ワンピース~ただ側で~
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番外32話『銃殺刑』
「要するにアレだ。中将5人と軍艦10隻のバスターコールが麦わら一味に向けられたら麦わら一味も助からないから、今みたいな状況になってると……そういうわけだな?」
「そう、だから私は貴方達に助けてもらいたいと思わない」
「……なるほど」
ロビンがバスターコールって言うだけでも体が軽く震えてる。バスターコールっていうのはどうやらものすごいものらしい。わからないけどもしかしたらロビンはその怖さを知ってるのかもしれない。
……中将5人と軍艦10隻か。
「なぁ、ロビン……バスターコールって聞く限り全然簡単に跳ね返せそうなんだけど」
「っ……あなたはバスターコールの威力を知らないからそんなことが言えるのよ!」
「……そっか」
うーん、そうなのかなぁ。
これ以上口に出して言ってしまったらものすごく怒られそうだからあえて言わないけど、はっきり言ってバスタコールが怖いとはあまり思えない。やろうと思えばそんなに苦労なく沈める自信がある。中将がいようが軍艦がいようが、いや、大将がいても。俺はフィールドが海なら師匠以外には負ける気がしないから。
けど、まぁさっきロビンに言われたとおり、実際にバスターコールの恐さを知らない俺が何を言ってもロビンからしたら上滑りしてるようなものだろう。っていうかあんまり余裕だろってまた何度も言ってしまうとロビンに怒られるかもしれない。
……ロビン怒ると怖いからなぁ。
空島で、遺跡踏んでロビンを怒らせた奴はかわいそうな倒され方してたもんなぁ。
よし、これ以上は言うのはやめておこう。
けど、なんとなく。ロビンを助けることは俺には出来そうにはないけど、それでももしかしたら俺にも出来ることがあるかもしれない。その機会はない方がいいんだろうけど、その時は俺の出番だ。
俺にもやることが見えてきた。
ロビンと話してそれが分かっただけでもよかった。
とりあえずそれを言おうとして「?」
窓から聞こえてきたノックの音。
ノック? 窓から? いや、ここ海のど真ん中だぞ?
「え!?」
「うそぉ!?」
ロビンと俺の声が重なった。
なぜならウソップような鼻をもった仮面の男が窓に張り付いていたから。
「ちょ、ロビン! 窓! 窓!」
「え、ええ」
窓側の座席に座っていたロビンが慌てて窓を開けと、やっぱり仮面の男もけっこう窓の外にいるのが辛かったらしくすぐさま入り込んできた。
「……長鼻くん、どうしてあなたがここにいるの?」
長鼻くんって、それウソップと呼び方同じじゃないか。いや、確かにウソップみたいに長い鼻してるけど。
「……っていうかそもそも誰?」
とりあえず俺がロビンの代わりにこの仮面の男の名前を聞いておく。仮面の男は俺とロビンを交互に見て、それから言う。どうでもいいけど仮面してるせいで声がこもっててちょっと聞きにくい。
「初めまして、私は狙撃の王様ソゲキングだ。色々と話せば長くなるが君たちを助けに来た」
「俺たちを? いや、それより狙撃の王様? あんたが?」
じっとソゲキングを見つめる。
「な、なにかね」
「……」
「……」
ごくりと、ソゲキングの生唾を飲む男が聞こえた。
「かっこいいな! なんか! そのマントいかす! ヒーロー? もしかしてソゲキングはヒーローか!?」
「ふっふっふ」
おぉ! なんか笑い方までかっこいい!
「よよ、宜しく!」
「うむ……せっかくだがあまり長話をしてる場合ではない」
「おっと、そういえばそうだった。なんかごめん、ソゲキング」
「うむ」
いいなぁ、なんかソゲキング。
狙撃の王様だとウソップがいたら張り合うんだろうか、それとも憧れるんだろうか。いや、まぁ今はそれはいいか。
今はそれよりもロビンだ。
さっきソゲキングが助けに来たって言ってたけど、ロビンが素直に助けられようとするかなぁ。ちらっと見るけど、うん、やっぱりロビンの表情はあんまりさえない。
「私だけではない、この列車内で今サンジ君とフランキーというチンピラが暴れている。私はその隙をついてここに来た。さらにルフィ君たちももう一隻の海列車でこの線路を追いかけてきている。何やら大人数を引き連れてね」
おぉ、やっぱり来てたか。ルフィたちも、それにサンジがこの船に乗ってたのは知らなかった。ちゃんと見聞色発動しておけば……いや、まぁあんまり関係なかったかな? どっちにしても今のロビンを動かすのは難しそうだし。
また、ロビンを見る。
「ほら、な? みんなお前のことを助けに来るだろ?」
ロビンに言うけど、ロビンは浮かない顔のままで、俺の言葉にもこたえようとしない。
「窓の外からこの車両に来る時に覗いたんだが、後ろの車両にいる4人は正直ヤバイ奴らだ。サンジ君たちが来る前に君を救出できればそれに越したことは無いのだ、さぁ逃げよう私と共に」
「……」
ソゲキングの言葉に、ロビンはやっぱり反応しない。やっぱりソゲキングでも難しいみたいだ。ロビンの心を動かすのは。
「これが君の分のオクトパクツだ、両手両足にはめれば窓から出て海列車の外板に張り付ける……ハント君は泳ぎが得意だし、窓から泳いでくれたまへ」
「扱い雑じゃね!? ソゲキング!」
海の荒れ模様的に、両手が拘束されたままだとちょっと厳しい気もするんだけど……まぁ頑張ろう。足は自由だし、なんとかなるかもしれない。
「待って! どうしてそんなことに! 私ははっきりと貴方たちにお別れを言った筈よ!? 私はもう二度と一味には戻らない」
あ、俺にも言ったけどルフィたちにも言ったんだ。本当は俺がちゃんと伝えたらよかったのかもしれないけど、まぁ俺は断っちゃったもんなぁ。なんか2度手間かけてごめん。と、心の中で謝っておく。
今口をはさんだらロビンだけじゃなくてソゲキングにも怒られそうだ。
「そう君が言い張る理由もすべて彼らは知っている! 造船所のアイスのおっさんがすべて明らかにしたそうだ」
「……え、あの人は無事だったの? ……いいえ、それでも私はあなたたちの許へは――」
「――何をごちゃごちゃと!」
ソゲキングがここで初めて怒った感じに。
「まだわからねぇのか!? お前が心配するほどあいつらヤワじゃねぇんだ! そんなくだらねぇ駆け引きに乗る前に本当は一番に話してほしかったんだ!」
「そうだそうだー」
「仲間の犠牲の上に生かされてあいつらが喜ぶとでも思ってんのか!? お前が一味を抜けた理由を知ったあいつらは地獄の底でも追いかけてお前の敵をぶちのめすぞ! お前はまだルフィって男を、麦わらの一味をわかってねぇんだ!」
「ソゲキングー、もっと言ってやれー!」
「現にハントも、どうやったのかは知らねぇがここにいるじゃねぇか!」
「そうだぞ、俺だってロビンのことを心配してだな――」
「――そんでお前ぇはうるせぇよ! 変なちゃちゃいれんな!」
「……ご、ごめん」
おかしいな、うまい合いの手だと思ったのに、ソゲキングに怒られてしまった。最初は君だったのにソゲキングが興奮してるせいかいきなり呼び捨てにされてしまった。興奮してるのはソゲキングだけ、かと思ったらそうでもなくて、ロビンも随分と興奮しているらしい。
ソゲキング同様にロビンも声を張り上げ始めた。
「わかってないのは貴方達の方よ! 私は助けてほしいなんて欠片も思ってない! 勝手なマネしないで!」
「なにぃ!?」
……ロビンは全然動かない。
やっぱりバスターコールがネックになってるのかもしれない。
とまぁちょっと二人して大声を上げ過ぎたのが問題なのかもしれない。
「何を騒いでる、ニコ・ロビン」
と、髭面の役人が入ってきた。
慌ててロビンの背中に隠れるソゲキング……それはちょっと無理がないか?
「どうした、今更貴様の運命に泣きわめいても命が救われるわけでもないというのに……ってなんだお前は!?」
ほら、ソゲキングばれたじゃ――
「――貴様、海坊主だな!? ニコロビンを取り戻しに来たか!?」
「え、あ……俺か」
「お前以外に誰がいるというのだ! ええい、ばかにしおって!」
「いや、ほら、俺はCP9……だっけ? それに捕まってるからここにいるんであって」
「嘘をつけ! 嘘を!」
「いや、嘘じゃなくて!」
「ええい、貴様は始末して――」
「――いや、始末されるわけにはいかないから」
懐から銃を取り出す前に髭面の役人への顔面へと蹴りを。
「んがっ!?」
顔面を蹴られた役人は、そのまま地に伏し動かなくなる。
……あれ、俺捕まってるのにこういう態度をとっていも良かったんだろうか。
「うん……まぁ、今のは不可抗力だよな」
とりあえず自分にそう言い聞かせておく。
「うむ、よくやったハント君。さぁ、今のうちに逃げるぞ、ロビン君」
「だから、私は逃げないと――」
あぁ、またこのやりとりが始まるのかよ。
ちょっとだけうんざりしそうになったその時だった。
なんかCP9の奴らがいる車両からものすごい音が聞こえてきた。それも2回も。
「来たか」
ソゲキングの言葉にロビンがハッとした表情となって、そこで俺もわかった。
「サンジ達か!」
「うむ」
「っどうして!」
そこで悔しそうに問題の車両へと歩き出そうとするロビンを「おいおい待てロビン! そっちへ行ったら!」とソゲキングが止めようとするがロビンは構わずに歩いていく。
「ハント! お前も手伝え!」
「……」
まぁ、本来なら手伝うのが筋なんだろうけど、俺はやめておく。
「お、おい! ハント!」
「ソゲキング……ちょっと、いいか?」
「なんだ、こんな時に!」
「いや、こんな時だから聞いてくれ」
先に扉を開けて出ていったロビン。扉の向こうから「ロビンちゃん!」という、間違いなくサンジの声が聞こえる。
「なんだよ、ハント。急がねぇと――」
「――いいから!」
「っ……何だね!?」
「ソゲキングとサンジと、あとフランキー……だっけ? 悪いけど、俺はお前らにロビンを説得できるって思えない」
「なにぃ!?」
怒るなってソゲキング。
「昨日、強引に連れて帰ろうとしたらロビンに攻撃されたぐらいだぞ? 多分、あとちょっとロビンが協力してくれたらいいって場面でもロビンは動かない。だから、ロビンを連れ戻すのは難しいと思うんだ。俺もそんなロビンの態度を見て昨日諦めたぐらいだし。とにかくまぁ、だから俺は今ここにいるんだけど」
「……」
「お前らが失敗した時に最悪でも俺がいる。それだけはわかっていてくれ。今このタイミングで手伝って、ロビンの説得に失敗したときにロビンから離されることになったらもうロビンを守れなくなる。だから今はあえて手伝わないけど、それでももしお前たちがロビンを連れ戻すことに成功したなら俺も適当に海に飛び込んで逃げる。それでやっぱり失敗しても最悪でもロビンの側には俺がいれる」
「……つまりは君が最終防衛ラインを務めようというわけだな」
「そのつもりっていうだけだけどさ……実際に目的地に着いたらロビンだけだけ別扱いを受けるかもしれないし。俺は頭が悪いから想定通りに状況が動くとは思えないし……けど、それでも俺がロビンの側にいる限りは任せろ……っていうのを、もし失敗してルフィたちと合流することになったら伝えておいてくれないか?」
「よし、わかった。ならば君は見ていたまえ。どっちにしろ私たちがロビン奪還を成功させる様子を!」
「ああ……それが一番手っ取り早いもんな。頼んだ」
「うむ、そっちもな」
「ああ!」
ソゲキングと軽く握手をして、ロビンを追いかけるソゲキングの背中を見つめる。
後ろ姿はまるでウソップだなあれ……ん? っていうかあのゴーグルといい恰好といい、髪型といいあれはウソップだろ。
っていうことは、だ。
つまり――
「――双子?」
いや、でも聞いたことないな。ウソップに兄弟がいたなんて。まぁ、また会う機会があったら聞いてみよう。
「……ふぅ」
とりあえずは椅子に座って、隣の車両から聞こえる喧噪に耳を傾ける。
「ロビンちゃん、なにすんだ!」
サンジの焦りの声が聞こえてくる。
うーん、やっぱりダメそうだなぁ。
窓を見つめながら、それを思った。
それから大体10分ぐらいだろうか。もしかしたらもっと短いし、いや、長いのかもしれないけれど。
――やっぱ無理だったか。
俺の前にはロビン。通路を挟んだ隣の席には新しく捕まったフランキーという青髪のリーゼントがいかす海パン男。
正直、ちょっとだけソゲキングたちには期待してたんだけどやっぱりロビンがソゲキングを攻撃したりして、自らこの船に残ろうとするもんだからうまくいかなかった。あとちょっとだったのになぁ。バスターコールっていうのはそんなにロビンの心を拘束するものなのだろうか。
「んで兄ちゃんよぉ、なんでお前はさっき手伝わなかったんだ」
「え、俺? うーん、手伝っても無理だったんじゃないか? さっきの感じだと」
フランキーの問いに答える。
実は全力で耳を傾けてたから大体の状況は察しがついてる。途中まで良かったんだけど、ブルーノっていうやつのドアドアの実の能力で、結局はロビンを連れ戻されてしまった。俺が手伝ってたら……いや、無理だろうなぁ。一人だけ、リーダー格っぽいのが全くもって動いてなかったし。足しか動かせない状況だと流石にあんまり手伝えることもない気がする。
「……ま、おめぇ弱そうだもんな。終わったこと言っても仕方ねぇか」
「いきなりそれ!? ひどくね!?」
え、俺って弱そうなの?
見た目的に?
それは知らなかったんだけど。
っていうか初対面でそれはなかなかにドストレートなんじゃないだろうか。
「さっき全く手伝わなかった腹いせだ」
「あ、そう言われたら何も言い返せないわ……なんかものすごい悔しいけど」
「ウハハハハ」
くっ、なんだろう。この敗北感。
「……随分と仲が良いのね」
「なんだよ、ロビン。そんな不機嫌そうに。別にいいだろ? 連れてかれるまで肩落としてても仕方ないし、どうせロビンも助かるんだし、ルフィが来るまでの辛抱だって」
「だから私はそんなこと望んでなんか……っ!」
悔しそうに唇をかみしめるロビンに、俺とフランキーはなんとなく顔を見合わせた。
そして、ハントたちを乗せた海列車は遂に到着する。
司法の島エニエスロビーへと。
「長期任務ご苦労様でした!」
「CP9がお着きに!」
「罪人を連れ出せ!」
暴れるフランキーのみ手錠に加えて鉄の鎖で体を巻かれて、ロビンとハントは後ろ手に手錠をかけられて、彼らはその地へと足を下ろした。
「海坊主をどうするか、じゃのう。列車でもいうたが、あいつは危険じゃぞ」
「それに関しては既に長官から言われているわ」
カクの言葉にカリファがメガネをかけなおしながら答え、それを聞いたルッチが「ほう?」と耳を傾ける。
「あの男は何と?」
「海坊主はニコ・ロビンとの条件通りに、無事ウォーターセブンを出航してここにいる。ならば海賊はデッドオアアライブ。手土産も首さえあればそれでいいだろ……とのこと」
「……あの男らしいのう」
「同感だ」
彼らの言葉の意味を、ハントはまだ知らない。
ハントたち一行が遂に司法の島エニエスロビーに到着した頃、ルフィたちは新たに巨大なカエルヨコヅナを仲間に加えて、さらにはサンジとソゲキング――本名ウソップ――を回収して、さらにその士気を高めていた。
「狙撃の島のソゲキング!?」
「そう、ウソップ君の親友でこのたび、君たちの手助けを託かってここにいる!」
「ヒーローだ! マントしてるからそうじゃねぇかと思ったんだ、俺は! すげぇヒーロー初めて見た!」
「そうか、マントしてるからヒーローなのか! かっこいいなー!」
「そうだぞ、マントヒヒもヒーローなんだぞ!」
「ほんとか!?」
目を輝かせているのはルフィとチョッパーの二人。
とはいえ、それ以外の人間は全員ソゲキングの正体がウソップだということに気づいている様子だが。
チョッパーに頼まれたサインを書きながらいくつかの質問に答えていたウソップ、もといソゲキングだが「あ」と声を漏らしたかと思えばルフィへと首を向けた。
「言伝を頼まれていたのを忘れていた」
「言伝? 誰からだ?」
「うむ、ハント君――」
「――ハント!?」
ウソップから出た名前に、横から割って入ったのは、やはりナミ。
「ハント、やっぱり生きてたの? っていうか海列車にいたのね!? 言伝ってなによ! 言いなさい! 早く言いなさい!」
首をぶんぶんと「それじゃしゃべれるものもしゃべれないだろう」というゾロの小さな突っ込みすらも聞き取れないほどに必死になってソゲキングの首を振りまわすナミに「うわ、おいナミ! ソゲキングになにすんだ!」というルフィの言葉でやっと止まった。
「げほ……ごほ……う、うむ。どうやら彼は昨日の晩にロビン君を見つけたものの説得に失敗し、それで君たちに説得の役目を任せて、ハント君はそれまでロビンくんを護衛する立場でいようというつもりのようだ。だから安心して助けに来てくれと、彼はそんな感じのことを言っていたぞ」
「……そうか、ハントが」
「っていうか昨日からいなくなってたと思ったらそんなことをやってたなんて……連絡くらいよこしなさいよ、全く」
単純に嬉しそうに呟かれたルフィの言葉とは違い、腰を床に下ろしたまま心底ホッとした表情で呟いたナミの言葉には怒りと、そしてそれ以上の安堵の色が見え隠れしている。ともすれば泣き出しそうにすら見えるナミの表情にその事情を知らない彼らが問う前に、職長のパウリーが尋ねる。
「そのハントってのは強ぇのか?」
「ああ、俺よりずっと強ぇぞ!」
「……そりゃ……心強ぇな」
ここに至るまでの道中、信じられないほどの強さをルフィとゾロに見せられてきたパウリーが、ルフィの言葉で息を呑む。ルフィよりも強いという人物がいるという言葉はやはり彼らにとってはより強い希望だろう。
彼らはさらに一層の表情を引き締めて、エニエスロビーへと向かう。
「待って! 約束が違うじゃない! 私があなたたちに協力する条件は彼らを無事に逃がすことだったはずよ!」
隣の部屋から聞こえてきたロビンの必死な叫びが、この状況が俺が今考えている通りにまずいものだということを教えてくれていた。ロビンの声に、声を投げられた男、CP9長官のスパンダムは呆れたように言う。
「何を必死にいきりたちやがって……ルッチ、我々が出した条件を正しくいってみろ」
「ニコ・ロビンを除く麦わら一味の7名が無事にウォーターセブンを出航すること」
「ああ、そうだな……海坊主のハントはウォーターセブンを無事に出航してここへ来たんじゃねぇのか!?」
スパンダムの言葉を聞いて、ロビンが怒った。
「何ですって!? まさかそんなこじつけで協定を破る気じゃ!」
「どうしようもねぇクソだなこいつら……仁義のかけらももっちゃいねぇ」
これはフランキーの言葉だ。
「……」
隣の部屋から何やら聞こえる喧噪に耳を傾けるのはこれまでとして、ちょっと現状を確認する。
自分の両手両足、それに腰を拘束する鉄の鎖のせいで俺は今動けない。
で、俺の現在の状況はかなり、っていうか随分とやばい。
何がやばいかというと目の前に並ぶ銃口の数。あ、これが無数にあるって奴か、なんて他人事のように思ってしまうほどにたくさんの銃口が並んでいる。
「ちょっとまずくね?」
なんてことを思ってたら目の前にスパンダムが現れた。
「随分といい眺めじゃねぇか! 海坊主!」
「……えっと、じゃあ俺と代わっても」
「お、いいのか? それは嬉しい……ってなるわけねぇだろ! バカか!」
「あ、やっぱり?」
肩を落とす俺に、スパンダムは凄まじく嫌な笑みを浮かべてくる。
「ニコ・ロビンに絶望させるためにも貴様には一役買ってもらうぞ」
「……絶望させる?」
「ああ、だが安心しろ。今日の俺は機嫌がいいんだ。一思いにスパッとやってやる。さぁ、構え!」
銃口に手がかかるのが見えた。
まずい。さすがにあの数の銃弾を喰らったら俺でも死ぬかもしれない。
――やれることを……やるしかない。
俺はまだ死ぬわけにはいかない。
ロビンのためにしてやれることが、俺にしかできないことがある。
「っ」
体を丸めて、できるだけ当たる面積を減らす。歯を食いしばって、その瞬間に備える。あれだけの数の銃口で、きっと銃弾もくさるほど飛んでくる。となると、全身を武装色で固めたら銃弾に突破されるかもしれない。固めていいのは急所だけ、じゃないと守り切れない気がする。
数百発か? 数千発か?
数千発は流石に言いすぎか。まぁ百発以上は本当に飛んできそうだけど……いや、どっちにしても普通の人間を殺すには完全にやりすぎだろ、これは。
じゃあ、つまり。やることは一つだ。
「撃てぃっ!」
スパンダムの声を皮切りに、急所だけは守れるように武装色を全開にした。
「漁師さん!?」
ロビンの声が銃口の隙間から聞こえた。
後書き
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