鏡に映るもの
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10部分:第十章
第十章
「しかしだ」
「しかし?」
「今度は何なのかな」
「悪戯のことだ」
ここでも生真面目な態度のハインリヒだった。もうその手に剣は持ってはいないがそれでも目は顰めさせている剣呑なものを少しだけ漂わせて彼等にまた問うのである。
「そのことだが」
「そのことがどうかしたの?」
「何故悪戯をする?」
こう彼等に問う。
「何故だ、それは」
「何故って?」
「理由がいるの?」
「どうして?」
「どうして?では何の意味もなくしているのか」
「だって私達妖精だし」
ハインリヒの問いにこう返すのだった。
「妖精が悪戯するのって普通じゃない」
「そうそう」
彼等の中で自己完結してしまっていた。
「妖精なんだからそれが仕事なんだし」
「理由なんてないわよ」
「わからんな」
妖精達の言葉を聞いてさらにわからず首を捻るのだった。
「悪戯をするのにも理由がいらないのか」
「だから妖精だから」
「そんなのいるの?」
「むう・・・・・・」
ここまで言われては彼も言葉がなかった。ついつい言葉を詰まらせてしまう。最早話しても何かが違うのだと思うものもそこにはあった。
「そういうことだから」
「気は悪くしないでね」
謝るわけではないがこう二人に言ってきた。
「晩御飯は本物だし」
「風邪もひかないようにしておいたから」
「そういえば」
「確かに」
言われてみればそうである。腹は満ちているし身体の調子もいい。それに関しては悪戯はなかった。
「そういうことだからね」
「縁があったらまた会おうね」
「縁があったらというが」
そう言われてもまだ問いたいことがあり実際に問うハインリヒだった。
「湖の上に立っているのは魔術か」
「まあそういうのかな」
「それだけれど?」
「そうか。魔術か」
それを聞いてまずは納得するハインリヒだった。これで話を終えようとしたがここで妖精達は自分達からも話してきたのであった。
「ああ、それでさ」
「一つ言っておくけれど」
「何だい?一体」
「この湖に入ったら駄目だよ」
「それだけはね」
こうハインリヒに対して言うのであった。当然フリッツに対しても。
「入ったらそれこそ悪戯じゃ済まないから」
「殴るかもね」10
殴るとまで言うがあまり迫力はない。本気だが殺すつもりがないのがわかるからだ。
「この中は僕達の家だから」
「招待しない限り入ったら駄目だよ」
「別に入りたくもないけれどね」
「全くですな」
ハインリヒとフリッツは言葉を同じくさせた。
「別に妖精の家には」
「興味がありません」
「何だ、面白くないなあ」
「ここで来たいって言えば面白かったのね」
二人が特に入りたくない様子を見せたので面白くない顔で言う妖精達だった。
「御願いしたら入れてあげるよ?」
「どう?」
「いや、今は別に」
「私も」
やはり二人の返事は変わらない。やはり特にも入りたくはないのであった。
「そういうことだ」
「気持ちだけ受け取っておこう」
「そうなんだ。それじゃあもう何も言うことはないし」
「またね」
妖精達はすぐに気持ちを取り戻してまた二人に話してきた。
「今度会う時はもっと面白い悪戯用意しておくから」
「楽しみにしておいてね」
「別に会いたくはないけれどね」
ハインリヒは特に面白くなさそうに返すのだった。
「けれど。またね」
「私も」
フリッツも一応はという感じで妖精達に対して述べた。
「また会おう」
「うん。またね」
「今度はお家に招待してあげるからね」
「僕達の湖の中のお家にね」
こんなことを言いながら湖の中に消えるのだった。勝手なことを言ってそのまま姿を消した形だった。何はともあれこれで話は終わった。湖のほとりにハインリヒとフリッツだけが残っている。二人は妖精達が消えてからもまだそのほとりに座っているのだった。
「何かな」
「ええ」
フリッツが主の言葉に応えて頷く。
「あっという間だったね」
「全くです。何が何だか」
「とりあえず。妖精には会った」
「はい」
「何が何なのかわからないうちだけれど」
「それでも悪くはなかったですが」
「うん。けれど」
それでも微妙な顔のままのハインリヒであった。どうにも釈然としないままである。
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