ワールド・エゴ 〜世界を創りし者〜
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parallel world6-『廻り出す歯車』-
ルークは、山の頂上で眼前に広がる星空を見上げた。
一度眼を閉じ、再び開く。
眼前には、ビルの立ち並ぶ都会の街並みが一望できた。
再び眼を閉じる。
眼を開く。
眼に映るのは一面の銀世界。雪が降り、冷たい風が肌を撫でた。
閉じる。
開く。
今度は熱気の漂う火山の上空。
閉。
開。
空港らしき光景。
閉
開
海が一面に広がっている。
一つ溜息を吐く。
随分と遠い所まで来た。
子供の頃は、まさか自らがここまでの力を得るとは思っていなかった。
ずっと、村のみんなと、家族と、妹と、幸せに暮らして生涯を終えられると思っていた。
家族が……仲間が、みんな死んでしまうなんて、更には、自分が復讐に囚われ、人間に明確な殺意を抱くなんて、予想もしなかった。
母を失い、父を失い、妹を失い、仲間を失い__
居場所を失い__
ゆっくりと手を伸ばす。
遥か彼方で、流星が見えた。
手を握る。
流星は壊れた。
一歩踏み出す。
気付けばもう月に居た。
酸素が無いにも関わらず、平然としている。
遂に自分は、生物ですらなくなってしまったのかと、少し嘆く。
ルークは考える。
自分は何者なのだろうか。
何の為に産まれてきたのか。
こんな悲しい生を送るならば__
__いっそ、産まれて来なければ……
ここでいつも、思考が止まる。
自らの中に刻み込まれた使命が、思考を許さない。
ルークは絶望する。
ルークは嘆く。
助けてくれ。
誰か。
こんな呪われた生に意味など無い。
ああ。
嫌だ。
幸せに生きたかった。
幸せに死にたかった。
普通の生を授かり、普通の人生を送り、普通の幸せを感じ、普通の死を迎える。
何よりもルークが憧れた『普通』は、今はもう遠い。
一粒の涙が落ちる。
《1番目》は、自らの生を嘆いた。
《2番目》は、自らの無力を恨んだ。
《3番目》は、終わらない道を歩き続けた。
《4番目》は、世界の闇に絶望した。
《5番目》は、生命の生死を乾いた眼で見続けた。
《6番目》は、仲間達の不幸に悩んだ。
《7番目》は、別れを心底嫌った。
《8番目》は、過ぎ去った時間を惜しんだ。
《9番目》は、続く永遠に苦悩した。
《10番目》は、何も創り出せない自らを責めた。
《11番目》は、滅びゆく形ある物に、何一つ干渉出来なかった。
__《12番目》は、自らの罪の重さを呪った。
何度繰り返しても、ルークが幸せに辿り着く事は無かった。
「がぁ……あ"あ"あ"ぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁ‼︎」
頭を掻き毟り、強引に右腕を振るう。
月の大地が抉れ、その先の幾つかの星が消し飛んだ。
叫ぶ。
それに伴うように、周囲が破壊に満ち溢れる。
この手が誰かに届く事は無い。
ならば……ならばせめて、反逆しよう。
【主世界】の決定なんて知った事では無い。
何も出来ない自分を変えるのだ。
世界を消させたりしない。
《妹》の愛したこの世界を、終わらせはしない。
もう、《依り代》の完成は近い。
整えなくては。
《彼ら》が《依り代》に対抗し得る力を得る為の準備を。
「……随分、苦しそうだね。ルーク」
「……ああ、《主》か。久々だね」
気が付けば、目の前に一人の《神》が佇んでいる。
「手伝ってくれてありがとう。感謝しているよ」
「礼を言うほどの事では無いよ。結果的には自分の為なんだから」
《主》は屈託の無い笑顔で笑い、ルークの隣に腰掛けた。
腰掛けた《主》は、ルークにも座るよう促すと、一つ、ルークに問い掛けた。
「……ルーク、君は、強い力を持ってしまった事を、後悔しているのかい?」
「--」
「僕も時折思う。強すぎる力を持ってしまった故に、他者との繋がりが分からなくなるんだ」
「--」
「孤独が、酷く怖くなる。独りぼっちが、哀しくなる。」
「--」
「君は__どうだい?【主世界】に選ばれ、力を得た自分が、憎いかい?」
《主》は問い掛けた。ルークは黙り込み、唇を噛むと、やっと答えた。
「----ああ、憎いよ」
「……そうか」
それが分かったところで、《主》は何もしてやれない。
《主》とて、【主世界】には逆らえない。殺してやる事すら出来ない。
それ程までに、ルークの得た力は強大過ぎるのだ。
《主》は、苦しみから解放される事の無い親友を見つめ、憐れみ、そして同情した。
意味の無い事だと分かっていても、そうせずには居られなかった。
「……そろそろ、時間だ」
ルークが不意に立ち上がる。
もう、《主》の親友である彼の役目は終わった。
始まるのだ。
戦争が。
「……《主》」
「……なんだい?」
「--世界を、任せた」
「--任された。じゃあ、少しだけお別れだ」
「ああ、お別れだ。ありがとう」
「こちらこそ」
簡潔に、但し、意思を伝えきったルークは、そのまま虚空へと消えた。
さあ、ここからが忙しくなる。
状況は一気に動く。こちらも行動しなくてはならない。
「……必ず、世界は救ってみせよう」
純白の少年神は、何もなくなった虚空に、それを誓った。
世界転生まで、あと58時間。
《滅びの依り代》の完成まで、あと56時間。
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