ワンピース~ただ側で~
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番外29話『水の都ウォーターセブン』
ルフィとロビンの安静のために、ロングリングロングランドで4日間の停泊をしたゴーイングメリー号は既に出航して3日目の朝を迎えていた。ロングリングロングランドでは体の調子が悪かったハントも、7日もたてば体調は万全なものへと復活しており、今ではもうすっかり元通りとなっている。
空は快晴、天候は春時々夏。
「う~~~……ん。いい天気!」と、ナミがメリー号の2Fの甲板にて伸びをして、ゾロに至っては手すりにもたれかかって眠りこけているほどに心地の良い航海日和だ。もっとも、ゾロはどこでも寝ているため、あまりそれが心地よい日和かどうかの判断材料にはなりそうにもないが……ともかく。
穏やかな海路にあって零れているナミの笑顔とは対照的に、眠りこけているゾロの横。ゾロ同様に手すりにもたれかかってナミを見つめるハントの表情はあまり景気のいいものではなかったりする。
空を仰いて嘆息。ナミを見つめて、また視線を外して嘆息。何度かそれを繰り返し、けれど何らかの意を決したらしく、表情を引き締めてハントはナミへと声をかける。
「なぁ、ナミ……昨日ぐらいからずっと気になってたんだけどさ」
「……え?」
「その、な」
「……う、うん」
「……」
ハントが真剣な表情でナミを見つめる。あまりに真剣なソレに、困ったように顔を伏せて、だが再び顔を上げてハントの視線に答える。生唾を呑みこみ、次の言葉を待つナミ。そんなナミに、ハントは数秒ほどまた視線をさまよわせてから遂に口を開く。
「……露出多すぎじゃないか?」
「……」
その言葉で、ナミの動きが止まった。
「……」
「……」
お互いにお互いがジッと見つめて黙り込む。
おそらくはほんの数秒。だが当事者にとっては永遠のようにすら長いその沈黙を経て「はぁ?」ナミの面倒そうな、というよりもどこか呆れたような声がハントへと返されることになった。
「いやだってさ! 肩は全部出てるしさ? それに太ももだって出し過ぎだってそれ! 動きやすい恰好がいいって言うのは知ってるけどさぁ……なんていうかそんなに肌を出さなくても」
「……そう? っていうかどうしたのよ、今更」
ナミが不機嫌になったかもしれない。そう感じたハントが慌てて思ったことを伝えていくのだが、ナミはそれにただ首を傾げる。
「いや、今更って」
ハントは困惑しているが、たしかに、ナミからすれば「今更」だ。
現在のナミはワンピース姿。肩は露出しているし、胸元も見える。スカートの部分も少し短めであり、一般的には確かに大胆というか露出が多いとされる姿をしているが、これまでにナミはアラバスタでは踊り娘の恰好をしていた時間があったし、空島では上半身を水着姿で過ごしていた。
それらに比べれば今の露出はまだマシな方だろう。それなのになぜ今更そんなことを言うのか、というナミにとっては単純に不思議なことなのだが、ハントにとっては実は全然今更などではない。
単純にアラバスタはナミが踊り娘の恰好をしていた時はそこに目を向けていなかった。ルフィがなかなか買い物から帰ってこないことに不安を覚えてゾロと話していたり、エースと会ってそちらにばかり気を取られていたり。
ナミの踊り娘の恰好も砂漠歩きがあったため、時間的には随分と短かったこともあってハントはその恰好でいたナミをほとんど目にいれていないし、空島では最初のほうを白い海で遊んでいたこともあってナミの水着姿に違和感を全く覚えていなかったし、何よりすぐにエネルに気を取られることになったためやはりナミの恰好に対して何かを思うことはなった。
だが、今のこの船の上にいるという普段の状況にあってはやはりハントからすればナミの恰好に目がいかない、なんてことがあるわけがない。
だからこそ、思い切って尋ねてみたハントなのだが、ナミの首を傾げる姿に逆に困惑して「い、いや、その……すごい綺麗だし、可愛いし、似合ってるって思うけど。やっぱり、その……ナミの肌を他の奴らにも見られるのは嫌だなって思ったから言ってみたんだけど……あ、もちろんナミがその恰好じゃないと嫌なら俺もこれ以上は言わないぞ、もちろん」とまぁ、ウダウダと。
「……」
大胆かつストレートな褒め台詞を言ったことは自覚していないらしく、要は嫉妬するからやめてくれという内容の言葉をどこか女々しく言うハントに、ナミの反応は沈黙というそれ。なかなか返ってこない反応にハントは顔を上げてナミを見つめるのだが、ナミも顔を伏せているためその顔色はうかがえない。
ただ耳たぶが真っ赤になっているという事実にだけ気付き、そっと思う。
「っ……びじかわいい」
内心で思っただけのはずの、久しぶりの言葉は残念ながらハントの口から漏れていたらしくそこでナミは降参した。
「バカ! わかったわよ! もうちょっとだけ生地が多いの着てくるからあんまり褒めないでよ! ……もう!」
「え!? お、おお! ありがとうナミ! で、ででっデートの時とかは俺がちゃんと頑張ってエスコートするから好きな恰好でいいからな!」と、やはり船上で叫ばれるには少々というかナミにしてみればあまりにも恥ずかしすぎる言葉にナミは最早逃げるように船室へと逃げ込んだのだった。ちなみにハントは自分の言葉がナミを恥ずかしがらせているという事実には気づいていないものの、デートという自分の言葉に対して照れを覚えて顔を赤くしていたりする。
「……う、うぜぇ」
じゃがいものパイユをナミへと持ち込もうとしていたサンジが頬を引きつらせて小さな声で呟いていたことにはハントが気づかないのは当然といえば当然だろう。
「ぷっ」
寝ていたはずのゾロがサンジの苛立ちに気付き、小さな笑いを漏らした。
「てめぇ寝てたんじゃねぇのかサボテン野郎が!」
「何だとダーツ、こら!」
とまぁ、2F甲板での騒ぎに呼応するかのように下のメイン甲板からは「るーふぃ! るーふぃ!」とウソップとチョッパーに誘われるように「凍った俺のマネ!」と物まねを披露してみんなで大爆笑をするという騒ぎを起こす。
もはや完全にいつも通りのメリー号だが、そんな平常もつかの間で、彼らはまた新たなものを発見する。
「クロールするカエルだ!」
そんな面白いものを見つけて放置するわけがない彼らがナミを除いた一同で一丸となってそれを追いかけるのだが、そこで海列車を発見し、次いでそこにあった灯台、正式名称シフトステーションでは駅長のココロ、ココロの孫のチムニーと猫のゴンベに出会ったりして。
「じゃ行くわ、色々と教えてくれてありがとうココロさん、チムニー!」
「野郎ども! 出航準備!」
「おお!」
「気を付けてね!」
「政府の人間に注意するんらぞ!」
彼らはシフトステーションを出て、世界最高の船大工がいるという次の島、水の都ウォーターセブンを新たなる仲間を引き入れるべく目指す。
「どうした、ウソップ?」
ウソップが船のマストに抱き付いているのを見たルフィが首を傾げた。その問いに、ウソップは目を閉じて恍惚気味に語りだす。
「このブリキの継ぎ接ぎもよ……戦いと冒険の思い出じゃねぇか。これからキレイになっちまうのかと、感慨深くもあるわけだ、おれぁ……なぁ、ハントもよく一緒にこの継ぎ接ぎをやったんだ、そうだろう?」
「うん、そうかもな」
ウソップに話をふられたハントもまた同様に頷く。彼ら二人は特に船のつぎはぎ修理に携わっていたこともあって、しきりに感慨深げな表情でメリーに散在する傷跡を眺めている。
「それもわかるが……特にグランドラインに入ってからのメリー号への負担は相当なもんだ。甲板のきしみも船底の水漏れもひどい。このまま放っときゃ船も俺たちも危険だぜ」
「ああ! でも今はいっぱい金もあるしよ! 完璧に元気にしてやれるよ! パワーアップも出来るぞ!」
サンジとルフィの言葉で、ウソップとハントの感慨深そうな表情から一転して嬉しそうなソレに変わる。特にメリーを愛しているウソップの顔の輝きは誰よりもあるかもしれない。
「よし、大砲増やそうぜ!」
「じゃ銅像ものせよう」
「もっと丈夫にしてもらうとかでいいよ、俺は」
ウソップにルフィに、ハント。
それぞれが好き放題な希望を述べて会話を弾ませる中「おい、アレじゃねぇのか」というゾロの言葉に一味全員が一斉に視線を向ける。徐々に鮮明になる水の都になり、それに連れて彼らの視線を独占していく。
「うおお~~~! なんだこりゃ~~~!」
ログがたまるまでの時間は7日間。
彼らはそこで、船の修繕をしてくれる職人と船大工を探す。
「わー! なにやってんだてめぇ!」
「ちがっ……俺はただロープを引っ張っただけで……驚いたここまでガタが来てたのか」
岬にメリー号を停泊させて、帆をたたもうとしたてゾロがロープを引っ張った途端にマストが折れた。
「まったく、ゾロは力加減ってのを知らないから」
「だからただロープを引っ張っただけだっつってんだろ!」
ゾロの後頭部にチョップを入れ続けるウソップに便乗して言ってみるとものすごく唾を飛ばされてしまった。まぁ、俺も半分冗談でどっちかというとマストが折れたこと自体に驚いてる。
――ほんと、よくがんばってくれたよなぁ。
メリー号を見上げて、なんとなく手すりをさすってみる。これまでのへたくそな修繕に関しては申し訳ない気持ちがあるけど、これからはこの船に乗る新しい仲間の船大工がメリーの面倒をちゃんと見てくれる。そう考えると、申し訳ないという気持ち以上にわくわくしてしまう。
ルフィたちがどんな船大工を仲間にしたいかって言ってたけど、まぁナミにちょっかいかけない奴ならなんでもいい。あとはルフィのお好みってやつだ。
「ところでなんで島の人たちは海賊を恐れないの?」
ナミの声だ。
慌ててそっちを向くと、うむ、やはりびじかわいい。
少々スカートは短いようだけど、あんまりうるさく言って嫌われたくないからやめとこう。船の上では実際に露出の少なめの服を着てくれたわけだし。
「海賊だって客だからだろ、造船所の」
「海賊に暴れられても構わないくらいに強い用心棒がいるとか」
「いるだろうな、それくらい……これだけの都市だ」
なんだか小難しいことを言っているゾロ、ロビン、サンジの言葉は放っておくとしてナミの肩を叩く。
「今からどうするんだ? デートしよう! デート!」
「……とりあえずココロさんの紹介状をもってアイスバーグさんって人を探して、その人に頼って船の修理の手配……それにどこかで黄金を換金してくれるところを探さなきゃ。だからデートはだめ」
「……」
はい、デートじゃありませんでした。
結構勇気だしたんだけど、まぁ半分勢いで言ってみたんだけど。言われてみればやらないことがたくさんあるわけで、そりゃそうだ。ちゃんとメリー号のことを考えてるナミに比べて俺って奴はナミとデートするってことしか考えてなかった。うーむ、ちょっと反省だ。
「じゃ、じゃあ明日行こう! 明日」
「……うん、私も行きたい」
ちょっとだけ顔を伏せて、しかも小さな声で頷いてくれるナミってばもう……言葉には出来ないこの感情。絶対に俺は今にやけてる。っていうか顔が熱い。赤くなってる、確実に。
「今からのアイスバーグさん探しと換金にはハントも来てくれるでしょ?」
とりあえず先に行こうとしてたルフィとウソップを捕まえたナミの言葉に、小躍りしそうなほどに頷きたくなって、けど首を横に振った。
「え、な、なんでよ」
ちょ、そんな顔しないでください。
俺まで悲しくなる。俺だって本当はナミと一緒にいたいんだけど、とりあえず慌てて言い訳をさせてもらおう。
「純粋にデートを楽しみたいし、あとはでかけるなら二人がいいし……それにナミが船のことで出かけるなら俺も船のことでちょっとゾロかサンジに相談したいことあるし」
「考えたいこと? しかもゾロかサンジくんに相談?」
「うん」
ナミのびびるくらいの胡散臭そうな顔だ。うーむ、こんな変な顔でも可愛いって犯罪だよなって思うんだけど、すぐに聞こえてきたルフィの「よし、じゃあまぁ行こう! 水の都!」という声に現実に引き戻されてしまった。
「ほら、ナミもハントもさっさと……ん? ハントは行かねぇのか?」
「ええ! なんか考えたいことがあるんですって!」
あぁ、ちょっとだけナミが怒ってるような声だ。一瞬前まではすごいいい感じだったんだけど……なかなか難しいものだ。まぁそんなナミも可愛いからいいや。っていや、だめだ。こんな感じでジャヤでも怒らせちゃったんだっけ。
「あ、あとでちゃんと全部言うから! その……ごめん、ナミ!」
「……」
ルフィとウソップに半ば強引に連れてかれるような形でそのままついてくナミは止まってくれない。必死に手を振るけど、もちろんナミがそんな俺に気づいてくれるわけもない。あぁ、また失敗したかなぁって思いながら、それでも見つめてるとナミがこっちを振り向いてくれた。
「っ!」
慌てて全力で手を振る。
「……」
それに、ナミも無言だけど軽めに手を振り返してくれた。ナミが笑顔でそのまま歩いていく。
……今回はナミを傷つけなくて済んだ。そんな気がした。いや、まぁもともとさっきのナミの感じからするに本気で怒ってるとか傷ついてるって感じない気もするけど……まぁ、細かいことはいいか。
「ふぅ」
ため息をつく。
なんというか一仕事やり終えた。
って思ってると後ろから声が。
「ふふ、漁師さんも少し成長したみたいね」
「そうなのか? 俺は良くわかんねぇ」
ロビンとチョパーだ。
「み、見てた?」
「ええ、全部」
「見ない方が良かったのか?」
うぅ、恥ずかしい。っていうかチョッパーの純粋な言葉になんか耳が痛い。そ、そうだよな。別にみられておかしいことはやってないよな。
……やっぱちょっと恥ずかしい気がするけど。
「って、ん? 二人とも出かけるのか?」
「ちょっと船医さんと買い物に行ってくるわ」
「うん、ロビンと本とか買いに行くんだ。」
「そっか、行ってらっしゃい……っていうのもなんか変か?」
「どうかしら」
船から出る人間を見送るのに行ってらっしゃいっていうのはどうなんだろうか。メリー号もある意味では家っていえば家なんだけど、なんだか違和感があるような……なんてことを俺とロビンで首を傾げてると「行ってきます!」と、俺たちの悩みを見事にすっ飛ばしてくれるような元気な挨拶とともにチョッパーが船から飛び降りた。
「ロビン! はやくいこう!」
チョッパーがロビンを連れて歩いていく。
うーん、仲がいいなぁ。あの二人。
「……って、あれ? じゃあ今船にいるのって俺とゾロとサンジだけか」
丁度いいのかもしれない。あ、でもサンジは買い出しとかありそうだなぁ。なんてことを想いながらゾロを探すと「あ」目があった。ずっと手すりに胡坐をかいて座っていたせいで視界に映らなかったからそこにいるのに今更気づいた。
「……ゾロ、ずっといた?」
「そうだな、お前とナミがデートの約束をしたあたりからずっと聞いてた」
「……」
よし、もう気にしないことにしよう。
「お、今度は顔赤くならねぇんだな」
「人がせっかく気にしないでおこうって自分に言い聞かせたところでチャチャを入れないでくれない!? いいんだよ! もう一々恥ずかしがってたらナミとこう……ゆっくりと話も出来ないから!」
「へー」
「って興味ないのかよ! じゃあ聞くなよ!」
「俺は顔赤くならねぇんだなって言っただけで何も聞いてねぇ」
「……」
なんだろうか、この敗北感。
もう、このやってやったぜ的な表情で俺を見てくるゾロの表情にすら敗北感を覚える。い、いや、別に俺負けてないし。
「そういやゾロはここで船番か?」
「ああ……そういやさっきナミとお前が話をしてる時に俺に話があるみてぇなこと言ってたな」
「ん? ああ、そうなんだよ。ゾロかサンジに聞こうと思ったんだけど……そういやサンジは?」
「まだ下だろ」
とか言う会話をしてきたらうまいことサンジの声が。
「ロビンちゃんは!? 船にいねぇぞ!?」
「ん? ああ、いねぇよ。さっきチョッパーと出てった」
「何!?」
「買い物に行くんだと」
「何てこった、じゃあてめぇらだけか。船にいんのは。なんてつまらねぇ空間」
「同感だ」
「よし、じゃあ俺も買い出しにでも行くからよ! おめぇらちゃんと船番しとけよ?」
普段から喧嘩ばっかりしてるこの二人が普通の会話をしてると、なんというか一種の感動めいたものを覚えてしまう。なんか邪魔したくないって感じるのは……まぁどうせ俺ぐらいか。他のみんなはあんまり気にしないで会話に入りそうだ。
今にも出かけようとしてるサンジに「行ってらっしゃい」という言葉を投げかけると「おう、行ってくる」と、サンジからも当然のように返ってきた。しまった、これならナミにも行ってらっしゃいって言っておけばよかった。
まぁ、今更だけど……よし、今度からはちゃんと言おう。
「で? 話ってのは?」
「おっと、そうだった」
ゾロがもたれかかってる手すりに背中を預けて座り込んだまま、俺は立ったままの状態で隣に並ぶ。
「本当はゾロだけじゃなくてルフィとサンジにも話をしたほうがいい気はするんだけど」
「……?」
「空島であったマントラ……まぁ青海だと見聞色の覇気って言われてるけど。覇気についてやっぱり3人にも覚えてもらった方がいいのかなってちょっと最近思うようになった」
ロングリングロングランドでフォクシーにルフィが苦戦したときに一度悩んで、それは口にしないと決めたことだった。けど、やっぱり青キジとの戦いがあって話を聞く限りほとんど相手にすらならなかったという話を聞いてやっぱり話を切り出すだけ切り出してみようと、そう思った。
口にする分には別に誰かに迷惑をかけるということもないんだから、構わないだろう。
「まぁ、前にも言った通り尋常じゃ無い時間と労力が必要になるから、例えばこういう場所で一年ぐらいは停泊しなきゃならなくなる。これからの敵はどんどん厄介になると思うし、それで――」
「――ばかか、てめぇ」
一刀両断!?
切れ味良すぎじゃね!?
そう思えるぐらいにばっさりと話を切られてしまった。
戸惑う俺を見て、ゾロがこっちを見ることなく、言葉をつづける。
「いらねぇよ」
「……えっと」
なんで?
っていう言葉を発する前に、またゾロが言う。
「……今は覇気ってのを使えないが、いつか勝手に覚えてやる。うまい具合に例が身近にあるわけだしな」
例って……あぁ、俺のことね。
「俺たちは仲間で、それぞれがそれぞれにしかできねぇことがある……その中で俺たちぁ必死になる。それでいいんじゃねぇか? 俺もルフィもコックも、どうしても必要になんならお前に頭を下げる。少なくとも俺は、いやルフィもコックもそう思ってるはずだ」
「……」
つい、黙り込んでしまった。
俺たちは仲間。
その意味を俺はまだまだ理解できていないのかもしれない。
ゾロの言葉が真剣なそれで、なんとなく俺はまだまだだなぁと思った。
3人に教えるんじゃなくて、3人に出来ないなら俺がそれを仲間としてフォローできるぐらいに強くなれと、俺たちはそんなフォローもいらねぇぐらい勝手に強くなると、ゾロに遠まわしに言われた気がした。
「そっか……わかった。もう何も言わない」
「ああ、そうしろ。話は終わりか? 俺はもう眠いんだが」
「へいへい、俺も適当にのんびりしてるよ」
言い終わるや否や、いきなりいびきをかいて寝だしたゾロにちょっとだけ笑いそうになるけど、それを堪えてまた視線を明後日に向ける。
俺には足りないものがある。
ルフィやゾロ、それにサンジにもあってきっと俺には足りないものだ。
まだまだそれを俺が得るには遠そうだけど、なんとなく、本当になんとなく。その答えに近づけた気がする。
優しい潮風が吹いた。波は静かで天気もいい。日差しも強すぎず薄すぎず。まさに心地良い。
今の俺たちは青海にいる。
白い海も好きだけど、やっぱりは俺はこの青い海のほうが好きだ。
視界にいっぱいに広がる海の濃い青と空の薄い青、それに時々流れる雲の白がなんだか嬉しい。
「あー、早く明日にならないかなー」
ナミと色んな話をしたいと、この青空に感化された気がした。
「……ん?」
人がせっかくいい気分浸ってたのに、いつの間にか変な奴らが船の周りにいた。
「なんか来たぞ、ゾロ」
「わかってる」
「……面倒だなぁ」
俺のつぶやきとほぼ同時。甲板に乗り込んできた妙な奴らはなんか黒い恰好をしていて、サングラスのようなゴーグルのようなメガネをかけているのが特徴。
「誰だてめぇら」
「泣く子も黙るフランキー一家だ! 海賊狩りのゾロ、海坊主ハント! てめぇらの首、計1億2千万。ありがたく頂くぜ! そして船内で待ち伏せて一味全員一網打尽だ!」
ゾロの半分威嚇が入った声にも彼らは気づかない。気にも留めないのではなく、あくまでも気づいていない……うーむ、弱そうだ。
「うはは、ぼろ儲けだ、ラッキー! やっちまえ!」
本当にけっこう嬉しそうに刀で切りかかってくるフランキー一家。とりあえずブッ飛ばそうと思って前に出ようと思ったら先にゾロに前に行かれて、しかも目で「俺がやる」みたいな顔をされてしまった。ゾロの極悪顔はなかなかに極道だね。
「ラッキー? アンラッキーだろ。二刀流、犀回!」
「うぎゃあああ!」
「……よわっ!」
全員、ゾロの突撃しながらの回転切りに一撃KO。そのまま海へと落とされた。どうやらみねうちのようで、全員生きている。ゾロは顔に似合わず優しいところがある。というかそんなことよりもフランキー一家弱すぎじゃないだろうか。
秒殺? いや、瞬殺? どっちでもいいけどもうちょっとこう……いや流石に。
「くだらん」
ゾロがまた目を閉じて息を吐く。
俺ももう寝ようか。ちょっとだけそう思った。
小さないびきと静かな寝息がメリー号に響く。
彼らはまだ知らない。
あと数分後に来る一人の船大工に聞かされる言葉を。
「メリー号がもう……走れない?」
聞かされた言葉に、彼らは一気に目を覚ますことになる。
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