姉さんの笑みが何を意味していたのかは、あえて考えないようにしておく。
「……もう少しゆっくり食べたらどうなのだ。早食いは体に悪いぞ」
「……そっちは逆に全然食べてないじゃないか」
「女子がガツガツと食うべきではないだろう」
別にガツガツと食べる女子もそれはそれでありだと思うが……まあディアーチェにはディアーチェの考え方があるし、一般的に上品に食べたほうがいいのも事実だろう。
そもそも、彼女はアリサやすずかのようにお嬢様育ちなのだ。ファストフードもあまり食べたことはないだろう。小口で食べてしまうのも無理はない。
「まあそうだな。レヴィのように口元汚されたら……それはそれで見てみたいが」
「誰が見せるか。どうしてもそのような姿が見たいなら小鴉にでもやってもらえ」
「いや、あいつのを見ても珍しさがないし」
頼めば案外簡単にやってくれそうだし、前に何度か見たことがある。
最初口元を拭いてやったときは恥ずかしがっていたが、二度目からは決まり文句のように「いやぁ~出来の良い弟を持ててお姉ちゃんは幸せやな」とか言っていた。見る価値はこれといってない気がする。
「あらん? どこかで見た顔と思ったらショウくんじゃない」
聞き覚えのある声に意識を向けてみると、髪色より淡い色の水着を着たフローリアンの姿があった。分かっていたことではあるが、やはりスタイルの良い奴だ。またスクール水着よりも露出が多めなだけに色気も増しているように思える。
「キリエ、勝手に動かないで……ショショショショウさん!?」
フローリアンに1歩遅れて現れたのは、彼女の姉であるアミティエ先輩だ。場所がプールであるため、先輩も水着を着ているのだが……それ以上に熱があるのではないかと思うほど赤くなった顔が気になって仕方がない。
出会った頃からこんな感じだけど少しは慣れてくれないだろうか。毎度のように過剰に反応させるとこちらとしても対応に困るのだが……。
「こらこらお姉ちゃん、王さまも一緒に居るのよん。ショウくんばかり見ちゃうのは分かるけど、ちゃんと王さまのことも見てあげなきゃ王さまいじけちゃうわ」
「べ、別にショウさんばかり見てませんよ!? そそそれにディアーチェさんのことだって見てます!?」
「アミタよ……別にいじけてなどおらぬから落ち着け。キリエ、貴様も姉をからかうのはほどほどにせぬか」
俺よりも交流が深かっただけにディアーチェはフローリアン姉妹との接し方に慣れているようだ。俺だけで出会ったいたらどうなっていたか分からないだけに、ディアーチェと一緒に居て良かった。
「もう、王様は昔から真面目ね……ところで見た感じふたりだけみたいだけど、もしかしてデートかしらん?」
いじわるな笑みで放たれた言葉にディアーチェの顔色が一変する。
しまった……そういえばこの手の話題を振られる可能性があったんだ。一緒に居たほうが不味かったかもしれない。
「ななな……ディ、ディアーチェさんデートなんですか!?」
「ちち違う! 他の者も一緒に来ておる。わ、我らは先に昼食を取っているだけだ!」
「な、なるほど。キ、キリエ、憶測で適当なことを言うものではありません!」
ふたりの反応を見て満足したのか、フローリアンは笑いながら返事をすると空いていた席に腰を下ろしてしまった。それを見たふたりは再び何か言いそうになる。
しかし、俺やディアーチェからすれば別の場所に行かせようとすると再び疑われることになり、先輩が気を利かせようとしても似たような展開になりかねない。故に俺達は4人で食事を取ることになってしまった。
「ショウくんの美味しそうね。一口ちょうだい」
「いや、自分で頼めよ」
「ケチ。いいじゃない一口くらい」
ケチで結構だよ……あぁもう、近づいてくるなよ。お前、今の自分の格好分かってるのか。いや分かってるよな。お前は分かっててやる奴だもんな。
こういう奴には、経験上あえて抵抗せずに要求に従うと大人しくなる可能性が高いのだが……ディアーチェと先輩の目があるわけで。絶対このふたりはそういうことは許さない派だよな。
「ね、一口だけ?」
「キ、キリエ! わ、私の目が黒いうちはふ、不純異性交遊は認めませんよ!」
「お姉ちゃんは真面目というか冗談が分からない人よね。それに基本元気ハツラツな人だし、だから学校で風紀お姉ちゃん《あみたん》とか呼ばれるのよ」
「人をマスコットキャラみたいに言わないでください!?」
先輩って……フローリアン相手には何でもハキハキとしゃべるんだな。まあ妹だから不思議なことじゃないんだけど。
「キリエ、そんなに食べたいのならば我のをくれてやる」
「だから私のショウくんには手を出すな、ってことかしらん?」
「だ、誰がそのようなことを言った! べべ別に我はそいつのことなど何とも思っておらぬわ。どれくらいかと言うとだな……あ、赤の他人レベルだ!」
あ、赤の他人……いやまあ、ディアーチェにはディアーチェの好みがあるだろうし、一緒に暮らせてるわけだから異性として思われないのも仕方がないように思える。
けど……うん、この何とも言えない気持ちはなんだろう。親しくしていると思っていた異性から言われたのが初めてだからか、妙に心にダメージが……。
「王さま、ショウくんとはもう何年もの付き合いなんでしょ? さすがに赤の他人はひどいんじゃないかしら。ショウくんだって年頃の男の子なんだから結構傷ついたと思うわよ」
「え、あ、いや……べ別にショウのことが嫌いとかそういうわけではなくてだな。ショウには手間の掛かる奴らの面倒を見てもらっておるし、愚痴も聞いてもらっているから感謝しておるわけで……!?」
うん、お前の伝えたい事は分かってるから落ち着け。これ以上の発言は、お互いの首を絞めていくだけだぞ。
「何かしら……王さまの発言とか聞いていると、恋人というよりは新婚さんに思えてくるわね」
「だ、誰が夫婦だ! そそそのような馬鹿な発言ばかりするでない。そもそも、我々はまだ中学生ぞ。結婚できる年ではないわ!」
「ふふん、なら結婚できる年になったら?」
「するわけなかろう!」
「お、おふたりともそこまでです! 周りのお客さんの迷惑になりますから落ち着いてください!」
先輩の必死の制止によって、どうにか口論にも近い会話は終わりを迎えた。フローリアンは満足げな笑みを浮かべている。一方ディアーチェは、湯気が出そうなほど顔を真っ赤に染めて俯いている。まああれだけ人前で騒げば無理もない。
ディアーチェを見ていると、フローリアンには羞恥心がないように思えてくる。今も苦笑いの店員さんに何事もなかったように注文しているし。こいつ、もしかするとはやて以上の大物かもしれない。
「いや~みんなでおしゃべりすると楽しいわね」
「楽しいのはお前だけだろ」
「そうかしら? 意外とこういうのがあとで思い出として残ったりするものよん」
それはインパクトの問題だろ。で、場を掻き回した奴ほど覚えてないっていう……。
「キ……キリエは、ずいぶんとショウさんと親しいようですね」
「あらお姉ちゃん、やきもちかしら?」
「ち、違います!」
「お姉ちゃん、大声出すと周りの人に迷惑よ」
「あなたのせいではないですか!」
小声で怒鳴るなんて先輩も器用な真似ができる人だな。フローリアンみたいな妹を持っていたら自然と磨かれそうな技術なんだろうけど。
「別に親しくはないですよ」
「またまた~そんな連れないこと言って。この前デートしたじゃない」
「デ、デート!? キリエ、そのような話を私は聞いていませんよ!」
「あらん? 言ってなかったかしら。この水着もそのときに買ったんだけど」
おいフローリアン、水着はフェイトと一緒に買っただろ。話にフェイトの存在を出してから話せよ。今の言い方だと確実に先輩誤解するだろうが。
「な……ま、まさかすでにふたりがそのような仲になっていたなんて」
「そうよ、下の子はいつの間にか成長するものなの。まあ途中からハラオウンさんと一緒になって、水着は彼女と買ったんだけどね。正直に言えば、デートなんて呼べるものじゃなかったんだけど」
「そうなんですか?」
「そうよ。私がお姉ちゃんが悲しむようなことするわけないじゃない」
いやいや。今日だけでもずいぶんと先輩のことからかってただろ。どうしてそんなことが言え……先輩、フローリアンに抱きついてる。すっかり騙されちゃってるよ。
「お姉ちゃん、あんまり強く抱きつかれるとポロリがあるかもよ」
「え……そ、そうでした。今は水着を着ているんでした。ショ、ショウさんあまり見ないでください!?」
「今更何言ってるんだか。というか、その水着ってどう考えても見せるようの水着じゃないの」
「そ、それはキリエが学校外でスクール水着はありえないと言ったからじゃないですか。し、しかもこれを選んだのもキリエです!」
「でも~それを着ることを決めたのはお姉ちゃんよ。全部私のせいにされるのは困るわ」
「フローリアン、あんまりいじめてやるなよ」
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