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ソードアート・オンライン~剣士と剣鬼と剣神と~

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SAO─浮遊城と赤衣の聖騎士
  序幕

 子どもの頃よく見た夢には、二つの印象的なモノが映っていた。

 一つは、蒼穹にぽっかりと浮かぶ巨大な城。城、と言うよりかは、大陸の切れ端、と言った方がいいかもしれないそれは百の階層に分かれており、その全てに、それぞれ特色の違う文化が栄えていた。森があり、海があり、湖があり、山があり。そして、街と人の営みがある。

 それだけではない。各階層は巨大な塔によって繋がれており、その中には無数の怪物たちが跋扈しているのだ。

 そんな浮遊城を、たった一人で歩いて、頂上へと向かう、夢。

 城の頂には、もう一つ、真紅の屋敷があって、その最上階には無数のステンドグラスが張られて、プリズムのように輝いていたものだ。子どもながらに、強く『美しい』と感じたのを覚えている。

 その部屋には、自分の他に、もう一人の人物がいるのだ。それこそが、強くこの心に残っている、もう一つの存在。

 真っ白い翼を広げて、黄金の髪をなびかせ、()()色の瞳を細めて笑う、一人の少女。

 彼女は私を手招きして、こういうのだ。

 私の世界へようこそ、と。



 ****



 號と響きながら、仮想の大気を引き裂く音がする。其の音は最早鋼が奏でる音色では無い。全く別の、何かに依る物だと言われても、誰も疑問に等思わないだろう。

 続く重厚な防御音もまた、斬撃と同じく金属の域を超えた音である。既に其処に、此の世界の常識で在った物皆全て、存在し得ない。

 此処に在るのは新たな法。今此処で繰り広げられているのは、此の地に降り立って以後誰も見た事の無かった、仮想世界の極限である。

「死ぃぃぃいいいいッ!!!」

 化鳥の如き気合を、其の噛み締めた歯の間から迸らせて、青い影が疾走する。掌に握る一対の得物は、既に形だけのモノと化している。

 此の世界にとって、どれだけの価値がある存在なのか否かは、最早此処に至っては問題ではない。既にそれが唯の鉄屑の寄せ集めで在ろうと、緋々色金を神の御技にて打ち鍛えた名刀であろうと、結局の所この戦いでは共通の意味しか持たないのだ。

 即ち、その手に握られ、己が腕の延長として振るわれる、『武器』としての意味しか。そこに其れ以外の意味が介入する余地はそもそも最初から存在すらして居らず、許される事など決して無い。

 最早使い手までもが、銘すら忘れた。与えられた名は、今や『武器』唯一つ。

 再び其の武器――常識に照らして分類するならば、刀と盾――が迎撃し合う音。鋼の重奏を響かせるのは、一組の男達。

 青い影。青髪の剣鬼。白い外套を靡かせて、嵐の如く荒れ狂う。
 赤い影。赤衣の聖騎士。真紅の鎧は堅牢にして、一切の傷を赦さない。

 浮かべる表情は、青が壮絶な笑み、赤が沈黙の厳顔(がんげん) と間反対に等しいが、しかし内包する感情は恐らく全く同一の物で在ろう。

「く、ククク……ふはははははッ!! 素晴らしい。素晴らしいぞ! さぁ、もっと”私”を楽しませてくれッ!!」

 今此処で巡り合った、此の強者との戦い。其れに対する、歓喜でしか無い。

 青き影が高らかに嗤い上げたのは、赤き聖騎士との出会い、そして此の剣戟を歓迎し、何時までも継続させようと言う意思。

 
 だが忘れてはならない。

 此の場には、其れを許容しない者が、他にも存在して居る事を。

「おぉおおおおおッ!!」

 静かに、しかし猛々しく。裂帛の気合いと共に、黒い鬼が弐色だけの世界に墨を垂らす。其の手に握り緊めた、やはり一対の得物を以て、青と赤の一騎打ちに割って入った。

 両手に握った長剣が、赤騎士の盾を弾き、青色へと躍りかかる。

「やはり来るか、キリト(あに)……ッ!! そうだろう、貴方が居ないのであればこの戦、何一つたりとも至高とはなるまいッ!!」
「黙れアオ! この戦いは、お前の欲望(ねがい)を満たすための物じゃないんだぞ!!」
「何を仰るか!! 他ならぬ貴方が! 望んだのでは無いか、この戦を!」
「それは『救うため』だ! 『殺すため』じゃない!!」
「大いに否! これは”私”の……『殺されるため』の戦いだ!!」
「ほざけッ!! 命は玩具じゃないんだぞ!」

 黒と青の剣風が、捲き起こっては相手を切り刻んで消えて逝く。黒の剣が青の刀を薙いだのならば、青の刀が、此度は黒の剣を薙ぎ払う。どちらの剣技も極限。獲物は『武器』。条件が全く同じ二者の戦は、決裂する事も、それでいて混じる事も無く並行する。

 黒の放つ一撃が、青の頬を浅く薙ぐ。しかしその身に、傷を与えるには到らない。対する青もまた、その刃を人知を超えた揚力で以て、縦横無尽に振るい続ける。斬撃の監獄で黒色を捉え、切り刻むために。だが、黒もその斬撃を甘んじて受け入れる訳が無い。恐るべき反応速度で斬撃監獄を回避し、距離を取る。

 再び弐色に染まりかけた戦には、しかし赤も消える事無く介入した。青と黒の間に割って入ると、黒が振りかぶったその刃を、構える巨大な盾で受け切る。此の世の物に非ざる音を立てて、剣と盾が、弾く、弾く、弾かれ合う。
 全ての攻撃が、決まれば相手を破壊する。そんな極限の一撃が、その役割を果たさんと荒れ狂った。

 涼やかに、そして厳かに。赤が黒に告げる。お前と戦うのは此の我だと。

「忘れてもらっては困るかな、キリト君」
「黙れ。今俺はアオと話している」
「だが(ヒースクリフ)と戦うのは君だ、《黒の剣帝》。《青の剣鬼》では断じてない!」

 赤の構えた大盾が、純白の極光を放ちながら黒へと迫る。しかし其れを其の身に受けることを、黒が許容する事は無い。黒もまた、一対の剣を交差させ、迸る閃光で大盾を受ける。

 あらゆる世界――其れは此の仮想世界も含まれ得る――の常識に照らせば、此れは異質でしか無い情景だ。本来ならば護る為に在る筈の盾が敵を穿ち、穿つ為に在る筈の剣が主を護る。

 だが此処に在って。此の場で在るからこそ、其れは常識となり得る。剣が盾を穿ち、盾が剣を穿つ。両者が共に『武器』で在るのであるからして、其れが護りの為の物なのか穿つ為の物なのかなど、一切合切関係無い。

 在るのは唯、此の武器で、此の命で、対峙する彼の者を打ち破り、打倒せしめるので在るという意思のみ。そうして決めるのだ。どの色が最強で、どの色が勝者に相応しいのかを。

 此処に在るのは修羅。己が求める極限だけを追って来た存在。

「ククク……はははははッ! そうで無くては……そうで無くてはならぬよなぁ!」

 黒と赤の弐色の世界に、再び青という参色目が突撃する。青の構えた刀は黒と赤を弾き飛ばし、破壊せんと荒れ狂う。

 此処に在りは勝者なり。勝者とは我なり――――そう言わんがばかりに。此の腕として振るいし一対の刃こそ、貴様たちを打ち斃し勝者である事を証明する『武器』である、と。

 声に出さずとも華々しく宣言し、青色の剣鬼が駆け抜ける。

 ――――黒き剣帝、恐るるに足らず! 赤き聖騎士、恐るるに足らず! 汝ら、我が身を打ち倒したくば、"私"を殺して見せてくれ――――!!

 まるで、そう叫ぶかの如く、青色はその武器の刀身を、鋏の様に交差させた。

 二刀が鮮血が如き光を纏う。其れは必殺の意味を内包する輝き。一撃一撃が、天下無双の怪物たちを屠る、人外の為の剣術。

「夜の明け――――星斬り流剣術ッ! 異の型・四ッ番ッ!! 
 《天舞散血翡翠業(あままいちるはちのひすいがごう)》ォォォォゥゥッ!!」

 青色の握る二本の武器、交差されていたその刃が、眼にもとまらぬ速さでそれぞれ外側へと振り抜かれる。

 発生する衝撃波。疾風が、断頭の鎌と化して荒れ狂う。黒と赤を切り刻み、世界を青だけに染め上げる為。血色の旋風が蹂躙する。

 だが黒も赤もそれを唯許容し、自らが打倒される未来を迎える事は断じて否とする。黒は尋常ならざる速度で其の場を離れ、赤は大盾を構えて受け流す。必殺を以て放たれた暴威は、しかし黒も赤も殺す事無く消滅した。

 だがしかし。否、だからこそ、青色は更なる歓喜と興奮に其の身を震わせ、そして嗤うのだ。

 嗚呼、何と――――

「素晴らしいッ!」

 是以上の物など、望むべくも在るまい。

 だが。

 だが、だが、だが。

 
 此の戦乱に、今だ介入せざる存在がもう一つ在ることを、青色は知って居る。

「如何した《剣神》! 貴方もその剣を抜くが良い! そうして見せてくれ! ”私”に、貴方の暴威を! その腕で打ち斃される感動を、与えてはくれまいかッ!」

 其れは四色目である。一色目が青。弐色目が赤。参色目が黒とするならば、四色目とは、表すならばそれ即ち《白》であった。

「……」

 白銀の髪を靡かせ、玲瓏と其処に佇む最後の一人。小柄で在れど、その内包する気配は随一。不動で在ったその彼が、青色の狂気に答えてついに己が『武器』を取る。
 
 『其れ』は、常人の思考に照らし合わせるので在れば『素手』で在った。無手。白色は、其の腕をこそ武器とする。掌をこそ刃とする。此処に居る誰よりも靜かに、冷徹に、其の刀身を今抜き放つ。

 光すら凌駕する神速で。此の電子の世界の限界で、剣の神が舞い踊る。音も、予備動作も、瞬きの間の許容すらも無く、即座に青色の前に純白の四色目が飛来する。

 剛と音を立てて振り抜かれる(素手)(くび)を狙った一撃は、しかし青色に避けられる。だが青色も、白色も其処までは想定済み。当たり前だ。白色の『武器』――――其の刃とは、掌だけでは無い事を知って居るから。

 白色の脚が輝く。繰り出された蹴りは殴殺の凶器。歓喜に咽ぶ青色は、しかし己が肉体で受ける事は無い。当たれば即死。それは”この場”の常識である。迫りくる蹴撃を、刃で迎え撃つ。

 かと言って、其れにて白色の脚が切り裂かれるかと言われれば、其の様な事が起こり得る訳が無い。其れはこの戦に参加した四色、全てが知り得ている事実。

 砕かれたのは青色の『武器』。刀の刃は粉々に打ち砕かれ、此の世界から未来永劫に其の銘を喪った。

「ククク……やはり破壊するか……ッ! 貴方の力なら、容易だと信じていた……ッ」

 本番は此処からだ、と言わんばかりに、青色が其の得物を構え直す。両手で、柄を握って。(ようや)く、其れを『武器』では無く『刀』として。

 同時期に、黒と赤の弐色の世界も終わりを告げる。黒の剣と、赤の盾が、お互いの攻撃を最後に弾き合うのと、(ほぼ)全く同一の時に。

「アオ様……アオ様……っ!」

 青色の髪の従者が、剣鬼の無事を天に祈り。

「茅場君……」

 鈍色の髪の女性が、聖騎士の勝利を信じ。

「パパっ! パパぁ……っ!」

 黒の髪の娘が、父たる黒い剣帝の身を案じ。

「ロトっ、ロトっ……やめてぇぇぇぇッ!!」

 金色の髪の姫君が、白い剣神を戒めようとしたのと、粗全く同一の時に。


 ――――四色が此処に、混じり合う。

「夜の明け……――――ッ! 星斬り流剣術――――異の型・五番ッ!!」
「《神聖剣》、最上位ソードスキル……!」
「贖う命は誰が為に……贖う命は汝が為に……ッ!」
縛鎖魔王(アシズ)――――」

 瞬間。

「――――《斬撃黎殺(きりうちあけころすは)此世終焉(このよのおわり)》ィィィッ!!」
「――――《アカシック・ディメンション・アーマゲドン》ッ!!」
「――――《ビッグバンバースト・オーバーレイ》!!」
「――――《失楽園(パラダイスロスト)》!!」

 世界は、無数の残骸へと引き裂かれ、崩壊した。 
 

 
後書き
 というワケで始りました、『ソードアート・オンライン~剣士と剣鬼と剣神と~』! 私、作者の八代明日華/Askaと申します。つい一か月ほど前まで『ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~』という二次創作を書いておりました。Aska、とお呼びください。
刹「天宮刹那と申します。時折後書きに出現しますので、作者と併せてお見知りおきください」

 さて、これから本作…通称『SSS』…を読んで下さる方に向けて、早速続きを読む気を削ぐ『ご注意』をば。
 まず、本作はAskaが当サイトでちまちま書いております一次創作、『ノヴァの箱舟』との『一次創作クロス』という奇怪なジャンルを持つ作品です。単なる独自設定をぶち込んだ原作崩壊とはほんの少しだけ感覚が異なります。それが許せない、という方は、残念ながら本作は口に合わないかもしれません。
 次に、本作にはごくまれに『挿絵』が入ります。下手かつかなりテキトーなものとなりますのでご注意ください。
 また、更新はかなり遅いです。AskaはPCでないとほとんど執筆できない体質であることに加え、頻繁にPCを使える環境に居ません。
 同時にAskaは技量不足の目立つド素人です。基本的に駄文となります。
 最後に(もうお気づきかもしれませんが)、後書きがとてつもなく長い&オリキャラとの会話形式となります。あまりほめられた形式ではないらしいので、これに関しても「ちょっと……」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。

 以上の全てを知りながらも、「読んであげてもよろしくってよ?」という救世主方は、どうぞ、今後も本作をよろしくお願いします。
刹「それでは、次回もお楽しみに!」 
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