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油すましと赤子

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2部分:第二章


第二章

「それじゃないのか?」
「それってこんな気楽に言えることかい?」
 おえりの口調がここで変わった。
 妙に真剣なものになってだ。それで亭主に言うのだった。
「化け猫って人殺すよね」
「そうだよ。取り憑いたりしてな」
「殺すよ。厄介だよ」
「参ったな。そりゃ洒落になってねえな」
 甚平は何処か呑気な調子で言う。少なくとも緊張感はあまりない。
 それでだ。その緊張感のないままだ。彼はまた女房に言った。
「ここは一つお坊さんでも呼ぶか」
「お坊さんを?」
「それで取り払ってもらうか」
「神主さんの方がいいんじゃないのかい?」
 おえりが推すのはこちらだった。
「神田明神からね」
「そうだな。じゃあそうするか?」
「まあ坊さんでもいいけれどね」
「だよな。まあとにかく誰か呼ぶか」
 甚平は緊張感のないまままた話す。
「少なくともあまりない話だからな」
「そうだよ。とにかくな」
「誰か呼ぶか」
 こうした話をしてだ。実際に二人で家を出ようとした。しかし寺か神社どちらかに行くことはまだ決めていない。適当なのはそのままだった。
 そのうえで行こうとする。しかしだった。
 ここでだ。二人を呼び止める声があった。
「待つのじゃ」
「待て?」
「待てって?」
「これから寺か神社に行くつもりじゃな」
「ああ、そうだよ」
「今からね」 
 その通りだと答える二人だった。
「まあどっちに行くかはな」
「まだ考えていないけれど」
「やれやれじゃな」
 声は二人のその適当な調子にだ。呆れてしまった。
 そしてそのうえでだ。こうも言う声だった。
「そんなことではのう」
「何だよ。何があるんだよ」
「それで」
「そんなのだからあれが盗み取るのじゃな」
 これが声の言うことだった。
「呆れたことじゃ」
「呆れたって何がだよ」
「それで何なのよ」
「御主達に言うことがある」
 声は自分に問う二人に対して再び言ってきた。
「それもじっくりとな。出て来てよいか」
「そうだよ。あんた誰なんだよ」
「一体何処にいるのよ」
「声は聞こえるけれどな」
「姿はあるのよね」
「うむ、ある」
 それはあるとだ。声はおえりの言葉に話した。
「それでなのじゃ」
「それで?」
「それでというと」
「ほれ、出たぞ」
 この言葉と共にであった。それが出て来た。
 平べったい皺だらけの顔に細い目、髪の毛は一本もない。蓑を着ており右手には杖がある。身体はかなり小さく子供と同じ位だ。
 その一見小柄な老人に思える。それがだ。二人に言うのだ。
「ずっと見ておったわ」
「おいおい、あんた覗きかよ」
「趣味が悪いね」
 甚平とおえりはそれの言葉に口を尖らせて抗議する。
 
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