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転生赤龍帝のマフィアな生活

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番外編:パラレルワールドに行きます ~その三~


ヴァーリは笑っていた。何も分からぬままに地面に叩きふせられたという現実が楽しくて仕方がなかった。自分がいきなり劣勢を強いられるなどという状況など久しくなかった。戦闘狂の性がその状況を全力で楽しみに変換していた。彼は自分を押さえつけている力が重力操作であることを見抜き、自らの半減の力で重力を弱めて立ち上がる。


「その力、君はただの赤龍帝じゃあ、ないな―――」

「話してる暇があんのか?」

「ゴハッ!」


話をしようとした瞬間、腹部に鋭い拳が突き刺さる。すぐに自ら後ろに飛び去り衝撃を逃す。そのためにダメージは少なかったが、殴られた部分の鎧は砕けるのではなく見るも無惨に分解されて溶けていることに冷や汗を流す。明らかに赤龍帝の能力ではない。

恐らくはグローブとマントに灯す炎の能力だろうとヴァーリは検討をつけるが、それが何であるかは分からない。そもそも、鎧以外の禁手など聞いたことがない。この世界の兵藤一誠も自分の相棒が言うにはかなり異質な進化を遂げているらしいが、今目の前にいるもう一人の赤龍帝はそれ以上であることは間違いないだろうと判断を下す。

だが、と彼は鎧の下の顔を笑みで歪ませる。相手の手の内が分かる戦いなどそもそも、殆ど無い。いつもと何ら変わらない戦いだ。ただ、ひとつ違う点があるとすれば、それは相手がこれまでで最高の強敵だということだ。それだけでヴァーリの気分は高揚する。だが、対する相手は気に入らなさそうに鼻を鳴らすだけだ。


「心残りはあるかドカス」

「そんなものはないさ」

「そうか……なら―――死ね」


刹那、オレンジ色の業火がヴァーリに焼きつくさんと襲いかかる。それに対してヴァーリは素早く反応してそれを避けると同時に魔力による白銀の弾幕を打ち出す。一方の“イッセー”はそれに対して眉ひとつ動かさずに宙に浮きながら腕を組んでその全てを受ける。

そして、“イッセー”を中心にして爆煙が立ち上ると思われた。だが、その期待は大きく裏切られ白銀の弾幕は突如としてオレンジ色の炎に飲み込まれてしまった。その現象に、その理屈を知らない者達は驚愕の声を上げる。


(アルビオン、あの炎をどう見る?)

(やっかいな能力だな。撃ち出したり、拳に灯らせるだけでなくあの炎事態に特殊な力がありそうだ)

(そうだな……俺の攻撃を飲み込んだあれはやっかいだ。恐らくは肉弾戦で相手するしかないだろうが、奴は肉弾戦も得意だろう。おまけにさっき腹に受けた攻撃は危険だ。生身の部分に当てられていたらその部分が使い物にならなくなっていただろうな)

(それとだ。確か、あの時の奴の炎の色は赤色だった。もしかすると複数の能力があるのかもしれん、気をつけろ)

(ああ、言われなくとも)


ヴァーリは今まで見せたことがないような真剣な表情になり、“イッセー”を睨みつける。そんな様子にこの世界のイッセーは、驚きの表情を浮かべる。自分にとっては遥かに格上の存在であったライバルが完全に挑戦者の目をしてもう一人の自分を見ているのだ。それだけで、もう一人の自分の力の底の無さを思い知る。そして、両者は空中で浮きながら言葉を交わす。


「少しはやるじゃねえか、カスの分際で」

「これだけが取り柄なんだ。そう簡単には負けられないさ」

「なら、少し遊んでやる」

「すぐに遊びじゃすまなくするさ!」


そういうと同時に一気に加速し“イッセー”へとヴァーリが突進していく。そのスピードは普通の人間であれば避けるどころか視認できないスピードだが“イッセー”はそれを軽々しく躱す。しかし、ヴァーリの狙いは元々距離を詰めて肉弾戦を行う為なので、焦ることもなく素早く反転し、死角から鋭い蹴りを繰り出す。だが、それは難なく躱されてしまう。

さらには、振り返ることもなく裏拳で顔を攻撃されて面をくらってしまう。どうやって自分の位置を正確に判断しているのか分からないがこのままだと危険だと判断し、すぐに距離を置こうとするがすぐに距離を詰められて、凄まじい拳のラッシュを受けてしまう。その拳には今度は緑色の炎が宿っており、一撃一撃が重く、堅かった。


「ちったぁ、楽しませてくれよ」

「言われなくとも!」


一方的に攻撃されても未だに戦意は落ちないのか、ヴァーリはそう叫んでこちらも拳で応戦する。そんな様子に“イッセー”はほんの少し感心したような顔をするが、ヴァーリの拳をどうしても避けられない胴への攻撃以外は来る前から分かっているとばかりに避けて行く。ヴァーリの半減の力も、相手が赤龍帝の為にその意味をなさない。


「落ちな!」

「その程度、振り払って―――っ!? 何だ、この脱力感は!」


“イッセー”がヴァーリの拳を受け止め、その腕を利用して背負い投げの要領で遥か下にある地面へと叩きつけようとする。ヴァーリはその手に対して体を捻って振り払おうとするが、急に体に謎の脱力を覚えて、動きを止めてしまう。

驚愕して“イッセー”に掴まれた腕を見るヴァーリの目にはまるで雨のように自分を包み込む、青い炎が写った。その次の瞬間には彼はなすすべもなく地面に叩きつけられていた。未だに脱力感が抜けないヴァーリにアルビオンが声を掛ける。


(ヴァーリ、今のお前の体の機能はどういうわけか“鎮静”されている。麻酔をうたれているようなものだ)

(彼はそんなことまで出来るのか。……ふふ、これが力を半減される感覚なのかもな)

(そんな事を言っている暇があったら回復を急げ。お前ならすぐに回復できるはずだ)

(それは相手も分かっているだろう。見ろ、わざわざ俺が回復をするのを待っている)


そう言って、ヴァーリが見つめる先には彼を見下ろしながら悠然と宙に浮く“イッセー”が居た。完全に遊ばれているとも思うが、実際のところ力の差はそれほどに開いているので文句の言いようがない。そこでヴァーリは奥の手を使う事を考える。


白銀の(エンピレオ・ジャガー)極覇龍(ノート・オーバードライブ)を使うか)

(確かにそれならいけるかもしれんが……ほんの数秒で倒せるのか? 奴はまだ全力を出していないのかもしれないぞ)

(だとしても、使う価値はある)


奥の手を使おうかとも考えるがやはり数秒しか使えないのではと言うアルビオンに対してヴァーリは使うしかないと答え詠唱を始めようとするが―――


「何をしようとしているのか知らねえが、俺が見逃すとでも?」

「今度は銃だと?」


ヴァーリが何かを行おうとしていることに気づいた“イッセー”が素早く2丁拳銃に持ちかえて標準をヴァーリに合わせる。その事に思わず意識を釣られて詠唱を途中で止めてしまうヴァーリ。それも当然だろう。まさか神器が全くの別物に姿を変えるなど思っても見なかったのだから。

禁手の亜種というものの、存在は知っているが、こうも形の異なる二つの禁手を見るのは初めてだ。そうして呆気にとられているヴァーリの元に銃口から放たれた無数の龍が襲いかかってくる。ヴァーリはすぐにその場から飛んで逃げようとする。だが、龍はまるで自らが意思を持っているかのように逃げるヴァーリを追っていき食いつく。


「ぐっ!?」

「悪いが、そいつは重力操作でてめえの方に向かうようにしてんだ。逃げられると思うな」


“イッセー”はそう吐き捨ててヴァーリの周りを高速で旋回しながら憤怒の炎と大地の炎を混ぜた炎を連続で発射していく。攻撃対象に炎が辺り弾けるその様はまるで炎の華が咲いているかのように見える。


炎の蕾(ボッチョーロ・ディ・フィアンマ)!」

「くっ! このままだと不味いな…っ!」


避ける術もなく、まるでいたぶるようにジワジワと自分を痛めつけていく攻撃に流石のヴァーリも焦りを感じ始める。しかし、どうしようもなくただ、自分の周りを高速で旋回する相手を見つめる。その目は楽に死ねると思うなよと言わんばかりの冷たい光を放っていた。そして、“イッセー”がさらに連射速度を上げ、ヴァーリを追い込もうとしたその時だった。


「地獄に落ちろや! この糞野郎がっ!!」

「その台詞―――親馬鹿か!?」


突如降り注いできた、無数の光の槍に対処せざるを得ずに舌打ちをしながらヴァーリへの攻撃を止めて光の槍を打ち消す“イッセー”。その間にその槍を放った人物が二人の間にヴァーリを守るように立つ。そして、同時にもう一人の男が“イッセー”へと手を変化させた剣で斬りかかる。それを軽々と躱すイッセーだったがその顔は胃痛の為に歪んでいた。最もそれが分かる人間はこの場には彼しかいなかったが。


「アザゼル……なぜ、俺を?」

「悪いが、俺は娘の方のパパだぜ。お前の方のパパじゃねえよ」

「パ…パパ……だと?」


自分が知るアザゼルとは明らかに違う事に戸惑いを覚えるヴァーリ。だが“アザゼル”の方は特に戸惑いも覚えることなく、“イッセー”の方を睨みつけている。そんな視線が気に入らないのか“イッセー”は額に青筋を浮かべて顔を引きつらせている。そして、“アザゼル”は堂々と宣言をする。


「例え世界が違っても俺は―――子を守る! それが親としての務めだ!」

「……親」

「ヴァーリ。俺はこの世界の俺がどういうやつかは知らないが、一つだけ断言できることがあるぜ。……血がつながっていなくても、アザゼルとヴァーリという人物は―――親子だ」

「ふ……ふふふ。そうか……親子か。偶には親孝行というものをするのもいいかもな」


“アザゼル”の言葉に目を見開いたヴァーリだったが、やがて、掠れた声で笑い始めてそう呟く。そんな暖かな空気が流れる中、もう一人の親はここがチャンスだと思って“イリナ”に話しかける。


「“イリナ”、わが同胞の言う通りだ。私はお前を守らないといけないのだ。だから一刻も早くあの男から離れるんだ!」

「いやよ。あなたみたいな蛆虫以下のゴミクズの命令なんて聞かないわ」


暖かな空気は一瞬で崩れ去る。“イリナ”の余りの罵倒ぶりにこの世界のイリナは唖然として二人を交互に見つめる。性格はかなり違うが顔は自分の父親と全くと言って良い程同じなのでこの二人は親子なのだろうと見当をつけるがそれならば一体全体この冷たさはどこから来るのかと思って見ているとそれに気づいたT・シドーが“イッセー”を指差しながら声高に答える。


「全てはあの悪魔が我らの最愛の娘を誑かしたからだ!」


ああ、こいつら親馬鹿だ。この世界の住人の心はこの時そう思う事で一致した。そして、“イッセー”の方を見てみると明らかに辟易した様子で二人の親馬鹿を見つめていた。そんな様子にイッセーは大変なんだろうなと思わず同情の念を抱いてしまう。


「“ヴァーリィィィッ”! 早くパパの家に戻って来てくれよおおおっ!」

「パパが僕と“イッセー君”の結婚を認めてくれるまでは帰らないよ!」

「まて、いつ俺がお前と結婚することになったんだ?」


“イッセー”の疲れ切ったツッコミにも反応することなく“アザゼル”と“ヴァーリ”は親子喧嘩を繰り広げていく。その様子にイッセー達は、誰だ、こいつといった感じの表情で見つめる事しか出来ない。その間にも“イッセー”の胃痛は酷くなっていき、ついに我慢しきれなくなり胃薬を飲もうとするが何故か、常備しておいた胃薬が無いので不思議に思っていると不意に肩を叩かれた。


「お探し物は、これかにゃ?」

「なんで、てめえが持ってんだ? ……というか、てめえ俺の方のカス猫か」

「にゃははは! そこは俺の女って言ってもよかったのに」

「ぬかせ。いいから、そいつを寄越せ」

「はーい。でも、一発で見抜いてくれたのは嬉しかったにゃ」


何故か、一緒に来ていた“黒歌”から胃薬を受け取るとその中身を一気にあおる“イッセー”。この世界の黒歌はそんなもう一人の自分の登場を面白そうに見ていたが内心としては妹とはどういった関係になっているのかと聞きたい気持ちでいっぱいであった。そして、“イッセー”の精神世界では黒歌が二人になったことで一人の変態(紳士)が狂喜乱舞していた。


「それにしても、なんで、一発で分かったのにゃ?」

「あ? 俺がてめえを見間違えるわけねえだろうが」

「っ! そ、そう言われると照れるにゃ」


“イッセー”の言葉に思わず顔を赤らめて恥ずかしがる“黒歌”そんな様子に訳が分からず内心で首を傾げる“イッセー”。なぜなら、彼はお前みたいなムカつく奴の顔を間違えるわけがないという意味と超直感の恩恵により間違えなかったと言ったつもりなのだから。しかし、誰にもその意図は伝わらずに、“イリナ”から嫉妬による殺意を向けられて若干冷や汗を流す彼であった。


「で、どうやって、てめえらは来たんだ?」

「それは“ヴァーリちん”がいなくなって死にもの狂いになった“アザゼル”が変な機械を作ったからにゃ」

「また、面倒な真似をしやがって……で、てめえは観光気分で来たのか?」

「そうにゃ。こっちの白音に会ってみたかったし―――」

「避けろ!」


不意に“イッセー”がそう叫び声を上げて黒歌を抱き寄せてすぐさまその場から飛び去る。するとついさっきまで二人が話していた場所に極太のレーザー光線が通りさり、大気を焼く。そのレーザー光線を放った主、T・シドーは避けられたことに悔しそうに歯ぎしりをする。

因みにイッセー達はまさかレーザー光線が放てるとは思っていなかったらしくポカンと口を開けて見つめる事しか出来ない。しかし、“イッセー”は黒歌を胸に抱きかかえたまま怒りの表情でT・シドーを睨みつけている。抱きかかえられた黒歌は突然抱き寄せられたことと顔を“イッセー”の胸に埋めていることに混乱して顔を真っ赤にしている。


「おい、親馬鹿。このムカつく奴を殺していいのは俺だけだ!」

「お前が避けなければ、当たることはなかったのだ。別に殺そうとしたわけではない」

「言い訳なんざ、いらねえんだよ。俺がカッ消す予定だった奴を消そうとした罪はでけえぞ。いい加減、てめえとの付き合いも飽きたんだ。ここで消させてもらう」

「それはこっちのセリフだ!」


そうして、二人は殺気をまき散らし始め、今殺し合いが始まろうとした時だった。突如として、体を焼くようなに熱さが“イッセー”に襲い掛かる。急に苦しみ始めた“イッセー”にT・シドーも訳が分からずに見つめる事しか出来ない。そして黒歌は忘れていたとばかりに、あ! と声を上げる。ようやく、苦しみから逃れたらしいイッセーが顔を上げる。

その顔はどういう理屈か髪が背中にかかるまで長く伸びており。顔全体の輪郭も少し、丸みが出て女性らしさが強調され。唇もふっくらとしており目つきもほんの少しだけだが柔らかくなっていた。そして極め付けが絶世美女とも言えるプロポーション。スラリとしたスレンダーな体つきに似合わず、出るところはしっかりと出て、へこむところはへこんでいる体型。そう、彼はまた―――女になったのだ。



((((姉御の再臨じゃああああああっ!!))))



イッセーは自らの精神世界からそんな声が聞こえてくるのを茫然としながら聞いていた。


 
 

 
後書き
変態は増殖する(ゲス顔) 
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