| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

フェアリーアイズ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2部分:第二章


第二章

「そういうのしかないから」
「我が国は大衆の賑やかさなのに対してね」
「高慢な貴族と下品な労働者」
 エリザの認識はかなり拡大されて彼女の中にあった。
「それが凝縮されたのがこの街ね」
「ロンドンだね」
「そうよ。今日にでも転勤願いを出すわ」
「それで日本にだね」
「ええ、行くわ」
 そんな話をしながらだ。二人はその大嫌いなロンドンの街を歩いていた。そのエリザのところにだ。
 急にだ。車が飛び込んで来た。
 ジョンは咄嗟にエリザを庇って跳んだ。見事な運動神経だった。
 しかし石畳の上に倒れ込む時にだ。彼はしくじってしまった。
 エリザは頭を打ってしまった。それによってだ。
 彼女は気を失ってしまいだ。それでだった。
 すぐに病院に担ぎ込まれた。そのうえで治療と検査を受けた。その結果。
 命に別状はなかった。幸いにして後遺症もないという。そのことを聞いてジョンはまずは安堵した。しかしその彼女の見舞いに来てだ。
 ジョンはだ。ベッドから身体を起こしているエリザの顔を見てだ。驚きの顔で言うのだった。
「あの、それって」
「目ね」
「一体どうしたんだい、急に」
「ドクターの話だとね」
 彼女が今入院しているこの病院の医師のことだ。
「あの時頭を打って」
「ああ、あの時」
「その影響らしいわ」
 それでだというのだ。
「目の色がこうなったのは」
「その左目ね」
「ええ、この目ね」
 エリザはここで自分のその左目を擦った。その目の色は。
 紫だった。アメジストの輝きのその神秘的な目を擦りながらだ。こう言うのだった。
「珍しい色よね」
「紫の目はね」
「ケルト人の目だけれど」
 それでもだった。紫となるとだ。
「私達の間でも滅多にいないから」
「僕も見たことは殆んどなかったよ」
「しかもよ」
 さらにあった。エリザの右目はだ。
 そのままの色だったのだ。青がかった灰色のままだ。
 その二色の目になっていた。それでこう言うのだった。
「フェアリーアイズなんて」
「うん、それだね」
「何ていうのかしら。想像していなかったわ」
 事故からそうなることをだ。どうしてもだというのだ。
「本当にね。ただ」
「ただ?」
「左目は見えてるわ」
 ちゃんとだ。目の働きをしているというのだ。
「これまで通りね。ただ色が変わっただけみたい」
「じゃあそれだけで」
「特に変わりないわ。まあ目はそれでいいとして」
「退院は何時かな」
「三日後よ」
 もうその時にだというのだ。
「怪我は軽かったというか打っただけで」
「後遺症もなくて」
「だからね」
 それでだ。すぐに退院できるというのだ。
「正直運がよかったわ」
「神様の御加護だね」
「ロンドンでも神様はいるのね」
 冗談めいて笑いながら。エリザはこんなことも言った。
「ちゃんとね」
「神様は働き者だね」
「ええ、有り難いことにね」
 笑ってだ。エリザはまた言った。何はともあれだ。
 彼女は無事だった。ただ左目の色がそれになっただけだ。
 そのまま退院して暫くは何もなかった。しかしである。
 ある日勤務中に不意にだった。それが見えたのだ。
「あらっ!?」
「何かあったのかい?」
「今ね」
 ふとだ。視界の端にだった。
 それが見えたのだ。小さい赤いキャップを被った老人だ。左足は木の義足、白鯨の船長の足になっている。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧