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転生とらぶる

作者:青竹
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番外編040話 if 真・恋姫無双編 10話

 洛陽にて圧政を行っており、民を苦しめている董卓の討伐を促す袁紹の檄文。これが来た全ての原因は霊帝の死だった。
 霊帝が死んだゴタゴタにより何進が宦官に殺され、その宦官を袁紹が殺したのだ。
 そこまではまだ良かったのだろう。だが、最終的に洛陽を支配下に収めたのは董卓。
 どのような流れでそうなったのかはアクセルには分からなかったが、その結果袁紹は自分の代わりに洛陽をその手に収めた董卓を許す事が出来ず、名門故の人脈の広さやその権力を使って反董卓連合軍を作り上げようとしていた。
 その為の檄文が雪蓮の下に届いたのだ。

「にしても……董卓が圧政? 何かの間違いだと思うけどな」
「うむ。儂もそう思う。どう考えてもあの者が圧政を行うとは思えぬ」

 黄巾党討伐の時、実際に董卓と面識を持っているアクセルと祭がそれぞれ呟く。
 2人が見た董卓という人物は見るからに優しそうで儚げであり、とてもではないが袁紹の檄文にあったような圧政を行うような人物には思えなかった。
 勿論それが見せかけだった可能性もある。
 事実、アクセルが知っている拙い三國志の知識だと、董卓という人物は袁紹の檄文にあったような人物だったのだから。
 だが、それでも……とても演技であのように装っているだけだとは思えなかったのだ。
 それは2人だけではなく、直接董卓から出撃の許可を貰えるように交渉した冥琳もまた同様であり、難しい顔をして頷く。

「だろうな。私としても、董卓がそのような真似をするとは思えん。……恐らく、袁紹の計略だろう。だが厄介なのは、反董卓連合軍を結成しようとしているのが袁紹だという事だ。袁家の財力や人脈を使えば、白を黒とするのも難しくはない」
「じゃあ、反董卓連合に参加するの?」

 嫌そうな表情を浮かべる蓮華に、他の者達も概ね同意する。
 何しろ袁紹という事は袁家であり、それは即ち袁術と同じ一族であるという事を意味している。
 ただでさえ長年袁術に苦しめられてきたのを反乱を起こしてどうにかしたばかりだというのに、その袁術の一族である袁紹が主導している反董卓連合軍に与するのか……と言われれば、誰もそんな真似はしたくない。

「袁術の件で私達は間違いなく袁紹に恨まれているだろう。そうなると、謀殺されるか……そこまではいかなくても、捨て駒にされるのは間違いないだろうな」

 表情一つ変えずにそう告げる冥琳の言葉に、その場にいた者達は一斉に溜息を吐く。
 有り得ない……どころではなく、寧ろかなりの確率で有り得るだろう選択だったからだ。

「でも、ここで反董卓連合軍に参加しないと一気に足下を見られるわよ? 下手をすれば孫呉が諸侯の食い物にされるかもしれない。それだけは絶対に許せないわね」

 折角取り戻した母の形見でもあるこの地にちょっかいを出されてたまるものか。
 そんな思いで口にした雪蓮の言葉だったが、それを聞いていたアクセルは、ふと思いつく。

「なぁ、寧ろ董卓の方に付いた方が良くないか?」

 それは、本来であれば無茶としか言えない選択。
 だがそれ故にこそ、得られる利益もまた常識外れに大きいものがある。
 ……勿論反董卓連合軍を破る事が出来れば、だが。

「それは……さすがに無理なんじゃないの? 袁紹が号令を掛けている以上、恐らく殆どの諸侯がそれに同道する筈よ?」

 そう告げたのは、蓮華。
 合流した当初はアクセルに対して懐疑的ではあったが、黄巾党本陣を攻めた時の件で見直したのだろう。今では態度も柔らかくなっている。
 もっとも、アクセルと雪蓮がくっついた事も関係しているのだろうが。
 ただし、蓮華とは裏腹に思春の方は未だにアクセルに対して頑ななまま――特に雪蓮や冥琳との関係が知られるとより強硬な態度になった――なのだが。

「は、はい。その……さすがに戦力差を考えると難しいかと」

 亞莎もまた同様に頷き、他の者達もそれに同意するように頷く。
 だが、アクセルは全く問題ないと口を開く。

「取りあえず、俺の力を全開で使ってもいいのなら恐らくどうとでも出来る筈だ。それも、上手くいけば殆どこっちに被害がないままにな。だから、反董卓連合軍に対する戦力は全く心配する必要はない。考えるのはどっちについた方が得か、って事だけだな」
「……もしも本当にその辺を心配しなくてもいいのなら、確かに董卓達に加勢した方が圧倒的に利が大きいだろう。呉の勢力に関しても、一足跳びに伸びる事になる。何より、現状では脅威でしかない曹操と袁紹の力を削れるのは大きい」

 冥琳の言葉に、穏、亞莎の2人の軍師もまた同様に頷く。
 袁紹は本人の能力はともかく、袁家自体の力は決して侮っていいものではない。特にその財力と抱えている兵士の数は諸侯の中でも随一だろう。
 曹操は本人の能力が非常に高く、同時に次々と新たな施策を行っては自らの領地を富ませている。アクセルが盗賊扱いした出来事があの場にいた諸侯の口から広まっており、それが足を引っ張ってはいるが、それでも徐々に人気を取り戻しつつある。
 人材に関しても色々と性格に問題のある者が多いが、その分能力に関しては高い者も多い。
 率いている兵士にしても高い練度を誇っており、決して侮れる存在では無かった。
 この2つの勢力が、現在の諸侯の中では頭1つ飛び抜けているだろう。
 ……本来であればここに袁術も入っていたのだが、今は既に孫呉に取って代わられている。
 更に袁術の行ってきた強引な税の取り立てを始めとして領地が荒れている関係もあり、純粋な国力という意味では前2つに及ばず、三番手くらいになっているのが今の孫呉だ。
 それだけに、自分達の上にいる袁紹と曹操の勢力の力を弱める事が出来るとなれば、冥琳にとっては願ってもないことだった。

「……だが、それも本当にアクセルの言葉が正しければ、だ。いざ戦ってみて実は無理でしたとなっては冗談では済まされんからな」

 そう告げる冥琳の目は怜悧な光を宿しており、毎夜寝台の中で見せる女の顔とは全く違う。

「その辺は安心してくれ、としか言えないな。実際に俺の実績を見て判断してくれ」

 アクセルの言葉を聞き、その場にいる者達は黄巾党本陣が燃えている光景を思い出す。
 内部を混乱させる炎ではなく、内部から全てを焼き滅ぼしかねなかった程の炎を。

「そうだな。確かにあれ程の力があるのなら……それに、この状況を上手く使えば……」

 冥琳の脳裏では幾つもの策を考えて検討、欠点を見つけては却下、あるいは他の策との連動方法が過ぎっていく。
 その中で今回最も有効だと判断したのは流言飛語の類だった。
 嫉妬に駆られた袁紹が帝に反旗を翻し、逆賊とされた。商人や工作員の類を使って大陸全土に広めれば、反董卓連合軍に参加している諸侯の足下が揺れ、混乱するのは間違いない。
 あるいは反董卓連合軍が勝利すれば、歴史は勝者が作るかの如くその話題も消えていくだろう。だが……もし自分達が味方した董卓軍が勝った場合、袁紹に与した者達は逆賊という致命的なまでの汚名を被り、その者達を討つという大義名分を得る事も出来る。
 そこまで考えつつも、やはり最大の問題は自分達が勝てるかどうか。そこに掛かってくるのは間違いない。

「……アクセル、確かにお前の実績に関しては認めざるを得ない。だが、それでも私は敢えてお前に問う。本当に勝てるのか、と」
「心配性だな。俺が冥琳や雪蓮に嘘をつく訳がないだろ?」
「……それだと、儂等には嘘をつくということになると思うのじゃが」

 どこか呆れたように呟く祭に、冥琳と雪蓮、アクセル以外の者が頷き、部屋の中に笑いが漏れる。
 そうして、やがて雪蓮が決断を下す。

「そうね。色々と不安な箇所はあるけど、アクセルの実績を考えれば決して希望がないとは言えないわ。……それに、そもそも最初に話に上がったけど、袁紹が私達を快く迎え入れる筈がない。もしここで董卓がやられてしまえば、恐らく次の標的は私達よ」

 結局はそこに落ち着き、孫呉としては董卓軍に加勢するという流れとなっていく。

「そういう訳で、董卓軍と連絡を取りたいんだけど……袁紹があんな檄文を回している以上、恐らく洛陽には見張りとかがいるでしょうし。どうしたものかしら? それと、ないとは思うけど、一応あの檄文に書いている内容が嘘だってのも確認したいわね」

 そんな雪蓮の言葉に、皆の視線が思春、明命の2人へと向けられる。
 現在の孫呉で隠密行動を取るのに長けているのはこの2人と……

「それなら俺が連れて行こうか?」

 そう。影のゲートを使って転移という手段の使えるアクセルだった。

「……確かに黄巾党の本陣に入る際に使ったあの仙術であれば、洛陽の門周辺で見張っている者がいたとしても見つかる事はないかと」
「そうですね。……正直、あの感触は慣れないとちょっとびっくりしますが」

 思春と明命の言葉に、今度はアクセルへとその視線が集まり……結局そういう事になるのだった。





「へぇ……ここが洛陽なのね」
「雪蓮、あまりキョロキョロするな。人目を引くぞ」

 人通りの多さと、初めて来た洛陽という場所に物珍しそうに周囲を見回す雪蓮と、それに注意する冥琳。
 結局董卓との会談に関しては、アクセル、雪蓮、冥琳の3人が来る事となっていた。
 当然蓮華は反対したのだが、雪蓮から組織の長同士で話をしたいと押し切られてしまう。また、影のゲートを使えば一瞬で洛陽と建業を行き来出来るという理由もある。
 ……もっとも遠距離になればなる程に影のゲートの移動にはアクセルのSPを消費するのだが。
 結局蓮華に出来たのは、精々お目付役として冥琳を共に派遣するくらいだった。

「でも、こうしてみると随分と活気に溢れているわね。とても檄文にあったような圧政が行われているようには見えないわ」
「確かにな。……まぁ、袁紹は袁術の血縁だと考えれば納得出来るが」

 苦笑を浮かべつつ告げる冥琳の言葉に、アクセルも雪蓮も苦笑を浮かべて頷く。
 その後、一応という事で洛陽を適当に見て回ったのだが、民から聞かされたのは圧政どころか董卓に対する感謝の言葉のみだった。
 宦官が行っていた無茶苦茶な政治を、董卓が相国という地位に就いた事により改善されたという話を聞き、皆が喜びに満ちた表情を浮かべている。
 この光景を見て、圧政が行われているという者はまずいないだろう。

「……最後の憂いも無くなった。アクセル、董卓……いや、賈クの方がいいか。彼女の下へ向かってくれ」

 冥琳がそう告げたのは、やはり董卓軍を実質的に動かしているのが賈クだと理解しているからこそだろう。
 確かに董卓は人が良く、守ってやりたいと思わせる人物であり、多くに慕われる性格のように見えていた。だが、それ故に相国という地位で漢という国を切り盛り出来るかと言われれば、答えは否だった。
 2人共に会ってそれを理解しているからこそだろう。アクセルは特に迷う様子もなく頷き、影のゲートを作り出す。

「何と言うか、あまり慣れない感覚よね」
「確かに」

 雪蓮と冥琳のそんな言葉を聞きつつ、アクセルは影を通して賈クの居場所を探し……どこかの部屋で1人必死になって書類仕事をしている姿を発見する。
 そう判断した次の瞬間には、賈クが仕事をしている部屋にある影から3人の姿が現れていた。

「ああああああっ、もう! 何だってこんなに書類仕事が多いのよ。これじゃ月とゆっくりする暇も……」
「大変そうだな」

 苛立たしげに叫んでいる賈クへと、思わず声を掛けるアクセル。
 瞬間、ビクリと動きを止めて賈クは声のしてきた方へと視線を向ける。
 そこにいたの3つの人影。
 何故こんな所に人が!? そう思って声を上げようとした賈クだったが、その前にいつの間にか目の前にいたアクセルに口を押さえ込まれる。
 気の概念があっても、瞬動という技術については全く誰も知らないこの世界では、瞬間移動したようにしか思えなかった。

「ん! んんんんーっ!」
「落ち着け、俺だ。ほら、黄巾党の時に会っただろ」
「……んん?」

 アクセルの声に、視線を向ける賈ク。同時に、少し離れた場所にいる雪蓮や冥琳にしても同様に見覚えがある事に気が付いた。
 そのまま軽くアクセルの手を叩き、もう大丈夫だと示す。
 それでもう大丈夫だと判断したのだろう。アクセルがそっと手を離すと、賈クは溜息を吐いて侵入者3人へと視線を向ける。

「それで、何を思ってこんな馬鹿な真似をしたのかしら? いや、そもそもどうやってここに? 全く気が付かなかったんだけど」
「ま、仙術でちょっとな」
「せっ!?」

 何気なく告げたアクセルの言葉に息を呑む賈ク。
 だが、その口が何かを言う前に雪蓮が口を開く。

「まぁ、その辺の詳しい話は後にして。はい、これ。これが私達が強引にここに来た理由よ」

 そう告げて差し出したのは、袁紹の檄文。
 それに目を通していた賈クは、読み進める事に怒りで身体を震わせていく。

「な、何よこれ! 袁紹って馬鹿じゃないの!? ……馬鹿じゃないの!?」
「何故2回言う……いやまぁ、それに関してはこちらでも十分に議論した結果、袁術の血縁という事で結論づけられた」

 同じ軍師として、色々と思うところがあるのだろう。冥琳もまた溜息を吐きながらそう告げる。
 そんな冥琳の様子を見て毒気を抜かれたのだろう。やがて賈クは、どこか力の抜けた様子で口を開く。

「それで、どうしてこれを僕達に? まさかこの状況でこっちに味方するとか言わないわよね?」

 どこか挑発的な口調。
 賈クとしては黄巾党の一件で孫呉の実力を知っている以上、是が非でも仲間に引き込みたいのだろう。だがそれでもこのような態度をとるのは、やはりまだ檄文の内容にショックを受けていたからか。
 雪蓮はそんな賈クにニンマリとした笑みを浮かべて頷く。

「そうよ。孫呉は今回の件に関しては董卓軍に味方するつもりよ」

 そう告げるのだった。 
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