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フェアリーアイズ

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1部分:第一章


第一章

                     フェアリーアイズ
 エリザ=ラッケンはアイルランド生まれだ。しかし今は。
 イギリスの首都ロンドンにいる。何故いるかというと仕事だからだ。
 ロンドンの二階建てのバスを横目に見ながらだ。背の高いグレーのスーツの黒い目の青年に話す。
「仕事とはいえね」
「嫌なんだね」
「アイルランド人だったら皆そうでしょ」
 こう言うのだった。見れば彼女の用紙は周囲の通行人達と少し違っている。
 青がかった灰色の目に栗色の波がかった髪、それにやや小柄だ。脚はあまり長くなく胸が目立つ。イギリス人とはあまり思えないものだ。
 その彼女がだ。こう言うのである。
「イギリスなんて」
「まあねえ。外交官とはいえね」
 彼女は外交官なのだ。それでロンドンのアイルランド大使館に勤務しているのである。
 しかしだ。イギリスだからだと彼女は言うのである。
「ジャガイモのことはね」
「それ以外にもね」
「イギリスには色々やられてきたから」
 これこそがアイルランドの歴史だ。この国はイギリス、イングランドに八百年の間支配されてきた。そのことを忘れていないのである。
 特にだ。そのジャガイモのことだった。
「麦を容赦なく取り立ててそのうえで」
「救済処置は取らなかったしね」
「百万のアイルランド人が餓死したわ」
 ある国が言う人類史上稀に見る虐政はここにあったのだ。
「そして何百万もね」
「アメリカに行って」
「誰もが餓えて痩せ細っていったわ」
「そのイギリスに赴任だね」
「どうせならアジアの何処かに行きたかったわ」
 こんなことを言うエリザだった。
「正直なところね」
「アジアになんだ」
「そう、何処かの国にね」
 そうだったとだ。こう言ってだった。
 具体的な国もだ。ここで挙げたのだった。
「日本とかね」
「日本ねえ」
「そう、日本ね」
 その国に行きたかったというのだ。
「それで美味しい食べ物をね」
「アイルランドも人のことは言えないけれど」
 それでもだとだ。若者は苦笑いで話した。
「ロンドンの食べ物はねえ」
「話には聞いていたけれど想像以上だったわ」
「まずいね」
「どの料理人も見事なまでにセンスがないわ」
 イギリスの料理はアイルランド人から見ても最悪だった。
「多分欧州で一番まずいわね」
「ダントツじゃないんだ」
「フィンランドもそうらしいから」
 まずいというのだ。その国もだ。
「何でも双璧らしいわ」
「イギリスと同じ位料理のまずい国があるんだ」
「そうらしいわ」
「世の中広いね」
 あまりよくない意味でもだ。そうだというのだ。
「いや、そんな国があるんだ」
「そうみたいね」
「遠慮したいね、フィンランド赴任は」 
 若者の口調は実にしみじみとしたものだった。
「今日にでもジョン=オーウェンにヘルシンキ勤務を命じるとか」
「ヘルシンキね」
「ロンドンの次はヘルシンキはもう罰ゲームね」
「全くだよ。けれど本当にロンドンは」
「ええ、イギリス自体は」
 どうかとだ。エリザはジョンに話していく。
「最悪ね」
「本当にイギリスが嫌いなんだね」
「それは貴方もでしょ」
「イギリスを好きなアイルランド人はいないさ」
 ジョンもこのことははっきりと言う。
「何もかもがね」
「そうよ。全くこの国は」
 どうかというのである。うんざりとした顔で。
「いいものは一つもないわね」
「何もかもが気取っていて」
「それか妙に下品で」
 貴族と下町、その二つを対比させての言葉だった。
 
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