鎧虫戦記-バグレイダース-
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第31話 開けてはならない背中のチャック
前書き
どうも、蛹です。
背中のチャック――――――それは触れてはならない禁断の金具。
突然すいません。ですが本当に着ぐるみの背中のチャックは
開けてはいけないパンドラの箱(?)ですよね。
子供たちの夢を壊してしまいますからね。
はい、全く関係のない話でした。
再び過去を語り始めたジェーン。
果たして、彼女は過去に何があったのか?
(すいませんが、まだ終わりません)
それでは第31話、始まります!!
俺はただ机に座って待ち続けた。
「お外で遊びたいなぁ‥‥‥‥」
この嵐の中では遊ぶこと以前の問題である。
外を出歩いている人はほとんどいない。
「早くお昼にならないかなぁ‥‥‥‥」
時計を眺めてみると時間はまだ10時ほどだった。
父が修理に出かけてから、まだ30分しか経っていなかった。
「暇だなぁ‥‥‥‥」
俺は机に突っ伏した。
そして、目をつぶった。
**********
「キミ‥‥‥ねぇ、キミ」
そう言いながら俺の肩を揺らしてくるので俺は目を開けた。
「あ、目が覚めたクマ?」
そこには熊が立っていた。
いや、熊といっても大きなぬいぐるみのような
見た目をしていて、怖さは全く感じないのだが。
「んん‥‥‥クマさん、ここは?」
身体を起こして辺りを見回した。
俺はいつの間にか草原の上に寝転んでいた。
草花のいい匂いに満ち溢れていた。
「ここはキミの夢の中だクマ」
「夢?じゃあクマさんも本当はいないの?」
熊はにっこりと笑ってうなずいた。
「ボクはキミを楽しませるためにここに生まれたんだクマ」
立ち上がってクルクル回りながら熊は言った。
すごく楽しそうに回っている。
「あ、そうだ。仲間を紹介するクマ!」
そう言って、俺の手を掴んで連れて行った。
小さな森を抜けると、そこには沢山の動物たちが
俺が来たことを歓迎してくれていた。
トテトテ
ウサギが小さい足取りで歩いて来た。
「私はウサ美。どうぞよろしくウサ」
ウサ美は笑顔で自己紹介をした。
大きくて長い耳がとても可愛らしかった。
ピョンピョン跳ねるダンスを俺に見せてくれた。
ズンズン
次はトラが楽しそうな足取りで歩いて来た。
「俺はトラ男だ。よろしくトラ!」
トラ男は元気いっぱいの自己紹介をした。
身体もスゴイが尻尾にも筋肉があるらしく
それで枝にぶら下がって全体重を支える
という技を披露してくれた。
コロコロ
次は羊が転がって来た。
「う~~ん‥‥あたしはメー子。よろしくメィ」
メー子は眠たそうな表情で自己紹介をした。
自慢の羊毛にうずまってみると
温かくてフワフワしてて気持ちが良かった。
こんなのにいつも包まれていたら眠くもなるだろう。
「ちょっと待て」
ホークアイは強引に俺の話を切った。
「お前、かわいい物好きだろ?」
彼にそう訊かれ、都合が悪いので俺は無視しようかと思ったが
マリーや他のみんなも注目しているので仕方なく答えた。
「す、好きだよ‥‥‥悪いか?」
大体かわいい物が好きな男だって世界中探したらいるだろ。
いくら俺が男っぽいからってそう思うのは悪い事なのだろうか。
特に恥ずかしい事でもないのに顔が赤くなるのが分かった。
「んーん、全然。私もかわいい物大好きだもん♪あ、そうだ」
マリーはそう言いながら自分のバックの中の何かを探していた。
しばらく困った顔をしていたが、急に笑顔になったので
ようやく、それを見つけたということなのだろう。
「じゃーん♪前に作ってみました!」
手の中には小さなクマの人形があった。
茶色い布と黒の糸を使った手作りだった。
頭と体の大きさが同じ、すなわち二等身だった。
「おー、上手にできてるよ、これ!」
アスラは楽しそうにそれを眺めていた。
ホークアイも少し驚いた表情をしていた。
「なかなか良いな。でもここが少し甘いな」
ホークアイの指さした部分は少し糸がほどけて
中のワタが見え隠れしていた。
「ここら辺は頑丈に縫っとかないと
すぐに糸が千切れるからなぁ」
そう言って裁縫道具を取り出して修繕していった。
何だか、歴年の主婦みたいな発言と手つきだった。
クマのぬいぐるみが縫い終わったので俺は話を再開した。
**********
まぁこんな感じに沢山の動物たちが自己紹介をしてくれた。
そして、お花畑で話をしながら花の冠を作ったり
鬼ごっこ、かくれんぼ、大きな動物に乗って冒険したりと
俺は楽しい時間を満喫していた。
まるで、今までの不幸を水に流すかのように。
「そろそろ時間だクマ」
そう言って、またクマが現れた。
「キミをここの村長に合わせなきゃいけないんだクマ」
俺はまたクマに手を引かれてどこかへと連れられて行った。
他の動物たちも着いて来てくれていた。
「ねぇ、村長ってどんな人なの?」
俺は後ろのみんなに興味本位で訊いてみた。
「オレ達も実は会ったことがないからわかんないんだゾウ」
ゾウ蔵は首を振りながらゆっくりと答えた。
「僕たちも初めて会うんだワン」
ワン太もその後ろから言った。
「そうなんだ‥‥‥‥」
全員も見たことがない謎の村長。
何かは分からないが嫌な予感がした。
直感だが、予想だが、不安が全身を支配していた。
数十分歩いてようやく村長の家に着いた。
「ここが村長の家か‥‥‥‥」
そこにあったのは木で出来た普通の家だった。
特に危険も何も感じなかった。
だがそれが、逆に俺の中の不安を掻き立てた。
「さぁ、行こうクマ」
そう言われ俺は行く前に後ろのみんなに声をかけた。
「みんなも行――――――――――」
いや、声をかけようとした。
「え‥‥‥‥誰も‥‥いない‥‥‥‥‥‥」
しかし、後ろには誰一人いなかった。
さっきまであんなに沢山いたというのに。
音もなく逃げたにしてはおかしい。
「クマさん‥‥‥みんなは?」
そう訊かれ、クマはすぐに答えた。
「みんな仕事が終わったから、消えたんだクマ」
「え‥‥‥‥!?」
俺の不安は恐怖へと変わり全身をそれが包み込んだ。
まさか、村長が消したのか。友達になったばかりのみんなを。
もしかすると次に俺も消されてしまうのではないか。
幼い時の俺はこう思っていた。
「あたしは‥‥‥どうなるの?」
「キミは、今から村長に会うんだクマ」
村長は私にあって何がしたいのだろう。
俺は少しずつクマに連れられ近づいて行く
恐怖の根源の入り口に立った。
ガチャッ
「開いたクマ。さ、入って入って」
クマに促されて中に入ると俺は驚いた。
「誰も‥‥‥いない‥‥‥‥‥‥‥」
村長どころか誰もいなかった。
あるのは簡単な木のイスとテーブルとタンス。
それ以外この部屋には何もなかった。
壁には窓しかなく出入り口もここだけで、
このリビング以外の部屋は無いようだった。
「‥‥‥自己紹介が遅れたクマ」
ジィィィィィィ‥‥‥
クマの後ろからチャックを開けるような音が聞こえて来た。
途端にクマの頭が外れて中から人の頭が出て来た。
「ふぅ、私がここの村長さ」
そこには特に目立った特徴のない
あえて挙げるならメガネぐらいの男が立っていた。
「まぁ、そう緊張しないでくれ」
クマの上の服を脱ぎながら村長はイスに座った。
そして、ズボンを脱ぐような要領で残りを脱いでいった。
「どうしたんだい?座っていいんだよ?」
俺はそう促されたのでイスを出して座りこんだ。
イスを引き出す音を最後に部屋には沈黙が響き渡った。
「‥‥‥‥‥‥‥」
俺は黙ったまま座り込んでいた。
会話のきっかけが出来ずに声が出せなかったのだ。
そして、俺がようやく勇気を出して声を出そうとした時
ようやく普通の会話が始まった。
「何故みんなを消したかを訊きたいんだね?」
核心をついた発言に俺は少し驚いたが
正直にうなずいた。本当の事だからだ。
彼は少し息をつくと流すように説明した。
「彼らは君をここに連れてくるための
君の中の親しみやすいイメージの集合体さ。
私の意志で消したわけではなく、彼らが仕事を終えたから
君の大脳の機能をある程度制御して
決められた大きなルールに沿って消えたんだ。
みんな君と遊べて、とても楽しかったらしいよ」
よく分からないが、そう言うことらしい。
その“だいのう”という所がどうかされたことで
さっきまでは頭の中が霧に包まれていたかのような
不思議な感じだったが、今は意識がハッキリしているようだ。
「さて、ここで本題だ」
村長は急に真剣な表情になった。
そして、彼の口からこのような言葉が放たれた。
「実は君に最悪の未来が待ち構えている」
俺はポカンとした。突然に未来の話をされたのだから当然である。
元々、よくわからない存在である村長の口から
更に不確定である未来の話をされたのだ。当然だろう。
「信じられないかもしれないが、信じてくれ」
俺にはその言葉が理解しがたかった。
信じられないものを信じるなんて普通出来るわけがないのに。
俺はまず頭に浮かんだ事を質問してみた。
「夢の中の村長さんが何であたしの未来を知ってるの?」
「!!‥‥うっ‥‥‥‥」
そう訊くと村長は少し苦しそうな顔をした。
そして、世界がグニャグニャに歪み始めた。
「くっ、早くも意識が‥‥‥覚醒を始めたか‥‥‥
君は‥‥意外と‥‥現実思考‥‥なのかい‥‥‥?」
村長は頭を片手で押さえながら、こうつぶやいた。
彼の口ぶりから察するに、俺が目覚めつつあるらしい。
それ故に虚構の空間であるこの場所の消滅が近づいているようだ。
「時間が‥‥‥ない‥‥‥これだけは‥‥覚えて‥‥おいてくれ」
村長は弱々しい声で最後にこう言った。
「外に‥‥出ては‥‥いけない‥‥‥外に‥‥出た‥‥‥瞬間‥‥から‥‥
最悪の‥‥未来が‥‥始ま‥‥って‥‥しま‥‥う‥‥ん‥‥だ‥‥‥‥‥」
ブツンッ!!
電気を切るかのように世界が闇に包まれた瞬間
俺は目を覚ました。ゆっくりと身体を起こすと
いつも見ている普通の景色が広がっていた。
「あれは‥‥‥夢‥‥‥だったんだよね?」
俺は誰にというわけでもなく訊いた。
しかし、誰もいない部屋からは何も帰ってこなかった。
**********
「そんな夢みたいなことがあったのか‥‥‥」
アスラがそうつぶやいたので
俺は修正を加えるようにして言った。
「夢みたいじゃなくて‥‥‥夢だよ」
「あ、そうか」
アスラは少し頭をかいた。
その近くでリオさんがうずうずした様子で訊いて来た。
「それで、続きはどうなったんだ?」
そのことだが、少し待ってほしい。
そう言おうと思ったが、身体が言うことをきかなかった。
バタッ!
「ジェ、ジェーンッ!?」
突然の事にアスラは声を上げた。
俺は意識を失って、横に倒れてしまったのだ。
顔は真っ赤になっていて、いかにも苦しそうな表情をしていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥‥」
息も非常に荒く、危険な状態だった。
ホークアイが俺の近くに寄って来た。
「俺は医者じゃないからこれは予想だが‥‥‥‥」
そう言いながら、彼は俺の腹に触れた。
「この傷に少なからず原因があると思う」
俺の未だ癒えずに紫色のままの腹部が
この症状の原因だろうと彼は予想したのだ。
「あれから数日経つのに、圧倒的な再生力を持つ″鎧人″のジェーンが
あの“スペック”って奴にやられた傷が治る兆候が見えない」
それを聞いたアスラはつぶやいた。
「それが“スペック”の″超技術″なのか‥‥‥!?」
「いいや」
ホークアイは首を横に振った。
「今までジェーンと“スペック”は何度か戦ってきたはずだ。
あの時の戦いでの口ぶりからそう予想できる。
傷が治らなくなる″超技術″なら、おそらく今日までもたなかったはずだ。
数か所もこんな傷が残っていたら、さすがの″鎧人″でも死んでしまう」
彼の予想に迅はうなずいた。
「オレもその案は間違っていないと思う。
だが、根本的な原因が分からなければ、オレ達は治療もできないぞ?」
ホークアイはさっき雨水を拭きとったタオルで
俺の額の汗を拭きとった。
「とりあえず、身体を冷やしてみよう。
こんな高熱じゃジェーンが苦しいだろうからな」
念の為にと容器に大量に貯めておいた
先程の嵐の雨水が功を奏した。
タオルを水で濡らし、リオさんの″超技術″で
温度を下げ、それで俺の体を冷やした。
「体を冷やしすぎず、温めすぎずに、ちょうどいい体温を
保ち続ければ、多少は再生の助けになるはずだ」
しばらくの間、交代で彼女の身体を冷やしてあげていると
今度は寒そうに震え始めたので毛布を掛けてあげた。
そんな感じで適温を保っていると、だいぶ落ち着いたらしく
呼吸は安定し、俺は寝息をたてて眠っていた。
「‥‥ったく、こっちは面倒見て疲れてんのによぉ」
ホークアイは吐き捨てるように言った。
だが、顔はそこまで嫌そうではなかった。
「そろそろオレ達も休むか」
迅はそう提案した。
すると、確認の為に外に出ていたリオさんが
その意見に賛成しながら入って来た。
「いいんじゃないか?嵐も完全に過ぎ去って雨も止んで
太陽まで顔を出したし、ジェーンもだいぶ落ち着いたみたいだからな」
迅とリオさんは簡易テントの柱を外していき
アスラとマリーは氷でくっついたシートを
分解して折りたたんでいった。
ホークアイはしばらく俺の容体を診ていたが
テントを畳んでいる間、特に何の変化もなかった。
そして、地面に敷いたシートを残して
完全に簡易テントは解体された。
「毛布は一枚で大丈夫かな?」
マリーは少し心配そうに訊いた。
「あぁ、今は太陽が出てるからな。
これ以上掛けたら、むしろ熱いだろう」
暖かい太陽の日差しがそれを物語っていた。
こんな気候の中での昼寝は、まさに最高だろう。
「森のど真ん中で昼寝しても大丈夫なのか?
″鎧虫″とかに襲われないかな?」
アスラも少し心配そうに聞いた。
その問いには迅が答えた。
「そこも大丈夫だ。″鎧虫″が近づいて来たらオレが嫌でも気付く。
″侵略虫″ってのはそういう生き物なのさ」
一応、不安な点を数個上げたが、全て対応策があるので
全員はポカポカ陽気の中、昼寝をすることにした。
「みんな、おやす‥‥み‥‥‥‥」
マリーはそれを言うと同時に寝息を立て始めた。
他の全員も、それに応えることなく
それぞれ寝息を立てて眠ってしまっていた。
全員はこのひと時の安らぎの時間を噛み締めた。
後書き
嵐の後の晴れの中の昼寝は最高でしょうね。
全員はそのまま眠ってしまいましたが
″侵略虫″が来た時は大丈夫なんでしょうかね?
まぁ、土砂崩れも起きかねない嵐の山の中に
″侵略虫″がわざわざ来ることもないでしょうが。
さすがの″侵略虫″でも、よほど強くなければ
自然災害の起きている中を歩き回ることはありません。
ジェーンのお腹の傷が治る兆候が見えませんね。
今もまだ気休めのようなものなので、いつまた
同じような状況になるか分かりません。
出来るだけ早く治るといいですね。
嵐も過ぎ去り、ジェーンの容体も何とか安定したので
ポカポカ陽気の中、昼寝を始めたアスラ達。
ことごとく遮られる過去編の回想。
果たして、いつになったらジェーンの過去を
全て知ることが出来るのか?
我ながら長くなっていますが、まだまだ延びていきます。
次回 第32話 気付かれないように近づくのに上から派はいない お楽しみに!
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