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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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悪魔-メフィスト-

 
前書き
待っていた方々、長らくお待たせして申し訳ありませんでした!
このたびようやく復活です!

しかし、残念ながら僕は現在、就活をかねている身でもあるので、更新スピードは間違いなくダウン傾向にあることでしょう。
(そもそも文才無い僕の話など見るに耐えられない!と考えている人もいるかもですが)

何かおかしな点があれば直ちにご報告ください。できれば『誤字が多いです』の一言ではなく、どこがどう間違えているのか正確にorz

それでもどうか、できる限り最後までやりとおしていきたいです。

さて、今回は映画でも登場した彼らが、勢力に関係なく登場しますぞ。 

 
M78星雲光の国。宇宙警備隊本部。
ゼロと、彼の捜索のために地球でアストラと別行動を取り始めたレオの行方はこちら側から掴むことができずにいた。日に日に、心配を深めたのは特に弟子と息子の二人を持つセブンだった。
だがそんなある日…。
「レオからのウルトラサインが届いたぞ!」
ついにレオからの知らせが来たことが、ジャックの口から放たれた。その声を聴いた途端、セブンをはじめとした、待機中のウルトラ戦士が集まってきた。
ゼロのK76星からの脱走は、宇宙警備隊全部隊での問題として立ち上げられている。光の国の生命線でもある人工太陽を、同胞たちの命を無視して一度抜き取ろうとしたのだから、彼は未だ罪人としてのイメージを光の国に焼き付けたままだった。わざわざレオがハルケギニアに来訪してまでゼロに会いに向かったほどだから、無視したままでいる訳にもいかない。
届いたウルトラサインの内容は、ウルトラ戦士たちを驚かせる内容だった。
当初こそ問題を起こしてしまったゼロだったが、レオが監視と修行をした後、いたって彼は健全で模範的なウルトラ戦士らしく、侵略者と戦いその世界の人間を守ったちいうのだ。
「一体俺たちの知らない間に、ゼロの身に何があったと言うのだ?」
エースはその内容を知って疑問の声を上げた。
「わかりません。ですがレオの話が本当ならば…」
タロウは、この話が真実ならゼロへの対応について考え直す必要があると考える。
「レオ兄さんは嘘をつくような方ではないですよ。いえ、寧ろ…僕たちが互いに嘘をつく理由なんてないじゃないですか」
メビウスが横から口を挟んできた。罪を犯していたわけではないが、ゼロと同様一度はレオから厳しく指導された身。その後も時折彼とともに任務に当たることもあって、レオの人物像を把握しているつもりだ。
「メビウスの言う通りだ。レオのこの報告…信じてもいいだろう」
ゾフィーもレオからの報告を信じた。彼は特に兄弟たちへの信頼を熱く持っている宇宙警備隊隊長の言葉、兄弟たちのわずかに芽生えているもその一言で抑えられた。
「ですが、レオ兄さんからのサインの中に、気になる者がいた…とありました」
ふと、サインを直接受け取ったアストラはもう一つ新たな報告をしてきた。
「気になる者…?」
一体何のことだとタロウが尋ねる。
「我々の知らない…ウルトラマンがその世界に複数見つかった、と言う報告です。その中には、人を逆に不幸に陥れる存在もいたそうです。あの…『ベリアル』のように」
「なんだと!?」
思わずエースが声を荒げた。その人を不幸に陥れるウルトラマン、この場のウルトラ戦士たちは認知こそしていないが、間違いなくファウストのことだ。
「そいつは、星人が化けた何かだったわけでも、サロメ星人が設計したような模造品でもなかったのか?」
「はい。しかし、そんなウルトラマンがベリアル以外にいたなんて…」
セブンからの問いにアストラは頷き、かつて自分たちとウルトラ兄弟たちを地球とこの星諸共同士討ちしようとした、暗黒星雲の支配者と呼ばれたあの星人のことを思い出す。いまでもアストラの中には、その星人への怒りが募っていた。メビウスが地球を守っていた時期もそいつが後の兄弟の姿を利用し暴れたと聞いたときは、すぐにでも自分が倒しにかかりたいと言う衝動にも駆られた。
「そのウルトラ戦士の特徴はわかるか?」
ゾフィーが興奮しているアストラの心情を察して、落ち着きのある声で彼に問う。少し落ち着きを取り戻したアストラは、ウルトラ戦士特有の超能力を用いて、それによるモニターのようなものを出現させる。
体全体に走る黒いラインと、胸に埋め込まれたY字型のエナジーコア。シルバー・ブルー・レッド族のいずれにも属さない、見たこともない特徴を持つウルトラ戦士。映されたのは、シュウが変身するウルトラマン…ネクサスの姿だった。
「…このウルトラマンは、M78星雲の者でも、僕のかつての故郷獅子座L77星の者でもないです。ただ、彼がレオ兄さんとゼロと共に戦ってくれたと言う報告がありました」
「このウルトラマンは…!」
ネクサスの姿を見て、ゾフィーが反応を示した。
「ゾフィー兄さんは何か知っているのですか?」
「いや…かつて、キングさえも凌駕した恐ろしい悪魔から、光の国を救った伝説の超人に似た戦士がいたのを思い出したのだ」
「あのキングを!?」
ゾフィーの口から放たれた言葉に、メビウスは驚愕を露わにする。
ウルトラマンキング。このM78星雲のウルトラ戦士たちとは異なる星、キング星で暮らしている、ウルトラマンの老人。しかし老いているとはいえその力は、当の本人さえも恐ろしく思うほどのもの。生きた伝説の…ここにいるウルトラ兄弟たちよりもはるかな強さを秘めた存在である。そのキングを…さらに凌駕した悪魔がいた、これをまだ若いメビウスが驚くのも無理はなかった。
「伝説の超人…まさか!」
ゾフィーの言う伝説の超人という言動に、もしやとタロウが反応を示したが、直後にゾフィーから否定的な言葉が飛ぶ。
「いや、まだ確証はない。あくまで似ていると思っただけだ」
「しかし気…レオが報告した例の黒いウルトラ戦士が気になるな。我らにとっても無視することのできない脅威になるのは間違いない。ゼロに何事も無ければいいのだが…」
息子の身を案じ、セブンがそう言ったときだった。ウルトラ戦士たちの頭上に、オレンジ色に光る文字が突如描かれた。
「これは、ヒカリのウルトラサイン?」
『こち…ザ…ヒカリだ……怪…ザザ…場に異常…発生。救援を!……アアアアア!!!』
サインから、ウルトラマンヒカリの声が聞こえる。しかし電波状態の悪い場所からの通信なのか、うまく聞き取れない。しかし、『怪』『場』『異常、発生』『救援』。
これらの単語から彼のいる場所でただ事ではないことが起きているのは確かだ。
「ヒカリに何かがあったのでしょうか…!?」
特に兄弟たちの中でヒカリと共に戦ってきたメビウスに焦りが生じた。彼は元科学者で、ブルー族で始めてウルトラ兄弟に選ばれた戦士。その実力は確かなものだが、これまでウルトラ戦士たちが戦ってきた敵はいずれも強敵ばかり。ヒカリを信じてないわけではないが、万が一ということもあるのだ。
「ここ最近、なぜかあそこから強力なマイナスエネルギーが発生しているのが観測された。そして今回のヒカリのサインから、怪と場…おそらく怪獣墓場でヒカリは何かを見たに違いない。
メビウス、エース、タロウ。お前たちにこれから任務を与える。ヒカリの救援に向かえ!」
「「「はい!」」」
ゾフィーはウルトラ兄弟たちから三人を派遣することに決定。メビウス・エース・タロウの三人は直ちに光の国から出動した。三人の兄弟たちを見送るゾフィー、ジャック、アストラ、そしてセブン。
この後、メビウスたち三人の身にあるものをめぐった事件が起きたのだが、それはこの場では割愛させていただく。
(ゼロ…)
セブンは、今回のヒカリの身に起きた出来事が、もしかしたら遠く離れた星にいる息子の身にも何かが起きるのではないかと、漠然とした危機感を覚えていた。
その予感は、必ず当たることとなる。いや、当たらない方がおかしかったかもしれない。





―――ダメだ


そう呟く人物が、アンリエッタのいる場所と全く異なる場所にいた。
地球なのか、それともハルケギニアのいずれの場所なのかさえも不明な、遺跡の中に安置された青白く光る石像の中。シュウはそ載せ寄贈の中の空間に、眠りに着いた状態で横たわっていた。石像ストーンフリューゲルには、適能者の傷を癒す治癒効果がある。傷が癒えるまではここから動けない。
彼の脳裏に見えたのは、アンリエッタの脳内で展開されている悍ましい悪夢だった。
「その闇は、あんたを飲み込もうとしている。惑わされるな…」
届かないことは分かっている。それでもシュウは呟かないわけにいかなかった。愛するウェールズを失った彼女の痛み、彼はそれをまるで自分のことのようにも心に刻みつけていた。たとえ関係がない間柄だとしても、シュウはアンリエッタに呼びかけ続けた。
「闇に囚われるな…!」
目を開いた彼は、その手にエボルトラスターを握った。





アンリエッタは目を開く。そこにあるのは、光を一切差し込ませない闇の空間だった。赤黒い荒野の上に立ち、周囲に立ちこめている。なんて冷たい空間だ。こんな場所にいつまでもいたくないと思わされる。早く逃げたい。こんな場所にいたくない。そもそもここはどこなんだ?どうして自分はこんな場所に立ち尽くしている?
そして蘇るのは、あの残酷な悪夢。ワルドによって親友と愛する人が惨殺される夢。何千人にも増えた愛する人の幻影が自分を怒りと憎悪の目で見る夢。自分の手によって殺されてしまったルイズやサイト、そして母に枢機卿…。
「あ、ああ…あああああ…!!」
アンリエッタはその場で膝を着いて頭を抱え、悲鳴を漏らしだす。その身はフブキに当てられたかのごとく震えあがり、その顔はひどく青ざめ恐怖で歪んでいる。
「私は…ダメな王女…何もできない…なにも…成せない…」
愛する人も助けることができない。それ以前に王族と言うしがらみのせいで、幼い頃から何から何まで管理され決まりきったレールの上を走らされる毎日。
女王の役目を担わされた望まない日常、ゲルマニア皇帝アブレビト3世とは婚約解消したが…いずれ訪れるだろう望まない結婚、望んだものすべてが自分の手から離れて行く喪失感。アンリエッタは、もう現実から目を背けずにはいられなくなり、ただひたすら恐怖におびえていく。
『ギギギギギ…』
そんな彼女の傍に、黒い影が忍び寄る。確かに影だけの存在のはずなのに、動く度にぐちゃぐちゃと音をたてている。まるで相手のすべてを貪り食うような不快な音だ。しかあしアンリエッタは全く気づきもしない。今の自分の心を支配する恐怖におびえているだけだった。
「私は…ダメ…もう…何も無い……生きていけない………」
ぶるぶる震えながら、彼女はその場から一歩も動かない。背後から迫ってきている影は、アンリエッタの体に、まるで虫のように這い上がってきて、彼女を黒く染め上げようとする。それでもアンリエッタはまったく気づきもしない。いや、気づいても今の彼女は、寧ろこのまま闇に飲み込まれることを逆によしとするのかもしれない。



―――――闇に囚われるな!



その声が耳に入った時、アンリエッタは顔を上げた。その目はまるで、死人のようだった。しかし彼女は見た。目の前に、金色の光を放つ光の巨人が立っているのを。その巨人は両腕を頭上に上げると、自身の体に纏われている光を周囲に解き放ち、その闇の空間を光に満ちた空間〈メタ・フィールド〉に変えていく。



――――光を失うな…!



巨人…ネクサス・ジュネッスブラッドの声がアンリエッタの頭の中に響く。
「…光…?」
力の無い魂が抜けたような声を漏らすアンリエッタ。しかし、自然とネクサスの放つ光に、すがるように手を伸ばしていく。光がアンリエッタに迫っていくと同時に、彼女を飲み込もうとする黒い影は、逃げるように彼女の体から離れていった。
もう少しで、アンリエッタにネクサスの光が届こうとした時だった。



――――位相の干渉もそこまでだ



地震の様な衝撃が走り、その瞬間ダークフィールドを光に塗り替えようとしたネクサスの光が押し返されていく。
「…!」
アンリエッタは押し戻されていくネクサスの光に手を伸ばすが、結局ネクサスは闇の空間を光に変えることがかなわず、光を全て押し返され消失してしまう。同時に、アンリエッタの意識も、光と共にその世界から消えた。



「…う…」
うめき声を上げながら、アンリエッタはある場所で目を覚ました。
冷たい。一体ドウシテダロウ。彼女は自分の身に、氷のような冷たさを感じていた。でも、どこか懐かしいにおいもする。それが突き刺さるような冷たさへの不快感を打ち消している。
「もう泣かないでくれ」
「え…」
この声は…まさか!?いや、そんなはずが無い。だって彼は…この声の主は…!昨日ワインでも飲みすぎたのだろうか?こんな幻聴が聞こえるなんて。
「僕だよ。アンリエッタ」
疑念を抱いていたアンリエッタの頭が、その一言で、自分をまっすぐ見つめるその目で覚醒する。
「風吹く夜に」
「あ…あぁ…」
驚いていた。だが同時に、彼女はずっと見たいと、会いたいと願っていた男の顔を見て、嬉しさのあまり笑みを浮かべ、涙を流した。
「…水の…誓いを…」



「こ、これは…」
シュウがジャンバードのサーチで調べ上げたポイント、ラグドリアン湖付近。そこに誘拐されたアンリエッタがいると知ったサイトとルイズは共に現場に急行、アニエスが小規模に率いた銃士隊の捜索部隊と共に向かった。本当なら使うはずだったホーク3号だが、タルブの戦いで被弾したために一部故障、修理しようにも元々素人のサイトには難しい。しかもホーク3号を置いてある学院まで遠い。わざわざ取りに行っている間にアンリエッタが遠くに連れて行かれてしまう。やむを得ずこうして馬のみで向かったのだった。
たどり着いた場所は…あまりに悲惨なものだった。
「ひ…」
足元の草どころか、あちこちの木々の幹やこの葉に、大量の血がべっとりとついているのだ。この一定した場所のみで、血みどろの虐殺撃が行われたことが容易に想像できる。
こんな、グロテスクアニメなんてかわいいものにも思えるほどのリアルで残酷な現実は、ごく最近まで無縁だった二人には嫌な意味で刺激が強すぎた。吐き気さえ催しそうになる。
しかし妙なのは、これだけの大量の血だまりがあると言うのに、死体が一人も見当たらないことだった。
「部隊を編成した際、ヒポグリフ隊が独断専行して犯人を追って行ったようだが…」
「独断ですって!?枢機卿たちがいたのに、なんでそんな勝手な真似をしたのよ!」
アニエスが、ここにいるはずの部隊がおそらくヒポグリフ隊であることを口にすると、ルイズがその部隊が勝手な先行をしでかしたことを知って声を荒げた。
「原因は、ここ最近が何一つ魔法衛士隊が功績をあげていないことだろう。彼らはトリステイン国内からの優秀な男性メイジたちがかき集められている。しかしそんな彼らでも、怪獣にまともな手傷を負わせることさえもできなかった。しかもその矢先にワルドの裏切りも重なって、民や内部からの信頼が底を尽いている。しかも自分たちに代わる民を守る存在もある。その焦りが彼らの暴走を招いてしまったのだろうな」
「………」
役立たずのレッテルを張られた魔法衛士隊と違い、自分たちは苦戦を強いられたり失敗を重ねたことはあるものの、それでもこれまでの戦いでたくさんの人たちを守ってきたサイトとゼロ。魔法衛士隊にとって、それが逆に自分たちの無能さをさらけ出す結果を導いた。つまり、彼らの独断が自分たちの存在もまた影響が強かったのだと実感したのだ。サイトは、そしてゼロはアニエスの話を決して他人ごとではないと自覚した。
そしてサイトの心に、迷いが生じる。人のためと思い、地球に帰るまで、そしてこの世界の脅威が去るまでゼロと共に、人を守るための戦う道を選んだ。その選択が、逆に魔法衛士隊を苦しめてしまったのか…?
と、サイトがらしくない思考の中に入り込んだ時だった。
「た、隊長!」
突如、銃士隊兵の一人が声を上げる。アニエスがその声の方へ視線を泳がせ、サイトとルイズもまた同じように見やると、木陰から、または木の上から飛び降りる形で人影が現れる。それも一人や二人ではない。数十人もたくさんの人間の集団が、サイトたちを取り囲んでいた。
「こいつら…魔法衛士隊の連中です!」
ミシェルが彼らを見て、驚愕で声を荒げた。目を細めるアニエス。ミシェルの言う通り、たった今飛び出してきた者たちは、アンリエッタ捜索のために先行した魔法衛士隊ヒポグリフ隊の戦士たちだった。
「な、なんだ味方か…脅かさないでよ」
「いえ、あの目をよくご覧なさい」
魔法衛士隊と知ってホッとするルイズだが、直後にアニエスが警告を入れるようにルイズに言った。その言葉に、サイトとルイズは改めて衛士隊たちの目を見る。
得物を狙う猛獣のような目…いや、猛獣よりも恐ろしい目だった。焦点が合っておらず、目に光を宿していない。それに足の動きもおかしい。おぼつかなくてぎこちないじゃないか。
「まさか、この人たち…正気を失っているのか!?」
サイトは以前似たようなことを体感したことがある。モット伯爵によって無理やり連れて行かれたシエスタを連れ戻そうと、伯爵の屋敷に乗り込んだ時だ。彼らとよく似た人間の敵と遭遇し戦闘に入った。しかもあの時のタバサの話だと、すでに彼らは死後から時間が経過していたという。だとしたらこの人たちも、もしや…。
「UUUAAAAAAAA!!!!」
魔法衛士隊の一人が、獲物に食らいつく獣のごとく飛び上がり、襲い掛かってきた。最初に狙われたのは銃士隊の一人の女性兵士。
「ち!」
剣を抜いた彼女だが、衛士隊が彼女の両腕にガシッと掴みかかり、腕の動きを封殺する。ものすごい力だった。女性と比べて男の力が強くなりがちだという認識は差別的で古い考えでもあるが、その女性兵士は異常だと思った。この男の力、見かけ以上にとんでもないものだった。こちらの腕が今にもへし折れそうなほどの強い力。振りほどくことができない。
「い、いだだだ…!!」
「エリィ!!」
別の女性兵士が、エリィと呼ばれたその女性兵士を助けようと、彼女を捕まえている兵を背後から斬り捨てた。斬られた男は、エリィから手を離してそのまま倒れ伏す。
他の兵たちにもその脅威が迫る。中には魔法を使って襲う者もいた。
「どうなってるの!?なんで衛士隊が…」
「考えるのは後だルイズ!下がってろ!」
サイトはデルフを直ちに引き抜き、構えを取る。この人たちは、おそらくすでに死んでいる。それをどこかで、スペースビーストに種別される怪獣が操っている可能性があるのだろう。とはいえ、サイトにとって人を剣で切るなど絶対に慣れたくない行為だし、やりたくもない。せめて峰打ちで済ませてしまおう。それでも立ち上がった場合は…。いや、とにかく目の前の敵を切り抜けることが優先だ。
ルイズを狙って風の斬撃魔法が飛んでくる。確か、エア・カッターって奴か!サイトは直ちにデルフを盾代わりに構えると、彼にその魔法を吸収させる。サイトは左手のガンダールヴのルーンを光らせ、駆け出して風の魔法を放ってきたメイジに向かって、デルフを振り下ろす。バシン!!と骨を砕くような音が響く。やはり人間の肉を切り裂くのを嫌がったのか、峰打ちだったが目の前の敵を昏倒させるに十分だった。
しかし、敵の数が多い。ここで手間取り続けていたら、アンリエッタはラグドリアン湖よりもはるか遠い場所へ連れ出されてしまう。
「お二人とも、ここは我らにお任せを!姫殿下を頼みます!」
ピストル銃を敵に向けて構えたまま、アニエスは二人に自分の乗っていた馬を引っ張り渡す。
「アニエス何言ってるの!平民がメイジに…」
「心配無用です。私はこう見えて『メイジ殺し』の通り名で知られております。対メイジの戦闘訓練は毎日欠かさず行っておりますので」
平民はメイジに勝てない。サイトは例外、その認識があるルイズからの警告に対し、アニエスは余裕ありげな顔を見せて言い返した。対メイジを想定した選りすぐりの剣士たちが揃っているのだ。このご時世で、怪獣は愚かメイジにも勝てないようでは、アンリエッタとしてもこの平民の女性のみの部隊を編成した意味がないだろう。
「わかりました!すぐに行きます!でも、必ず生きてください!」
「サイト、それ私がいうところでしょ!」
馬の手綱を受け取ったサイトは頷き、ルイズは自分のセリフを取られたと思ったのか突っ込む。文句を軽く聞き流し、さっさとルイズを乗せたサイトは彼女の後ろに乗って馬を走らせた。一応乗馬の練習はしているので、初めて乗って尻を痛めたときと異なり余裕をもって走って行った。
「生きて…か」
ふと、アニエスの脳裏にあるビジョンが浮かぶ。炎の海に包まれた小さな村、そしてその中央で泣き叫ぶ小さな幼子の姿が。
「わかっているさ。私には死ねない理由があるからな」
彼女がそう言って、改めて剣を構えなおした時だった。視線の先に、副隊長のミシェルの姿が映る。ちょうど彼女は敵兵の一人を斬り捨てたようだが、問題は彼女の背後だ。背後から少し離れた場所に立つメイジが、杖の先に炎をともしている。
その炎が、アニエスの脳にある記憶を刺激した。さっきと同じ…炎の海と化した村で泣き叫び続ける少女………幼かった頃の自分の姿を。
「貴様ぁ!」
瞬間、アニエスは普段の冷静な表情から一転し、殺意をむき出しにして炎を使ってきたメイジの心臓を一突きした。その一撃は急所にモロに入り、そのメイジは倒れる。
「た、隊長…!」
「ミシェル、無事か?」
「ええ…申し訳ありません。隊長の手を煩わせてしまうとは」
「気にするなミシェル。お前ほどの部下を喪うことは、今の私にとって右腕を失うも同然だ」
「ありがとう、ございます…」
礼を言いはしたが、ミシェルはどこか気の進まない様子だった。自分のせいで上司が死ぬなど、部下にとってこれほど重く感じることはないだろう。
「さあ、反省会は後にしろ。また敵が来るぞ」
アニエスはミシェルや、他にも戦闘行動中の部下たちにも呼びかけながら、再びこちらに迫ってくる敵兵に向けて剣を構えた。
しかし、彼女たちは戦っているうちに異常に気付き始める。
(おかしい、ヒポグリフ隊の雑魚兵だけでも大半を倒したはず…なのに…)
なぜ敵の頭数がほとんど減っていないのだ!?疑問に思いながらも、アニエスは自分に降りかかってきた魔法を、地面をローリングしながら回避、今度は銃を取り出し魔法を放ってきた相手の脳天を貫く。そこで、アニエスはあることに気が付く。
(あいつは…!)
さっき、ミシェルに不意打ちを仕掛けようとした火のメイジではないか。一体なぜ?心臓を貫いたはずだ。しかし疑問に思う間に、倒したはずのその火のメイジは再起する。
「隊長、こいつら…何度倒しても生き返ってます!!」
「ちっ…!!」
堂やら部下たちも苦心しているようだ。これではいくら倒してもきりがない。このままでは他の者たちの体力よりも、士気が落ちていくのも時間の問題。果たして、サイトたちがアンリエッタを奪還するまで持ちこたえられるだろうか。…いや、持ちこたえなくてはならないのだ。
「全員、気を引き締めろ!ミス・ヴァリエールたちが姫殿下を奪還するまで、何としても耐え抜くのだ!!」
気合を入れなおすアニエスに、倒しても蘇るゾンビ兵士たちに恐怖を覚えつつあって銃士隊隊員たちも何とか返事し気持ちを再度切り替える。
(無駄だ。そいつらは不死身だ。何度倒しても地獄から蘇る。あの地獄の番犬と同じようにな)
しかしそれを、嘲笑うように物陰から見ている者がいた。眠りにつくアンリエッタを連れだした人物と共にいた、あの黒いローブに素顔さえも包み込んだ巨漢である。
ふと、巨漢の頭の中に、何かが流れ込む。シュウが使っている遠視能力に似た、超能力。それで彼は見た。今ここに、近づいている奴がいる。その人物は…城で自分が軽くちょっかいを入れたあの青年。
『光』を持つ男…シュウ。恐らく彼もまたアンリエッタを助けに現れた。
「来たか…どれ、今度は…直接遊んでみるか」
巨漢は歪んだ笑みを浮かべ、アニエスたちに悟られることなくその場を後にした。




アニエスたちが自ら足止め役を引き受けたことで、サイトとルイズの二人は彼女から借りた馬で先行した。
「姫様…どうか無事でいて…!」
ルイズは馬の上で、姫の無事を強く祈る。しばらく走ると、二人の視線の向こうに見えてきた。ラグドリアン湖だ。以前の惚れ薬騒動の現場にして、かつてアンリエッタとウェールズの二人が逢引のために訪れていた思い出の場所。アンリエッタにとって、強い思い入れのある場所…。
そして…ここであの黒いウルトラマンと初めて会った場所。
『サイト、上だ!』
と、ゼロが突然サイトに向かって怒鳴った。頭上から二人に向けて魔法が飛んできた。それも、風魔法。ゼロのおかげもあって反応が間に合ったサイトは咄嗟に手綱を左手のみにも誓え、右手にデルフを握り振るう。風の刃はデルフによって吸収され無効化された。
湖畔にたどり着いたところで、サイトとルイズはいったん馬を下りた。
「ルイズ、怪我ないか!?」
「え、ええ…なんとも無いわ。ありがと…」
心配されたのがちょっと嬉しかったのか、サイトの気遣いに少し照れるルイズだが、絶対に悟られまいと、少しそっけなく礼を返す。
「それにしても霧が濃いな…」
サイトは湖の湖畔の周りを見渡しながら言う。まだ早朝というべき時間の証なのか、空気が冷えたことで霧が湖の周囲に立ち込め、見通しが悪い。
「今の魔法、風のメイジによるもののようね。不意打ちなんて、やってくれるじゃない」
この視界の悪い場所だと、最初の一撃は必ず不意打ちのようなものになる。警戒をいつも以上にしておかなくては。
「風、か。あまりいい思い出ねえけど」
そう言った時、二人の脳裏…性格には3人の脳裏にあの男…ワルドの顔が浮かぶ。トリステイン魔法衛士隊のグリフォン隊隊長でありながら、祖国も婚約者であったルイズも裏切った卑劣な男。今回の誘拐、ワルドがかかわっているなら話はわかるが、シュウの話から黒いウルトラマンが、サイトが遭遇した正体不明の鏡の戦士たちが関係している。それとも奴らにワルドが加担しているのか…?
「やれやれ、愛の道を行く者に邪魔者はつき物か」
霧の中から、その声の主は姿を見せる。声の方角に向けて二人は剣と杖を構えた。霧の中から、二人の人影が見える。
「姫様!!」
一人は、アンリエッタだった。彼女の前にはもう一人、フードを被った若者が立っている。
「正体を現せ!」
サイトが若者に向かって剣を向けて叫ぶ。それに応えるかのように、若者は自分の素顔を隠すフードををとる。
それはあまりに意外な人物だった。
「うぇ、ウェールズ皇太子!?」
その男は、アルビオンで別れた後、ワルドによって連れさらわれたウェールズだった。
「皇太子様、ご無事だったのですね…」
「久しぶりだね、ミス・ヴァリエール。そして使い魔君」
穏やかに再会の挨拶を述べるウェールズ。
「皇太子様…本当に、あなたなのか?」
サイトにとって、ウェールズは貴族の中でも、平民だろうがなんだろうが、気さくに振舞ってくれる、気のいい人だ。ワルドの裏切りがはっきりしたあの結婚式、ワルドと戦った時ウェールズが自分をワルドの魔法から庇ってくれた。そのため、同時にサイトにとってある種のトラウマの一つとしても捉えられていた。
「こうしてアンリエッタが、僕に着いて来てくれている。それが何よりの証じゃないか」
ウェールズの放つその一言にまさか、と二人は思った。もしやウェールズが、アンリエッタを誘拐した犯人だったのか!?
「どうして姫様をかどわかしたのです!姫様は、トリステインにとって無くてはならないお方なのですよ!それにもうじき彼女は女王陛下に即位なさるのに!」
ルイズが、まさかアンリエッタのことを誰よりも思っているはずの男が、人攫い…それももうじき女王となる者をさらうなど思いもしなかった。ましてやあのウェールズ、アンリエッタと同じく王族だ。その責務の重さを重々知っているからこそウェールズはアルビオンに残り、愛するアンリエッタと彼女の祖国のために戦った。そんな彼が、こんな真似をするはずが無いのに。
「一つ誤解をしている。彼女は自らの意思で僕に着いて来るのを選んでくれたんだ」
「え…」
呆けるルイズに、ウェールズは続ける。
「勝手な真似をしてしまったことはお詫びしよう。だが、今の僕ら王党派にはアンリエッタが必要なんだ。
僕ら王党派はあの後散り散りになった。だがアルビオンの各地でレジスタンスを組み、反撃の時を伺ってきた。しかし、いくら諦めないという心を見につけても奴らに反撃することはかなわない。
我がアルビオン軍の士気向上と、優れた指揮。そのためにも我らにはウルトラマンと共に侵略者からトリステインを守った『聖女』としての…何よりも僕にとってもアンリエッタは必要なのだ」
その言葉に、背後に控えていたアンリエッタはさらに熱い鼓動がこみ上がるのを感じた。ウェールズが、愛する男が自分を必要としてくれている。ずっと会えなかった寂しさと悲しさと相まってより一層。
しかしそれで納得できるルイズたちではない。
「ですが、そうだとしたらなぜ正式なお取り次ぎをなさらないのですか!いくら緊急時だとしても、そんなこと…」
あのウェールズが、もしアルビオン王党派が戦線を反逆者である貴族派たちに一矢報いるのを確実なものとするためにしても、わざわざアンリエッタだけを連れ去ったりするとは思えない。会ったのは一度くらいなものだが、ウェールズが見た目からして聡明な男であるのは確かなのだ。時期に女王となる姫を連れ去って事態を混乱させるとは思えない。
何かがおかしいと、サイトも思った。そこで彼はある行為に出る。ルイズにも、この場にいる全員にも決して悟られない…ウルトラ戦士が持つ透視能力だ。サイトは目を光らせながらウェールズの体を探る。
すると、何かが見えた。ウェールズの体に何か奇妙なオーラが見える。怪しげなドス黒い、それもどこか邪悪さを秘めた何かが、ウェールズの体をまとわり着いている。まるでウイルスのように彼の体の中をめぐっているのだ。
『気をつけろ!今のところ、こいつが星人の擬態かどうかはわからない。ババルウ星人みたいな、優れた物真似野郎もいやがるし、もし本物だとしても、人間を洗脳する奴もいやがるからな』
ババルウ星人とは、かつてアストラに化けてウルトラ兄弟とレオを同士討ちさせようとした、そしてサイトにとってある因縁のある戦士ウルトラマンヒカリを、その擬態能力を用いて貶めようとした卑劣な侵略者。その擬態はキングを除くウルトラ戦士さえも見抜くことができない。
または、ボーグ星人やペガ星人などが人間を洗脳し侵略のための手駒としていた前例もある。今のウェールズは偽者のか、あるいは洗脳されているか…。
「相棒、あの王子から何か感じる」
「え?」
突然口を開いてきたデルフがサイトに言ってきた。
「俺っちと同じかもしれねえな。俺と同じ先住の魔法。そいつで操られている気がするぜ」
「ッ!そうか、思い出した!アンドバリの指輪…!」
サイトは、ここで水の精霊が盗まれたといっていたアンドバリの指輪のことを思い出す。あれには死者を操る効力を持つとモンモランシーが教えてくれた。けど、今のウェールズからは確かな命の鼓動が感じられる。一度殺されてから操られている、というわけではないようだ。
ともあれサイトとゼロは確信した。どちらにせよ、目の前にいるウェールズは、俺たちの知っている彼じゃない!サイトはアンリエッタに向かって呼びかける。
「お姫様!こっちに戻ってきてください!今の皇太子は正気じゃない!」
しかし、アンリエッタは首を横に振った。
「…ルイズ、サイトさん。お願い…このまま引き返して頂戴」
「そんな…何をおっしゃるのですか!?あなたはもうじきこの国の女王となるのですよ!あなたがいなくなったら、トリステインの民たちに悪影響が及ぶだけです!ご自分に課せられた責任から逃げるというんですか!」
声を荒げるルイズだが、アンリエッタは唇をかみ締め、杖をも握って叫んだ。
「お黙りなさい!押し付けられた責任など今の私には無意味です!人と人が争い、無駄な血を流し、権力者は謀略を用いて同胞を排除し自らがのし上がる…そんな醜い者たちのご機嫌を伺うのなんて…もうたくさん!!
けど、ウェールズ様だけは…ウェールズ様だけは籠の鳥として生き続けてきた私にとっての光!!それを私から取り上げないで!」
「姫様!!馬鹿なことをおっしゃらないで!あなたは騙されているんです!」
「ルイズ、あなたこそわかって頂戴!私のお友達なら、このまま黙って行かせて!」
「ですが、あなたはもう…!!」
女王となる身だ。そう言おうとすると、アンリエッタは遮るようにルイズに言った。
「ルイズ…あなたも誰かを愛したことがあるでしょう?騙されていたとしても、それでも…本気で好きになったら何もかも忘れて着いていきたいと思うものでしょう?」
人を…異性を愛した経験。ワルドは結局憧れの存在というだけで恋でもなかったが…。いや、だとしてもやはりおかしい。どの道このまま行かせてはいけないじゃないか。
「姫さ…!!」
行くなと言おうとしたルイズに、アンリエッタは鋭くなった目でルイズを威圧する。
「これは王女としてあなたに対する最後の命令よ。道を明けなさい。ルイズ・フランソワーズ」
「そういうことだ。ミス・ヴァリエール、使い魔君。できれば君たちを殺したくは無い。愛するアンリエッタの古い友人と、その使い魔にしてアルビオンでは良き話し相手になってくれた君たちだからね。
もう一度チャンスを挙げよう。このまま背を向けて走り去りたまえ」
ここで姫を連れて行かせてはならない。アンリエッタは久しぶりに会ったあの時、王族としての苦痛な生活を嘆いていた。それについては自分も心苦しさを覚えているつもりだ。でも、二人は今のアンリエッタの行動を、このように判断せざるを得ない。
今の彼女は…醜くなるばかりのトリステイン貴族の情勢とウェールズへの愛を言い訳に、現実逃避しているだけだ、と。
「寝言は寝て言えよ。そんなのは愛でも何でもねえ。頭に血が上って訳がわからなくなっているだけだ。女と付き合った経験の無い俺にだってわかる」
サイトは、今のアンリエッタの悲しみを理解できなくも無い。だけど、だからこそだ。
だからこそ、ここで彼女を引き止めなくてはならないと決意していた。それにサイトは知っている。自分の知っているウェールズなら、愛する人の心をかき乱すような、こんな行為は決していないはずだ。
デルフを構えなおすサイトに対し、アンリエッタは彼の一言がまるで自分たちの間に交わされた愛を否定されたと思い不快感を表す。
「どきなさい!!命令だと言ったはずです!」
「俺の主は、ルイズだ。あなたじゃない。それにたとえルイズの使い魔じゃなくても…どうしても国を出ることを止める気も、姫様を連れて行くのを止める気もないってんなら…俺はあなたたちを止めてみせる!」
民のため・王家のためにウェールズと共に命かかけた王党派や、自由を愛する心に従うまま王党派と共に戦ったグレンたち炎の空賊たちのためにも…!
サイトはウェールズに向けて駆け出す。しまった…速い!アンリエッタとウェールズの詠唱が間に合わない。
しかし、その時だった。森の中から突然、一発の黒い弾丸がサイトに向かって放たれた。
「サイト、危ない!!」
「!!」
だがその弾丸がサイトに当たる直前だった。新たに飛び出してきた光弾がそれに体当たりし、対消滅する。
「今のは…?」
ルイズとアンリエッタは共に、黒い弾丸と光弾が飛び出してきた方角をそれぞれ見やる。
「やれやれ…邪魔するなって。野暮な連中だ」
「………」
黒い弾丸を撃った方角からはウェールズに同行してきた屈強な体つきをした黒いローブの男が、そして光弾が飛んできた方角からは、ブラストショットをその手に握るシュウが現れた。
「シュウ!」
「あんた、怪我は!?」
ルイズと、いったん彼女の傍に戻ってきたサイトが、トリスタニアにいるはずの彼がここに要ることに目を見開く。
「問題ない。さっき応急処置は済ませてきた」
「あなたも…邪魔をするというのですか?」
「当然」
現れたシュウを睨みつけながら問うアンリエッタに対し、シュウはさも当たり前のごとく言い返した。
「遅いですよ、ミスタ」
「ウェールズ様、この方は?」
ウェールズが親しげに巨漢と話しかけている様に、一体何者なのかとアンリエッタはたずねる。
「僕ら王党派に味方していた空賊たちの一員だよ。大丈夫、彼らは信用できるさ」
「ウェールズ様がおっしゃるなら…信じますわ」
(空賊だって?こんな人見なかったぞ…!)
それに、どことなく怪しく、恐怖さえ覚えるような巨漢の雰囲気にサイトは戦慄する。この男こそが、おそらく今回の真犯人にして黒幕の可能性がある。気を引き締めなくては。
「ずいぶん安い信頼だな。その男が、あんたの愛する男を操っているとは考えないのか?少なくとも普通じゃないのは、あんたの聡明な頭でならわかっているはずだ」
「…ッ」
「アンリエッタ。あの男の発言に耳を貸してはならない。君は僕と彼、どっちを信じる?」
一瞬シュウの言葉に、アンリエッタは揺さぶられたが、直後にウェールズがアンリエッタに耳打ちする。今の情緒不安定でウェールズへの依存が高まっているアンリエッタが選ぶ答えは、唯一つ。ウェールズだけだった。
今のアンリエッタはウェールズへの執着のあまり話を聞こうともしていない、か。いや、それ以上に気にすべきなのは…この男だ。シュウは巨漢の方を睨む。
「なぜ城で、俺に戦いを挑んできた?姫をさらって、一体何を企んでいる」
「企む?俺はあくまで、仕事をしに来ただけよ。ウェールズ皇太子殿下の護衛という、な」
「とてもそうは見えんな」
「あんた、一体何者!?そのあつかましいフードを取って名乗りなさいよ!」
あまりに胡散臭い雰囲気の巨漢に対し、ルイズはその男への敵意をむき出しにする。この男がウェールズに何かをしている、そうとしか思えなかった。
「そうだな、自己紹介がまだだったな」
男は、遂にその身をまとうローブを取った。
隠れていたその顔を見て、思わずサイトたちは息を呑む。



「俺の名は、メンヌヴィル。二つ名は『白炎』だ」



傷跡の刻まれた顔と、真っ白なその髪と目。そして狂気に犯されているような笑み。その男が見た目からして異常な何かを放っていた。
「二つ名と見た目からして、火の傭兵メイジのようね。一体何が目的なの?」
「言っただろう?俺はウェールズ王子の護衛だとな」
「ミス・ヴァリエール。一つ警告を入れよう。彼…白炎のメンヌヴィルは、元は下級の貴族だが、傭兵メイジとしての実力はそこいらの兵よりも優れている。そして一度戦うことになった敵には一切の情けをかけない」
ウェールズが、脅しをかけるように言う。サイトにはわかる。この男はこれまで地球を侵略してきた卑劣な異星人たちと同じものがある。他人を…虫けらのように見ている。こんな人間と相対するとは、ある意味ワルド以上に恐ろしい何かを持っている。
「だからって、このまま姫様を連れて行くわけにはいかねえ。そうだろルイズ、シュウ」
「当たり前よ。そのために私たちが来たんだから」
「…ああ」
剣、杖、銃。サイトたち三人は、決して引かない姿勢を示す。
「どうしても退かないというの…?」
アンリエッタは三人を見て悲しげに言う。こうなったら、やはりこの三人を手にかけてでも…かつての親友と、彼女のために命を張る使い魔、そしてもう一人、この国にいずれ貢献することになる若者を手にかけなくてはならなくなる。ウェールズと共に、この先を行く以上は…。
「メンヌヴィル殿、こうなったら仕方ありません。ルイズたちが邪魔をする以上は…」
「…ふ」
アンリエッタからの頼みを聞くと、笑みを浮かべるメンヌヴィルは両腕をバッと開く。すると、霧がかったラグドリアン湖の景色が一変する。
「…!」
アンリエッタは驚き、サイトたちは顔を歪ませる。今この男は、人の姿をしたままこの邪悪な空間を作り出した。人間業ではない。
「これってまさか…!」
「ああ…。ダークフィールドということは…やはりお前だったのか」
「じゃあ、もしかしてあいつが…」
ラグドリアン湖や近くの森の木々ごと、周囲を闇の空間に包みこんで見せたメンヌヴィルの、たった今の行いを見て、サイトたちの中にある確信が生まれる。
「どうする?ここは光を飲み込む闇。お前たちに不利な空間で戦うか?」
三人を、特にメンヌヴィルはシュウに視線を向けて笑いながら問う。
「姫様!もうわかっているはずです!この空間は黒いウルトラマンが作り出している暗黒の世界です!ウェールズ様を使って、あなたを闇の世界へ連れ込もうとしているんですわ!」
メンヌヴィルの手で展開されたこの闇の空間を見て、少なからずアンリエッタの心に揺さぶりがあったことだろう。ルイズは再度説得を試みる。だが、それでもアンリエッタはウェールズへの執着から、それを認めようとしなかった。
「ルイズ、さっきも言ったはずよ…私はすべてを捨ててでもウェールズ様と共にある。邪魔をすると言うのなら、いかにお友達であるあなたでも…ウェールズ様に危害を加えようと言うのなら…」
自身のウェールズへの愛を貫こうとルイズに杖を向けるアンリエッタ。が、シュウはアンリエッタの言葉に、明らかな苛立ちを募らせた。
「姫、いい加減にしろ。死人になった男を愛し続けるのは勝手だが、ここまで来ると見苦しくてかなわない」
「ッ!あなたに何がわかるの!」
サイト以上に否定的な言葉を述べたシュウに、アンリエッタは激昂し、ついに激流のような水魔法をシュウに向けた。シュウはそれに対し、エボルトラスターを取り出して前に突き出すと、光の盾が現れ彼を守った。
「え…!?」
自分はトライアングルメイジだ。戦い慣れてはいないが、魔法の力と才にはそれなりに自負しているだけはある。だが、それをこうもあっさり防がれたことに彼女は驚愕する。
「何がわかる、だと?だからどうしたというんだ?それは今のあんたの行動を正当化できる免罪符じゃない。まして、あんたの身を案じてここまで来た者たちの思いを無視していい理由にもならない。
もしあんたがこの闇の奥に身を委ねることになれば、あんたと同じ痛みを抱く者が増えていく。少なくとも、目の前にいるお友達はな」
驚き慄く彼女に対し、シュウはさらに追い詰めるかのごとく、背後に立つルイズを一瞬だけ見ながらア
ンリエッタに強く言った。
「ヴァリエールの言葉から、耳を塞ぐな。あんたは…『まだやり直せる』んだからな。俺と違って…な」
「まだ…?」
シュウの、何か深い意味を孕んだ言葉にサイトは目を丸くした。
「これ以上僕のアンリエッタを惑わさないでくれないかな?」
黙っていられないのかウェールズもシュウに対して黙るように言うが、それでもシュウは黙ろうとしない。
「何度だって惑わしてやる。その闇の奥にあるのは、ただの地獄だからな」
「地獄…ですって…!!」
この先に行けば、ウェールズと一緒に幸せな暮らしが待っている。明らかな盲信を拭い去ろうとしないアンリエッタは耳をふさぐ。そんな彼女を見かね、ウェールズはついに、ある命令をメンヌヴィルに下した。
「…ミスタ・メンヌヴィル。僕らの花道を切り開くために、彼らを殺してくれ」
「ああ、いいとも」
待ち望んでいた展開が訪れたことが喜ばしいのか、メンヌヴィルは懐からあるものを取り出した。やっぱりな…メンヌヴィルが取り出したそれを見て、シュウは予想が当たったことを確信する。
「さあ、お前の光の力を見せてくれよ?……『ウルトラマン』」
「…ッ!?」
それを聞いたとき、アンリエッタが一瞬驚きを見せた。今…彼は何と言った?その反応に誰も気づくことはなかった。
メンヌヴィルは、両手に握った黒い棒〈ダークエボルバー〉を左右に引っ張った。瞬間、ダークエボルバーから発せられた黒い波動が、彼の身を包み込む。その時、彼の顔が眉間のあたりからガラスのようにひび割れていく。
直後に彼の体が破裂し、サイトたちの前に、一体の黒い巨人が現れる。
背骨など人間の体を張り巡る骨を象ったようなごつごつとした部位、闇を意識したような黒い目とコアゲージ。





第二の闇のウルトラマンにして、黒い悪魔『ダークメフィスト』が降臨した。





「こいつが、ダークメフィスト…!」
なんて禍々しい姿なのだろう。姿かたちは確かにウルトラマンのそれっぽいが、サイトの知るウルトラ戦士たちと異なり、この巨人からは触れてはならない危険ななにかしか感じ取れなかった。
メフィストはシュウを見下ろすと、かかってこいと言うかのように手招きする。その挑発に自ら乗ったシュウは、エボルトラスターを鞘から引き抜き、自身も光を纏って巨人の姿に変わった。
ついにこの異世界にて、ウルトラマンネクサスとダークメフィストが、再び相対したのだった。


 
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