戦国異伝
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第二百三話 蛟龍と獅子その四
「それを考えますと」
「やはり」
「そういうことじゃな、ではな」
「今宵は、ですな」
「我等も」
「まずは気付いておらぬふりをするのじゃ」
信長は幸村と兼続に告げた。
「あくまでな」
「敵に気付かせず」
「あえてですか」
「攻めさせるのじゃ」
夜に、というのだ。
「そしてじゃ」
「夜にですな」
「敵を退けるのですな」
「そうする、よいな」
「では我等も」
「今は」
「飯は後でよい」
敵と違い、というのだ。
「それはな」
「今食っては敵に気付かれますな」
兼続が幸村に応える。
「そうしては」
「そうじゃ、だからな」
織田はというのだ。
「普段と同じ時間に飯を食う」
「そしてそのうえで」
「夜を待ち」
「皆具足は着けておれ」
寝る時は外すそれをというのだ。
「そして寝ずにな」
「敵を待ち」
「そうして」
「敵を迎え撃つ」
夜にというのだ。
「わかったな」
「畏まりました」
「それでは我等も」
二人も応えてだ、信長は気付かないふりをしてだ。普段と変わらない時に飯を食った。だが兵達は飯の時に言った。
「酒がないのう」
「うむ、今宵はな」
「いつも酒が出ておるのに」
「今宵はないぞ」
酒がないことにだ、彼等は少し残念そうに言うのだった。
「酒も出るのが織田家の陣じゃが」
「それが出ぬとはな」
「一体どういうことじゃ?」
「酒が切れたのか?」
「そうなのか?」
いぶかしむ彼等のところにだ、たまたま通り掛かった信長が言った。
「うむ、ない」
「ありませぬか、酒は」
「今宵は」
「そうじゃ、明日じゃ」
今日は出ずに、というのだ。
「明日また出るからな」
「今日はですか」
「酒は出ないので」
「済まぬ、しかしじゃ」
「明日になればですな」
「出るのですな」
「だから今日は我慢してもらう」
あくまでこう言う信長だった。
「よいな」
「殿が仰るのなら」
「明日また飲めますし」
「それならです」
「我等今宵は辛抱します」
「そうさせてもらいます」
兵達は敬愛する信長に答えた。彼は家臣達からだけでなく兵達からも慕われているのだ、そしてであった。
兵達を納得させてから本陣に帰りだ」幸村と兼続に言った。
「御主達も疲れたであろう」
「では、です、か」
「こでより」
「休むか」
「いえ、まだです」
「それは」
これが二人の返事だった。
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