| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第26話 白雷の双璧

 九州長崎県

 ――ぐちゃ、くちゃ、こり、べちゅ―――

 嫌な音が響く、肉を咀嚼する音だ。
 硬骨や軟骨を噛み砕き、臓物をその他の肉と一緒にシェイクする音だ。

 砲火により照らし出される残骸と化した甲鉄の巨人たち―――F-4J撃震の中隊だ。
 その衛士たちの墓標には紅い蜘蛛のような異形が集り、胸部の辺りに殺到し何かをむしり取っていた。
 引き千切られた機械部品に紛れて青白くなった人肌に肉の断面が見える様々な人の部位がその戦車級の腕に握られ、開かれた口へと押し込まれて噛み砕かれて消えていく。

 ―――BETAと戦い、敗北した衛士の末路である。


「―――今に見ていろ……!お前らなんか、今にっ!!……人類が滅ぼす!」


 その中の一機、その動かなくなった撃震の機体の中で一人の衛士が呪詛を吐き出す。
 要撃級の一撃を受け駆動系に致命的損傷を受けた機体は身動き一つ取ることが出来ない、両足は元より跳躍ユニットにも損傷を受けている。

 通信機から聞こえてくるのは肉を咀嚼する音、機械を齧り取る音―――既に断末魔の喧騒は既に途絶えた。

 機体がガリガリと齧り取られる音が近くなり、正面のコックピットハッチが強引に破砕前の軋みの震えを上げている。
 ―――もう長くない、機体フレームが歪みベイルアウトは不可能、強化外骨格の起動も間に合わない。

 元より、この戦域状態では強化外骨格の起動が間に合っても生存は絶望的だ。
 所詮、戦術機の脱出機構は生存率0%を1%に上げるお守り程度のご利益しかない。

「最後に生き残るのは人類だ――――!」

 彼はコックピットのコンソールを操作する。
 跳躍ユニットのリミットを解除その出力を限界以上に引き上げる―――損傷した状態で無理やり跳躍ユニットを規定以上の出力に押し上げれば、圧縮された酸素と気化燃料が大爆発を起こし、其れがロケット燃料に引火しさらなる大爆発を一瞬で引き起こす。

 ―――それが、高価な自決装置を装備されなかった衛士が最後に行える最後の足掻きだ。
 そんな時だった警告音と共に視界ウィンドウが赤く染まったのは。

『―――なんだとっ!』

 唸りを上げていた跳躍ユニットの咆哮が突然息切れを起こす。
 跳躍ユニットが受けた損傷からか、解除した筈の安全装置が勝手に起動し跳躍ユニットの機関が停止する―――もはや、容易な自決は携帯した拳銃くらいしかない。


 ガキン!
 幾つかの金属部品を撒き散らせて撃震のコックピットハッチが引きはがされた。
 無数の黒光りする傘が生えた赤い頭が顔を除かせる。
 硫黄臭と噴煙の臭いに混じって重金属を大量に含む空気が流れ込んでくる―――肺が焼ける。

「ぐが……!!」

 人の口だけを張り付けた胴体、無数のキノコの傘のような黒い傘の乱立する頭部、大口の左右から生える腕――――戦車級BETAだ。

 唾液の糸を引きながらその、最も多くの衛士を食い殺してきた咢が開かれた、何処か獲物を前に涎を垂らして笑っているように見える。
 その、戦術機さえも素手で分解する膂力を持つ血色の(かいな)が、まるで三途の川から地獄へ引きずり込む亡者の腕の様に彼に伸ばされた―――

「がぁあっ……おっ、前らなんか、お前らなんか―――きっと、きっと殿下が……!!」


 その時だった。
 電光石火、疾風迅雷……吹き抜ける大質量の刃が撃震に組み付いた戦車級を薙ぎ払った。

 地表を擦り減らし土煙を上げながら静止した白雷の巨人。神道と武道の融合した特徴的な意匠を持つ鋼鉄の甲冑。
 日本帝国を象徴する機体、刃金の雷神:武御雷。
 その精密極致の一刀にてF-4J撃震のマットグレーの機体に取り付いた戦車級を薙ぎ払った一撃は熟練の域を超えもはや芸術である。

 F-4J撃震に比べより高度な最新の電子装備(アビオニクス)を搭載する武御雷へとBETAの目標が変化する。
 其れを氷結(こお)れる眼光にて見据える武御雷type―A。その手に握られた双振りの刃。


『薄汚い化外ども……我らが同胞(はらから)に触れるな。』

 白雷の機体が動いた。
 特徴的な二股の爪が地面を確かにとらえ、そして蹴る。跳躍ユニットの噴射と共に振われる双刃によって戦車級の紅がまるで雑草を刈り取るように薙ぎ払われる。

 右腕の正手で握られた刃が地表を蠢く戦車級を薙ぎ払う、続く左腕の逆手持ちの長刀が空中へと飛び跳ねた戦車級をすかさず空間ごと叩き切る。

 正に疾風怒濤、二刀に加え零式短刀、全身のカーボンエッジ装甲により群がる戦車級がその剣嵐に触れる度に引き裂かれ、スライスされていく。
 只でさえ扱いにくい武御雷を其処まで乗りこなす上に、数えるのも億劫に成るほどの戦車級の立ち位置などを正確に把握していなければ出来ない芸当は正に芸術。

 無害な肉塊を量産していく白き雷神にジェットの噴炎を噴かせて近づいて来る機影達。
 放たれる36mmチェーンマシンガン、戦車に搭載されるそれよりも大口径のもはや大砲と呼んで差支えない砲弾の連射により戦車級がひき肉と化していく。

『甲斐中尉っ先行し過ぎです!』
『ちゃんと追いついて来れたじゃないか?ならば問題ないよ。』

 土煙と土片を撒き散らしながら大質量の白い機体が重い駆動音と共に着地する。
 突撃砲4門を主腕とガンマウントの4本の腕で巧みに扱い、精密極まる高度な未来予測と合わさった射撃で戦車級を蹂躙してゆく。
 まるでBETAが自分で当たりに行っているかのような印象を受ける。そして其の白き機体に纏わり着こうする戦車級をまるであたかも銃剣の刃で引き裂き、銃床で殴りつけるように銃固定兵装で引き裂く。

 固定兵装を充実させた武御雷ならば、例え武装全てが突撃砲であっても密集格闘戦に対応可能―――いや、極めて効率的な射撃と運用が可能ならばフレームやアクチェーターに掛かる負荷が極めて大きい長刀を多用するよりも長い目で見た時の継戦能力はむしろ上回る。

 ………尤も、誰でも出来るという芸当ではないが。

 数旬遅れて、武御雷type―Aに率いられた武御雷type―Cの部隊が到着した。
 一番槍として到着していた二刀流の武御雷を中心に瞬く間に戦車級を駆逐する。―――極めて高度に連携が取れた部隊だ。

『今井、彼のバイタルは?』
『駄目です、重金属中毒による臓器不全を示しています……彼は―――』

 視界内の戦車級を粗方殲滅し終えた二刀流の武御雷が僚機の突撃砲4門で武装した武御雷の衛士に問うた。
 が、その結果は―――救いのない物だった。戦場に散布された光線級から兵を守る為の重金属雲に含まれる重金属粒子を吸入してしまったのだ。

 ―――二刀流の武御雷の衛士は速やかにコンソールを操作し、通信回線を唯一生き残っていたF-4J撃震へとつなげる。

『――あ、がふっ』

 視界ウィンドウに展開された衛士の様子。肺を重金属で破壊され大量の血を吐いている。今、彼はそれに加え腹痛と嘔吐それに39度を超す発熱に襲われている。
 志半ばで果てることが確定している彼を真っ直ぐ見つめる瞳―――死を見届ける戦士の瞳だった。

『オレは……人類の……役に……日本の役に立て―――たのだろうか……?このまま…なんの役にも――――』
『貴官らは大儀を果たした、そして之からも果たすだろう。我ら全員が貴官の想いを汲み、受け継いで征くからだ。
 その想い、即ち魂こそ日本の至宝―――君の魂に賭けて誓おう、僕らはBETA共を滅尽滅相するッ!!』

『朔良君……彼は、もう』

 言われて視線が移った先のもう一つの視界ウィンドウ。
 白い零式強化装備に身を包んだ幼馴染の娘が悼まれない表情で首を振る。―――彼はもう答えることが無いと強化装備のバイタルが無情に告げていた。

『彼は…最後まで聞いたのかな。』
『ええ、きっと聞こえていました―――だって、安心したように眠っているじゃないですか。』

『そうか―――』

 視界ウィンドウに移る安らかにも見える死に顔を網膜に焼き付ける。
 二刀流の武御雷の衛士、甲斐朔良(かいさくら)中尉は一黙の間の後に瞳を拓く。
 戦術データリンクから送られてくる戦域情報ではまだ敵は腐るほど居る。


陣形(フォーメーション)、鶴翼複菱参型(ウィングダイアモンド3)!防衛線を押し上げる。』
『エレメントは元より小隊連携を密にしろ!』

『『『『了解!!!!』』』』

 二機の白き雷神の化身から放たれる指示に黒き武御雷を駆る衛士10名が一斉に答える。
 其れを聞き届けた双刀の武御雷は跳躍ユニットの出力を徐々に上げ、駈けだす予備動作へと移り、残りの11機も其れに続く。

『我らの同胞(はらから)の亡骸、肉片ひとつとして奴らにくれてやる訳には往かない―――全機、異星の化外を殲滅せよっ!!!』
『『『『『『了解ッ!!!!!』』』』』』』

 鋼鉄で武装した武士たちが一斉に駈けた。








 長崎防衛線後―――第14ハンガー
 まるで白亜の像の様に鎮座する白き甲鉄の雷神、零式武御雷type―A
 一般・外様武家出身の斯衛軍衛士に与えられる機体であり、漆黒のtype―Cに次いで機体数の多い武御雷だ。

 ベースとなった不知火と比べ135%の主機出力を誇り、type―Cと比しても10%の出力増強が為されているほか、高度な最新国産アビオニクスを実装している。

「もっと機体出力を上げれないかな?」
「無茶言わないで下さい。只でさえリミッターを外して出力だけF型相当に押し上げてアンバランスに成ってるんですから。」

「すまない、無理を聞いてくれたこと感謝しているよ。」

 その胸前、コックピットレベル通路にて白き零式強化装備を纏う青年が整備兵に要望を言うが、それはさすがに無理だと降参状態の整備兵。

 武御雷type―Aは上位機種であるtype―Fに比べ全体的に性能が引き下げられているが、主機と跳躍ユニットは全くの同型を使用している。
 しかし、機体のコスト関係から関節強度や機体制御を行うアビオニクスのグレードなどが引き下げられており、其れ等との兼ね合いを取る為に電子的リミッターを掛けている。

 リミッターの掛けなければ自身の出力で自身の関節を砕いたり、制御の追いつかないハイパワーな挙動で到底扱えない欠陥品と成ってしまうからだ。
 青年は整備兵や上官に無理を言って、そのリミッターを解除してもらっていた。

 そして、見事持ち前の操縦センスと極限まで鍛え上げられた技量によりこの暴れ馬足る白き雷神との人機一体の極致にまで至った。
 しかし、それ以上の彼が望むレベルの機体性能には正直届いていないのが現状である。

 日本帝国戦術機の中で、生産性や整備性を犠牲にした上に最新技術を惜しみなく投入されたこの機体すら上回る機体と成ればもはや、政威力大将軍を持ち回りで担う五摂家専用機である武御雷type―Rしかないのが現状だ。


「――せめて腕がもう弐本あればもう少し楽なんだけどね。」
「中尉は武御雷を修羅像にでもしたいんですか?」

「ははっさすがに其れはちょっと嫌かな。」

 二刀流を真に扱うのにはどうすれば良いかを何となく語った彼に整備員が困惑した様子で零す。
 ―――ちょっと想像してあんまり似合わない、というか気持ち悪いので苦笑いしながら却下する。

 尤も、戦術機の腕は見えないだけで最低4本、多くて6本なのだが。
 そんな、更なる次を望む彼らの傍に専用ジャケットを纏った零式強化装備姿の頭を馬の尾の様に結い上げた娘が現れ歩み寄った。


「甲斐中尉、あんまり我儘言わないの。」
智絵(ともえ)、しかしもっと武御雷の機動格闘能力を上げるために要望は出しておくべきじゃないのかい?」

「甲斐君みたいな戦い方をみんな始めたら武御雷どころか不知火だって部品が足りなくなるでしょ。」
「全くです。」

 戦場で彼とエレメントを汲んでいた4丁突撃砲を扱う衛士、今井智絵少尉の言葉に大きくうなずく整備兵。
 高機動戦闘の為に予備弾倉すらも廃し剣戟戦闘を極めた甲斐中尉。その機動打撃力は正に掘削機と呼んで申し分ない働きをするが、それは機体に決して軽くはない負荷を掛ける上にリミッターを外した武御雷の部品損耗率は大きく跳ね上がる。

 それをカバーしたのが彼のパートナーである今井智恵少尉とのエレメントだった。
 突撃砲4門でありながら突撃前衛(ストームバンガード)を担う彼女の戦闘スタイルは極めて異質。
 機動格闘状況でありながらの徹底的に効率化された精密射撃と固定兵装を織り交ぜて戦う様はまるで銃剣術。

 無駄弾を徹底的に削ぐだけの技量と戦術眼が有ればその継戦能力は長刀のそれに匹敵し、圧倒的に低い負荷は機体の部品損耗率を引き下げる。
 二人が組むことで非常に柔軟かつ高い威力の打撃戦闘が可能と成り、二機を平均すれば部品損耗率を並みに抑える事が可能なのだ。

「君にも当然感謝しているよ。ありがとう智絵。」
「恋人みたいな口調で言わないで。誤解を解くの大変なんだから。」

「すまない。」

 気さくに幼馴染同士で言葉を交わす二人。
 ぶっちゃけ、優男風ながら確りした体格と物凄いイケメンの彼が優しげに言葉を口にするだけで恋に落ちる娘は多い。
 そのやっかみやら何やらが物凄く面倒な今井少尉。余りに面倒で時々、肉食獣の目をした女子の巣窟にぶっこみたくなるのは秘密。

「其れよりも私たちに移動命令よ。」
「移動命令?」

「ええ、私たち二人にね。」

 聞き返す青年衛士、甲斐朔良中尉に対し肯首する今井智絵中尉。

「どこへだい?」

 彼の追問に対して今井中尉は、若干重々しく答えた。

「帝都――斑鳩家の独立警護小隊に配置換えよ。」
 
 

 
後書き
追加 登場人物

甲斐(かい) 朔良(さくら)

本作のオリキャラ。甲斐志摩子の義兄であり甲斐家の次期当主。
甲斐家当主にその聡明さと武の才を見出され養子入り。
自身の養子入りによって存在意義に疑問を持っていた義妹の幸福を願い、自身が戦場に立つ事で次期当主としての責務と苦悩そしてBETAの脅威から守ろうとする自己犠牲的な愛情と使命感を持っていた。

しかし、義妹が城内省の政策の下、教練不十分に戦場に赴かされ戦死したことでBETAに対し極大の憎悪を持ち、国家に対しての潜在的な憎悪もまた計り知れない。
同時に守りたかった者を守れなかった自分は屑だという自責の念も同時に持ち合わせている。

忠亮の訓練校時代の同期でもあり、真に武道を歩むものとして一定の共感がある。
流派は柳生心眼流二刀術。武御雷の左手の逆手持ちの長刀は本来は鞘を使う流派。武御雷搭乗時には左腕に逆手持ちの長刀での二刀流を多用し、零式短刀を用いての小太刀と太刀の二刀流の技も用いた非常に柔軟な剣技を発揮する。

進撃の巨人のリヴァイと神哭神居神楽の天魔・悪路がモチーフ

名前の由来は
甲斐朔良中尉→かい さくら・中に”い”→かい い さくら→戒 井 櫻→反対にする→櫻井戒


今井智絵
オリキャラ、甲斐志摩子・甲斐朔良の幼馴染で現在22歳。
気さくながらも鋭い洞察力を持つ。突撃砲4門と固定兵装を用いての柔軟な機動格闘戦が得意な忠亮とは別の意味でのオールラウンダー。
実はけっこう過激かつ大雑把な性格だが、面倒見は良い。

元ネタは巴御前。巴御前の苗字は今井でそこから持ってきた。
唯依の生い立ちが雷神の異名を持つ戦国武将、立花道雪の娘の立花誾千代に似てたので似たような姫武将を探しつつ、唯依を山吹御前に見立てて持ってきた。(唯依の同期の甲斐志摩子とは甲斐つながりで関係を設定した。)

モチーフは……どうしようか? 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧