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提督がワンピースの世界に着任しました

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第02話 処女航海

 新たに加賀、長門の2人の艦娘を迎えた我が神威鎮守府だったが、相変わらず状況は芳しくない。鎮守府がある島内を少しだけ歩いて探ってみたが、村や町も見当たらず人の気配も全くない。吹雪の報告にもあったように、海岸沿いに村や人の住む気配すら無い事から無人島である可能性が高まった。そして、他の鎮守府との連絡を試みるも依然繋がることはなく今も神威鎮守府は孤立している。
 この島で調べられることは現状で可能な限り調べたが、これ以上の進展を求めるにはやはり外海に行くしか無いという結論を出した俺は、海へ出る準備を進めることにした。
 
 艦娘達には、外海航海のための準備の1つとして演習を行ってもらい練度向上に努めてもらった。二週間程を1人で周辺警戒していた駆逐艦の吹雪は、その間にかなり練度を上げていたようだが、それでも軽巡洋艦である天龍に性能差で一歩及ばず。だが、食らいついてきた吹雪に触発された天龍は、訓練にかなり熱を入れていた。そんな中、黙々と順調に訓練をする妙高と加賀。マイペースだが、確実に練度を上げていく長門。我が鎮守府の艦娘達はかなりハイペースにレベルを上げていく。そんな彼女たちを見て、非常に頼もしく感じた。

 航海には長門を旗艦として、吹雪、天龍、妙高、加賀の5隻で艦隊を組んでもらう事に。妖精さんにも乗艦してもらい、全ての艦娘達を航海に出すのは事に。神威鎮守府を完全に留守とすることで守備を無くす事に抵抗感はあるが、航海の危険度も未知数なため戦力を分散させるのは愚行だと考え、一種の賭けとして最悪は鎮守府を放棄する事も視野に入れながら航海に挑むことにした。

 ところで艦娘には3つの形態があるそうだ。それぞれは普段の活動するための人型形態、艤装を装備した対深海棲艦のための戦闘形態、艦娘の力の全てを引き出して使う決戦形態、と呼ばれる3つである。
 決戦形態はゲーム内では見なかったのか設定されていなかったのか。詳細について詳しく言うと弾薬、燃料の消費が戦闘形態の約100倍も掛かると言うデメリットがあるが、持ちうる全てを出し切る事を可能にするこの形態。力を出しきるとは例えば、長門で言えば全長224メートル、全幅34メートルの艦で戦闘を可能とするもの。彼女たちの表現で説明すれば、普段隠している体を表に出す感覚らしい。とにかく戦闘力は人型の戦闘形態に比べて圧倒的に向上するが、消費資材を考えると使いどきが本当に難しい。
 そんな訳で、我が鎮守府最高戦力の長門1隻のみに決戦形態を取ってもらいながら、他の艦娘達は戦闘形態となって長門に乗艦待機してもらうことに。ちなみに、俺も長門に乗艦して同行することに。

 そしてとうとう俺達は、約一ヶ月半もの間を過ごした神威鎮守府とは一旦おさらばし、新天地を目指して出発するのだった。


――――――――――――――――――


 私、長門が建造されて一ヶ月と少しが経った。その一ヶ月の間は、体の動かし方を確認、艦砲やタービンの調整、他の艦娘達との演習。そして、外海航海の準備、外海航海の旗艦となった私に食料や弾薬を積み込み、その他諸々の作業を行った。

 今は、鎮守府から出港してから一週間が過ぎた頃。この一週間でお決まりとなった、隣に立つ司令官をそれとなく観察する。今の時間は正午を一時間程過ぎたぐらいで、朝からずっと観察を続けていたはずの彼は一向に疲れも見せずに監視を続けている。
 見るものを畏怖させる顔立ちをした彼は今、両腕を組み艦が進む方向に稲妻を思わせる鋭い視線を向けている。身長は私よりも少し高い180センチメートルぐらい。年は見た目から20代後半辺りだろうかと思う。本人に聞いた所、25歳ぐらいだろうという曖昧な答えが返って来たので、本当の年齢は知らない。そして、そんなに若い司令官の下で働くのは、私の知識の中では初めての事だった。

 彼は、記憶喪失らしくて神威鎮守府に来る前の自分の事についてを全く思い出せないそうだ。先ほどの年齢についても、思い出せないから曖昧に答えるしか無いということらしい。しかも、ところどころで常識知識についても欠落しているらしく、よく妖精さんや私達艦娘に質問をしてくる。よく質問すると言っても、彼がただ怠け者や愚か者という訳では全くなく、要領が良く理解力は十分あり、彼は疑問に思ったことについて一言二言を聞いて後は自分で理解してしまう。まさに一を聞いて十を知ると言う思考ができる人間である。

 彼は自分に対して非常に厳しい。私や正規空母の加賀が建造されてからの一ヶ月間と少し、彼は睡眠時間を限界まで削り司令室によく篭っていた。たまに外に出たかと思うと効率よく艦娘達を観察しては、的確に忠告や疑問を投げかけていくと作業を効率化させ、更に自ら動いて仕事を見つけて来てはそれを殆ど完璧に片付けてしまう。第二次世界大戦時や深海棲艦との戦いで指揮して下さった司令官達の能力に較べてもかなり優秀な部類に入ることは明確であり、過去の司令官達に比べてかなり仕事熱心だ。今も艦娘達が、司令官には航海中なので休んでくれと言ったのだが、そんな彼女たちを理論的に説き伏せ、逆に艦娘達には何時でも調子よく戦闘出来るように待機しながら休憩するよう納得させ、艦橋に私と一緒に立っている。そして、今のように海の監視を続けている。人間である彼が、一週間続けているのだから頭が下がる。
……もっと私を頼ってもらってもいいのに、と少し不満だったりもする。

「長門」
「何だ?司令官」
 突然、司令官から声を掛けられ思考が中断させられる。彼に目線を向けると、いつの間にか双眼鏡を構えて、艦の進行方向の少し右側、東南東の方向を観察していた。

「船が5隻見える。確認してみてくれ」
 視線を司令官と同じ方向に向ける。確かに約15キロ先に5隻の船が見える。船は私の進行方向と同じ方向に向かって進んでいる。つまり、彼ら5隻の後ろを私の船が追っている形だ。しかし……。
「5隻確認した。……しかし、アレは帆船ではないか」
 何故、今の時代に帆船が?と思う。しかも、全長がおよそ100メートルを超えるような大型帆船が5隻も。

「確認だが、帆船があるのはやはりおかしいか?」
 私の訝しげな声を聞いたのか、司令官が聞いてくる。

「おかしい。私に持つ知識では、大戦中や深海棲艦戦中に帆船に相対した事など一度もないし、帆船なんてかなり古い技術のモノで、もはや骨董品と呼ばれるものだ。第一、アレでは深海棲艦に太刀打ち出来まい」
 木製の船体を見て、アレでは深海棲艦の攻撃によって一撃で粉々になってしまうだろうと予想する。更に帆船の周辺に護衛駆逐艦や潜水艦などが隠れていないか探ってみるが、5隻の帆船以外に船影は見当たらない。

 謎の船団に少しずつ近づき、観察を続ける。甲板には、何かの作業をしている人達が忙しなく動き回っているのが見える。
「一応あの船に乗っているのは人類のようだが……。帆に“MARINE”と表記してあるのが見える、アメリカだろうか? 上にある、文字の上にあるMのマークは初めて見るが……。長門、君の知る限りで今の日本とアメリカとの関係は?」
 司令官が観察を続けながら、声を漏らす。そして私に向けた司令官の言葉の通り、帆船の帆の部分に青い文字でMARINEと書かれているのが見える。私も司令官と一緒になって船を観察しながら、彼の疑問に答える。
「日本とアメリカとの関係については、表面上は友好的で敵対関係ではないはずだ。深海棲艦との戦いで、日本もアメリカもかなり疲弊しているから、今は人類同士で戦う余力がない。特に日本はな……」
 司令官が顎に手を当て考える。人や資源を求めて海へ出てみたが、最初に出会ったのは過去に敵だった人達の船かもしれない言うことで、連絡を取るか迷っているのだろう。

「……休んでいる艦娘達は全員甲板に出てもらい、何時でも出撃できるように通達してくれ。それから、あの船に無線で連絡を試みてくれ」
「了解した」

 司令官はじっくり十秒考え方針を決めたのか、顎に手を当てるのをやめて私に向けて命令を下す。伝声管で休んでいた艦娘達に出撃準備を指示してから、次に無線通信を試みる。だが、幾つかの周波数で通信を試みるが返信はない。そして、向こうの船に変化はない。

「長門、空砲を撃って相手の反応を見よう」
 船の観察を続けていた司令官に無線通信が不可能なのを報告すると、次の手を指示される。空に向けて空砲を撃つということは、相手に敵対心無しを伝えるためだろう。指示通り、41cm連装砲を管理している妖精さん達に、至急空砲弾を用意してもらい、それを空に向けて撃つように指示意識を飛ばす。

「空砲、撃てーーーッ!!」

 私の指示通り、空砲が放たれた。砲口から閃光が走り、発射音が聞こえた。さて、相手はどう出るか。

 空砲が空へ放たれてから1分程経っただろうか。相手が、行動を起こした。船を旋回させて私の船体に向けて、砲撃するという行動を。
 
 発射された弾は、艦からかなり離れた場所に着弾し水柱を上げる。最初は返答のために撃ってきた、あるいは威嚇射撃かと思ったのだが、砲撃が2回、3回と続き、敵意を感じる。どうやら、私に当てる気で撃ってきているらしい。

「撃ってきた……か。手旗信号も無しだし、敵意有りのようだな……。長門、あの船の脅威はどの程度だ?」
「見たところ、撃ってきたのはただの鉄の球のようだ。あの程度の攻撃ならば、私の船体に傷ひとつ付ける事は出来ないさ」

「ああ、ただあの船が何故あんな物で攻撃してきたのか理解ができない。奥の手があるかも知れないから、何を隠しているか注意してみよう」

 そして、私達は戦闘体制へと移った。大日本帝国の海軍と、世界政府の海軍との初めて戦闘が幕を切って落とされたのだ。 
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