魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico16弱きより強き
前書き
弱きより強き/意:自分が弱い所為で親しい人が危険な目に遭うのが嫌で、守れる強さと力を求めたいというたとえ。
†††Side????†††
――舞い振るは、汝の獄火――
綺麗なサファイアブルーに燃える炎で形作られた槍が空から30本と降り注いで来る。
「アルフ! 防御はしちゃダメ!」
「あいよっ!」
炎の槍サラヒエルが向かう先――標的は、わたしアリシアの妹であってわたし自身でもあるフェイトと、その使い魔のアルフ。2人はサラヒエルを発射した術者のルシルの動きに注意しながら、降り注いで来たサラヒエルから大きく距離を取る。
(サラヒエルは着弾した時や着弾前でも爆破できる範囲攻撃が可能な魔法だから・・・)
ギリギリで避けられたって安心した瞬間に爆発に巻き込まれたり煽られたりして、撃墜とか隙を突かれ易くされたりとかしちゃうからね。トレーニングルームの床に突き刺さるサラヒエル30本は爆発することも消えることもなく残り続ける。
「フェイトとアルフの奴やべぇな。ルシルにフィールドの支配権を取られちまった」
わたしと同じくらいに小さな女の子、ヴィータが唸った。それを聴いたアリサが「きっと大丈夫よ! 初戦とは違うんだから!」声を上げた。わたし達は今、本局のトレーニングルームに居る。
そこで、わたし、なのは、アリサ、すずか、はやて達八神家は、わたしの大切な家族のフェイトとアルフ、チーム海鳴で唯一の男子(ザフィーラはオス扱い的な?)なルシルの模擬戦を観戦中。フェイト・アルフペアvs.ルシルの模擬戦は今回で14回目。
(勝率は13戦13敗・・・。ルシルは未だに敗け無し・・・)
攻撃力・防御力・機動力・射程、そのどれもが最強クラスのルシルには誰も勝ったことない。だってホントに反則級なんだもん、ルシルの奴~。なんなわけ。いくら歴代セインテストの魔法と技術を引き継いでるって言っても強すぎ。
「初戦か・・・。しかし初戦は炎槍でなく風槍のアムブリエルだった。炸裂後に被るダメージは炎と風とはわけが違うぞ」
アリサとおんなじ炎熱系魔法を得意(レベル差は圧倒的だけど)としていて、剣型デバイスを扱う騎士、シグナムが反論した。アリサはシグナムをライバル視していて、シグナムはアリサを弟子扱いしてる。ま、お互いそんな関係を良しとしてるから、仲は良いかな。
「フェイトちゃん、頑張れぇーーー!」
「アルフさんも頑張ってぇーーー!」
なのはとすずかが大きく手を振って、わたしの家族を応援してくれる。なのはとすずか、それにアリサは、フェイトとアルフとわたしの大の恩人なんだよね。プレシアママが起こした事件で、とってもお世話になった。ここには居ないけど、お兄ちゃんのクロノや、わたしとフェイトの現在のママなリンディママ、それにエイミィにも。あとスクライアのユーノにセレネにエオスもそうだね。
「フェイトー! アルフー! 今日こそルシルにひと泡吹かせちゃえぇーーー!」
お姉ちゃんのわたしだって負けられない。せめて倒せなくても一発くらいは与えてやりたい。フェイトはバリアジャケットを通常のライトニングフォームから、防御力を削ぐ代わりに機動力を上げるソニックフォームに換装した。
「フェイトさんのアレって危なくないです? フィールド全体に爆弾みたいなサラヒエルが乱立してるですのに、防御力を捨てるなんて・・・」
元はやてのパートナー、リインフォース・アインスの後継騎、リインフォース・ツヴァイ――リインが小さく挙手して質問。
「いんや逆だな。見ろ、リイン。フェイトがさっき以上に近接戦を仕掛けてんだろ」
「はいです」
ルシルが左手に携えるデバイス、“エヴェストルム”の刺突や薙ぎ払いを紙一重で避け続けるフェイトとアルフ。ピタッと張り付いて離れようとしない。そんな中でフェイトは大鎌のハーケンフォームにした“バルディッシュ“を振るって、アルフは、フェイトの攻撃を対処した直後のルシルに追撃を繰り出す。
距離を開けさせようとするルシルの戦術が潰され続ける。得意の射砲撃や範囲攻撃を使って距離を開けさせようとしても、それで誘爆なんかしたらルシルもどんな目に合うか判らない。だから出来ない。
「ああやって張り着くことでサラヒエルの爆破を食い止めてんだよ。さすがにルシルも自分の至近距離で爆破するわけにもいかねぇだろ?」
「なるほどです。フェイトさんとアルフさんを倒すどころか逆に自分にピンチを招くかもしれないから、ですね」
「フェイトちゃんもアルフも、強うなったな~」
「そうですね。コンビネーションに磨きがさらにかかってます。ですけど・・・」
「ああ。これ以上長引けば、ルシルも手を変えてくるぞ」
シグナムがそう言った直後、フィールドに乱立してたサラヒエルが全て霧散した。この瞬間、ルシルの戦術はまた何十、何百となって、フェイトとアルフが近接戦をし続ける危険性もグッと高まった。
――輝き燃えろ、汝の威容 ――
「やば・・・!」
「アルフ!」
ルシルを中心に直径10mほどの円が床に描かれた。フェイトとアルフが慌ててルシルの側から離れた直後、円の縁に沿って炎が噴き上がった。あと少し回避が遅かったら負けてた。
――舞い振るは、汝の獄火――
――燃え焼け、汝の火拳――
そんな炎の壁から、サラヒエル40本くらいと火炎砲セラティエル10本が全周囲に向けて発射された。ほとんど無差別だから、砲撃と砲撃の間はまちまち。けどそれをカバーするようにサラヒエルが砲撃間にある。フェイトとアルフはジャンプで避けるんじゃなくて、床スレスレにまで体を前に傾けてから、ルシルに向かって一足飛び。
「上に跳べば対空迎撃の的になる。が・・・」
「スレスレもやべぇよな。つうか、ルシルの魔法のバラエティが富み過ぎてんだよな」
「苦手な距離が無いのが強みなのよね、ルシル君」
「器用貧乏でもないし、本当に強い」
炎の壁が無くなってルシルの姿が丸見え。フェイトとアルフは片方が近接、片方が射撃のコンビネーションでルシルを追い詰める。近接することで射砲撃の発射を潰して、射撃でルシルの迎撃を潰す。とここで、「ツヴィリンゲン・シュベーアトやな・・・!」ルシルが“エヴェストルム”を双剣形態にした。ルシルの本気だ。
「フェイトちゃんは、ブレイズフォームに換装だね」
機動力を削ぐ代わりに防御力と攻撃力を上げるバリアジャケットに換装したフェイト。そして始まるフェイトとルシルの斬り合い。“バルディッシュ“1本のフェイトに対してルシルは“エヴェストルム”2本。片方を防御やアルフの迎撃に使って、もう片方をフェイトの迎撃に使う。
「わたしがあそこに居れば・・・」
あれはいつだったかな。4戦目を終えたくらいの時、ルシルに訊いてみた。もし、わたしが魔導師としてレベルが高かったら、フェイト達と一緒に戦ってもいい?って。
――いいよ。フェイトとアリシアとアルフ、3人同時で相手にしよう。アリシアはどんな魔導師になるか判らないから、どんな戦いになるか楽しみだよな~――
フェイトとアルフのコンビを強敵として見ていないからこそ言える発言。ルシルはそうは思ってないんだろうけど、わたしは甘く見られてるって思った。悔しい。ルシルは確かに強い。誰もが認めてる。だからこそ、負かしてやりたい。
「アリ・・ん・・・」
ん? 誰かわたしを呼んでる・・・?
「・・シア・・・ん・・・」
きょろきょろ周りを見る。みんなはフェイト達の模擬戦を見てるから、呼んだのは違う人。
「アリシ・・・さ・・・」
もう誰? 幻聴? 虫の羽音みたいなのやめてよ。
「アリシアさん・・・」
模擬戦に集中できないじゃんかもう!
「アリシアさん!」
「(んもう・・・)うるさい!」
そう叫んだ瞬間、視界が一瞬だけ暗転。そして視界が開けて、わたしは呆然となる。今いるのは学校の教室。着てるのは局じゃなくて学校の制服。周りにはフェイトやクラスメイト。そして「おはよう、アリシアさん。良い夢、見れた?」わたしの机の側に立ってるのは先生で、その声はわたしをずっと呼んでたあの声だった。
(授業中に眠ってたぁぁぁーーーー!!)
夢だった。昨日、本局でやった模擬戦の夢。冷や汗がどっと出た。今わたし、うるさい、って思いっきり言っちゃったよね。わたしは「まぁまぁな夢でした。ごめんなさい」謝った。先生は「はい、よろしい」そう言って教卓に戻ってくれた。ホッと一安心。
『アリシア。眠っちゃダメだよ』
早速、可愛い妹のフェイトからダメだし念話。わたしはこのクラスで一番背が低いから教室で一番前の席だから、後ろに居るフェイトの表情は見えない。だけど判る。絶対に呆れてる。
『にゃはは。アリシアちゃん、昨夜は夜更かしでもしてた?』
『昨夜はアリシアちゃんやシャルちゃんが好きなアニメの映画やってたから、それを観てたのかな?』
なのはとすずかからも念話が来た。確かにシャルと一緒にアニメ映画観てたけど、それが原因でもない・・・ってこともない。面白かったです。遅寝も原因だけどそれだけじゃない。もう1つの原因は『今日の陽気が悪い。ポカポカし過ぎでちょー眠い』春の陽気・・・っていうか、もう夏だね。6月の後半だし。
『確かにこうも温かいと眠くなるわよね。お腹もいっぱいだってこともあるし。あたし窓際だからかなりまずいわ』
アリサも念話に参加。それから何事もなく今日最後の5時間目授業は進むかなぁ、なんて思えば、「はい、アリシアさん。この問題を答えて」当てられた。問題は、ヘビとかトカゲとかの種類が何か、ってやつ。
「気持ちわ類です!」
「は~い、違いま~す」
先生のツッコみに、教室に笑いが起きる。ボケる、あえてボケる。転校直後の最初期は大マジメだったんだよ、わたしもフェイトも。けどわたしとフェイトの間違い回答をみんなはボケだと思ってたみたいで爆笑。最初はそういうの嫌だったけど、解っていながら間違ってみて爆笑が起きた時、それは快感に変わったんだよね。でもさ・・・
「はい。次の問題も、アリシアさん」
答える。
「じゃあ、この問題は、アリシアさん」
答えた。
「えっと、アリシアさん。この問題の答えは何?」
もちろん答えたよ。でも先生、これってイジメとかって言わない? 居眠りしちゃったのは悪い事だけど、4連続指名はあまりにひどくありません? ボケる側にもお休みが必要だと思います。
「――はい、今日はここまで。すずかさん、フェイトさん」
「「起立。礼。ありがとうございました!」」
そんなこんなで理科の授業は終了。そのまま帰りのホームルームが始まる。先生から明日の予定とかを聴いて、ホームルームは終了。先生が教室を出て行ったのを確認してから、「あぅ~~」机に突っ伏す。すると「居眠りなんかしたらダメだよ」フェイト達がわたしの側に集まってきた。
「解ってる~。・・・よしっ。文句を言いに行こう」
「「「「へ・・・?」」」」
鞄を手に取って椅子から立ち上がって教室を出る。後ろから「文句って誰に・・・?」すずか、「って、2組に行くの? アリシアちゃん」なのは、「そもそもアリシアが悪いんだから、文句も何も無いんじゃ・・・」フェイト、「誰に文句言いに行くのか判ったわ」アリサが付いて来た。
「お邪魔しま~~すっ!」
シャル、はやて、ルシルの居る4年2組の教室へ入る。わたしの目当てだった友達の姿はすぐに発見できる。どこに居ても目立つ銀色の長い髪。
「ルシルが男子グループに混じって喋ってる! 女子なのに!」
「男子だ!!」
ルシルがすぐにツッコんでくれた。う~ん、このやり取りもそろそろ飽きてきちゃったなぁ~。教室の後ろで女子グループと喋ってたシャルとはやてが「いらっしゃ~い♪」手を振ってくれたから、わたし達も手を振り返した。
「さて。ルシル!」
「俺に用なのか? しかもアリシアが。シャルと並んで学校では関わりたくない2トップなんだけどな~」
「そんなこと思ってたの!?」
「何気にわたしまで巻き添え食ってるんだけど!?」
わたしとシャルでガーン! ルシルは「悪い。今日はこれで帰るよ。・・・それで、俺に何の用なんだ」って男子グループに別れの挨拶をしてからわたしの側に来た。わたしは「ルシルの所為で居眠りした上に授業で何回も当てられた!」ビシッとルシルに指差した。
「は?・・・それって俺の所為か?」
「以上終わり! 責任を取ってわたしを強くして!」
「どういうこと?」
小首を傾げるルシルやフェイト達。詳しい話は帰りながら、ってことにしてわたし達は帰路に着く。今日は全員、管理局の仕事が休みだからゆったりと徒歩で帰ることにした。これなら念話を使わなくても魔法の話とか出来る。そしてわたしは、昨日の模擬戦の夢を見たことを話した。
「ほら、やっぱりアリシアの居眠りも連続指名も俺の所為じゃない」
「今、それはどうでもいいの! 大事なのは、フェイトやアルフに混じって一緒にルシルと戦い合えるだけの力が欲しいってことなの!」
ルシルの前に躍り出て、向かい合って真っ直ぐ見詰めると、「そうは言ってもな。俺にも出来ない事はある」目を逸らすことなく真っ直ぐ見詰め返してくれた。誤魔化すことなく真剣に応えてくれてる証拠。わたしだって無理難題を言ってるってことくらい解ってる。
「でもアリシアちゃん。確かにフェイトちゃんやアルフとは一緒に前線で戦えないかもしれないけど、サポートとして一緒に戦っているんじゃないかな」
「そうだよ、アリシア。私もアルフも、アリシアのサポートには十分助けてもらってるよ」
すずかとフェイトがそう言ってくれるけど、それでも限界がある。フェイトとアルフは強いけど、それでもそれ以上に強い犯罪者だっているし、実際にいた。冷や冷やする場面もあった。そこはわたし達のお兄ちゃんのクロノが助けてくれたから事なきを得た。
でももしあの時、クロノが居なかったら? そう思うと本当に怖かった。そして昨日を含めたルシルと何度もやった模擬戦。常に一緒に戦えなくたっていい。だけど緊急時、フェイトとアルフが危ない事態に陥った時くらいは戦える強さを持ってたい。
「――だから、わたしも力が欲しい。一時的な戦闘能力でもいいから・・・」
わたしの思いを伝える。みんなは黙って、真剣に考えてくれた。でもやっぱり「すまない。俺には案が無い」ルシルを発端に、みんなが「ごめんなさい」って謝ってくれた。わたしも「ごめんなさい。無理を言って」って謝った。そんな簡単に強くなれるんなら誰も苦労しないよね。
「さっ。話はこれまでにして! 今日はどうする? どっか遊びに行く?」
暗く重い空気を払拭するために明るく振る舞う。今日はとりあえず、「翠屋でケーキいっぱい食べながらお喋り❤」いくつか候補が上がって(模擬戦って候補はすぐ却下)、多数決で喫茶店・翠屋の売り上げに貢献しようってことになった。
「いらっしゃ――おっ♪ おかえり、なのは、お友達のみんなも」
翠屋に到着すると、なのはのお父さんで翠屋のオーナー、士郎さんが迎えてくれた。みんなで「こんにちはー♪」挨拶返し。さぁ、どこに座ろうかってところで店の中には他のお客さんがたくさん居ることが判って、わたし達はお店の外のテラス席へ移動。ウエイトレスのお姉さん(なのはのお姉さんじゃなくてアルバイトの)に注文。あとは、注文したケーキとかが来るのをお喋りしながら待つだけ。
「なぁ、ルシル君。さっきから難しい顔してるけど、どうしたん?」
ルシルの方を見ると、はやての言うように眉間にしわが出来てた。アリサが「今さら女子の中に男子1人だから、とか言わないわよね」からかい混じりに笑う。外見は女の子なルシル。着ているのは男子の制服。他の人が見れば男装女子。
「違う。アリシアの事だ。あんなに真剣に悩みんでいるんだ。やっぱりちょっとやそっとで諦めるわけにはいかないだろ」
みんなが「おお!」って拍手。本気で嬉しいこと言ってくれたんだけど。到着したケーキを食べながら、これまで複製されて溜まった魔法の道具の中から管理局法に引っかからないで、なおかつわたしでも扱える物が無いか検索してるってルシルは教えてくれた。お礼に、「ルシル。あ~ん、して」わたしが頼んだケーキをあげた。嫌がるルシル(ごり押しで食べさせた♪)と、嫉妬するシャルとはやてが面白い。
「ルシル君、ルシル君。たとえばどんな物があるの?」
「たとえば? う~ん・・・、使えば魔力ランクSSほどまでの力を得られる代わりに、効果が切れたら向こう5年、頭がパーになる薬草」
「こわっ」
「装備すれば圧倒的な力を得られる代わりに、寿命が削られていく首飾り」
「RPGとかで見かける呪われた装備品みたいね」
「自分と他者の能力を入れ替えることの出来る1組の指環」
「それはどんな呪いがあるん?」
「・・・性別が変わる。女性が付けたら男性に、っていう風に。しかも一度付けたら最低1年は外させない」
「こう言ったら失礼かもだけど、碌な物が無いね・・・」
「呪われる系の装備品ばっかなわけないよね?」
「もちろんだよ。でも、まともな物は装備できるだけのレベルにアリシアが達していないし、そういうの度外視した物はロストロギアとか質量兵器とかに分類されそうで」
というわけだった。結局、「俺の持ち物じゃダメだな~。現在のアリシアに合いそうな物は無い」頼みのルシルでもダメだった。やっぱ楽しちゃダメなんだね。この話題はもう切り上げて、みんなで楽しくお喋り。2週間後の土曜日に近所でやる夏祭りに行こうとか、夏休みはみんなで海に遊びに行こうとか。スケジュール組み立てだけであっという間に時間は過ぎて・・・
「それじゃ、また明日♪」
「気を付けて帰んのよ」
迎えに来た車に乗って先に帰るアリサとすずかを見送った後、わたし達も自分の家に向かう。その道中、「そう言えば、セレネとエオスのデバイスは妙だったよね」シャルがポツリと漏らした。
「あー、確かに変な魔力の流れを感じたなぁ~」
はやてがシャルに同意する。セレネとエオスが通ってるっていう魔法学院を見学した時、魔法戦をやったって聞いたけど。その時に見たんだね、2人のデバイス。
「2人のデバイスってどんなのだったの?」
「やっぱり杖とかそういうの?」
「銃だったよ。カートリッジシステム搭載のストレージデバイス」
「かなりゴツいやつやったなぁ。全部が黒で、カッコええ拳銃やったよ」
「リボルバーのS&W M500をモデルとしていたな。銃身は21cmちょいで――」
なんか語り始めたルシルは放置。やっぱり男の子だなぁ。銃が好きとか。それはともかくとして、カートリッジかぁ。一時的だけど爆発的な魔力を上昇させることが出来る機構。でもアレってそれなりの魔力を持ってないとダメだし、魔力運用技術も並以上を持ってないとダメ。つまり、わたしじゃダメ、扱えきれないってわけで・・・。あぅ~、ホントにダメダメだよぉ~(泣)
「でもそれの何が妙なの?」
「ルール上、カートリッジは使用禁止だったんだけどさ。セレネとエオスが魔法を使う時、妙に魔力が上昇したんだよね。あれはたぶん・・・別のドーピングをしてる」
「「ドーピング・・・?」」
なのはの質問にシャルがそう答えて、わたしとフェイトは小首を傾げた。そしてルシルは「2人のランクはDランクらしいんだが、普通にそれ以上の魔力でシャルを翻弄してくれたしな」ってセレネとエオスを褒めた。
「カートリッジとは違う別の魔力上昇機構を手にしてる、ってことかぁ~」
わたしは腕を組んで唸る。もし本当にそう言うのがあるならお目に掛かってみたい。
†††Sideアリシア⇒フェイト†††
今日も管理局の仕事が休みな私と、姉のアリシア、それに親友のなのはとアリサとすずかは、ミッドチルダは北部・ベルカ自治区、ザンクト=オルフェンへとやって来た。ここに来るのは結構久しぶり。
「はやてちゃん達も来られると良かったんだけどね」
「お仕事だからしょうがないよね」
シャルとはやて達八神家は全員お仕事で、一緒できなかった。だから今日はシャル達抜きだ。そしてここを訪れた理由は、ある友達に逢うため。私にとって最初は敵対関係だったけど、今ではとっても大切な友達・・・
「「やっほ~~~!」」
「セレネちゃん!」
「エオス!」
すずかとアリサが、こっちに駆け寄って来たセレネとエオスと大手を振り合う。やっぱり“フレイムアイズ”と“スノーホワイト”の原型――“クレイオスソウル”の新旧マスターとしての特別な絆なのかな。とりあえず私たちも「久しぶり!」って手を振る。
それから2人お勧めの喫茶店に入って、一番奥の席に着く。そしてここに来た理由について話し始める。2人のデバイスの秘密。今回こうして会うための約束をする時、2人のデバイスについて訊いてみた。その際にアリシアが自分の抱えてる悩みを伝えたら、直接会って話すって約束してくれた。
「――それでさ。セレネとエオスのデバイスって何か特別な機構とか備えてるの? 直接会えないと話せないってことは、かなり機密の高いやつだったり?」
アリシアがテーブルに乗り出し気味に訊くと、「まあね。私用でとある遺跡から発掘した特別な鉱石なんだよ」そう答えたセレネが耳を隠す髪を掻き上げると、両耳には三日月型のイヤリングが1組。
「初めて触れた人の魔力を記憶する鉱石でね。その人がその鉱石に魔力を流すと何倍にして返還してくれるっていう力を持ってるの」
エオスも同様に髪を掻き上げると、両耳には太陽型のイヤリングが1組あった。アレが2人のデバイスの待機形態なんだ。
「「とりあえず、どんな物か見せるよ」」
「アレジアンス、ヴァリアンス。セットアップ」
「グロリアス、グラヴィタス。セットアップ」
セレネとエオスがデバイスの名前を告げると、計4つのイヤリングが黒い拳銃型デバイスになって、ゴトッとテーブルの上に置かれた。カートリッジ5発を装填するシリンダーを有するデバイス。全部が真黒だからすぐに目が行く。シリンダー下――フレームとグリップの間に埋め込まれてる丸い宝石に。
「コレがその特殊な鉱石・・・?」
「「綺麗❤」」
「うん❤」
目を輝かせるなのはとすずかにわたしも同意する。一見すると黒いんだけど、よく見ると宝石の中には銀河のような無数の光の集合体があった。それが幻想的で、神秘的で、目を奪われる。
「初めて触れた人限定ってことになると、誰かに取って来てもらうっていうのはダメってことよね」
「「まぁ、そうなるね」」
デバイスをイヤリングに戻すセレネとエオス。アリシアは「その鉱石を扱うのって何か特別な才能とか技術って要るの?」って質問を続ける。アリシアの魔導師としてのレベルはお世辞にもあまり良くない。それなのにデバイスや強さを求めるのは、ひとえに私の為。
(私が危なっかしいから心配や不安にさせてるからなんだけど・・・)
申し訳ない半面嬉しいって思いもあって。アリシアが望むようにしてあげたいし、協力が必要なら何も惜しまないで手伝うつもりだ。
「ううん。特には無い・・・と思う」
「私たちとアリシアは違うからね。やってみないとどうか判らないよ」
セレネとエオスが言うには、鉱石を発掘した遺跡はほとんど手つかずで、鉱石を組み込んだデバイス持ちは次元世界でも2人だけなんじゃないかってことらしい。まぁ、知れ渡っていたら管理局で調査とか何かしらの分類指定にして犯罪組織などに悪用されないように対処していると思うし。
「・・・セレネ、エオス。お願いがあるの」
「いいよ。遺跡の在る場所、教えてあげる」
2人のデバイスから私たちのデバイスにいくつかのマップデータが転送されて来た。それらを確認しながら、遺跡内のどこにトラップがあるとか、強暴な魔法生物が棲息しているけど、私たちが束になれば余裕勝ち出来るとか、教えてもらった。
「陸士学校でいろいろ訓練したんでしょ、アリサもフェイトもなのはも。すずかは元より運動能力が良いし――・・・」
「私たちはこれから1ヵ月、学校にスクライアとしての仕事もあるから付いていけないけどさ――・・・」
「「ラクショ~っしょ❤」」
私たちにウィンクするするセレネとエオス。私やアリシア達は顔を見合わせて、「もちろんっ♪」頷いて応じた。こうして私(家に留守番のアルフはあとで呼ぼう)、アリシア、なのは、アリサ、すずかは、魔導師の魔力を強化できるっていう鉱石を採取するため、ミッドチルダを発つことになった。
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