秋葉原総合警備
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都外のアニメフェス No.4
近藤千夏。田舎生まれで、遅く放送されたアニメに憧れ、声優を目指す。都会には適わず、遅れた知識にも関わらず、人一倍の努力で事務所の席を勝ち取る。しかし、事務所も小さかったせいか、ここでも努力の毎日。評価も高くなってきた頃に、些細な異変が近づく。生真面目、努力家、責任感のある性格。それが好き勝手に利用されているのではないかと。しばらくの研修が終わった後、驚く程に仕事がなだれ込んで来た。支えもあり、仕事をすることも夢であった。体に鞭打って仕事に打ち込む。だが、やる気だけでは乗り越えられなかった。取ったはずの休みがない。所々給料が入っていない。基準の時間を大きく超えている。働く知識がなかった千夏も、さすがに異変に気付いた。ある取材で事務所の実態を打ち明ける。その後、移った事務所での仕事途中だった。期待大のアニメでヒロインキャラの役に抜擢。居心地の良い事務所で、新しい気持ちで仕事をしようとした時だった。
「前の事務所の男に襲われて…喉を潰されました。」
「細かいネットニュースにすら、いいように片付けられたってことか。」
話題の渦中にいる人がわざわざこんなフェスに来るのは危ないと分かっているはず。しかし、それも先程の言葉から理由など簡単に分かった。
「まさか…千夏さん。わざと…?」
「ええ、そうですよ…。誘拐されて、道具なり強姦なり、なんでもされればいいんですよ…!私なんて!!…げほっ…うっ…。」
美咲が寄って、うずくまる千夏の背中を撫でる。先程の無理した大声が漏れていないか、辺りを見回す。
「陽一、…どうする?」
携帯取り出し、ある関係者に電話を掛けた。通話相手は実行委員長。
「フェスは中断した。車1台、バレないようによこしてくれ。」
『やはり、騒ぎが起きましたか…。こちらに、不祥事があったようですね。厳しく措置をいたします。』
電話を切った陽一の顔は何か寒気を感じさせるものであった。美咲も時々見た、キレた時の顔だった。高く響く靴の音が聞こえる。走っている様子だった。追っ手なら叩き潰すところだ。
「はぁ…はぁ、避難させました!」
誘拐側に寝返った警備員達から抜け出し、陽一を助けた青年警備員がひょこっと姿を現した。会場には人はいない。安全が確保されるまで、外へ待機させた。新人にしては手際よく、スムーズに避難が完了した。
「えっと、風間さんですよね?…僕にも聞かせてください。」
「話は長い。全部片付けてから話す。名前は?」
「安藤秀人(あんどうひでと)です。僕はどうすれば?」
誘拐犯は追ってくる、美咲も手は離せない。無謀ではあったが、仕方はない。
「お前、喧嘩出来るか?」
「…も、元ボクシング部です。」
「よし、来い。…美咲、千夏さん連れて先帰ってくれ。」
「警察はどうする?」
「事務所帰ってからでいい、行け。」
頷けば、身長はさほど変わらない千夏をおぶって、会場外へと目指した。激しい咳からか、千夏も振り払う気力が無かった。無論、信用などしていないだろう。さらに、容赦なく報酬に飢えた警備員3人が現れる。
有り難いことに、ライブの後片付けまで手伝っている美咲の父、並びにヤクザ集団。フェスで事件があったのは、ここにも伝わった。
「親父っさん!…見てください!」
「……なんじゃこりゃ!おう、急いで行くぞ!美咲が危ねぇ!」
「また美咲の娘さんから殴られますよ…?」
「テロリストだったらどうすんだ!行くぞ!」
高みの見物で、会場の様子を伺う男。フェスを混乱させている罪悪感など微塵も無く、ただ苛立つ様子。
「たった警備員二人ぐらい、ボコボコにすりゃいいんだ…役立たずが。」
片手の爪を噛みながら、もう片手で文字を入力し、送信する。
『犯人役はもういい、警備員役全員で千夏追え』
「なんで…こんなクズ助けるの…。」
「あたしも同じ女子だよ。汚いことされるのは、諦めついてても嫌だもん。」
重い様子一つせずに軽快に会場出口を目指す。迷いそうな分かれた通路も勘で進んでいく。
「あたし、ちょっと見てる。面白いなって思うよ。」
「今…どこまで進んでるか、見てないんだよね…。」
「えっとね、シンヤが仲間からも離されて、やけになって敵突っ込んでいくけど、ただ一人ミナがシンヤについて来た所。」
「次…どうなるか知ってるよ。」
千夏の声が、揺れながらではあるが、落ち着きを取り戻した。美咲も余裕で走り続けている。千夏から声優が変わったアニメの話が弾む。
「ほんとに?!…教えて教えて。」
「…実はね…。」
「よぉし、準備いいか。秀人。」
「おっさん共ぐらい、どうってことないっす。」
狭い通路に2対20の張り詰めた場面が置かれていた。勿論、相手は今回真っ当に警備をするはずだった警備員達。金が目的か、千夏の体が目的か。いずれにしても欲に操られた者達だった。
「容赦しねぇぞ!クズ警備!!」
陽一の突き刺す蹴りで先頭を倒してから、開戦した。相手は多少の体力しかない中年の集団。しかし、部が悪い。余裕とはいかない所、豪快に次を殴りつける。負けじと秀人も仕掛けた。
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