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戦国異伝

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第二百四話 箱根八里その三

「策を仕掛けましても」
「そうじゃな、しかしな」
「策を仕掛けること自体がですか」
「うむ、こちらから仕掛けぬとな」
「逆にこちらがですな」
「仕掛けられる、そうなっては厄介じゃ」
 それでというのだ。
「こちらも仕掛けてな」
「北条を動かさぬのですな」
「城は囲むことによってな」
 そして、とも言う信長だった。
「動けなくする、それは城だけでなくな」
「人もですな」
「だからじゃ、常に仕掛けるぞ」
 その策をというのだ。
「そうして北条氏康を動かさぬぞ」
「あの御仁を封じますか」
「そういうことじゃ」
 まさにというのだ。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「殿のお考えのままに」
 二人も信長の言葉を理解したうえで応えた。
「我等もまた」
「務めます」
「そうせよ、では水軍を待とうと」
 こう言ったまさに次の日にだ、小田原の海を水軍達が囲んだ。そして信長のその前に九鬼が来てだった。
 後に二人いた、その一人は大柄で猛々しい髭を持っている男だった。顔の下半分がその髭で覆われている。 
 その彼がだ、こう信長に名乗った。
「来島水軍を率いる村上武吉であります」
「左様か」
「この度織田家に入れて頂き」
「わしのところに来たな」
「はい」
 そうだというのだ。
「左様であります」
「そうじゃな。それではな」
「はい、これより宜しくお願いします」
「そなたには瀬戸内の西の守りとじゃ」
 それに、というのだ。
「この関東でもな」
「城を、ですな」
「川の側にある城を攻め落とせるか」
「お望みとあらば」
 村上は信長に一言で答えた。
「そうさせて頂きます」
「それではな」
「早速」
 村上はこう信長に応えた、そして。 
 最後の一人は長い黒髪を後ろで束ねた小柄な者だった、顔立ちは凛としていてかつ強さが見える顔だった。唇の色は濃く目鼻立ちもはっきりしている。
 既に織田家の青い服と具足、それに陣羽織を着ている。信長はその者を見つつ言った。
「御主が鶴じゃな」
「はい」
 鶴と呼ばれた者も応えた。
「そう申します」
「そうか、御主が鶴姫か」
 信長はその返事を見て微笑んで返した。
「噂に聞く」
「殿も私のことをご存知ですか」
「知らぬ筈がない、伊予きっての猛者と言われる姫じゃ」
 それ故にというのだ。
「わしも知っておる」
「左様でありますか」
「それならばじゃ」
 また言う信長だった。 
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