ソードアート・オンライン~狩人と黒の剣士~
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最後に笑う者は
「キリトォオオオオーーーー!!」
ガブリエルによって切断された左腕を見て、俺は叫ぶ。
光に満たされた腕が一瞬で爆散し、空中に青薔薇の剣が流れる。
「LLLLLLLLLLーーーー!!!!」
高らかな嘲笑と共に、ガブリエルの右手に握られた虚無の剣が、まっすくキリトの頭上に振り下ろされた。
ぱしっ、
と頼もしい音が響き、そこに居ない筈の人間の手が、青薔薇の剣の柄を握った。
凄まじい炸裂音と共に、無数の星が飛び散りーーーー
青薔薇の剣と、虚無の刃がしっかと切り結ばれていた。
剣を握るユージオが、短い髪を揺らしてキリトに言う。
「さあーーーー今だよ、キリト!!」
「ありがとう、ユージオ!!」
確かな声で叫び返し。
「う……おおおおおおーーーー!!!!」
スターバースト・ストリームの上限十六を越えた、第十七連撃目を、ガブリエルの左肩口に叩き込んだ。
漆黒の流体金属を飛び散らせ、深く斬り込んだ剣は、丁度心臓の位置まで達して停まった。
瞬間ーーーー。
キリトとユージオ、夜空の剣と青薔薇の剣を満たす星の光全てが、ガブリエルへと注ぎ込まれた。
「……ハ、ハ、ハ」
キリトに心臓を貫かれたガブリエルは、両手と六翼を一杯に広げ、笑う。
「ハハハ、ハハハハハハハハ!!一滴余さず、呑み干しーーーー喰らい尽くしてくれる!!」
ガブリエルは両眼と口から蒼い虚無の光をほとばしらせ、叫ぶ。
「させるかぁあああっ!!」
希望の未来を作り直し、キリトと共に心臓を貫く。
「言っただろ、お前の終着点は此処だぁあああああっ!!」
あらん限りの心意をガブリエルに叩き込む。
それでも尚、ガブリエルは笑い続ける。
「ハハハハハ、ハーーーーハハハハハ!!」
そして、ガブリエルの眼と口から出ていたヴァイオレットの光が、徐々にそのスペクトルを変移し始める。
ぴしっ。
と微かな音が響き、夜空の剣と希望の未来を呑み込む漆黒の流体金属の身体に、亀裂が入る。
もう一本。更に、胸から喉へ。
亀裂から白い光が漏れ出す。
四方八方に光が漏れながらも、ガブリエルは笑いを止めない。
「ハハハハハハハハハハハァアアアアアアアアアアーーーーー」
声は周波数を上げていき、やがて金属質の高周波でしかなくなり。
虚無の天使の全身が、汲まなく白い亀裂に包まれてーーーーー。
一瞬、内側に向けて崩壊、収縮し。
解放され。
恐るべき規模の光の爆発が、螺旋を描いて遥か天まで駆け上がった。
「キリト、ユージオ!!」
俺は素早くその爆発から二人を連れて回避する。
「あっぶなー……」
俺は冷や汗を欠いて、ユージオに言う。
「ユージオ、お前何で……?」
「キリト達の後を、レンリさんが貸してくれた竜に乗って追い掛けたんだ。幸い、神聖術もある程度まだ使えたから、それの支援も在るけど」
俺は怒る気力を無くし、ただただ呆れる。
「……ほんっとうにお前ら似た者同士だな」
「「ライト(君)程じゃない」」
二人に言われると、俺は苦笑をして、二人を立たせる。
「行こう。後処理が在る」
「ああ」
俺達は崩れる白亜の階段を見て、小さな小島目掛け飛んだ。
小島に降りると、人の気配が無く、静かだった。
「……良かった。間に合ったんだな」
ぽつりとキリトが呟く。
「……本当に良かったのか、キリト?」
俺は改めて聞く。
「ああ。アリスとアスナなら、きっと」
それを聞くと、俺は頷く。
限界加速フェーズが実行された今、俺達には現実世界に帰還する術は無い。ダークなら在るだろうが、先の戦いで一番に倒れ、神世界に強制送還された形跡が在った。つまり、その手は使えない。
予想では、現実世界で菊岡達がSTLを停止させる為に奮闘している筈だが、それも恐らく二十分は掛かる。
何れにせよ、俺達はアンダーワールドに取り残された形となった。
だが、次の瞬間、思いもよらぬ出来事が起きた。
こつ、こつ。
誰かが歩いてくる音。
だが、此処にはキリト、ユージオ、俺しか居ない。
ーーーーーいや、まさか。
俺はそう思い、そちらを見た。そこには、アスナが立っていた。
「アスナ……お前!」
「ごめんね、キリト君、ライト君。……そして、相変わらず泣き虫さんだね。……知ってるんだから。キリト君の事な、なんだって」
俺は呆れるしかない。夫婦揃って大馬鹿過ぎる。
「……覚悟は出来てんのか?コレから二百年はこん中だぞ?」
「平気よ。キリト君が居れば。だって、私はキリト君の恋人よ?」
予想通りの答えに、完全に呆れた。
「……しゃあねぇ。もうこうなったら怪物でも政治でも何でもこいだな」
「相変わらず無茶苦茶言うね、ライト君」
「それが、天城来人だからな」
キリトが言うと、俺は空を見る。
「さて、行こうぜ?この世界を統一しに。世界は……始まったばかりだ!」
俺は言うと、三人は頷いた。
†††
ダークサイド
2026年8月1日。
俺は審判を待つ間、地上に降りており、ライト、アスナ、キリトの様子見の為、ラース六本木支部に居座っていた。
「いやー、本当に助かったっスよ、この節は」
「結局、俺の分身が基本的に此方をアシストしてましたから、お礼ならシャドウにお願いします」
目の前の男ーーーー比嘉さんに言うと、首を振る。
「でも、結局ダーク君のお陰なんスよ?誇ってもいいっスよ!」
「……人一人守れないで、誇れる訳在りませんよ」
俺はまだ、ライト達を助けられないことに悔やんでいた。
「……それにしても、菊岡も大胆な行動に出た物だな」
テレビを見ると、『襲撃事件で犠牲になった、自衛官・菊岡誠二郎さん』と出ている。
「で、その本人は今こうしてラムネを食べていると」
「イヤイヤ、本当にねぇ……」
当の本人、菊岡は、怪しげな格好をして、続ける。
「しかし、これが最善手だよ。どうせ、あのままでも僕は詰め腹切らされるかヘタすると文字通り消されかねなかったし、それに襲撃事件で死人が出た、と言うプレッシャーがあってこそ反ラース勢力を彼処まで追い詰めたんだからね。ま、よもやその天辺が防衛事務次官なんて大物だったのは流石にビックリだがね」
「……日本の次官は馬鹿しか居らんのか」
「イヤイヤ神様、その通りだよ」
菊岡は飄々と言うと、俺は付き合ってられんと言うようにサブモニタを見る。
これ等は三人のリアルタイムモニタになっており、リングが微動だに……
ぴくっ。
動いた。……え?
「ひ、比嘉さん」
「なんスか、ダーク君」
「あれ、アレ!!」
俺は急いで比嘉に画面を見せると、びっくりした表情で言う。
「き……菊さん!!」
比嘉は喘ぎながら、背後のSTLを見る。
三人は動いていないが、血の気が戻ってきている。
途端、扉が開いた。出てきたのはアリスだ。
「あ……アリス!?」
菊岡と比嘉ど同時に叫ぶと、アリスはSTLに近付いた。
「……何してるんだ」
「………まぁ、神代博士が何とかしてくれるさ」
まさに問題発言と言いたい言動だが、今回ばかりは菊岡に賛成する。
そして、指が動き、伏せられた毛が動き、唇が開き、閉じる。
そして、瞼がゆっくりと開き、光を放つ。
そして、唇から声が出る。
「……ィ……ディル……」
俺の背に、氷より冷たい物が走った。
だが、それは杞憂に過ぎなかった。
「……ビー……オー……ライ」
It will be alright。キリトは確かに言った。
そして、室内にもうひとつ。
「Sure」
そして、ライトは起きると、辺りを見回して髪を撫でた。
「……やぁ、ダーク。ただいま」
「おせぇよ、大馬鹿野郎……ッ!」
俺はライトを殴ると、ライトは言う。
「さぁ、早く、俺とキリトとアスナの記憶消去を。俺らの役目は終わりだ」
ライトは比嘉に言うと、比嘉はその準備を始めた。
これで漸く、SAOから続く、三年半と言う、長い長い事件は、終幕を迎えた。
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