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転生とらぶる

作者:青竹
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番外編037話 if 真・恋姫無双編 07話

 白い学生服を着た男は、背後にアクセルにも見覚えのある2人を伴いながら近づいてくる。

「……やっぱり、その服……あんたも気が付いたらここにいた口だよな、そうだよな!?」

 アクセルの着ている軍服を見て、喜色満面といった声を上げる男。
 その背後にいる関羽は未だに怪しげな視線をアクセルに向けており、その隣の桃香と呼ばれていた少女は申し訳なさそうに頭を下げている。
 声を掛けられたアクセルも、無論目の前の光景に……より正確には白い学生服を着た男の姿に驚いていた。

(俺以外にも転移してきた奴がいる? どうやってだ? リュケイオスか? それとも空間倉庫の中にニーズヘッグが入っていなかった事を考えると、もしかしてアギュイエウス? だが、ニーズヘッグの起動自体は技術班でも出来るが、アギュイエウスのような機能を使うには念動力による認証が必須だ。となると、この男も念動力者、か?)

 半ば混乱しかけつつ、とにもかくにも目の前にいる男は明らかにこの時代の人物ではない。だとするなら、自分がホワイトスターに戻るためのヒントもあるかもしれないとアクセルが判断するのは当然だった。

「……なるほど、お互いに色々と話すべき事柄があるようだな。どうだ、ここは2人だけで話をしてみないか?」
「え? あ、うん。俺としちゃそれは願ったり叶ったりだけど」
「ご主人様!? 幾ら何でもこのような怪しげな者に……」

 男があっさりと頷いたのが気にくわなかったのか、関羽が反射的にそう言葉を掛ける。
 だがその言葉を聞いて黙っていられなかったのは、アクセルよりも寧ろ祭だった。

「ほう? お主、確か曹操配下の義勇軍の者じゃったな。その状態で客将とはいえ孫呉の者であるアクセルを侮辱するとは……その意味が分かってやっているんじゃろうな? ただでさえ、曹操はアクセルに対して借りがある。じゃというのに、曹操の庇護下にあるお主等がアクセルに対してこのような態度を取っておるんじゃぞ?」
「そ、それは……」
「愛紗、いいから。ここは俺に任せてくれよ。この人は俺と同郷なんだから」
「そんな、天の御使いであるご主人様と同じだなんて……」
「愛紗ちゃん、いいから。ここはご主人様に任せておこうよ。ね?」
「あー、その、うちの愛紗がすまない。基本的に悪い奴じゃないんだけど、何ていうか、こう……そう、視野が狭いんだよ。その、同じ境遇のよしみで今のは流してくれると俺としても助かるんだけど……どうかな?」

 男の言葉に祭は不愉快そうに鼻を鳴らす。
 そんな祭の様子に、アクセルはしょうがないと肩を竦めて口を開く。

「そうだな、なら曹操と同じく貸しって事にしておこう。それでいいか?」
「ああ、助かるよ。それじゃあ……えっと、まず話をしようか。あっちの方が人は少ないな」

 白い学生服を着た男が視線を向けるとアクセルもそれに頷き、未だに不愉快そうに関羽へと視線を向けている祭へと声を掛ける。

「って事だ、祭。悪いけど俺はちょっとこいつと話してから戻る。雪蓮には上手い事言っておいてくれ」
「むぅ、しょうがないのう。なるべく早く戻ってくるのじゃぞ。策殿がお気に入りのお主がいなくて不機嫌になる前にな」

 自分の勘に対して理解していたり、模擬戦でも自分と互角以上にやり合えるという事もあって、アクセルは雪蓮にとってもお気に入りであるといっても良かった。
 そんな祭の言葉に軽く手を振り、アクセル達は周囲に人のいない離れた場所へと移動する。





「ま、ここならいいだろ。まずは自己紹介からいこうか。俺はアクセル・アルマー。シャドウミラーを率いている」
「……シャドウミラー?」

 アクセルの言葉に首を傾げるその様子に、内心でやっぱりかと呟く。
 薄々感じてはいたのだ。自分の名前や顔はネギま世界以外ではこれ以上ない程に有名だ。その自分の顔や、フルネームではなくても自分の名前を聞いて全く反応も示さなかったのだから。

(なるほど。そうなると恐らく、この男がこの世界の主人公といったところか?)

 そんな風に思いつつ、次はお前の番だと促されて男は口を開く。

「俺は北郷一刀。聖フランチェスカ学園の2年生で、寝て目が覚めたらいつの間にかこの世界にいた」
「聖フランチェスカ学園? ……一応聞いておくが、麻帆良というのは聞き覚えがあるか?」
「いや、ないけど」
「……どうやら俺とお前は全く違う世界からこの世界に転移してきたみたいだな」

 違う世界に転移と口にしつつ、それが自然であるかの如き口調。
 それを聞いた一刀は、驚愕しながらも口を開く。

「ちょっと待ってくれよ。もしかしてあんた……アクセルにとってはこれって全く不思議な出来事じゃないのか?」
「そうだな、何度か経験している。さっきシャドウミラーという組織を率いているって言っただろ? その組織はいわゆる異世界や平行世界と行き来出来る装置を持っているんだが……」

 その言葉を聞いた一刀は、殆ど本能的にアクセルへと詰め寄る。

「じゃ、じゃあ俺も戻れるのか!?」

 だが、アクセルはそんな一刀の希望を砕くかのように首を横に振る。

「……難しいだろうな。お前の世界の座標が分からないし、それ以前に俺の場合も装置を使ってここに来たんじゃない。寝て起きたらいつの間にかこの世界にいたんだ」
「その辺は俺と同じ、か」
「で、そんな状態だから、本来ならマーカーという俺のいる世界の座標を本拠地に教える装置も持ってきていない。後は気長に向こうが俺を見つけるのを待つしかないな」
「そんな気楽な……どのくらい掛かるか分からないんだろ?」

 一刀の言葉に、アクセルは内心で納得する。
 自分が混沌精霊であり、不老の存在であるというのは既に当然の事となっていたが、目の前にいる男は寿命があるのだと。
 だが、ここで自分の正体を口にする必要もないと判断し、誤魔化すように口を開く。

「そうは言っても、こっちから出来る事はないんだからしょうがないだろ。それより一応確認しておくけど、ここは三國志のパラレルワールド……って認識でいいんだよな?」
「あ、ああ。にしても、俺とは違う異世界の住人か。正直、こんな状況じゃなければ色々と話を聞きたいんだけどな」
「まぁ、普通はそうか」

 アクセルは既に異世界に転移する事に慣れきっているが、その類の技術がない世界にいた人物からしてみれば、まさに驚愕の出来事なのだろう。
 更にアクセルは口にしなかったが、転移している世界は基本的に漫画やアニメ、ゲームといった世界なのだ。一刀のような年代にしてみれば、興味深い事この上ない筈だった。

(まぁ、それを言うならそもそも俺自身がアクセル・アルマーになっているってのが一番大きいんだろうけどな)

 内心で考えつつ、取りあえず話を戻す。

「それで、ぶっちゃけ俺は三國志の知識なんて曹操、孫権、劉備を始めとして有名人くらいしか知らないんだけど……お前の方はどうだ?」
「あー、歴史は好きだったからそれなりに知ってるよ。けど、その知識はあくまでも三國志に関してだから、この世界だとあんまり当てにならないかも」

 そう告げ、一刀は今まで自分が経験してきた事を語る。
 料理や生活の面を始めとして、本来であれば三國志という世界では有り得ない程の充実ぶり。
 もっともアクセルが一番驚いたのは、桃香と呼ばれている少女が劉備だったことだが。

(劉備があんな天然系でいいのか? いやまぁ、歴史上でも人格者だった筈だから、それを思えば不思議でもない……のか?)

「それで、この黄巾党ってのも三國志にはあったんだよな?」
「ああ。これで英雄達が表舞台に立つ準備が整ったって感じかな」
「じゃあ、次に起きる大きな出来事は?」

 そんなアクセルの問い掛けに、数秒考えて一刀は口を開く。

「霊帝の死から始まる一連の混乱……かな?」
「霊帝ってのは、今の皇帝でいいのか?」
「ああ、うん。そう。で、何進と宦官達の間で権力争いが激しくなって、最終的には董卓が都を支配して悪逆非道の限りを尽くす」
「……は?」

 一刀の口から出た言葉に、思わずそう返す。
 勿論アクセルも、董卓という人物が悪人だというのは知っていた。だが、つい先程自分があった董卓がそのような真似をするかと言われれば、首を傾げざるを得ない。

「その辺は三國志とこの世界で違う、のか?」
「ん? どうしたんだ、アクセル。何か気になる事でも?」
「いや、董卓がそういう真似をするような奴には見えなくてな」
「……会ったのか!? っていうか、ここに来てるのか!? いやまぁ、華雄だったり賈クがいるんだから、いても不思議じゃないけど……でも、董卓だぞ?」
「少なくても、俺が会った限りだと内気で性格の優しそうな相手だったぞ」
「……董卓が、なぁ……。そうなると、俺の知ってる歴史通りにならない可能性もあるのか。まぁ、この世界は純粋な三國志じゃないんだから、それも当然かもしれないけど」

 小さく肩を竦める一刀の言葉を聞き、確かにとアクセルも頷く。
 寧ろ大まかな歴史の流れを知っている分、それが先入観になってしまう可能性があるのだろうと。

「そうなると、これ以上詳しい話は聞かない方がいいのかもしれないな。……ただまぁ、大まかな分だけは聞いておくか。そこからどうなるんだ?」
「反董卓連合が組まれて、漢の威信は地に落ちて、群雄割拠の時代になる」

 正真正銘三國志時代の始まりだな。そう言葉を紡ぐ一刀に、アクセルもまた頷かざるを得ない。

「……そうか、助かった。これは礼代わりだ。貰ってくれ」

 情報を提供して貰った謝礼として、ポケットから取り出したように見せかけ、まだ封を切っていないチューインガムを放り投げる。
 それを受け取る一刀。
 普通であれば、とてもではないが情報料としては安すぎる対価。
 だが、今この場では話が違う。
 受け取ったのが何であるのかを知った一刀は、驚愕の視線をアクセルへと向けて口を開く。

「お、おい。これってガム!? いいのかよ、この三國志の時代だと貴重どころのものじゃないのに」
「情報の対価だよ。それにまだ幾つかあるから気にするな」

 幸いと言うべきか、空間倉庫の中に収納されていた武器や防具、あるいは機動兵器の類は全てがなくなっているが、それ以外の食料や日用雑貨の類は残ったままだった。今渡したガムに関しても、数百個単位で空間倉庫の中には在庫が存在している。
 だが当然この時代にガムの類がある訳もなく、一刀は傍から見ても分かる程にテンションが上がっており、非常に上機嫌なままでアクセルに礼を言ってその場を去って行くのだった。





「ぶーぶー、こーんないい女を放っておいて男と密会なんて……アクセルってもしかしてそっちのケがあったりするのかしら?」

 天幕に戻ってきて早々、不機嫌そうに呟く雪蓮。
 そんな雪蓮に、冥琳は溜息を吐きながら口を開く。

「雪蓮、いい加減にしろ。同郷の人と出会えたんだから、話が弾むのも無理はないだろう」
「いや、微妙に同郷とは違ってたよ」
「む? そうなのか?」

 冥琳に言葉を返すと、祭が不思議そうに尋ねる。
 先程のやり取りから、間違いなくアクセルと一刀が同郷だと思っていたのだろう。

「ま、似たような場所だってのは確かだったけどな。少なくてもあの北郷一刀という男は俺みたいに仙術の類は使えないのは間違いない。……で、この状況は」

 向けられた視線の先にあるのは、卓の上に広げられた地図。
 黄巾党本隊がいる場所を正確に現している。

「お前達が戦っている間に、思春や明命に忍び込んで貰ってな。あれだけの人数がいるのだから、内部からどうにか出来ないかと思ったが……」

 その言葉に、アクセルは思春と明命の方に視線を向ける。
 フンッとばかりに視線を逸らしたのが思春。ニコリと笑顔を浮かべて頭を下げたのが明命。
 それぞれの行動に頷きを返し、アクセルの視線は冥琳へと向けられる。

「で、向こうの配置とか糧食の保管場所とかを見つけたのはいいけど、それからどうするんだ? 董卓辺りにでも知らせるのか?」

 そんな、ある意味予想通りと言わんばかりの問い掛けに、冥琳は首を横に振る。

「いや、お前と祭殿が華雄を助けたおかげで、我等だけで黄巾党の本隊を攻める許可を貰った。その為の作戦会議だ」

 董卓は余程華雄の命を助けた事を感謝しているんだろうな、と人の悪い笑みを浮かべつつ冥琳は告げる。

「もっとも、最初は危険だと言われて止められたが……」

 アクセルが一刀と話をしている時に、準備万端整えて冥琳が董卓と交渉していたのだと聞かされたアクセルは、どこか呆れた視線を冥琳へと向ける。
 そもそも交渉相手に賈クではなく董卓を選んでいる辺り、恩を盾にして自分の意見を通す気満々だったのが窺える。

「それにしても、俺達だけで黄巾党本隊を倒すって……どうするつもりだ? 俺が力を使うのは不味いんだろ?」
「うむ。アクセルの仙術をここで大勢に見せるのは色々と不味い。……そう、大勢の前で大々的には、な」

 ニヤリとした笑みを浮かべる冥琳に、その場にいた者達は思わず黄巾党の末路を想像するのだった。 
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