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辻堂雄介の純愛ロード

作者:雪月花
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第陸話『今朝の喧嘩、その後』

~保健室~


「失礼しま~す……ありゃ、先生居ないのか」

「勝手に使わせてもらいましょう。あの先生はいつ帰って来るか解りませんから」

「そうだな」


 不良達は救急車と警察に任せて、俺はエッジAを殴った時に出来た傷の治療のためここに来た、ちなみに委員長は付き添いだ。
ダメージは殴る瞬間に相手のナイフが腕をかすめた程度だ。


「浅い傷ですので、自然治癒に任せて消毒は使わないでおきましょう」

「ん、下手に消毒したら逆効果だしな」

「その通りです」


 水と絆創膏を用意してくれる。


「ありがとう、委員長。後は自分で出来るから、先に帰ってていいよ」

「いえ、最後までさせてください」


 押し切られる形でやってもらう。まったく、世話好きな人だ。


「………すごかったですね。さっきの」

「そうだなぁ、俺もまだ胸がドキドキしているよ」

「私もです」


 正直委員長がドキドキしているのとは違った感覚、なんか、胸が熱くなるっていうか変に興奮してるんだよな。
やっぱり、『辻堂』の血筋なのかねぇ…


「でも、辻堂さんも格好良かったですけど、雄介くんも凄かったですよ。お強いんですね」

「あはは、ありがとう委員長。でも、残念ながらあれはたまたまだよ、たまたま。愛みたいに強かったらこんな傷負わないよ」

「そう言えば、前々から思っていたんですけど、雄介くんは辻堂さんの事呼び捨てで呼んでいますよね、もしかして辻堂さんと仲が良いんですか?」

「ん、ああ。まあ、従妹だしとうぜ―――あ」

「へ……従妹?」


 しまったー!!ついうっかり口を滑らせてしまた。愛からあれほど注意されてたのに!


「あ、いや。今のは…」


 ど……どうしよう、どうやって誤魔化そう…ってもう誤魔化すのは無理か…はぁ…愛に怒られるかなぁ。


「やっぱり、そうだったんですね♪」

「……へ?」


 想像の斜め45°の委員長の反応に俺はすっとんきょな声を出した。


「実は前々から辻堂さんと何らかの関係があるのではないかと思っていまして……まさか、従兄妹同士だったなんて」


 もしかして、周りには結構バレてたんじゃないのか?なんのためにこの2ヶ月間隠していたのだろうか……はぁ~、なんかバカみたい…。


「あのさ、委員長。もしかして周りには結構バレてたっぽい?」

「バレていたと申しますか。辻堂さんとまともにお話しできているのがクラスでは雄介くんだけなので…」


 ああ、なるほど。そりゃそうか、転校初日から番長さんを下の名前でしかも呼び捨てで呼んだりなんかしてたらそう思われても仕方がないな。


「それじゃ、隠していても仕方がないな。あ、でも一応他言無用でお願いするぜ、愛は隠せていると思っているから」

「はい、任せてください♪」


 まあ、委員長なら他に言ったりして広がる心配も無いし大丈夫だろう。でも、知れ渡るのも時間の問題……か。









 辻堂雄介の純愛ロード
 第陸話『今朝の喧嘩、その後』









 ~教室~


「事件があったので朝のSTは中止します。1時間目の授業に向かうように。幸せだなぁ。僕は生徒のいさかいを仲裁する時が一番幸せを感じるんだ」


 喧嘩の件であろう担任が出て行った。1時間目は移動もないので15分くらい自由時間となった。
俺は特にすることもないし席が窓側なので何となく外を眺めていた。
すると、大が板東と共に俺の所に来た。

「雄介、怪我は大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ。怪我って言っても、かすっただけだし」


 絆創膏を貼った腕を見せる。


「これだから、不良は…」

「まあまあ」


 まだ来ていない愛の席。つまり、俺の隣の席を睨む板東、それをなだめる大。
正直、俺の怪我は自業自得なので別に愛が悪いわけではない。


「喧嘩はともかくとして、今日は朝から妙に不良どもが殺気立っていたが。なんだったんだあれは?」

「小耳に挟んだ程度だけど何かヤンキー間であったみたいだぞ」

「あれ、知らないの3人とも?」


 俺達の会話を聞いていた南が話しに入ってきた。なんでも、江乃死魔がとうとう西側を制覇したらしくこの東区に攻めてくると噂が飛び交っているらしい。


「それじゃあさ、三大天って知ってる?」

「三大天?」

「おっ、長谷君知ってるわけ?」

「聞いたことがある程度。どういう意味なの?」

「不良業界じゃ常識だよ。聞きたい?聞きたい?」

「結構だ。不良に詳しくなって何の特がある」


あ、板東が断ったせいで南が(´・ω・`)←こんな顔して落ち込んだ。

「あ、俺は聞きたいかな」

「そお、いや~俺昔はワルかったから、不良の情勢には結構詳しいんだよ」


 南曰く三大天とは―――もう、語るの面倒くさいから詳しく知りたい人は原作をプレイしてくれ。


「だけど、その三大天の均衡が崩れそうなんだよ」

「なんでまた?」

「これは、あくまで噂なんだけど……なんでも最近中国地方最強と言われている不良がここ湘南に来ているらしいんだよ。その名も……喧嘩姫」

「喧嘩姫……何処かで聞いたような…」

「海堂さんが、さっきそんなこと言っていたような…確か、無敵無敗の喧嘩姫と呼ばれていたとか」

「海堂さんって雄介くんの幼馴染みのあの小さい子タイ?」

「マジかよ!?まさか、そんな大物がこんな近くにいたなんて、雄介くんどうして教えてくれなかったんだよ!」

「いや、別にわざわざ教えるもんでもないし……それに、澪自身この三つ巴の闘いに介入する気は恐らく無いぞ」

「そうだよ。それに澪ちゃんは大人しい子なんだ。自分から進んでそんな事しようなんてしないよ」


 お、大が強い口調で言うの珍しいな。


―――ガラガラガラッ


 みんなで話しているとドアが開き、愛が入ってきた。どうやら、事情聴取が終わったみたいだ。それと同時に、俺の近くに集まっていたみんなは自分の席に戻っていった。

愛は委員長に一声掛けてから、席に着いた。


「(ユウ、大丈夫だったか?)」

「(ん?ああ、まあな。怪我もかすり傷だし)」

「(ごめん、アタシが助けられればよかったんだけど……)」

「(委員長も捕まってたし、仕方ないさ)」


 愛と目で会話をする。学校では直接人前で話すことが出来ないのでこうやるうちにいつの間にかスムーズに会話が出来るようになっていた。

ちなみに、大にだけは話していることが少し解るらしい………なぜ?









 ~昼休み~


「もくもく」

「ユウスケの弁当、美味そうだよなぁ」


 昼休み俺は大、英、比良戸、南と一緒に昼飯を食べている。本当なら澪がいつも来ているのだがなんか、今日はクラスメイトに誘われたらしくそっちに行っている。ちなみに、板東はというとカロリー×イトを早々に食べ終え図書室に向かった。


「そうか?」

「ああ、一人暮らしなのによく毎日作ってこられるよなぁ」

「まあ、料理は昔からしてたから苦にはならない。でも、俺だって面倒くさいと思うときだってあるんだぞ。実際今日のなんか、惣菜屋で買った昨日の晩の残りをそのまま移しただけだし。まあ、サラダは自分で作ったけど」

「確か、あの、一年生の……海堂さん…だけ。彼女の弁当も作ってるんだろ?」

「まあな、どうせ自分の分を作る訳だし一つ作るのも二つ作るのも手間は同じだからな」


 澪は基本何でも出来るのだが料理だけ何故か美味くできない。見栄えは良いんだけど味付けがおかしい、味オンチというわけではなく、ただこれに関しては相当なまでのおっちょこちょいなんだ。砂糖と塩を間違えるのは日常茶飯事。


「くっ、やっぱり、こうゆう家庭的なヤツがモテるのか」(もそもそ)

「まあまあ、気にしたら負けタイ。明太子いるタイ?」

「いらん」

「あ、じゃあ、カラアゲと交換して」


 駄弁りながら食べる。楽しいのは楽しいのだが時々ふとこう思う―――


「やっぱり、弁当は彼女と食べたいよなぁ」

「言うなよ」

「落ち込むだけって知ってるだろ」

「飯が不味くなるタイ」

「健康な思春期の男子なら当然そう思うよね」


 いっきに俺達一帯の空気が重くなった。特に三人からは負け組オーラ出てる。もしかして、この前誘われた合コン上手くいかなかったのかな…?


「お、お茶買ってくる…」


 あまりの空気に耐えきれず席を立った。









~自販機前~



 購買部の前にも自販機はあるが、この時間は込んでいるので部室棟の方に向かった。財布を開けて小銭を取り出しつつ近づくと――


「ぁンだよ100円玉ねーじゃん」

「ここ、札は認識しませんからね」

「どーします?愛はんの頼まれ事なのに」


 ん?あれは、葛西久美子とその他団員AとBか。そうか、人気がないから必然的に出くわしやすいのを失念してた。絡まれたらメンドイし見つかる前に退散しますか。


「ん?おーおー、いいところに」


 校舎に帰ろうとした俺を葛西久美子が見つけてそのまま、3人に囲まれる。


「悪ぃな。ビンボーなオレらのために募金してくれるなんて」

「いや、その気はまったくな―――」


――ガシッ


「くれんだろ?」


 突然胸倉を掴まれる。


「100円でいいんだよ?な?買えねーとオレらも困るからさ。あ、誤解すんなよ。これカツアゲとかじゃなねーから」

「せやせや。助け合い。ほんのちょーと、同じ稲学生としての優しさーゆうんを見せて欲しいだけで」


 いや、端から見たら10人中10人が不良がカツアゲしている現場だと思うぞ、これは…


「ま、イヤだっつーなら痛い目みるけどね」


 ほら、もう自分からカツアゲしてますよって言ってるじゃん。ホントバカだよこの人達。


「ほらぁ、今100円持ってたよな、それを渡してくれればいいってだけ」

「………」


 100円で穏便に済むなら安いもんだけど、コイツラに脅されて渡すっていうのがなんか腹が立つ。まあ、なんか愛から頼まれたらしいから必然的に愛の手元にいくならいっか…。


「わかった、渡すよ」


 たかが100円、それに愛のためなら我慢も出来る。


「おっし、愛さんを待たせずにすむぜ」


嬉々として100円を受け取る。そうしたらもう、俺に見向きもしない。つまり金さえ取り出せばもう用はないってことだ。


「………」


 愛のためとはいえやっぱり腹が立つ。


「クミ、まだ代金渡して……ん?」

「お……」

「愛さん」


 番長さんの登場だ。


「すいません、遅れちゃって。今買うとこで――」

「……」


 愛は俺と久美子達を交互に見て、どうゆう事が起きたのか理解するとみるみる顔が険しくなっていく。


「……クミ。お前、コイツになにした」

「え……あ、えっと」

「………」

 上手く言葉が出てこない久美子。それ見てどうやら愛の中では、予想が確信へと変わったのか、さらに顔が険しくなった。


「……テメェまさか、アタシの言った用事を人様から巻き上げた金で済まそう
ってんじゃないよな」

「はい!?えっと、あのっ」

「……ハァ、一般には絡むなって何度言ったら分かる。恥ずかしいことしてねーで、さっさと返してこい」

「はっ、はい!すいません!」


 久美子があわててこっちに駆け寄ってくる。

「さ、最初から借りただけだからな」


ぶつぶつ言いながら100円玉を返される。その後ろでは愛が「(悪いな迷惑かけて)」という視線を送ってきたので「(気にするな)」と送り返しておいた。
そして、愛は自分で飲み物を買って戻っていた。

それを見送った俺もお茶を買って教室へと戻った。










 ~夜・雄介の家~


 あの後、特に何事もなく午後の授業も終了今日は3会の集まりもなかったのでそのまま帰宅した。

そして、その日の夜―――


「ユウ、今日はホント悪かったな」


家に来ていた愛が開口一番に謝ってきた。愛は基本的に毎晩家に来ている。まあ、隣同士だから真琴さんにも公認されている。


「別にいいって言ったろ、気にすんな。それより、インスタントコーヒーとココアどっちがいい?」

「じゃあ、ココアで…」

「あいよ、ちょっと待ってな」


 水をケトルに入れてスイッチをONにする。お湯が出来たら愛が家から持参してここに置いてある猫のマグカップにココアの元を入れてお湯を適量さらに砂糖も加える、そして、混ぜてから氷を入れてアイスココア(砂糖増量)の出来上がり。俺も、自分のアイスコーヒーを注いで持って行く。


「ほい、お待たせ」

「ん、サンキュ」


 ココアを受け取る愛。俺もそのまま、ソファに座ってコーヒーを一口飲む。


「「はふぅ~」」


 この時間が一日の中で一番まったり出来る。愛も同じようでソファに横になりだらけモードにはいている。


「まったく湘南最強の喧嘩狼がなにだらしない格好してるんだか」

「別にいいだろここか自分の家以外落ち着いてられねぇーんだから」

「はいはい、じゃあ存分にだらけて下さい」

「うん、そうさせてもらう……はぁ~」


 アイスコーヒーを飲み干し晩ご飯の下ごしらえに入る。


「愛は晩飯どうする?」

「ん?ああ、ユウん家で食べるって母さんに言ってある」


 最初っからその気満々で来てたのね、まあ、いいけど。


「なんかリクエストある?」

「いや、ユウが作るのなら何でもいい。何作っても家の母さんより美味いし」

「りょーかい」


 そんじゃあ、カレー(肉増量)にでもしますか、マキも後で来るだろうし。
まずは、ご飯を炊いてその次は、肉、人参、ジャガイモ、タマネギを切るか。


 ―――トントントントン


「ユウ、何で左で包丁使ってるんだ?」

「ん?ああ、別に意味は無いよ。ただ、何となく今日は左で包丁を使いたいんだ」


 まあ、実際は今朝の一件で右手首を痛めて正直野菜を支えているだけでもかなり痛い。


 全ての材料を切り終わり、鍋に入れて火を入れる。良い具合に野菜が柔らかくなってきたらルーを投入。そして、ルーが溶けたら火を弱くしてしばらく煮込む。


「ほい、完了」


 リビングに戻ってソファに座る。もちろん、愛には痛めている事を悟らせないために平然とした顔をしておく。


「じ~……」

「ど、どうしたんだ?愛?さっきからじ~っとこっちを見て…」

「ユウ、ちょっと、右手貸してみ」

「……はい?」

「いいからっ」

「え――ちょっ――痛っつ!?」


 愛に半ば無理矢理右手を引っ張られた。痛めているので当然触られただけで痛い。


「……やっぱり、痛めてたのか。いつから?」

「えっと、朝のあの喧嘩から…」

「………そうか、どうりで今日一日右手をほとんど使わなかったわけだ」

「え!?気づいてたのか?いつから」

「実際、あの時すぐに痛めたんじゃないかって思ってた。まあ、今日一日のお前の行動を見ていたら、ノートとか取るとき全部左で書いていたし」

「よく見てるなぁ、お前…」

「べ、別にそんなんじゃねーよ。ただ、お前が怪我したのは元々アタシのせいだし、他に怪我したとこがないか見てたらたまたま分かったってだけだし…」

「……そうか」

「な、なんだよ、そのニヤけた顔はっ。いいから、包帯の置いてあるところ教えやがれっ」

「はいはい、そこの棚の上だ」


 救急箱を取って戻ってくる。


「ほら、もう一回右手出せ。包帯で固定するだけでも違うぞ」

「おう」


 シュルシュルと包帯を丁寧に巻いてくれる。そんな、愛の姿を見ながらやっぱり、愛って綺麗だよなと再確認した夜だった。
 
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