魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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StrikerS編
90話:〝門寺士〟の貴重な戦闘シーン(前編)
前書き
皆さん、お久です!大学に入学し、順風満帆な大学生活を―――送ってなかったりします。
家にインターネット環境がないので、近くのネカフェに多額をつぎ込んだり、大学の無線LANを利用したり、色々大変です…
とにかく、最新話更新です。
夜空を舞うガジェットは、編隊を組み海上を自由に飛び回っていた。
その飛行速度は従来の物よりもはるかに速く、海上擦れ擦れで飛んだ際には大きな水飛沫を上げていた。
しかし彼らが海上を飛ぶ理由はあくまで、ジェイル・スカリエッティがその高めた性能を確認する為と、いっぱいになり始めた在庫の処理をする為の二つ。要は〝捨て駒〟なのである。
そのことは六課のメンバーは勿論、飛んでいるⅡ型改(ほんにん)達に知る由はない。この機械人形は、スカリエッティ(あるじ)から命令された事をただ実行しているだけなのだから。
「はぁぁぁ!」
そんな彼らの一編隊の上空から、猛々しい雄叫びが響く。そして次の瞬間には、四機の内の中央にいた一機に剣が深々と突き刺さった。
剣を突き刺したのは勿論、ゴウラムから手を離し落下して来た士だ。剣が突き刺さって回線がショートしたのか、刺し口から火花を散らすガジェットを見て、士は剣を右にずらした。
機体に剣が突き刺さったまま動かす訳なのだから、当然突き刺されたガジェットは右に機体を傾ける。そうなれば自ずと進路が変わり、その行き先には別のガジェットが。
士はすぐさま剣を引き抜き、火花を散らすガジェットを足場にして、左側を飛ぶ二機のガジェットに向かって飛び出す。そして残った二機に向かって剣を横に振り抜き、一閃。
先程剣を突き刺し足蹴にしたガジェットは、そのまま別のガジェットと衝突し諸共爆破。切り裂かれた残りの二機も、ほぼ同時に爆破した。
「ゴウラム!」
爆破を背後に感じた士は、片手を上にし大声を上げる。すると何処からともなく、かつて一人の英雄の戦いを支えた巨大なクワガタ―――〝馬の鎧〟ゴウラムがやってきて、士はその足を掴む。
ゴウラムは士を連れた状態で飛行を開始し、次のガジェットの編隊へと飛んでいく。
「サンキュー、ゴウラム。ナイスタイミングだった」
士がそう言うと、ゴウラムは古代リント語で「Thank you」と答えた。
それを聞いた士は、ゴウラムに掴まった状態で回りを見渡す。すると少し離れた場所で急に爆発が起こった。
爆発が起こった場所に浮かんでいたのは、ゴウラムと同じく一人の英雄を危機から幾度も救ってきた銀色の人型ロボット―――〝SB-555 V〟オートバジンだった。
彼が向き合う先には、四機のガジェットが彼に向かって飛んできていた。おそらくガジェットの攻撃を、自慢の防御力で防いだのだろう。
そしてオートバジンはゴーグルアイをピピピ、と光らせると、バイクの前輪ホイールに内蔵されたガトリングガン―――〝バスターホイール〟の砲口を向け、弾丸を乱射する。
放たれた弾丸は、編隊内で前方を飛んでいたガジェット三機に命中し、ガジェットは爆発した。
だが最後の一機は破壊を免れ、爆炎の中から飛び出してきた。しかし、それは彼もわかっている事。すぐに飛び出し、今度は拳を振るった。
拳をもろに受けたガジェットはその場で粉砕し、爆発。彼は爆炎の中から飛び出し、同じく飛んでいるゴウラムと士の側にやってきた
この時、彼が拳を振るう姿を見た士が「まさに鉄拳制裁だな…」と思ったのは、彼には内緒である。
「よくやった、バジン。流石だ」
そんな考えを隅に追いやり、労いの言葉と共にサムズアップを送る士。オートバジンもそれに答えるように士に向けてサムズアップを返した。
さぁ、残りは二つ。四機編隊と十二機編隊。十二機の方はバジンに任せ、士はゴウラムと共に四機編隊の上空へ移動する。
それじゃ、と落下する覚悟を決めた瞬間、
『士さん、そちらに高速で向かってくる未確認反応があります!』
「未確認? まさか……電車ん時と反応は?」
『同じ…ではないですが、かなり似ています!』
ならほぼ確定だな、怪人もどきだ。
士はそう判断し、周りを見渡す。それらしい姿は周囲にはなく、取りあえず下方にガジェットを捉えたので、ゴウラムに合図を送る。
「んじゃ、行く―――」
〈後方から反応あり、早いです〉
「―――ブッ!」
警告するトリス、いつもの彼なら「何ィ!?」とでも言って振り向こうとするが、それすらする間もなく背中から強い衝撃が体に走る。
しかもその衝撃でゴウラムを掴んでいた手は離れてしまい、士の体はそのまま宙に浮かび、頭を下にして落下を始める。その口元には赤い筋が流れていた。
「ぐっ…くそが…!」
士はそう言いながら口元に流れた血を拭い、悪態をつく。流石の彼も生身のままでは空中で身動きを取ることもできず、わずかな力と空気抵抗を利用して背中を下にする。
その視界の先には既に生き物の姿はなく、あるのは美しいミッドの夜空と輝く星々のみ。あぁ、何時見てもこの空は地球のそれとあまり変わらず美しいな、写真撮りたいぐらい……
「―――ゴガッ!?」
ちょっとばかしの現実逃避をしていると、突如背中に衝撃。海にぶつかった訳じゃなさそうだ、理由としては落ちる時それなりに高度があった事と水飛沫が飛んでいない事。そしてなんというか…二本の棒で受け止められた感じがしたからだ。
「…ゴウラム、今それはダメ……マジで痛いから…」
衝撃の正体はゴウラム、彼(?)が士を角の部分で受け止めたからだ。しかし、先程背中に強い衝撃を受けた後だったからか、かえってかなりの苦痛になってしまった。
ゴウラムはその痛みに表情を歪める士に「Sorry, sir」と謝罪した。それを聞いた士は体を上手く動かし、再びゴウラムにぶら下がる。
しかし、敵の姿が確認できないと厄介だな。
「ロングアーチ、そっちから敵の姿を確認できないか?」
『現在映像を解析中! もうしばらくかかります!』
すぐには無理か、そう決めつけた士の耳に、金属音が響いた。
丁度ゴウラムの後方から聞こえてきたそれを確認する為、痛む体を少しだけ動かし目を向けた。
そこにあったのは大きな銀色の背中、すぐにオートバジンの背中だというのはわかった。しかしわからなかったのはその先にいる、背中から羽が生えている黒い〝何か〟。
その背中にある羽の形状や、笑みから見える八重歯。尖った耳やその他の部分の見た目から感じる物は蝙蝠(コウモリ)に近いなと、幾度となく怪人を目にしてきた士は思った。
しかし、ここで違和感を覚える。バジンの正面に腕を組みながらいるそいつ、蝙蝠がベースなのだとしたら少し矛盾が起きる。
蝙蝠の飛行スピードは、そんなに速くない筈。ましてや音もなく接近するイメージの動物ではない。と言っても、イメージの問題だが。
そんな事を考えていると、〝蝙蝠怪人もどき〟は何故か一メートル程横に移動した。
何だ? と考える間もなく、少し向こうから急降下する〝何か〟が。明らかにガジェットではないと判断した瞬間、その〝何か〟はこちらに向きを変え迫ってきた。
「バジン!」
士の声に反応して、オートバジンは横に移動。それに合わせゴウラムも、バジンとは逆の方向に舵を切る。
刹那、士達とバジンの間をすり抜けるように〝何か〟が通過する。すぐさまゴウラムに方向転換を命じ、バジンと背中合わせのように並び浮かぶ。
バジンの目の前には依然として〝蝙蝠怪人もどき〟が。そして士の前には、先程の勢いを殺す為かやや上まで飛んでいき、そこから両腕を羽ばたかせゆっくりと降下してくる〝何か〟。
そいつは〝蝙蝠怪人もどき〟とは違い、女性のようなプロポーションに針のように鋭く尖った口。羽が腕にくっついており、足の先には鋭利ね爪が月光に反射して輝いていた。
「……なるほど、お前が―――」
俺を殴った犯人か。少し引きつったような笑みを浮かべ、士はそう言った。
少し離れた場所で、六課の管制室に映る映像と同じ物を見ていたシグナムとヴィータ。二体の〝怪人もどき〟に囲まれる士を見て、すぐに彼に通信を入れる。
「おい士、私も出る! 二人でやればこんなの簡単に―――」
『ダメだ、そこにいろヴィータ。これは命令だ』
「いくらなんでも滅茶苦茶だろ、それ! お前自分の状況わかってんのかよ!?」
空を自由に飛べない士に、サポートはゴウラムとオートバジンの二体。対して敵は空を自由に、しかも速く飛び回れる二体。
内一体はかなりのスピードの持ち主。もう一体は能力の方はわからないまま。
状況としては、士にとって悪い方向に傾いている。所謂ピンチだ。
だが、士はその状況を分かった上で、笑みを浮かべる。
『まだ〝ただのピンチ〟だろ? なら問題ない、なんとかなる』
「なッ…!?」
何とも気楽な回答が士の口から出てきて、ヴィータは絶句する。『なんとかなる』?そんなのマジで言ってるのか? 明らかに今のままじゃ……
『シグナム、お前も手ぇ出すなよ?』
「………」
念の為シグナムにも忠告する士。対してシグナムは沈黙で返した。
本音を言えば、自分が出たいぐらい状況は悪い。だが彼は任せろと言った。なんとかなると言った。だから信じる。
何度も手合せして、その度に敗北の苦汁を味わっている彼女は、それなりに彼の実力を理解し信頼している。しかし今は負けそうな彼を心配している、と同時に自分に勝てるのだからそんな機械に負けて欲しくないと思っている。
そんな色んな感情がシグナムの中では渦巻いていた。本当に任せていいのか、救援に向かうか。はやてに通信ぐらいしても―――
『はやてにリミッターの事、言わないでくれよ? それはそれで面倒だ』
「―――っ!」
なんと、読まれていた。通話越しだというのに、何故わかったのだろうか。
『今俺は、非常にむしゃくしゃしてんだ。何かに当たらないと、腹の虫が収まらねぇんだよ』
今度はこちらの考えには答えず、一方的にそう言った。確かに、彼の声色は普段のそれよりも、怒っている時のそれに近い気がする。だったら何に対して、そんなにイラついている?
『―――頼むぜ』
そして彼はそれだけ言って、これまた一方的に通信を切った。
シグナム達との通信を切った士は、今度はなのはに直接通信を繋いだ。
『あー、聞こえてますか~?』
いきなり聞こえてきた声に、その場にいた七人はわずかに驚いた。戦闘中に何をしてるのか、目の前には敵がいるんですよ!?
『取りあえず確認を。なのは、ちゃんと話したか?』
「う、うん…」
『本当だろうな、フェイト』
「うん、本当」
それを聞いた士は、うしっと言って自身に気合を入れる。
『そいじゃ、速攻で終わらせるから待ってろ。覚えてると思うがお前は勿論、ティアナにも後でお説教だからな』
「「え…!?」」
士はそう言い残し、ブツリと通信を切った。あれ、確か説教じゃなくて『ありがたい言葉』じゃ……
(―――って、それ言うだけかい!)
もうちょっと労いの言葉でもかけてやればええやろ!
はやては茫然とするなのはとティアナを見ながら、心の中でツッコみを入れた。
「さてと……そう言う訳だ。悪いが時間がない、すぐに終わらせよう」
士はそう言うと、ベルトに付いているライドブッカーを取り出し、ガンモードにして構えた。それと同時に、すぐ後ろにいるオートバジンも盾を構える。
それらに応じるように、〝怪人もどき〟もいつでも動けるように臨戦態勢を取る。
彼らの間に流れる沈黙。張りつめた空気が緊張を生む。
そして遂に動きが。最初に動いたのは―――
「―――っ!!」
ゴウラムに掴まる士だった。
彼は自らの目を刀のように鋭くさせ、ゴウラムを掴む手に力を込める。それを感じたゴウラムも動き出そうと溜めを作る。
それと同時に〝怪人もどき〟も動きを見せる。一気に距離を詰められるよう、翼や腕の動きを変える。
バジンも目の前の相手に反応してか、拳を握りしめる。
遂に四体がぶつかり合いを―――
「―――ッ!」
始めなかった。
最初に動いたゴウラム&士は、目の前にいる〝鳥怪人もどき〟に向かう訳でもなく、海面の方へと向かって行く。
一瞬で下を抜かれた〝鳥怪人もどき〟は、真っ向から来ると思っていたのか身構えてしまい、士を追うのに遅れてしまう。
その隙を見逃さなかったのは、オートバジン。すぐにジェット噴射を行い、士と二体の〝怪人もどき〟の間に陣取り、バスターホイールを前に構える。
瞬く間に火を噴くバスターホイール。二体はすぐさま上へ上昇し弾丸を回避。バジンはそれを追う様に再び動く。
その光景を振り向きながら見ていた士。彼らが進む先には、先程逃したガジェットの四機編隊が飛んでいた。
そう、士は先に当初の目的であるガジェットの殲滅を優先したのだ。理由としては二体の〝怪人もどき〟と戦う内にガジェットが合流し、3対6での戦闘になる事を避ける為だ。
そう士は判断し、今ガジェットを追っている。そして後ろに振り向いた先にいるのは、バジンと二体の〝怪人もどき〟―――
瞬間、ガトリングを避けた二体の内、〝蝙蝠怪人もどき〟は目の前に〝鳥怪人もどき〟がいるのにも関わらず、両腕を上に掲げた。
何かしてくるつもりか? そう思った次の瞬間、振り上げられた両腕が肥大化したのだ。
「いッ!?」
思わず声を上げる士。その間にも〝鳥怪人もどき〟は頭を下にして、それに対し〝蝙蝠怪人もどき〟がアームハンマーの要領で彼女の足の裏を叩いた。
猛スピードで落下する〝鳥怪人もどき〟、追ってきたバジンをあっさり抜き去り、狙うはガジェットへと向かう士達―――否、士本人だ。
そんなのありかよ!? と心の中で悪態をつく。先程は上空から落下し、その勢いで突進して来た〝鳥怪人もどき〟。それを今度は相方に〝勢いをつけてもらい〟ほぼ同等のスピードを得た。
そして何より驚くべきなのは、その相方の方。まさかあんな能力を持ち、しかもあんな使い方をしてくるとは。前回の〝カメレオン怪人もどき〟とは、見る限りではタイプが違う。
姿を隠し、奇襲のような攻撃をしてきた前回とは違い、今回のこの二体は明らかに戦闘向き。おそらく空戦魔導士を相手取れる〝怪人もどき〟を作る過程でできた物だと士は瞬時に判断した。
しかしまぁ、状況が悪いのは変わらない。
こちらのゴウラムは士がぶら下がっているとはいえ、それなりのスピードが出ている。しかし〝鳥怪人もどき〟のスピードは、それをはるかに凌ぐ。当然このままいけば士の体に衝突するだろう。
だが今からゴウラム回避を命じても、おそらく奴の腕(こうげき)の範囲からは出られない。下手に動いたら逆に背中に先程と同じ衝撃を受ける事になる。
「こなくそぉぉぉぉッ!」
ならばと、士は腕と腹筋、背筋に力を籠め、体を持ち上げる。足をゴウラムの角に当たるぐらいまで上げ、〝鳥怪人もどき〟の突進を回避したのだ。
回避された〝鳥怪人もどき〟は悔しそうに、鳥のような声で一鳴きすると、再び上昇する。また同じように攻撃を仕掛けるようだ。
(というか、喋れたんだな…)
そう思う士だったが、ふとあることを思いつく。それをゴウラムに伝えるとすぐにゴウラムに掴まる手を、ゴウラムを押すように離した。先程足を角に当たるまで持ち上げた状態でだ。
ゴウラムから離れる士。しかし再び体に力を籠め体を捻り、ゴウラムの角の下で頭を下にした状態で直立するようになった。
「ゴウラム!」
その声に応えるように、ゴウラムは角を士の足の裏に当て、士を弾き飛ばした。
勢いよく落下する士、彼の視線の先には迫ってくる四機のガジェット。すぐにライドブッカーを取り出し、カードを取り出す。
〈 ATACK RIDE・BLAST 〉
「食らえッ!」
カードを発動すると同時に、銃となったライドブッカーの引き金を引く。銃身が分身して放たれた数発の弾丸は、見事にガジェットの装甲を貫通し爆破させる。
それを見上げるように眺める士。すぐに体勢を立て直すと、その下にゴウラムが移動して来た。しかも角の先を士に向ける形でだ。
士は見事にゴウラムの角の先に着地、すぐにゴウラムは上昇を始める。目指す先にはオートバジンと、腕を肥大化させて組み合う〝蝙蝠怪人もどき〟の姿が。
そこでゴウラムは瞬間的に最大速度まで加速、その勢いを利用して士は飛び出す。その勢いはバジンと〝怪人もどき〟のいる高度を優に超えた。
しかし士も今はただの人間、重力に逆らう事は出来ない。勢いはバジン達から50メートル程離れるとなくなり、重力に従って落下を始める。
「いくぞ、バジン!」
〈 ATACK RIDE ―――〉
士のその声にバイザーを赤く光らせて反応する。バジンは〝蝙蝠怪人もどき〟の腕を掴むと、もう片方の手で拳を作り、連打を食らわせる。
これにはたまらず〝怪人もどき〟も唸り声を上げる。なんとか抜け出そうとするが、その意思をファイズ・ブラスターすら超えるパンチ力が削いでいく。
そして最後にはバジンの拳が顎を捉え、〝怪人もどき〟は吹き飛ばされる。その飛んでいく方向には勿論、先程飛んできた士がいる。
〈――― SLASH ! 〉
「だぁりゃああぁぁぁッ!」
士はライドブッカーを剣へと変えると、空中で回転を始めた。次第にその回転は速度を上げていき、吹き飛ばされた〝蝙蝠怪人もどき〟に迫る。
落下する士と上昇する〝怪人もどき〟、二つの生命(いのち)が距離を縮めていき、遂に衝突する。
ガードすることすらままならない〝怪人もどき〟と、回転とカードの力で攻撃力を上げる士。結果は当然―――士の剣が〝蝙蝠怪人もどき〟を切り裂いた。
野太い唸り声を上げる〝怪人もどき〟だが、それは次第に悲鳴へと変わり、爆散する。
それを少し離れた場所から見ていた〝鳥怪人もどき〟は、同族を殺された怒りを胸に秘め、自らの爪で士を引き裂いてやろうと上昇する。
しかしそんな彼女を下から突き上げる何かが。それは先程士を打ち上げたゴウラムだった。
先程は〝鳥怪人もどき〟にスピード負けを許したが、それは士を抱えた状態で飛行していた為。彼の本来のスピードは、〝怪人もどき〟などには劣りはしないのだ。
まして〝鳥怪人もどき〟は今は上昇している最中だ。落下の勢いを利用していた先程とは、その速度は段違いに遅く、ゴウラムが追いつけない道理はなかった。
一方〝蝙蝠怪人もどき〟を倒した士は、オートバジンの組まれた両手の平に着地する。そしてバジンの左ハンドルを掴み魔力を供給、少ししてからそれを引き抜く。
すると左ハンドルの先から紅く光る刀身が現れ、左ハンドルは〝ファイズエッジ〟となり士はそれを一振りする。
「ゴウラム、バジン!」
士が二体の名前を呼ぶと、それぞれが反応を示す。
バジンの手の平の上に乗る士はそこから飛び降り、バジンは落ちる主人(つかさ)の腕を掴む。そしてジャイアントスイングの要領で下に投げ飛ばした。
士が飛ばされたその先には、〝鳥怪人もどき〟の脇下から角で挟むゴウラムが。〝怪人もどき〟はゴウラムから離れようともがくが、力の入り難い体勢の所為かうまく抜け出せない。
そうでなくても、ゴウラムの角の力は生半可じゃない。たとえ体勢が違えど彼女ではこの拘束は振りほどけないであろう。
そんな彼女に向かい飛ぶ士は、ライドブッカー・ソードモードとファイズエッジを腕をクロスさせるようにして構えた。
「せぇりゃああぁぁぁぁッ!」
「ギャアアアァァァァァ!」
士の雄叫びと共に二振りの剣は振るわれ、〝鳥怪人もどき〟の胴体にバツ印を刻まれ切り裂かれた〝怪人もどき〟の体からは火花が散る。
ゴウラムは火花散る〝鳥怪人もどき〟を空中に放り出し、すぐにその場を離れる。そして〝鳥怪人もどき〟の悲鳴が消えると共に、一つの花火が花開いた。
「うしッ、任務完了(ミッションコンプリート)!」
その爆発を見て、落下中の士はガッツポーズを決める。しかし厳しい条件の中で、なんとか勝てた。
自分はほぼ生身、空を飛べる見方がいるとはいえ、相手も自由に飛べるのが二体……いや、ガジェットも含めれば向こうに分があった戦いとも言えるものだった。
まぁ、負けるつもりは毛頭なかったが。と思う士であったが、ふと自分の置かれた状況に気づく。
あれ、俺今…〝落下中〟?
「ゴウラムゥゥゥッ!」
そう叫ぶが、もう遅い。士の体は水飛沫を上げて、海水にどっぷり浸かってしまった。
すぐにゴウラムがやってきて拾い上げてくれたとはいえ、頭や体は勿論服装もずぶ濡れで、体の疲労と相まって非常に重く感じた。
「カッコ悪ぃな畜生……ぶえっくしょんッ!」
そう言って鼻を啜りながら、士はゴウラムに連れられてシグナム達が待つヘリへと戻っていった。
一仕事終えた士を迎え入れ、ヘリは六課へと帰ってきた。
ヘリが降り立ち、屋上に足を乗せる士達三人。一緒に操縦士であるヴァイスも降りてくる。
屋上にはヘリから降りた四人の他に、はやてとフェイトがいた。どうやら、なのはの話は終わっているらしい。
士の下へ走ってくる二人。その手には大きめのタオルが。勿論、ずぶ濡れになった士に渡す為だ。
因みに、帰ってきた士を見て、ヴィータは笑い転げた。カッコよく決めておきながら、帰ってきた時の姿はずぶ濡れ。その格好が意外にツボに入ったらしい。シグナムも大笑いはしなかったものの、手で口元を抑えていた。
「もういい、着替える」
それを士の後ろで尚も引きずる二人。ヴィータは我慢しようとして口と腹を抑えている。シグナムの方は逆にニヤニヤとしている口を隠そうともしない。その後ろではヴァイスが「あらら…」と可愛そうなものを見る目で士を見ていた。
その時士はトリスを取り出しながらそう言った。何をする気だ? とその場にいる全員が思う。
〈 ATACK RIDE・DRESS UP 〉
そしてつかさはライドブッカーからカードを取り出し、トリスに装填する。
すると士の横に、ミッドでもベルカでもない独自の魔法陣が展開され、士を通過する。通過しきったそこには、先程までずぶ濡れの服ではなく六課の制服を着ていた士が立っていた。
「どう? 今の魔法」
一瞬にして服が変わる。元がバリアジャケットならわかるが、普通の布でできた服が消え、別の服を着る。当然ながらそんな魔法はミッドにもベルカにもない。
口をあんぐりと開けて驚く一同に、士は笑いながらそう言って中に入る扉の方へ歩いていく。
「あぁ、そうだ。なのはとティアナの居場所、わかるか?」
途中で思い出した事を、振り返りながらその場にいる全員に尋ねる。最初に動いたのはフェイト、ハッとようやく正気に戻り、二人のいる場所を伝える。おそらく海岸、訓練スペースの方だろうと。
ふぅん、なるほど。海風に当たりながらか、悪くない。そう呟くとそのまま屋上から去っていった。
「今更ながら思うけどよ、あいつの魔法ってホント何でもありだよな」
ヴィータの言葉に、彼を長く知る三人は茫然となりながらも頷いた。
後書き
ご意見ご感想、お待ちしています。
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