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戦国異伝

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第二百五話 支城攻略その六

「腹を切るとな、そして殿もな」
「それを認めらましたか」
「若し佐吉殿が忍城攻めをしくじれば」
「その時はですか」
「佐吉殿が腹を切ることを」
「いや、しくじってもな」
 それでもというのだ。
「相手が相手と申されてな」
「腹を切らずともよいと」
「そう仰ったのですか」
「そうじゃ、城攻めの詳細を聞いてからな」
 また言う荒木だった。
「その中身を。殿ご自身で聞かれてからな」
「そのうえで決められる」
「腹を切るべきかどうか」
「殿はそう仰ったのですか、佐吉殿に」
「そうだったのですか」
「わしも権六殿達も妙に思った」
 信長のその言葉に、というのだ。
「攻めるなと言われて攻めてしくじればな」
「弁明が出来ませんな」
「その時は」
「腹を切るしかありませぬ」
「その様なことになれば」
「そうじゃ、しかしじゃ」
 それでもだ、信長は石田に言ったというのだ。
「忍城の相手が相手じゃからな」
「攻め方によれど」
「それでもですか」
「腹を切らずともよいと」
「そう仰ったのですか」
「そうじゃ、殿は韮山城と忍城だけは陥ちぬと言われた」
 北条の城の中で、というのだ。
「他の城は陥とせてもな」
「その二つの城だけは」
「無理だと」
「確かに言われた」
 そうだったというのだ、信長は。
「果たして忍城に誰がおるのか」
「確か」
 高山がここで荒木に言った。
「成田氏長殿が」
「城主じゃな」
「はい、確かに出来た方ですが」
「それでもじゃな」
「佐吉殿だけでなく桂松殿もおられますな」
 大谷も、というのだ。
「あの御仁も」
「そうじゃ」
「桂松殿までいてもですな」
「あの城は陥ちぬと言われた」92
 信長がそう言っていたというのだ、この二つの城は攻めても陥ちることはないとだ。
「だからわしは韮山城は攻めなかったが」
「佐吉殿はですか」
「そこは」
「そうじゃ、しかしあ奴はまことに引くことがない」
 荒木は石田のことをまた言った。
「何に対してもな」
「一歩も、ですな」
「退くことがありませぬな」
「とかく正しいと思えば」
「決して」
「あの気質は生きにくい」
 こうも言う荒木だった、石田のことを。
「真っ直ぐでしかも清廉潔白に過ぎる」
「決して悪人ではないですが」
「世渡りが」
「うむ、世渡りをせぬ」
 そこが厄介だというのだ、石田は。
「全くな」
「それで他人と揉めることも多く」
「誤解されもしていますな」
「どうにも」
「虎之助達も嫌ったことがあったな」
 加藤達の名前もここで出て来た。 
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