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秋葉原総合警備

作者:イトヒー
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都外のアニメフェス No.3

 このアニメフェスに何かがあると感づいたのは美咲だった。委員会の車で送られている時、短時間のネットサーフィンで怪しい画面を見つけた。とあるアニメが新生として扱われ、注目が集まっていた。これ自体は数ヶ月前から放送されているはず。詳しく調べてみると、ヒロインの声優が変わっているという。女性は楽しい顔一つせずに、ただ自分を追い込んでいるようだった。
(きっと…、もう声優なんて出来ないよ。)
 コーナーを転々と眺めるも、ぱっとしない。会場を歩き回る。話は送迎されている陽一達まで戻る。
「陽一、これ見て。」
 月日が経った記事だが、人気声優が喉を患い、放送が一時休止するというものだった。人気からか、コメントの数値は跳ね上がっている。
「これがどうした。」
「そのアニメ、放送再開してるんだけど…新しい声優陣が賛否分かれてさ。人気無くなってるんだよね。」
「フェスで展示されるってのか?…何の問題があるんだよ。」
「喉の病気になったこの声優さん、騒ぎの引き金になった人。フェスに来るらしいんだ。」
 ここは有力な情報だった。このような状況だった。事件が起こらないとも言い切れない。当人の名は近藤千夏。透き通った声が話題を呼び、多くのアニメに若いながらも携わった。またルックスも好評で、声優以外でも支持を集めていた。
「陽一、何か怪しかったら探してみて。」
「任せとけ。」
 今に至るフェス会場、二人の予想は的中した。

『捕まえろ』

 極秘のコメントが表示された途端、暗い表情の女性に背後から狂気の腕が伸びる。
「千夏ちゃん…来てもらおうか。」
「……っ?!」
 肩に手を置かれ、恐怖を感じながら振り向く。帽子や厚着で特徴を隠している男の姿。片手には小型のスタンガン。近藤千夏の横腹を目掛け、電気を帯びた金属の突起が近付く。
「イベントぶち壊してんじゃねぇよ!!」
 残り数センチの間一髪に、男の顔に陽一の蹴りがめり込んだ。背後の巨大なオブジェまでポールを次々と倒し吹き飛んだ。
「あ…貴方は…?」
「このイベントの警備員の者ですよ。一旦会場を出て、警備員待機室まで逃げてください。…早く!」
 大勢の来客が止まるなか、一人だけ走り去る。途中にも犯人の仲間が襲いかかった。
「逃がすか!……ぐぶっ!!」
 こちらには美咲の拳がめり込んだ。護衛に付き、手を引っ張って近藤千夏を連れて行った。
「…作戦バレてたのか…?」
「別に。呼ばれたからここの警備してるだけだ。」
 抵抗する気か、先程のスタンガンを取り出した。陽一を睨みつけている。
「こんな大勢いるのに、人質一人も取らないことは感心するよ。…何が目的だ。」
「言えるかバカが!それに…俺らだけじゃねーよ。」
 怪しい気配を感じ、千夏の元へ急ごうとするが、急な悲鳴と共に止められた。
「ほらどうだ!人質だぞ!…そっから動くなよ!」
「……腹立つ野郎だな…。」
 犯人の言うとおりに固まるが、決して焦りの表情はなかった。すると、計算したかのように警備員の男が一人、勇敢に犯人の背後を仕掛ける。人質の女性が離れた。
「陽一さん!今です!」
「てめぇ!…裏切…った…な…?」
 気づいた時には、目の前に豪快な飛び膝蹴りの膝があった。またしても顔にめり込み、男は気を失った。救出劇に歓声まであがり始めた。頼り無さそうな警備員の一人を巻き込んで正解だった。
「助かったぜ。これでお前は無罪だな。」
「…警備員全員が、近藤千夏を誘拐するグルなんて、聞いて寒気がしましたよ…。」
「踏み外さねぇで、立派だ。よし、ここの全員を避難させてくれ。」
 一旦ここで別行動をさせ、陽一は警備員室へ急いだ。同時に逞しくなった青年警備員の声で一斉に避難を始める。


「はぁ…はぁ…!これは一体…?!」
「近藤千夏さんだよね?…あなた誘拐される所だったの。」
 薄暗い会場の通路を駆けていく二人。これほどの規模の計画は予想外であったが、なんとか救出は出来た。
「ホント、可笑しなブームになっちゃったからさ、声優も大変でしょ?」
 すると、千夏は美咲の手を振り解き、走りを止めた。美咲も戸惑う。
「もう…誘拐されるなら、されてもいいです!」
「え…?ちょっと、千夏さん?」
「こんなことになったのも自分のせいなんです!!」
 再び手を引こうとするが、意味深な言葉に止まってしまう。追っ手が来ていないか焦るが、事情を聞いてみた。すると持病ときつい逃走のせいで、千夏は激しい咳が。
「…自分が、あんな混乱を招いたんです。」
「ネットで見た…。降板したんでしょ?」
「人気を落としたのも…自分の責任です。…声優辞めさせるなり、誘拐されるなり、もう何でもいい。」
 精神的な問題か、ゆっくりと話を聞くことにした。目に付かない所まで千夏を運ぶ。陽一も無事に追いついて来た。
「美咲!大丈夫か?!」
「こっちは大丈夫!陽一、こっち来て!」


「…私、声しかないんです。」 
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