ファイナルファンタジーⅠ
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31話 『蒼き力』
前書き
【28話からの続き】海の中のイメージで、セリフは「" "」にしています。
────限りない[空気の水]の膜に守られ、海底神殿に潜入したランク、シファ、ビル、ルーネス、レフィアの5人は青暗い中、ふと現れたほのかに白く発光しているかのような一匹の白銀の長い髪の人魚に、言葉は交わさずいざなわれる形で最深部へと辿り着く。
……そこには、六角長形の大きな水のクリスタルが祭壇に祀られていたが、その輝きは黒ずみ失われていた。
『 ────── 』
「"お前……、オレに[空気の水]をくれた人魚なンだろ?"」
シーフのランクが話しかけるも、人魚は美しい後ろ姿のまま振り向かず黙っている。
「"し、シファさん………あの人魚さんの髪型と色、マゥスンさんにそっくりでスね"」
「"そうだね……、後ろ姿追いかけてきたから正面はまだ見てないけど、顔も似てたりするのかな……?"」
そのように思えてならないビルとシファ。
「"何でしゃべってくんないんだ? つーか、こっち向いてくれねーかなぁ"」
「"あんた下心見え見えね、そんなに人魚の上半身見たいわけっ?"」
男子ルーネスの思考に呆れるレフィア。
「"他の、人魚達はどこなんだ? それに水のカオスのヤローは────"」
『ダメ、離れて……!』
人魚が振り向き様ひと声上げたその瞬間、水のクリスタル祭壇の影から幾つものうねった触手が現れ、5人の胴体を絡め捕った。
《ゴクロウダッタナァ、えまヨ……!》
真っ青な触手だらけの巨体が姿を現し、その際エマと呼んだ人魚も共に捕らわれた。
《ワレコソハ水ノカオス、クラーケン……。待ッテイタゾ、水ノクリスタルノ欠片ヲ司ル者……!》
醜悪な顔つきのクラーケンは触手に捕らえた者達をギリギリと締めあげる。
『ごめん、なさい………あなた達をあざむくつもりは──── 』
「"大方、そうでもしねェと他の人魚キズつけるとか云われたんだろ。……視界わりぃが、よく目を凝らしてみりゃ分かるぜ"」
ランクの云うように周囲をよく見ると、半透明で球体の[泡の檻]のようなものに多数の人間達が個々に捕らわれているのが辛うじて見てとれる。
「"やらしい事してるじゃないの……、そんな奴にはあたしがお仕置きしてあげるわ!───<サンダガ>!!"」
触手に捕らわれていながらも赤魔道師のレフィアは雷属性の黒魔法を放ち水のカオスに喰らわせるが、海中のせいか電流が他の者達にも伝わり少々味方もダメージを負ったとはいえ、触手から5人共解放される。
「"すす、すごいでスねレフィアさん………黒魔道士顔負けでスけど、ボクらまでちょっとシビれちゃいまシたっ……"」
「"大丈夫、わたしがすぐ回復するから……! <ヒーラ>!"」
白魔法を唱えて皆を癒すシファ。
「"────おれはイカタコヤローが大っキライなんだ、さっさと片付けてやる!"」
戦士のルーネスが長剣短剣の二刀流を駆使して触手だらけの巨体に斬撃を喰らわせてゆく。
「"何だアイツ、妙にやる気出しやがって……。そうだ、あの人魚は────"」
ランクが目で探すと、エマという白銀の長い髪の人魚だけはクラーケンの触手に捕らわれたままでいた。
「"クソヤローが……! その人魚を放しやがれッ!"」
ランクも二刀の短剣グラディウスで幾つもの触手に斬りつけてゆき、レフィアは片手剣に雷属性を付加させて攻め、ビルは物理攻撃力を増幅させる黒魔法、シファは補助系白魔法を使って皆をサポートする。
《ワレノ人魚、ワレノ娯楽ヲ奪ワセテナルモノカ……!? コレデモ喰ラエ!!》
『あ、ダメ……!』
おぞましく裂けた口から突如、濃密な墨を吐き出し5人の視界を奪うクラーケン。
「( ………ッ?! くそ、何も見えねェ! イカヤローはどこだ……!?)」
「"あぁ……!"」 「"ひゃあっ……?!"」
「"ぐ……!"」 「"あぅ……っ"」
他の皆の苦しむような声が聞こえても、視界は暗闇に閉ざされ何がどうなっているのか分からず、ランク自身も何かに体が押し潰される感覚に襲われ、回復する間も与えず水圧で動きを失わせた上クラーケンは触手で何度も鋭く5人を打ち付ける。
《水ノクリスタルノ欠片ヲ司ル者ヲ消セバ、ワレノチカラハ増ス……! 海ヲ荒ラシ、汚水ヲ広ゲ……陸ヲ水没ニ追イ込ミ、愚カナ人間ヲ死滅サセル! ソレコソ、カオスニ相応シキ暗黒ノ世界……!!》
『 ────そんな事、させない!』
人魚エマから光が迸り、電流となってクラーケンに伝わり捕らえられていた触手から解放され、5人への一方的な攻撃をやめさせる。
《フオォ?! ドウイウツモリダ……エマ!》
『雷の力が封じられた[珊瑚の指輪]……。あなたの目を盗んで、この神殿内で見つけた物です。────これだけではあなたを倒せなくても、私はもう云いなりにはならない。これ以上、海の生き物やその人達を苦しめないで!』
《ワレノ娯楽ゴトキガ……、逆ラウナ! 思イ知ラセテクレル……!》
クラーケンが呼び寄せたのは、小型で群れを成す凶暴な海魔(かいま)ピラニア。
《死ナスデナイゾ! ジックリト痛メツケ、ワレニ逆ラエバドウナルカソノ身ニ刻ミツケテヤルノダ……!!》
[珊瑚の指輪]の電撃で退けてもピラニア達は鋭い牙をむき、浅いながらも人魚エマの全身を傷つけてゆく。
「"────ざけてンじゃねェぞ、このクソイカヤローが………"」
海底神殿の床に沈み込んでいたのからつと浮上したランクの左手には、光渦巻く水流と共に出現した蒼く透き通る大剣・クリスタルブレードが握られていた。
……それを頭上に掲げると、濁った海中に光が射し込んでゆき人魚エマを襲っていたピラニアの群れはその光で消滅し、他4人の仲間は視界が戻り体勢を立て直すが人魚のエマは、水のクリスタル祭壇の傍らに沈み込む。
「"なぁレフィア、あの人魚……!"」
「"分かってるわ、あたしが回復する"」
ルーネスとレフィアは、人魚の元に泳ぎ向かった。
「"ふわぁ、ランクさんの体が青白い光に包まれて、別人みたいでスよっ……!"」
「"キレイな剣………。あれって、水のクリスタルの欠片の力────?"」
放心したように驚き見上げるビルとシファ。
《フオ゛ォ!? ソノ清浄ナ光ハヤメロオォ゛……! 消シテヤルゥ、コロシテヤルウゥ?!》
「"こちとらテメェなンぞに………構ってるヒマねーンだよッ!!"」
ランクの大剣・クリスタルブレードの縦ひと振りで真っ二つになった水のカオスは、巻き起こった光の渦と共に跡形もなく消え失せ、それを見届けるかのようにランクの左手に握られていた大剣は水の泡と化して消失し、体を包んでいた青白い光も治まった。
「"────エマ!"」
祭壇の傍らに沈み横たわる人魚と、そのそばにいるレフィアとルーネスの元へ弾かれたように海中を降下するランク。
「"おいお前ら、エマは────"」
「"全身に受けていた浅い傷は回復できたけど、意識を戻さないのよ………"」
「"このまま死ぬなんて事、ないよな。何とかしてやれないのか……!?"」
苦しげに瞳を閉ざしたままの人魚を、心底案じたように見つめるレフィアとルーネス。
「"わたしも、白魔法かけてみる……!"」
「"待ってくださいシファさん、たぶん白魔法の回復だけじゃダメなんでス。……ランクさん、水のクリスタルの輝きを取り戻すなら今でスよ?"」
ビルから促されるように云われ、ハッとするランク。
「"そ、そーだったなッ。で、どーすりゃいいンだ……?!"」
「"落ち着いてください、ランクさんっ。水のクリスタルの祭壇に近づいて、欠片を掲げるんでスよ"」
「"あぁ、そーか。ビルが前にやったみてェに────そういや、マゥスンはやってねェんだよな………"」
火のクリスタルの欠片を砕かれた時のマゥスンを思い出し、胸の奧が締め付けられてランクはうつ向く。
「"ちょっとランク、そこで落ち込んでどうするの? ……ほら、他の人魚達も待ってるよ。水のクリスタルに輝きが戻るのを"」
励ますように云うシファの言葉に押され、ランクは祭壇に近づき水のクリスタルの欠片を左手の平に出現させ、黒ずんだ六角長形の大きな水の源のクリスタルに掲げた。
────欠片の内なる淡い光に呼応した水のクリスタルは蒼き清浄な輝きを取り戻してゆき、それまで濁っていた海中に幾つもの光の筋が射し込んで明るさを増し、その場の者達は癒され人魚のエマも意識を取り戻す。
『懐かしい、暖かな海の輝き……… 』
他の人魚達と一緒になって、海中を美しく舞い泳ぐエマ。
「"……………"」
輝きの戻った水のクリスタルをどこか沈痛な面持ちでルーネスが見つめているのに気づいたシファは、心配になって声をかける。
「"ルーネスくん、どうかしたの?"」
「"────ん? いや、何でもないって"」
すぐに表情を変えて笑顔を返してきたのでそれ以上聞かず、レフィアの方にも目を向けると黙ったままルーネスを見つめていたようだが、シファの視線に気づいて目を逸らした。
( 何か、事情がありそうだけど…… )
『あなた方のおかげで、水の源のクリスタルに輝きが戻りました。本当にありがとう……』
人魚を代表して礼を述べるエマ。────よく見ると他の人魚達は長いブロンドの髪だが、エマだけは白銀のようだ。
『海中に没し、人の手が届かなくなった神殿の水のクリスタルを守ってきましたが………ある時、水のカオスが姿を現し私達人魚は奴隷として扱われました。水の源の力を我が物にしようとしたクラーケンは陸の人々を苦しめ、汚水を撒き散らして暗黒の海を広めようとしていましたが────それもあなた方の力で阻止されました』
「"そういや、オレらからも礼云ってなかったな。イカヤローの一方的な攻撃、止めてくれてありがとなエマ。そのせいで、傷ついちまって………"」
申し訳なさそうに云うランクに、エマは微笑み返す。
『あなた方のお力に少しでもなれたなら、それで充分です。あの……、水のクリスタルの欠片を持つあなたのお名前は?』
「"オレか? ランクって云うんだ"」
『ランク様………』
少しの間、互いに似たサファイア色の瞳で見つめ合ったあと、ランクから話を切り出す。
「"オレ達、そろそろ地上に戻らねェと。……水のクリスタルの事は、頼んだぜエマ"」
『はい……、お任せください。今度こそ私達の手で、お守りします……!』
「"─────!?"」
思いがけず、人魚のエマから額にキスされるランク。
「"ふあっ、うらやましいでス~……!"」
「"あの子の前で少しカッコつけて見えるのは、気のせいじゃないよね………"」
ビルはとんがり帽子の中の闇から黄色く丸い双眼を爛々とさせ、シファはランクの態度の変化が気になる。
……レフィアは、ルーネスがさっきと違って人魚達を眺め回し鼻の下を伸ばしているのを見て、カチンとくる。
「"あんた、このまま人魚達と海底神殿に住んでれば?"」
「"あぁ……、それもいいかもなぁ~……!"」
「"────あんただけカエルにしてやろうかしら"」
「"うわっ、冗談だって! トード使おうとするなよ……?!"」
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